本研究では,音楽経験の違う対象者に調整的音楽療法(RMT)を2~3ヵ月実践してもらい,それが心理的・生理的ストレスに及ぼす影響を検討することを目的とした。年齢が21歳~49歳(平均年齢26.5歳±7.9)の12名の対象者を音楽経験別に2群に分け,RMT実践前後の心理的ストレス反応(SRS-18),コルチゾール,分泌型免疫グロブリンA(S-IgA)を継続的に測定した。また,対象者の感想や簡単なインタビューで質的分析も試みた。その結果,音楽経験者の心理的・生理的ストレスが軽減されていることが判明した。一方,質的分析結果からは,音楽経験者の自分が長く練習してきた楽器の音楽や演奏の好みに対して,強いこだわりを示すことが確認された。
金管楽器の演奏では,演奏者は唇や口腔内の状態の調節により音を変化させる。先行研究は,演奏時の口唇周囲の筋の活動を計測し,平均的に貢献の大きな筋を明らかにしてきた。本研究では,師弟関係にある2人のホルン奏者の演奏中の口唇周囲の筋および咬筋と胸鎖乳突筋の筋活動が計測された。筋活動の時系列波形が,個人差の観点から観察された。熟達者の筋活動には,ピアノや打楽器の筋活動研究の知見と共通して,筋活動の立ち上がり時や脱力時の急峻な変化が認められた。連動する筋の組合せは参加者間で異なった。咬筋や胸鎖乳突筋の活動にも個人差が認められた。得られた結果は,神経適応と運動制御の観点から考察された。
音楽知覚認知研究の実験や調査で収集される参加者の反応には,しばしば大きな個人差が含まれる。本論文は,音楽知覚・認知の個人差をもたらしうる属性のうち,特に音楽に関する心理的属性に焦点を当てて概観する。そのために聴取における傾向,個人の音楽性,主観的恩恵などを捉えるための主要な測定方法を紹介する。最後に,いくつかの留意点と今後の研究の方向性について述べる。
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