2020 年 32 巻 6 号 p. 998-1007
感染力の高いウィルスは急速に蔓延する可能性があることから,迅速な対応が必要である.このためには,どのような対策がどのような効果をもたらすのか,予測できることが望ましい.このため,マルチエージェントを用いた感染伝播と被害状況の予測が行われているが,従来のモデルには感染症病床という概念が組み込まれていない.感染症病床は感染者を隔離あるいは治療する役割を有するため,致死率や感染伝播に影響をもたらす重要なパラメータである.そのため,この点が考慮された予測を行えることが望ましい.このほかに,人々が外出する割合も感染伝播に影響を与えるパラメータである.特に我が国では,2020年4月現在猛威を振るうCOVID-19への対策として,大規模な外出自粛が実施された.このような施策の効果を,実際に実施する前に検証できることも重要となる.したがって本研究では,感染症病床と外出自粛の有無を組み込んだウィルス感染症のマルチエージェントシミュレーションモデルを開発する.本シミュレータにより,ウィルスの感染力や人工社会の規模に応じた,感染症病床と外出自粛の効果を検証することが可能となる.本論文ではいくつかのシミュレーションパターンを紹介し,その効果について言及する.