インプラント治療は,メインテナンス主導へ時代とともに移行しなければならない.著者らがインプラント治療に携わって35年が経過するが,当初はインプラント手術にフォーカスが当たっていた.インプラントが普及するにつれてインプラントを入れたはいいが,補綴するのに不都合がでることを経験するようになった.そこでトップダウントリートメント・補綴主導のインプラント治療が提唱されるようになった.CTなどの診断技術の向上もあり,治療着手前に細かく上部構造,すなわち補綴がイメージできるようになり,臨床では成果を上げつつある.
上部構造装着がインプラント治療のゴールではなくて,第二のスタートであることを術者,患者ともに認識しなければならない.上部構造装着までの期間が長くとも2年程度であるのに対して,上部構造を維持管理していく時間は,著者らの臨床でも30年を超えるケースも出てきており,圧倒的に後者のほうが長い期間になる.補綴主導を一歩進めたメインテナンス主導というコンセプトのほうが日常臨床を考えると実態に即している.
メインテナンスにおいて最も大切なことはインプラント周囲疾患を予防し,発症を認めた場合は重症化を食い止めることである.日々の臨床においてインプラントを守るために,実際に著者らが診療室で取り組んでいるインプラント周囲疾患に対する取り組みとしてのメインテナンスの実際,注意点,改善点について述べる.
目的:インプラント体埋入手術における手術時間に影響を与える因子を明らかにすることを目的とし,各種項目について比較検討を行った.
方法:2013年4月から2024年3月までの11年間の,日本大学松戸歯学部付属病院口腔インプラント診療科におけるインプラント体埋入手術を対象とした.調査項目は,手術時間,執刀医,埋入本数,埋入部位(上下顎,左右側,歯種),インプラントシステム,麻酔方法,併用した骨造成処置,ガイデッドサージェリー,即時埋入,同時に施術した関連手術の10項目とし,手術室の使用記録および診療録を基に集計した.手術時間は局所麻酔終了後,執刀開始を開始時間,縫合終了を終了時間として分単位で計測した.統計解析は手術時間を目的変数とし,その他の項目を説明変数とした重回帰分析を行った.なお統計学的有意水準は0.01とし,統計解析にはRを使用した.
結果:調査期間内に実施されたインプラント体埋入手術は2,841件,患者数2,043名,総埋入本数5,006本であった.手術時間の平均は61.4分,中央値55分,最短13分,最長261分であった.
結論:重回帰分析の結果,回帰式を用いて手術時間の予測が可能となった.そして,インプラント体埋入手術の手術時間に強く影響を与える説明変数は,埋入本数と骨造成処置であった.また,執刀医が初期に所属した診療科は,インプラント体埋入手術の手術時間に影響を与える可能性が示唆された.
目的:本研究ではアバットメントとインプラント体の接合様式,アバットメントの形状および傾斜角度がカラー部のひずみに及ぼす影響について明らかにすることを目的に検討を行った.
材料および方法:セメント合着用アバットメント(TP),スクリュー固定のインターナル・テーパージョイントの上部構造との接触面がストレート型のアバットメント(IA),5°のテーパー付きアバットメント(IB)の各インプラントを,JIS 4種チタンを用い同様の寸法に製作した.ひずみの測定はカラー部の先端にひずみゲージを貼り付け,傾斜角度10°,20°,30°の治具に固定し,万能試験機を用い,50Nから700Nまで行った.たわみ量は記録紙から読み取りを行った.その後,CTを用い観察を行った.各測定値は一元配置分散分析後,Tukeyの多重比較を行った(危険率:5%).
結果:傾斜10°では,TP,IA,IBのひずみ量は最大で約0.1%であり,有意差は認められなかった.傾斜20°のひずみは,400NからIBが最も小さな値を示し,TPとIBの間に有意差(p=0.046)が認められ,傾斜30°ではIBがTPとIAよりも大きな値を示し,有意差(p<0.001)が認められた.たわみ量は傾斜30°が最も大きな測定値であった.アバットメントとカラーの隙間の観察において,傾斜20°ではIAとIBに,傾斜30°ではすべてにおいて隙間が認められた.
結論:接合様式,傾斜角度およびアバットメントの形状はひずみ量,たわみ量と隙間の形成に影響することが明らかとなった.
本研究では,三次元解析ソフトを用いて,4機種の口腔内スキャナーのインプラント位置再現性を比較した.また,3通りのスキャニング順序についても比較検討を行い,スキャニングの順序がインプラント位置再現性に与える影響についても検討を行った.
下顎右側遊離端欠損模型の47,45相当部にインプラント体を2本埋入し,マスターモデルを製作した.その後,マスターモデルにスキャンボディを装着し,基本データの取得を行った.次に4機種の口腔内スキャナー,Element 5D (iTero),Lumina (iTero), Primescan (Dentsply Sirona),IS 3800W (Envista Holdings Corporation) を用いて,マスターモデルの光学印象を行い,①47相当部からスキャニングした場合,②31相当部からスキャニングした場合,③37相当部からスキャニングした場合でそれぞれデータを取得した.その後,基本データと各スキャナーのデータを三次元解析ソフト上で重ね合わせ,スキャンボディの一致率の算出および統計処理を行った.その結果,すべてのスキャニング順序において,Luminaが最も高い一致率を示したが,①47相当部からスキャニングした場合のElement 5DとLuminaおよびLuminaとIS 3800W,②31相当部からスキャニングした場合のLuminaとPrimescanでは差を認めなかった.
以上より,Luminaはいずれのスキャニング順序において最も高いインプラント位置再現性を示したが,スキャニング順序を変化させることで,Element 5D,Primescan,IS 3800WはLuminaに匹敵する一致率を示した.
目的:本研究の目的は,インプラント上部構造に付与する咬頭傾斜角がインプラントカラー部のひずみに及ぼす影響について検討することである.
材料および方法:実験用インプラントは,強ひずみ加工したチタン材を用いて製作した.実験用インプラントは万能試験機の治具に垂直に固定し,咬頭傾斜角15°(C15と表示)および30°(C30と表示)に加工した上部構造をそれぞれに装着した.ひずみの測定は,ひずみゲージを実験用インプラントの最頂部位側のカラー部先端に貼り付け,荷重50Nから800Nまで行った.また,ひずみ測定後,無負荷時の残留ひずみと記録紙からたわみの読み取りを行った.接合部の間隙の幅はCTを用いて測定した.測定は各条件5個の試験片を用い,測定値は分散分析(危険率:5%)で有意差検定を行った.
結果:0.1%のひずみはC15の250N,C30は150Nであった.荷重750Nおよび800NにおいてC30のひずみはC15の約2倍であり,有意差(p<0.001)が認められた.800NまでのたわみはC15が0.76±0.05mm,C30は1.43±0.10mmであり,有意差(p<0.001)が認められた.測定後,無負荷状態にしたカラー部の残留ひずみはC15が0.03±0.01%,C30は0.21±0.02%であり,C30はC15より永久変形が大きかった.ひずみ測定後のC15の連結部の間隙の幅は16.4±4.7µm,C30は38.2±3.8µmであり,有意差(p<0.001)が認められた.
結論:咬頭傾斜角が大きいC30はC15よりもひずみ量,間隙が大きいことから,生物学的および機械的偶発症を生じる危険性が示唆された.