2013 年 29 巻 3 号 p. 149-155
新生児期の心筋炎は極めて予後不良であり,救命のため体外補助循環の装着を必要とすることがある.コクサッキーB4 ウイルス性心筋炎による重症左心不全に対し,体外補助循環の代わりに,バルーン心房中隔裂開術(Balloon atrial septostomy 以下BAS)を施行し,救命しえた新生児例を経験した.この新生児では,肺うっ血と重症僧帽弁逆流を伴った重症左心不全に対して,内科的治療のみでは血行動態を維持できず,体外補助循環を目的に当院へ搬送されたが,両親の同意が得られなかった.心臓超音波検査上,動脈管が十分に開存し,体血圧は動脈管での右左短絡に依存していたため,日齢16 に,左房の減圧目的でBAS を施行した.BAS 直後より左房は減圧され,同時に動脈管での右左短絡が増加し,体血流が維持され劇的に呼吸循環動態が安定した.その後の心臓超音波検査では,左室前負荷の減少に伴い左心機能と僧帽弁逆流が徐々に改善した.大きな後遺症なく生後2 ヵ月時に退院が可能となった. 急性心筋炎の重度の左心不全治療として,体外補助循環とBAS を組み合わせた治療の報告はあるが,BAS のみで救命しえた報告はない.BAS は,動脈管が十分に開存している新生児では,心筋炎による重症左心不全に対する有効な治療手段の一つとなる可能性が示唆された.