本研究は人が食事をしながら会話をする(共食会話)場を対象に,参与者の相互行為的な観点から会話の構築の仕組みを明らかにする.これまで共食会話の研究は,話し手の行動に焦点があてられ,話し手の話す/食べる行動について調べられてきた.それらの研究と異なり本論文では,インタラクション構造の観点から,聞き手の応答と摂食動作の関連を分析することで,協力的なコミュニケーション行動形成の仕組みの解明を狙う.そのために実際の共食会話映像についてラベリングした聞き手の869の応答発話,343の摂食動作を対象に,応答と摂食の生起の関係を分析した.その結果,聞き手は話し手の発話に対して関与が高い状況(直接の発話の受け手になるなど)においては,自分の応答後に隣接させて摂食をすることが多く,逆に関与が低い場合(傾聴を継続する,直接の発話の受け手でないなど)にはもう一人の聞き手の応答を利用して摂食したり,応答のない場面でも摂食するケースが多かった.また話し手が発話内容を思案している場合には,聞き手は摂食することにより話者の次発話までの間を埋める行為が観察された.これにより,聞き手は会話への関与の度合いに応じて摂食のタイミングを調整し,協力的な共食コミュニケーションの構築に寄与していることがわかった.