体力科学
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筋弛緩動作の遅速とその要因について
―脱力時及び拮抗筋活動をともなう抑制現象の比較―
永見 邦篤中野 昭一
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1979 年 28 巻 2 号 p. 112-121

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抄録

本研究は, ヒトの動作にみられる筋弛緩現象のうち, 拮抗筋の収縮によって主働筋活動を抑制する場合 (PR) と, 収縮している筋のみを弛緩させる (AR) , いわゆる脱力時にみられるものの2つの弛緩動作について, 筋弛緩時間を指標として, その遅速を生じる要因, ならびに生理的意義を検討したものである。
動作は, 左右の上肢とも前腕部を回内および回外位とし, 肘関節を90°に固定して, 最大屈腕力の10, 30, 50%の筋力を発揮した後, 筋弛緩を行う方法であった。また, 筋力発揮条件は, 低周波発生装置によってブラウン管面上に示された鋸歯状波および矩形波に追随させる場合と, 検者の合図に従わせるものの3つである。筋電図は, 上腕二頭筋と上腕三頭筋から表面誘導法によって記録した。筋弛緩時間は, 実験装置の一部に取りつけた高感度の歪計で張力減少時を決定し, この時点と上腕二頭筋の棘波状放電の消失時点との差から
計測した。
その結果
1) 筋弛緩時間は, ARよりPRの方が速かった。いずれの動作でも負荷の増加に従って, その時間は遅延した。また, 1例を除いて, 左右, 回内回外位それぞれで有意差が認められなかった。
筋力発揮条件による差異は, ARの場合にみられ, 矩形波に追随したときにおいて速くなる傾向を示した。
2) 被検者間で比較すると, ARで弛緩時間の速いものは, 弛緩動作後, いずれの筋放電も完全に消失していた。遅いものでは, 微弱な放電が続く傾向にあった。PRの場合, 上腕二頭筋放電の消失から上腕二頭筋放電の開始までの時間の短いものほど, 筋弛緩時間が速い成績を示した。
3) AR, PRともに弛緩動作時に, 張力が一過性に増加する現象が認められた。この張力増加の勾配は, 負荷の増加に従って大きくなり, また, PRにおいて大であった。被検者間でみると, 筋弛緩時間の遅いものほど, この勾配が大きくなる傾向にあった。
以上の結果から, ARの筋弛緩時間の遅速は, PRに比べて, より上位の中枢に想定される抑制系の疎通ならびに活動の強弱を反映するものと推察された。
そして, 拮抗筋の性質およびその活動に関連する神経系の抑制作用に強く依存するPRとは, その抑制機構を異にすることも示唆された。

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