日本小児血液・がん学会雑誌
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第65回日本小児血液・がん学会学術集会記録
JSPHO&JCCG特別企画 ジョイントシンポジウム:長期フォローアップの問題点と今後の展望
  • 黒澤 彩子
    2024 年 61 巻 5 号 p. 307-312
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    移植後は免疫抑制状態のほか慢性GVHDや二次がんといった晩期合併症リスクが長期に続き,移植後10年時点で晩期合併症の発症割合は6割と報告される.患者アンケートでも退院後の相談外来に対するニーズが示され,2012年には移植後患者指導管理料として移植後長期フォローアップ(LTFU)外来が保険収載された.日本造血・免疫細胞療法学会(JSTCT)によるLTFU看護師研修の累積受講者数は2,000人を超え,また本邦の移植後LTFUガイドライン発刊などの整備が進められた.しかし現実的には,急性期診療で忙しい移植担当医療スタッフが手探りでLTFU外来を運用しているのが実情と考え,国立がん研究センター研究開発費福田班では移植後LTFU外来の現状とニーズを把握することを目的に,2018年に全国調査を行った(回答施設数188施設:成人144/小児48,BBMT.2020).移植後LTFU外来開設率や未開設理由のほか,移植後の成人移行がルーチンでは行われていない現状や,全国共通のLTFU問診票や患者指導リーフレットへのニーズが調査から明らかになった.これらの結果を受け,福田班ではLTFU診療の標準化,質の向上,担当者の負担減を目的としたLTFU医療者活用ツール全国版の構築を進めてきた.2021年からは移植後小児成人移行をサポートするツール構築に取り組んでいる.成人診療科からみた移植後長期フォローアップの現状と展望についてのべる.

シンポジウム3:非腫瘍性疾患に対する造血幹細胞移植
  • 成田 敦
    2024 年 61 巻 5 号 p. 313-317
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    遺伝性骨髄不全症候群(IBMFS)は,造血細胞の増殖・分化の障害を特徴とし,様々な外表奇形を呈する疾患群である.骨髄異形成症候群や白血病,そして一部の疾患では固形腫瘍の発症素因を有する.Fanconi貧血,先天性角化不全症,Diamond-Blackfan貧血,Shwachman-Diamond症候群が代表的な疾患であり,小児期の骨髄不全症候群の10–20%を占める.IBMFSを再生不良性貧血などの後天性骨髄不全と鑑別することは適切な治療法を選択する上で極めて重要である.IBMFSの診断は血液学的検査,家族歴や特異的な外表奇形の有無,疾患特異的なスクリーニング検査によってなされる.遺伝子解析技術の発展により多くの原因遺伝子が同定されており,現在は包括的な遺伝子解析を用いることでIBMFSを診断することが可能になっている.同種造血幹細胞移植は,IBMFS患者の骨髄機能不全に対処するための有望な治療選択肢である.しかし,造血幹細胞移植は非血液学的病態を改善せず,遺伝性がん素因による二次悪性腫瘍のリスクを増加させる可能性があることから,移植ドナーの選択と移植前処置の選択には留意する.さらに,IBMFS患者に対する適切なカウンセリング,サーベイランス,治療を行うために造血幹細胞移植の晩期障害と年齢によるIBMFSの合併症を注意深く観察する必要がある.

シンポジウム4:小児血液腫瘍医療の集約化と均てん化
  • 盛武 浩
    2024 年 61 巻 5 号 p. 318-323
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    小児がんは年間2,000人程度の発症頻度であり,稀少がんの代表であるため,当然,集約化を目指すべき疾患である.一方,最も頻度の高い急性リンパ性白血病は治療法の向上が著しく,各施設間の治療成績の格差が少なくなり,均てん化が重要視される疾患の代表となっている.このように,小児がんは一般論として集約化が必要ではあるが,がん種によっては均てん化が重要な疾患も混在している.九州・沖縄地区では小児がん拠点病院である九州大学病院を中心に各県施設が連携している.日本小児血液・がん専門医研修施設として九州大学の関連研修施設(子施設)となるか,独立して認定研修施設(親施設)としてプログラムを形成できるかは,様々な要因が求められている.特に各施設の小児がん初発症例数実績に加えて,小児血液・がん指導医と小児がん認定外科医の存在の有無が大きな要因となっている.現状では,九州・沖縄地区において上記の条件を満たす親施設は2施設に限られている.毎月,テレビ会議で各施設において対応に悩む症例などの検討も行って情報を共有できており,良好な関係が構築されてきた.その結果,患者さんの紹介も円滑に行うことが可能となり,日常診療上での問題は感じない.ただし,九州・沖縄ブロックが高度なレベルを維持しながら均てん化を進めるためには,親施設の増加が必要であり,その実現のためには指導医と認定外科医の育成が課題である.

  • 東間 未来
    2024 年 61 巻 5 号 p. 324-326
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    小児がん治療は集約化に向けて大きく舵を取っている.小児固形腫瘍の治療も同様であり,そこに小児外科が占める役割は小さくない.厚労省が定める小児がん拠点病院には小児外科医が充足しているが,小児がん治療連携病院は必ずしも小児外科医が充足しているとはいえず,小児固形腫瘍治療の地域格差が生じる懸念がある.また,小児外科医にとって,小児がん認定外科医資格の取得はハードルが高い現状があり,厚労省が描く腫瘍治療の理想と現実には乖離があるのが現状である.すでに腫瘍治療の経験豊富な医師が地域内の病院に赴いて治療にあたるといった試みが始まっている地域もある.小児外科の基幹病院においては,医師をある程度集約させて腫瘍治療などの専門性を高めたチームを複数作るといった層の厚い組織づくりが腫瘍治療の集約化・均てん化に資すると考える.

シンポジウム6:小児・AYA世代脳腫瘍治療の最前線を知る
  • 山崎 夏維
    2024 年 61 巻 5 号 p. 327-333
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    本邦における小児脳腫瘍診療は大きな変革の時期を迎えている.従来,脳腫瘍の治療は放射線治療が中心であり,化学療法は補助的な役割であった.しかし,放射線治療による治療強化の限界や晩期合併症の問題に直面したことで,小児脳腫瘍の治療は化学療法を組み込んだ集学的治療にシフトすることとなり,現在も治療最適化のための多くの臨床試験が国内外で行われている.集学的治療の最適化のためには,多診療科連携が極めて重要となるが,日本小児がん研究グループが設立されたことで,All Japanでの高度な集学的治療の実施体制が整った.これを受けて,上衣腫に対するEPN1501試験,髄芽腫に対するMB19,ATRTに対するAT20試験,中枢神経系胚細胞腫瘍に対するCNSGCT2021試験が相次いで開始された.いずれの試験においても,治療強度を保ちつつ放射線治療による晩期合併症を軽減するための治療最適化が試みられている.一方,分子標的薬はグリオーマを中心に開発が進んでいる.NTRK阻害剤に続き,BRAF阻害剤・MEK阻害剤が承認されたことで,治療の選択肢が広がると同時に,早期からの積極的な遺伝子検査の実施が重要となっている.今後は,新規標的治療薬をいかに従来治療に組み込むかという最適化が求められる.

    本稿では小児脳腫瘍に対する集学的治療の最適化に向けた薬物療法の現状と展望について概説する.

シンポジウム7:小児血栓止血診療の課題がどこまで解明され,どのように今後展開されていくのか?
  • 江上 直樹
    2024 年 61 巻 5 号 p. 334-338
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    小児血栓症における遺伝性素因の重要性に関する報告が増えているが,その詳細は未だ明らかでない.20歳以下で発症する遺伝性素因の影響の強い血栓症を「早発型遺伝性血栓症(early-onset thrombophilia, EOT)」と捉え,遺伝子検査と患者情報の集積を行った.追加で文献検索を行い,プロテインC(PC)欠乏症55名,プロテインS(PS)欠乏症29名,アンチトロンビン(AT)欠乏症18名の計101名(1名はPC/PS欠乏症を共に持つ)から成る日本人EOTレジストリを作成,解析した.抗凝固活性値は,年齢に応じた基準値を用いることでEOTを高感度に検出するが,特異度は低くEOTの診断には遺伝子検査が必要であった.新生児期から乳児期は電撃性紫斑や頭蓋内出血/梗塞で発症するPC欠乏症が多く,年齢と共にPS/AT欠乏症が増加した.年代と遺伝性血栓性素因に応じた血栓症予防と治療が必要である.PROC両アレル変異を持つ新生児PC欠乏症患者は視力障害など重篤な神経学的後遺症を来した.早期診断,胎児治療から出生後治療に至る新たな管理戦略の構築が必要である.EOT患者の両親の遺伝子検査(32家系)を行い,de novo変異はPC欠乏症の1家系のみだった.3家系(PC欠乏症2家系,AT欠乏症1家系)で周産期に母児が同時に血栓症を発症しており,母児を血栓症から守るための遺伝性血栓性素因スクリーニングの可能性が示された.

シンポジウム8:血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形に対する新しい治療戦略
  • 石川 耕資, 佐々木 雄輝, 佐々木 了
    2024 年 61 巻 5 号 p. 339-345
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    近年の次世代シーケンス技術の発展に伴い,比較的稀な疾患である脈管異常の原因遺伝子が次々と判明してきた.脈管性腫瘍と脈管奇形に大別される脈管異常は,RAS/MAPKシグナル伝達経路やPI3K/AKT/mTORシグナル伝達経路上の遺伝子異常が原因とされ,それぞれRASopathies,PIKopathiesと呼ばれる.原因遺伝子として,先天性血管腫におけるGNAQGNA11,房状血管腫におけるGNA14,静脈奇形におけるTEKTIE2),毛細血管奇形におけるGNAQ,リンパ管奇形におけるPIK3CA,動静脈奇形におけるMAP2K1等の体細胞活性化変異が報告されている.我々はクリッペル・トレノネー症候群症例のホルマリン固定パラフィン包埋組織標本を用いて次世代シーケンス解析を行い,86%の症例にPIK3CAミスセンス変異を検出した.脈管異常において癌と共通する原因遺伝子が明らかとなり,抗癌薬の既存薬再開発による適用拡大がなされつつある.

教育セッション3:造血幹細胞移植
  • 日野 もえ子
    2024 年 61 巻 5 号 p. 346-350
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    小児血液がんの造血幹細胞移植は,成人とは対象疾患や合併症において異なる点が多い.近年,成人領域では予防,診断,治療に新技術や薬剤が登場しているが,これを小児に応用するには注意が必要である.本稿では,小児血液がん治療の例を提示し,造血幹細胞移植後の重篤な合併症であるVOD/SOSの診断と治療の最新情報,GVHDの予防と治療法の更新について述べた.また,新たなGVHD治療薬であるイブルチニブやルキソリチニブについて紹介する.治療成功だけでなく,移植後の患者の長期的な健康管理とフォローアップが重要であり,それを支援するためのツールも提供されている.

教育セッション4:凝固異常症:血友病以外
  • 石原 卓
    2024 年 61 巻 5 号 p. 351-359
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    播種性血管内凝固(DIC)には原因となる基礎疾患が存在し,持続する凝固の活性化状態により微小血管障害性溶血性貧血が生ずる病態である.凝固/線溶関連因子の消費性低下を来し血小板低下も生じるため,治療介入を速やかに行わなければ致死的となる.基礎疾患により線溶能の程度が異なり,例えば急性前骨髄球性白血病では線溶能の亢進により凝固能を上回るため出血症状を呈し(線溶亢進型DIC),敗血症では線溶能の抑制により凝固能が相対的に優位となり微小血栓が多発し臓器症状が主体となる(線溶抑制型DIC).凝固/線溶能のバランスを正確に評価することは実臨床ではなかなか困難であり,これまでも複数のDIC診断基準が存在してきた.本邦で最も頻用されてきた旧厚生省DIC診断基準は,特異性は十分であるが早期DICの診断感度が不十分であり急性期DIC診断基準が提唱された.国際血栓止血学会のDIC診断基準も早期診断に課題があり,日本血栓止血学会DIC診断基準2017年版が新たに発表された.新生児では新生児DIC診断・治療指針2016年版が用いられる.治療は基礎疾患の治療が最優先であるが,DIC治療では凝固/線溶能のバランスを正確に把握しないと不適切な治療に繋がるため,それらバランスを常に意識することが重要である.

教育セッション5:支持療法(感染対策を含む)
  • 大曽根 眞也
    2024 年 61 巻 5 号 p. 360-365
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    小児がんの医療において,がんや検査・処置・治療による肉体的・精神的・心理的な苦痛や不利益を軽減・予防して,患者や家族の生活の質を改善する支持医療はきわめて重要である.支持医療は治療介入のみならず,それを実践するための多職種からなる医療体制の構築,教育や啓発等の包括的な取り組みである.

    しかし小児では,がんの支持医療におけるエビデンスは成人と比べて乏しく,国内では小児がんの支持医療に特化した臨床研究が十分に行われていない.日本小児がん研究グループの支持療法委員会で行った支持医療の現状調査では,エビデンスに基づいた支持医療と各施設の慣習に基づくと思われる支持医療が混在し,過度に濃厚な支持医療が行われている分野もあった.その一方で一部の支持医療は,医療現場のマンパワー不足を反映して脆弱な体制で行われており,多診療科・多職種の連携が不十分であった.

    本稿では小児がん患者に対する基本的な支持医療である感染対策と化学療法による悪心嘔吐について,現在のエビデンスを整理して示す.また,検査・処置時の鎮静・鎮痛,口腔ケア,栄養管理を例に,医師のみならず多診療科・多職種が協力して,支持医療を提供する重要性について述べる.最後に小児がん支持医療におけるエビデンス創出の方策について言及する.

第3回女性活動支援シンポジウム:女性医師や若手医師のキャリア支援
  • 石丸 紗恵
    2024 年 61 巻 5 号 p. 366-372
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    小児がんの治療成績向上のためには,臨床試験における治療の科学的妥当性の検証が重要である.わが国では,日本小児がん研究グループ(JCCG)が中心となり後期相試験を実施し,標準治療の確立が進められてきたが,小児がんの希少性から国内の症例数では検証的な臨床試験が実施できないことも多い.また,早期相試験については小児薬剤開発推進が法制化されている欧米に比べて十分な開発体制が整備されておらず,ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスが課題となっている.これらの問題を解決するための方法のひとつとして,国際共同臨床試験への参画があげられる.しかし,国際共同臨床試験実施には様々な課題が存在する.これは各国における標準治療が異なるといった医学的要因だけでなく,規制面での違い,研究資金や人的リソースの制約もあげられる.またICH-GCPやGCP省令に基づく臨床試験の経験が求められ,参加施設も限定されることが多いが,一方で患者集積とのバランスを考慮しなくてはならない.本稿では,これまでに小児がんを対象として行われたアカデミア主体の国際共同臨床試験実施体制をまとめるとともに,KMT2A遺伝子再構成陽性乳児白血病に対する国際共同臨床試験Interfant-21参画準備について説明する.さらに海外の臨床研究支援の仕組みを参考にしつつ,国際共同試験への参画を円滑にする枠組みや小児がん臨床試験の実施支援体制の今後の展望について考える.

  • 新開 統子
    2024 年 61 巻 5 号 p. 373-375
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    日本小児血液・がん学会では,すべての学会員がジェンダーフリーで活躍できることを目指し,コロナ禍の2020年に女性医師活躍支援委員会が発足しました.本委員会の活動の一つに,毎年の学術集会において女性活動支援シンポジウムを開催することがあげられます.第65回の学術集会では同シンポジウムも第3回を迎え,座長は出口隆生先生と宮村能子先生で,2023年9月29日に行われました.4人の女性医師がシンポジストとしてそれぞれの経験を示しました.

二学会合同シンポジウム:病気とともに『生きる』子どもと家族を支える緩和ケア
  • 笹月 桃子
    2024 年 61 巻 5 号 p. 376-384
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    近年,「意思決定支援」がこれほどまでに謳われる背景には,医療における自己決定概念の前景化,社会から医療への要請の複雑化,医療者の苦悩など,いくつかの要因があるであろう.しかし元来,私たちは,生まれてくることも,死にゆくことも,病を得ることも,自ら選べない.それでは医療において「意思」を「決定」するとは何を決めることなのであろうか.個人の人生における尊厳感の保持や自分らしさの実現のすべてを医療は担うことができるのであろうか.尊厳,最善の利益,自律尊重,苦痛といった大きな言葉を通じて,私たちは何に合意しているのであろうか.それを私たちはコントロールできるのであろうか.本稿では,成人領域での議論を俯瞰しながら,医療現場における子どもの意思決定のプロセスを細かにたどり,曖昧さを含んだままの概念をそのまま飲み込むのではなく,目の前に在る子どものいのちを見つめ,自らとは異なる他者として,そのいのちに畏れを抱き,底上げ的に議論を重ねる重要性を共有する.その先に,既存の価値から見下ろし,品定めするのではない,どのようないのちも等しく尊ばれる社会の醸成が叶うことを期待する.

総説
  • 加藤 実穂, 瀧本 哲也, 田代 志門, 松本 公一
    2024 年 61 巻 5 号 p. 385-391
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    臨床研究における同意取得の方法が多様化しつつあるなかで,小児がん長期フォローアップ研究における同意取得のあり方については,今日確立されているとは言えない.研究参加時の同意は代諾者によって行われることが多いが,長期フォローアップを実施する過程で,自己による意思決定が尊重される年齢に達した時点で患者本人からの同意の取得が必要となる.これに対応するためには,非対面で実施可能な同意取得方法について検討する必要があり,人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針において言及されている「電磁的方法によるインフォームド・コンセント」を研究の内容と利用するシステムのセキュリティの強度に応じて採用するのが望ましいと考える.

    また,電子的データ集積システムを用いた同意取得は,システム上で個人情報の管理を行うということを意味するため,それを可能とする堅牢な情報セキュリティ基盤が必要である.これに対応するために,「Safeサーバー」を構築した.

    上記の課題に取り組むために,現在がん対策推進総合研究事業の一環として,通称「長期フォローアップ松本班」による全国長期フォローアップ体制の構築計画が進行中である.本稿ではその活動の一環としての電磁的同意取得のあり方の提言を行い,その基盤となる情報セキュリティ体制について述べる.

原著
  • 三谷 友一, 水島 喜隆, 上月 景弘, 本田 護, 大嶋 宏一, 加藤 優, 高田 啓志, 稲嶺 樹, 森 麻希子, 福岡 講平, 荒川 ...
    2024 年 61 巻 5 号 p. 392-396
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    2024年3月に本邦において,成人に続き小児CD22陽性再発/難治性B前駆細胞性急性リンパ性白血病(R/R BCP-ALL)に対しても,イノツズマブ・オゾガマイシン(InO)が承認された.今回InOを使用した9例のR/R BCP-ALLについて,有効性と安全性について検討を行った.8例で非寛解期に使用し,1例で寛解期のbridging therapyとして使用した.8例中5例で寛解(CR)を達成し,3例が不応であった.CRに至った5例中4例が最終的に再発したが,このうち2例でInOの再投与を行い,ともに再度のCRを達成した.CTCAE grade 3以上の非血液毒性としては,発熱性好中球減少症,infusion reaction,AST/ALT上昇の他に,肝中心静脈閉塞症/肝類洞閉塞症候群を1例で認めた.CD22陽性R/R BCP-ALL例の寛解導入において,InOは有効な選択肢となり得る.特にInOの使用歴がある例においても,InOの再投与が有効である可能性が示唆された.

症例報告
  • 高瀬 雄介, 松尾 祐子, 奥野 香織, 新宮 啓太, 谷岡 真司, 舩越 康智, 森内 浩幸
    2024 年 61 巻 5 号 p. 397-400
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    血友病Aは,X連鎖潜性の代表的な先天性出血性疾患であり,国内に存在する5,000人以上の患者のほとんどが男性である.一方,正常アレルと病的アレルのヘテロ接合である女性は,出血症状を呈さない「保因者女性」として長らく扱われてきた.しかしながら,近年「保因者女性」の出血症状の実態が注目されており,その中には凝固因子活性の低値から女性血友病と呼称される患者が存在する.今回我々は,エミシズマブによる管理を開始し,良好に出血症状を予防できているインヒビター非保有非重症女性血友病Aの一例を経験した.国内における女性血友病Aの症例報告は少なく,これまでは第VIII因子製剤のオンデマンド補充等が行われてきた.「保因者女性」については,無症候性保因者から女性血友病まで出血状況は幅広く,個々に合わせた管理が検討されるべきである.また,女性血友病Aに対するエミシズマブの使用報告は限られており,今後の症例の集積が課題である.

  • 島田 翔, 大園 秀一, 満尾 美穂, 中川 慎一郎, 山下 裕史朗, 愛甲 崇人, 東舘 成希, 古賀 義法, 加治 建
    2024 年 61 巻 5 号 p. 401-405
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    骨髄肉腫(myeloid sarcoma, MS)は急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)の髄外病変として,骨髄病変と同時または先行,再発時に認める稀な疾患とされている.著者らはAML M5に対して化学療法終了8か月後に再発した2歳男児に対する再寛解導入療法中に発症した虫垂原発の急性腹症に対して外科的切除術を施行し,病理診断で骨髄肉腫の診断に至った症例を経験した.再寛解導入療法後の骨髄検査で寛解と判断し,骨髄移植を施行.移植後に寛解を確認したが,移植5か月後に腸管内に髄外病変を認めた.虫垂MSの症例報告は成人の症例を合わせても稀であり,本邦において最も若年発症であったため報告する.

  • 小田切 理香, 井口 晶裕, 坂本 淳, 野上 恵嗣, 堀田 多恵子, 大賀 正一, 石黒 精
    2024 年 61 巻 5 号 p. 406-409
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    アンチトロンビン(AT)欠乏症は遺伝性血栓性素因の一つである.AT欠乏症の小児について直接経口抗凝固薬(DOAC)の効果判定のエビデンスは不十分であり,DOACで血栓症の一次予防をした報告例は少ない.AT欠乏症の5世代にわたる家族例を経験した.患児は7歳,体重19.4 kg,AT活性51%であり,SERPINC1にスプライスバリアントが認められた.患児にリバーロキサバン15 mg/日の試験投与を行った.凝固波形解析において,投与前には短縮していた患児の凝固時間は,投与下では健常者と同等になり,最大凝固加速度は投与下に健常者よりも低下した.トロンビン生成試験において,投与前およびCOVID-19罹患時には亢進していた患児のトロンビン産生は,内服下では健常者に比べて抑制されていた.これにより,リバーロキサバンの投与量の参照になる情報が得られた.小児例の集積による至適投与法の確立が必要である.

  • 安江 志保, 坂本 謙一, 塩田 曜子
    2024 年 61 巻 5 号 p. 410-413
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/02/22
    ジャーナル 認証あり

    小児ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis, LCH)患者の生存率は化学療法の導入により改善したが再発は依然として多く,再発LCHに対する治療は未だ確立されていない.ヒドロキシカルバミド(化学名:ハイドロキシウレア,Hydroxyurea, HU)は骨髄増殖性疾患などに対して広く使用されてきた薬剤であり,小児LCHに対して使用された報告はほとんどない.我々は頻回再発の小児LCH2例に対し,HU単独またはHUとメソトレキセートの併用療法を行った.HU投与により,骨病変の改善と年単位の再発抑制が得られ,重篤な有害事象は観察されなかった.HUは経口投与が可能な薬剤であり,受診回数と医療費を削減するだけでなく,患児の痛みを伴う注射による身体的および精神的ストレスを軽減することができる.再発LCH患者に対し,HUは有望な治療選択肢となり得る.

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