2019 年 32 巻 3 号 p. 242-252
今日,インプラント体を支台とするオーバーデンチャー(以下,IOD)治療に大きな関心が寄せられている.下顎IODでは治療のコンセンサスが示されている一方,下顎と比較し上顎IOD治療のエビデンスは不足し,特に上部構造である義歯に焦点が当てられた検討はきわめて少ない.本稿では,良好な機能回復が得られた2本埋入による自験例15例の上顎IOD症例について後ろ向き検討を行ったので報告する.対象は,上顎に2本のインプラント体を支台とするIOD治療を行った患者のうち,術後5年以上経過する15名とした.検討項目は1)性別および年齢,2)インプラント体の埋入部位および埋入本数,3)インプラント体の種類およびサイズ,4)アタッチメントの種類,5)旧義歯使用の有無,6)IODの形態,使用人工歯および人工歯の咬合状態,7)上部構造の義歯床粘膜面の適合状態,8)患者満足度とした.その結果15例すべてが無口蓋義歯ではなく,全部床義歯を新製していた.インプラント体とアタッチメントは上部構造の沈下や脱離に対し抑制的に作用することが明らかとなり,上部構造に口蓋を被覆した全部床義歯を選択することで義歯床による応力負担が期待でき,支台とするインプラント体への応力が軽減できると思われた.これらの結果から,上顎無歯顎患者への2本のIOD治療であっても良好な機能回復が得られる可能性が示唆されたが,上部構造である全部床義歯の良否が治療の予後を大きく左右すると考えられた.