抄録
白金含有抗癌剤による腎Na+, K+-ATPase活性阻害と腎毒性発現との関連を検討するため, ヒト腎由来近位尿細管細胞およびブタ腎から精製したNa+, K+-ATPaseに対するシスプラチン, ネダプラチン, カルボプラチンの影響を検討した.その結果, 3剤とも濃度に依存して生存細胞数を減少させ, 濃度とプレインキュベーション時間に依存してNa+, K+-ATPase活性を阻害した.細胞数減少と酵素活性阻害の程度はどちらもシスプラチン, ネダプラチン, カルボプラチンの順に強かった.また, Na+, K+-ATPaseの分子構造の変化がシスプラチンによる酵素活性阻害に影響を与えることが示された.さらにシスプラチンにより阻害された酵素活性は, 2-メルカプトエタノール, システイン, 還元型グルタチオン, チオ硫酸ナトリウムにより部分的に回復した.これらの結果から, 白金含有抗癌剤によるNa+, K+-ATPase活性の阻害は腎毒性の一因である可能性と, チオール化合物によりその腎毒性が軽減される可能性があることが示唆された.