2017 年 32 巻 1 号 p. 811-816
胃から産生されるグレリンは食欲・体重増加作用だけではなく, 抗炎症作用など多様な生理活性を有する消化管ホルモンである. 上部消化管がん治療においては, 手術や化学療法を原因とする低グレリン血症が生じ, それに起因する栄養障害や侵襲に伴う過剰炎症が生じやすくなる. そこで我々はこのような状態に対して, 合成グレリン製剤を投与する複数のランダム化比較試験を行ってきた. 胃全摘術後, 食道亜全摘術後, および食道がん術前化学療法時におけるグレリン投与により, 経口摂取量や食欲, 術後体重減少などの改善効果が示された. さらに, 食道がん周術期のグレリン投与では, 炎症性サイトカインの抑制による術後SIRS持続期間の短縮, 肺合併症の減少効果を確認できた. いずれの臨床試験においてもグレリン投与に伴う重篤な有害事象を認めなかった. 現在, これらの結果をもとに, 食道がん周術期における合成グレリン製剤投与に関する医師主導治験が計画され, 2017年より開始予定である.