抄録
われわれの施設では, 2002年から2004年にかけて上顎歯肉扁平上皮癌進行例の3例に外側咽頭後リンパ節 (LRPN) 転移がみられた。断層画像では, 原発腫瘍は大臼歯部歯肉から硬口蓋へ浸潤し, また患側の後咽頭間隙内に各々, 10×10mm, 11×8mm, 9×5mmの大きさの転移性リンパ節が認められた。これら3症例と本邦における論文で報告されている, LRPN転移を生じた他の上顎歯肉癌7例を, 原因となったリンパ路と臨床的特徴に重点を置いて分析した。LRPN転移は, 2例では切歯管・鼻腔底―上咽頭側壁路あるいは5例で硬口蓋―口蓋帆挙筋内側路として輸入リンパ管に由来した可能性がある。他の3例では, 頸部郭清術や多発性頸部転移によって生じた通常はみられない逆行性リンパ流に, このような稀な転移が由来した可能性がある。頸部転移のあった8例中7例でLRPN転移が同側にみられた。これらの7例中4例で, 顎下部または上頸部リンパ節転移が同時にみられた。2例では初診時の断層画像でLRPN転移がみられ, 3例は初回治療終了直後にみられたが, これらの各々が進行癌: (r) T3-4であった。一方, (r) T1-2の4例ではLRPN転移は後発転移であった。よって, 上顎歯肉癌が生じた場合では常に, 外側咽頭後リンパ節は断層画像において関心を寄せるべきである。