体力科学
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高齢女性の歩行速度の低下と体力
田井中 幸司青木 純一郎
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2002 年 51 巻 2 号 p. 245-251

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抄録

70~80歳代の自立している高齢女性62名 (80.4±4.0歳) を対象に, 歩行速度の低下の実態を明らかにし, その原因となる体力要因について検討した.歩行速度は, 10mの直線コースにおける「普通」および「最大」の2条件について評価した.また, 歩行速度の低下に特に影響を与えると考えられる筋力 (股関節の伸展・外転, 膝関節の伸展および足関節の底屈に関する等速性筋力) について測定を行った.
普通および最大歩行速度は膝伸展等速性筋力をはじめ, 股関節や足関節の筋力との正の相関関係 (普通: r=0.596~0.666, p<0.01, 最大: r=0.623~0.727, p<0.01) が高く, 普通および最大歩行速度の低下には下肢の筋力の衰退が強く影響していることが推察された.
2条件の歩行別に, 下肢の各筋力と歩行速度との関係を見たところ, 歩行速度の低下傾向には筋力水準の低い集団の方が筋力の衰退に伴う速度低下の勾配が大きい傾向にあった.そこで, 筋力水準の高低により2群に分けて, 歩行速度の低下に影響を及ぼす他の体力要因 (柔軟性: 股関節の伸展・屈曲・外転, 膝関節の伸展・屈曲および足関節の底屈・背屈の関節可動域, 敏捷性: 全身反応時間および平衡性: 開眼片足立ち) についても測定し, 分析した結果, 歩行速度に対する相関関係は, 筋力の「高い」群においては下肢筋力が, また「低い」群では神経反応時間がそれぞれ最も強かった.
以上の結果から, 高齢女性における歩行速度の低下は下肢筋力の衰退が主因であるが, 筋力水準が比較的低く歩行速度の遅い高齢者においては, 神経系の機能低下がもたらす歩行動作の調節および反応の遅延ならびに筋力の減退が歩行速度を一層減速させることが示唆された.

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© 日本体力医学会
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