日本小児循環器学会雑誌
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巻頭言
Reviews
  • 小沼 武司
    2024 年 40 巻 1 号 p. 3-8
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/07/01
    ジャーナル フリー

    左心低形成症候群(hypoplastic left heart syndrome: HLHS)の治療成績は向上しているが依然としてハイリスク疾患である.

    【大動脈再建】広い流路を確保する必要があり,大動脈の狭窄は後負荷増大とそれによる肺血流増加によって術後心不全の要因となる.広い流路のために組織補填を行うことが主流であるが本邦では自己組織を主体とした再建が多い.

    【肺動脈再建】肺血流量は適正である必要があり,肺血流過剰は心容量負荷となり血流不足は低酸素血症を生じる.右室–肺動脈導管の利点は血行動態の安定性にあり,心機能低下や三尖弁逆流のある術前状態の不良な症例では特に選択枝であると考えられる.一方で右室切開とそれに伴う心室機能障害,導管狭窄の懸念がある.

    【両側肺動脈絞扼】本邦では多くの施設で初回姑息術として行われている.低体重,未熟児,脳出血合併,早期CPB手術の合併症を減らす点で効果があり,新生児期から乳児期に高度な開胸手術を延期することで神経発達を含む長期転帰で利益をもたらすことが期待される.

    【体外循環】部分的脳灌流は本邦で広く行われており,超低体温完全循環停止下が主流である欧米でも近年増加している.下半身送血も本邦では広く行われているが,海外では標準的方法とはなっていない.下半身送血により腎障害の軽減とICU滞在時間の短縮が期待される.

  • 平田 陽一郎
    2024 年 40 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/07/01
    ジャーナル フリー

    川崎病は小児期に好発する急性全身性血管炎症候群であるが,冠動脈合併症以外の全身性血管炎の長期遠隔期の影響については不明な点が多い.はたして川崎病の既往は,将来的な動脈硬化など血管合併症のリスク因子になるのだろうか? 残念ながらこの問いに答えられる十分なエビデンスは存在しない.しかし筆者は,自身がこれまでに行ってきた血管と炎症に関する研究の経験をもとに,これまでに川崎病血管炎に関連して蓄積された研究成果の意義と研究手法の限界について検討し,次世代の研究者へ少しでも新たな視座を与えられるように願って解説を試みた.

  • 小暮 智仁, 朝貝 省史, 稲井 慶, 山口 淳一
    2024 年 40 巻 1 号 p. 17-26
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/07/01
    ジャーナル フリー

    成人先天性心疾患に対するカテーテル治療は急速に進歩している.成人先天性心疾患診療の必要性が叫ばれて久しく,カテーテル治療も成人例の治療数が増加傾向となっている.先天性心疾患患者には,成人期に発見されて治療が必要になった患者も存在するが,幼少期の外科手術後に再治療が必要となった患者も多い.成人先天性心疾患診療において,エビデンスが確立された薬物治療が十分に存在せず,多くが構造的異常によるため,外科手術を含めた侵襲的介入が主な治療法となる.再治療においては,再度の開胸手術を回避するべくカテーテル治療が望まれる例が多く存在し,重要な治療選択肢になると考えておりここに寄稿する.本稿では,主に成人期に行われるカテーテル治療に関して,これまでに日本で多くの経験数があるものから,近年治療がスタートした経カテーテル肺動脈弁留置術について,また上位静脈洞型心房中隔欠損症に対するカテーテル治療など筆者が実際に海外で経験し,今後日本に導入が期待される治療まで幅広く紹介する.

  • 今村 知彦, 牧山 武
    2024 年 40 巻 1 号 p. 27-40
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/07/01
    ジャーナル フリー

    Brugada症候群(BrS)と不整脈原性右室心筋症(ARVC)は,特異的な心電図所見と致死性不整脈を呈する遺伝性心疾患である.BrSの約15~20%にSCN5A遺伝子の機能喪失型変異が検出され,右室流出路の貫壁性活動電位勾配をもとにした再分極障害と,右室流出路心外膜側の線維化とGap結合の異常による脱分極障害がcoved型ST上昇や不整脈基質の原因となる.中年期の発症が多く,頻度は男性で8~10倍多い.この性差にはテストステロンが関与するが,女性ではエストラジオールが保護的に作用する可能性がある.ARVCは,主にデスモソーム関連遺伝子の異常により発症し,細胞間接着の不安定化とWnt/β-catenin経路の異常により心筋細胞が線維脂肪変性する.これに伴い,右側胸部誘導のε波や陰性T波が現れる.右室病変主体のARVCはrevised Task Force criteriaを用いて診断し,左室や両心室に病変を認める症例はPadua criteriaで診断する.小児のBrSやARVCは稀だが,致死性不整脈の頻度は成人より高い.小児症例のエビデンス蓄積が期待される.

  • 前田 潤
    2024 年 40 巻 1 号 p. 41-56
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/07/01
    ジャーナル フリー

    先天性心疾患は,出生1,000人につき5~10人の頻度で発生し,生命予後に大きな影響を及ぼす先天異常である.先天性心疾患の多くは多因子遺伝により発症するが,一部は染色体異常または先天異常症候群の合併症として生じることから,特定の染色体上に座位する遺伝子の異常が,先天性心疾患の原因となることが示唆される.近年の分子遺伝学的研究の進歩により,染色体異常を端緒として,心血管疾患の候補遺伝子の同定や,心血管発生の分子メカニズムの解明が進められている.本稿では,染色体異常のうち,小児循環器医が日常診療で関与する頻度が高く,保険診療内で診断可能な疾患を取り上げ,それらの遺伝学的要因と先天性心疾患の特徴について述べる.

症例報告
  • 金田 直樹, 酒井 渉, 茶木 友浩, 名和 智裕
    2024 年 40 巻 1 号 p. 57-63
    発行日: 2024/02/29
    公開日: 2024/07/01
    ジャーナル フリー

    小児重症患者に対する体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)装着中の早期理学療法に関する報告は本邦ではまれである.その理由として,理学療法中の送脱血管の先端位置の移動や計画外抜去のリスクが考えられる.頸部カニュレーションによるECMO装着中の患児に,合併症なく早期理学療法を施行可能であった一例の経過と,具体的な早期理学療法内容を報告する.症例は既往のない2歳,14.3 kgの男児で,頻脈,頻呼吸を認め,精査の後に頻拍誘発性心筋症と診断された.第2病日に心不全増悪かつ低心拍出状態に対し頸部カニュレーションによるECMOを導入した.関節可動域運動,呼吸理学療法に加え,ECMOの送脱血管の挿入角度の変化を脱血圧と送血流量を見ながら注意し,楔状のウレタンフォームを用い側臥位の体位ドレナージを行った.早期理学療法の合併症はなく,第4病日にECMOを離脱した.第11病日抜管し,第14病日に小児集中治療室を退室した.頸部カニュレーションによるECMOを要した小児急性・重症心不全患者の早期理学療法は,送脱血管の位置や角度を注意する事で合併症なく施行可能であった.

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