抄録
DNA合成に関与し, 細胞周期のG0/G1相からS相へ移すインスリン様成長因子-I (IGF-1) は哺乳動物の多くの細胞の細胞周期を回転させる強力な成長因子である.他方, G1相の途中でIGF-Iを除去すると細胞周期が停止する.われわれは, 塩基性線維芽細胞成長因子 (bFGF) がNIFr細胞においてNIFn細胞よりも細胞増殖, 細胞周期回転, 細胞周期制御タンパクおよびその遺伝子の発現を亢進することを報告している.本報告では, ニフェジピンによって歯肉肥厚を起こした患者の歯肉から得られた線維芽細胞 (NIFr) と歯肉肥厚を起こさなかった患者の歯肉から得られた線維芽細胞 (NIFn) においてIGF-1による細胞増殖, 細胞周期, 細胞周期制御タンパクおよびその発現について両細胞の比較をした.その結果, NIFrにおいてDNA合成, 細胞周期においてG1からSまたはG2/M相への移行がNIFnよりも明らかに増加したことを認めた.NIFrにおいてPhospho-ser780-Rbタンパクレベルが増加した.他の細胞周期制御タンパク (E2F-Rb) および遺伝子 (cdks1, 2, 4, 6およびcyclins A, B1, D1, E) の発現もIGF-1により両細胞で増加した.したがって, ニフェジピンによって引き起こされる歯肉肥厚にser-780-phosphorylated Rbが関与している可能性が示唆された.