抄録
平成 18 年 4 月から 20 年 3 月までの 2 年間に皮膚糸状菌症で当皮膚科医院を受診したある中高一貫校相撲部員は 14 名で,この期間に在籍した部員 16 名中の約 88%に当たる.各人,臨床症状が出た時適宜受診しており,クラブ内または他校との試合や合宿を通じて感染を繰り返し,多くが複数回感染していた.病型は体部白癬が最も多く,股部白癬,頭部白癬もみられた.診断は直接鏡検と真菌培養,一部は遺伝子解析で行った.分離菌は Trichophyton tonsurans が最も多く,Epidermophyton floccosum が 2 名の股部白癬から分離された.1 名の中学生は胸部の白癬から Trichophyton tonsurans が,股部白癬から Epidermophyton floccosum が分離され,腹部のまわしの当たる部位に一致して多発した紅斑落屑局面からは,鱗屑の直接鏡検で多数の細い菌糸を認め,培養で淡褐色の綿様のコロニーを形成し,集落形態,分生子形成状況および ITS 領域の遺伝子解析から Engyodontium album と同定されたが,本菌種の病原的意義は確定できなかった.近年,半裸で行う格闘技においては Trichophyton tonsurans の流行が周知であるが,その他の原因菌による皮膚糸状菌症も念頭に入れて診断,治療を行う必要性があると思われた.