2017 年 54 巻 5 号 p. 340-346
葛西臨海水族園(以下水族園)は開園以来,展示を通して海の生物のおもしろさ,すばらしさ,尊さを伝える教育活動を行ってきた.今まで開発・実践してきた教育プログラムや伝える技術を生かし,水族園になかなか足を運べない方々のところへ出かけ教育活動を行うのが,ここで紹介する移動水族館活動である.
移動水族館活動の主な訪問先は,長期入院の子どもたちのいる病院や障がい者施設,高齢者施設などである.活動は2基の大型水槽を搭載したトラック「うみくる号」と磯の生物や機材等を積んで同行するバンタイプ「いそくる号」の2台で行う.敷地が狭く「うみくる号」の展開が難しいところには,「いそくる号」のみでも訪問する.
移動水族館を利用する方の障がいや病気の種類や重さは実に多様で,個々への対応には高い専門性が必要であり,水族園内で行っている教育普及活動とは全く異なる手法や工夫が求められる.実際の実践を通し,試行錯誤しながら,機材の考案や開発を行ってきた.
利用した施設のスタッフからは「海の生物を見たり,感じたりが貴重な刺激となった」などの声が聞かれ,生物を見ることやふれあうことが参加者に与える印象の大きさを感じている.一方,病院での実施では感染症を広げないなどの課題がある.ここでは,これまでの活動状況を紹介し,病院での移動水族館活動をより一層充実させるため,皆さまとのネットワーク作りのきっかけとしたい.