好脂性酵母であるMalasseziaは、癜風、マラセチア毛胞炎、脂漏性皮膚炎などの起因菌として知られており、さらにアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis; AD)の増悪因子の一つとして注目されている。現在13菌種知られているMalassezia属のなかでも特にM. globosaとM. restrictaがAD患者皮膚において高頻度に検出されることから、この2菌種がADと密接に関連していると考えられている。しかしながら皮膚局所における免疫応答にマラセチア定着がどのような影響を及ぼしているのか不明な点が多い。我々は、MalasseziaとADの病態との関連性を解明するため、この2菌種について主要アレルゲンの同定を試みるとともに、表皮ケラチノサイトのサイトカイン応答に及ぼす影響について解析した。AD患者血清IgE と反応するMalassezia抗原を検索した結果、M. globosaでは42kDa, PI 4.8のタンパクが主要アレルゲンとして検出された。さらにプロテオーム解析により、この抗原はheat shock protein 70 (hsp70)ファミリータンパクの分解産物であることが明らかになった。同様に、M. restrictaでは46kDa, PI 4.4の糖タンパクが主要アレルゲンであり、糖鎖が抗原性に関与していることが明らかになった。表皮ケラチノサイトのサイトカイン応答に及ぼす影響については、ヒトケラチノサイトをM. globosaで刺激した場合、IL-5、IL-10、IL-13などのTh2型サイトカインおよびIL-6、IL-8などの炎症性サイトカインの分泌が認められた。一方、M. restricta刺激ではTh2型サイトカインであるIL-4のみの分泌が認められた。これらの結果は、M. globosaとM. restrictaは単にアレルゲンとして作用するだけでなく、ヒトケラチノサイトに対してそれぞれ異なるTh2型サイトカイン応答を誘導することを示しており、それぞれのサイトカインが相乗的に作用することによりTh2免疫応答の誘導を介したアトピー性皮膚炎の増悪に関与しているものと考えられる。