2025 年 30 巻 1 号 p. 37-44
脊髄梗塞は脳梗塞と比較して稀な疾患であり,診断そのものが困難であることが多く,病態や予後については不明な点も多い.当院で経験した脊髄梗塞5例の臨床経過,画像所見および経過等について後方視的に検討した.内訳は男性4例,女性1例,平均年齢は65.2歳(51‒82歳)であった.5例中4例の障害高位は中下位胸髄から上位腰髄であった.臨床像としては,3例は前脊髄動脈症候群,1例は後脊髄動脈症候群,1例はBrown‒Séquard症候群であった.全例に膀胱直腸障害を認めた.発症から確定診断までの期間は平均5.71日(30時間~11日)であった.当科初診時の神経学的所見を脊髄損傷に準じてAmerican Spinal Injury Association (ASIA) 分類にて評価すると,B(1例),C(1例),D(3例)であった.4例にステロイドパルスを施行し,うち2例で神経症状の改善が得られたが,残り2例は不変であった.最終的な神経学的転帰はASIA分類にてB(1例),D(4例)となった.全例で2次予防目的にaspirinを投与し,再発なく経過している.脊髄梗塞は稀ではあるが,日常臨床で遭遇する可能性がある疾患である.脊髄梗塞の自験例5例について文献的考察を踏まえて臨床経過を報告した.