抄録
オペラ歌唱において,声区転換(パッサッジョ passaggio; 伊)は極めて重要な技術の一つである。しかし,パッサッジョにおいて,その出来映えを左右する音響特性がどのようなものであるかについては明確化されていない。本研究では声楽家及び声楽専攻の大学院生相当レベルの学生からなる 20 名の歌手の歌声を録音採取し,後述する音が移行する際のスペクトル変化率を幾つかの計算方法で導き出した。一方,声楽専攻の学生と大学院生 15 名に対して知覚評価実験を行い,採取した音源資料について 5 段階評価してもらった。隣り合う音のスペクトル変化率の低いものほど,知覚評価実験による評価が高くなることが判明した。また,歌いだしの第 1 音が,音高が安定するまでの区間に至るまでの時間長が短いものの評価が高くなることも見出された。その場合,この時間長が短いグループに対しては歌唱音声全体のスペクトル変化の度合い(スペクトル変動)が少ないほど評価が高くなることも観察された。