2020 年 33 巻 2 号 p. 184-190
われわれは,スニチニブの関与によるインプラント周囲炎を伴う顎骨壊死が疑われる症例を経験し,外科的治療によって良好な結果を得たので報告する.
症例の概要:患者はインプラント治療から3年後に腎がんを発症し,分子標的薬であるスニチニブを使用し6年後,インプラント周囲炎を伴う両側下顎の顎骨壊死を発症した.
経過:2010年9月,インプラント治療目的で当科を受診し,同年11月にインプラント埋入術を施行した.2016年3月より腎がんの骨転移のため,スニチニブを開始した.2016年5月に左右下顎臼歯部のインプラント周囲粘膜に腫脹を生じ,持続的な排膿を認めたため,インプラント周囲炎の診断で,2017年7月,インプラント体摘出術を施行した.その後は同部からの骨露出も生じた.同年11月,エックス線写真で腐骨分離を認めたため,同年12月に全身麻酔下で両側下顎腐骨除去術を施行した.術後1年6カ月経過し,炎症の再発もなく良好に経過している.
考察および結論:症例の経過から,当科への通院が途絶え,他院での周術期口腔管理が行われている間,適切なメインテナンスがなされず,口腔衛生状態が低下し,インプラント周囲炎が発症,そこにスニチニブの投与が重なり顎骨壊死を発症したと推察される.インプラント埋入時点で,分子標的薬を使用する可能性を予測することは困難である.インプラント患者に適切な口腔衛生管理を行うとともに,今後われわれはこのような症例を念頭に入れてインプラント治療に従事する必要がある.