2022 年 28 巻 1 号 p. 77-82
門脈血栓症は時として致死的な転機をたどる病態である.今回,高度の門脈圧亢進症を呈した亜急性門脈血栓症に対して経頚静脈的肝内門脈静脈短絡術(TIPS)が著効した1例を経験したので報告する.症例は56歳男性.腹痛を契機に近医を受診し,門脈本幹から肝内門脈右枝,上腸間膜静脈に至る広範囲の血栓を認め,当院紹介となった.前医で出血性十二指腸潰瘍の治療歴があったため,AT III製剤単独の投与を開始したが治療効果なく,胸腹水の増悪を認めた.そのため,経頚静脈的に肝内門脈から上腸間膜静脈にアプローチし血栓回収・ウロキナーゼ持続門注を開始した.門注後も血栓は溶解されず,下腸間膜静脈から右肝静脈へTIPSステントを留置した.その後,血流の求肝性変化,胸腹水の消失と低アルブミン血症の改善を認め,独歩での退院となった.血栓溶解療法に反応せず著明な門脈圧亢進症を呈している門脈血栓の症例においては,TIPSは治療選択肢に考慮するべきである.