Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
受療行動調査における療養生活の質の評価のための項目のがん患者における内容的妥当性と結果の解釈可能性に関する基礎的検討
清水 恵佐藤 一樹加藤 雅志藤澤 大介森田 達也宮下 光令
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2015 年 10 巻 4 号 p. 223-237

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Abstract

政府統計である受療行動調査における Quality-of-life(QOL)および Quality-of-Care(QOC)に関する項目を用いて,がん患者の療養生活の質の全国的,経時的な評価を行う検討がされている.本研究では,これらの項目が,がん患者の療養生活の質の評価において妥当性があることを検討するため,がん患者 630名への Web上モニター調査を実施した.調査の結果,すべての項目について,90%以上の回答者が,療養生活において重要であると回答した.満足度をたずねる QOCに関する項目の“ふつう”という回答選択肢は,ほぼ“満足”であること,“その他”との回答選択肢は,その項目の内容が,回答者に“該当しない”場合であることが明らかとなった.これらの知見から受療行動調査の QOLに関する項目,QOCに関する項目は妥当であり,公表する場合の結果の提示方法の示唆が得られた.

緒言

 我が国では,2007年に施行されたがん対策基本法に基づき,がん対策推進基本計画が策定された.がん対策推進基本計画の全体目標の一つに,「すべてのがん患者およびその家族の療養生活の質の維持向上」があり1),がん対策基本法では,がん対策の効果を評価するために,この全体目標の達成状況を把握することが求められている2).しかし,がん患者の療養生活の質を全国的かつ継続的に評価するためのシステムはなく,構築することが喫緊の課題である.

 そこで,われわれは,既存の政府統計である受療行動調査を利用して,がん患者の療養生活の質をモニタリングする方法を開発した.受療行動調査とは,3年に1回全国から無作為抽出された約500の医療施設を利用する外来患者および入院患者を対象とした自己記入式質問紙調査である3).受療行動調査のデータは,同時に行われる医療施設への調査である患者調査のデータとのリンケージにより,がん患者の同定が可能であり,平成20年度には,外来がん患者3777人,入院がん患者5145人分のデータが得られている.

 受療行動調査の調査項目には,療養生活の質を評価する項目として,Quality-of-life(QOL)に関する5項目,自覚的健康度に関する1項目,Quality-of-Care(QOC)に関する5項目が含まれている.これら受療行動調査の調査項目のがん患者の療養生活の質を評価する指標としての,構成概念妥当性,内的一貫性,同時的妥当性および再テスト信頼性は検証されている4)

 しかし,この受療行動調査の調査項目には,いくつか検討すべき点が残されている.1つ目に,がん患者の療養生活において重要なことを評価しているかという内容的妥当性を検討する必要がある.2つ目に,得られた結果の解釈可能性を検討する必要がある.受療行動調査のような政府統計調査の結果は,適切な解釈をしたうえでわかりやすく国民に公表する必要があり,そのために結果の解釈可能性を明らかにすることは重要である.とくに,QOCに関する項目は,受けている医療に関して「満足しているか」という質問に対して,“1.非常に満足している”“2.やや満足している”“3.ふつう”“4.やや不満である”“5.非常に不満である”“6.その他”の6件法で回答するが,平成20年の受療行動調査の結果では,“ふつう”との回答が,どの項目についても20%前後であった.つまり,“ふつう”を“満足”ととらえるか,“不満足”ととらえるかにより,QOCの評価の解釈が大きく異る.“ふつう”との回答が何を意味しているかは,結果を解釈し提示する際に明らかにしておく必要がある.さらに,平成20年の受療行動調査では,QOCに関する項目について“その他”との回答の割合が,「痛みなどのからだの苦痛をやわらげる対応」では23%,「精神的ケア」18%であった.そのため,QOCの評価をする際に,“その他”を分析の分母に含めるか含めないかによってそれぞれの回答割合が大きく異なる.よって“その他”は何を意味しているのかを明らかにする必要がある.したがって,本研究の目的は,1.受療行動調査の調査項目であるQOL,QOCに関する項目,自覚的健康度が,がん患者にとって療養生活において重要と考えることを評価しているかどうか(内容的妥当性),2.QOCに関する項目の回答選択肢の“ふつう”がどちらかといえば満足/不満足のどちらなのか,3.QOCに関する項目の回答選択肢の“その他”との回答理由を検討することを目的とした.

方法

1 調査対象と調査手順

 本研究は,外来通院中のがん患者を対象としたインターネットによる横断調査である.調査期間は2012年4月24日~4月27日の4日間であった.インターネットリサーチ会社(株式会社インテージ)への登録者約130万人のうち,がん患者として登録されているがんと診断されて10年未満の20歳以上の患者を同定した.同定されたがん患者について,診断後2年未満,2年以上5年未満,5年以上10年未満の患者の3つに層別し,各層から約300人ずつサンプリングした.調査対象者に対し,E-mailにて調査の詳細な説明を送付し,調査への参加依頼を行った.調査は匿名にて実施した.本研究は,東北大学大学院医学系研究科倫理審査委員会の承認を受け実施した.

2 調査項目

(1)受療行動調査の調査項目

・QOLに関する項目

 「体の苦痛がある」「痛みがある」「気持ちがつらい」「歩くのが大変だ」「身の回りのことをするのに介助が必要だ」の5項目について,“1.そう思う”“2.少しそう思う”“3.どちらともいえない”“4.あまりそう思わない”“5.そう思わない”の5件法でたずねた.

・自覚的健康度

 「ふだんの自分の健康をどう感じているか」について,“1.よい”“2.まあよい”“3.ふつう”“4.あまりよくない”“5.よくない”の5件法でたずねた.

・QOCに関する項目

 「医師による診療・治療の内容」「医師との対話」「医師以外の病院スタッフの対応」「痛みなどのからだの症状をやわらげる対応」「精神的ケア」の5項目について,“1.非常に満足している”“2.やや満足している”“3.ふつう”“4.やや不満である”“5.非常に不満である”“6.その他”の6件法でたずねた.さらに補問として,“3.ふつう”との回答者には,続いて,“1.どちらかというと満足”“2.どちらかというと不満足”の2件法でたずねた.“6.その他”との回答者には,その他との回答理由について自由記述でたずねた.

(2)受療行動調査の調査項目(QOLに関する項目,自覚的健康度,QOCに関する項目)のがん患者の療養生活における重要度

 上記に記載した受療行動調査の各項目が,がん患者が療養生活の中で重要と考えることを評価しているかを検討するために,各項目が療養生活においてどれだけ重要なことであるかを,“1.非常に重要である”“2.重要である”“3.どちらかといえば重要である”“4.どちらかといえば重要でない”“5.重要でない”“6.全く重要でない”の6件法でたずねた.さらに各項目の中で,回答者が療養生活において最も重要だと考える項目は何かたずねた.

(3)患者背景

 年齢,性別,がん部位,就業状況,疾病状況,治療状況,the Eastern Co-operative Oncology Group(ECOG)の身体活動度をたずねた.ECOGの身体活動度は,医師評価として開発されたが,患者本人の評価としても使用可能であることが先行研究にて示されている5)

3 分析

 まず,対象者背景について記述統計を算出した.内容的妥当性の検討のために,受療行動調査の各調査項目の重要度の回答割合を算出した.重要度の評価と回答者の背景との関連を調べるために,重要度を従属変数,患者背景を独立変数とし,ウィルコクソンの順位和検定にて単変量解析を行った.続いて一般線形モデルを用いて多変量解析を行った.多変量解析では,独立変数として,単変量解析にていずれか1つの重要度の項目にでも有意な関連のあった背景因子(年齢,性別,がん原発部位,転移・再発の有無,治癒告知の有無,治療状況,疼痛治療の有無,ECOGのPS,婚姻状況,年間世帯収入)を含めた.続いて,結果の解釈可能性を検討するために,QOCに関する項目の補問の回答割合を算出した.また,QOCに関する項目についての“その他”との回答者の回答理由の自由記述は,内容分析にて検討を行った.すべての解析は両側検定にて行い有意水準は0.05とした.解析には,統計パッケージSAS version 9.3(SAS Institute, Cary, NC)を使用した.

結果

 894名のがん患者にアンケートへの協力を依頼し,630名の有効回答を得た(有効回答率71%)

対象者背景を表1に示した.年齢は,55.9±11.9歳,男性49%であった.がん部位は,多い順に乳がん27%,前立腺がんが11%であった.疾病状況について,転移あり19%,治癒したと告知されている患者が52%であった.治療状況は,抗がん治療中17%,症状緩和治療中4%,治療間の定期的な通院中8%,治癒後の定期的な検査通院中が64%であった.ECOGの身体活動度(PS)は,0が67%,1が30%,2以上が3%であった.

表1 対象者背景

 受療行動調査の各調査項目のがん患者の療養生活における重要度の回答割合を表2に示した.すべての項目で,90%以上が“重要”と回答していた.最も重要だと回答した人が多かったのは,医師による診療・治療内容に満足していること(29%),からだの苦痛がないこと(16%),気持ちのつらさがないこと(11%)であった.

表2 受療行動調査に収載されているQOLおよびQOCに関する項目,自覚的健康度のがん患者の療養生活においての重要度および各項目の最も重要だとの回答数

 表3に,各項目の重要度と背景因子との関連についての解析結果を示した.多変量分析において,すべての項目で,女性であることがその項目がより重要であると考えていることと関連していた(P<0.001〜P=0.031)さらに,「医師との対話に満足していること」については,より高齢であること(P=0.026),「医師以外の病院スタッフの対応に満足していること」については,離別していること(対既婚,P=0.028),「痛みなどのからだの苦痛をやわらげる対応に満足していること」については,症状緩和治療中であること(対抗がん治療中,P=0.041),「精神的ケアに満足していること」については,高齢であること(P=0.030),離別していること(対既婚,P=0.008)も,それぞれ各項目がより重要であると考えることと関連していた.一方,各項目についてより重要度を低く考えることと関連していた背景因子は,「身の回りのことをするのに介助が必要でないこと」について,再発転移があること(対再発転移なし,P=0.023),「医師による診療・治療の内容に満足していること」については,休職中であること(対フルタイムの仕事,P=0.027),ECOGの身体活動度が2-4であること(対身体活動度0,P=0.019),「痛みなどのからだの苦痛をやわらげる対応に満足していること」については,休職中であること(対フルタイムの仕事をしている,P=0.007)であった.

表3-1 受療行動調査の項目の重要度と患者背景の関連
表3-2 受療行動調査の項目の重要度と患者背景の関連

 QOCに関する項目の回答割合について,“ふつう”および“その他”との回答割合はそれぞれ,「医師による診療・治療の内容」26%および0.5%,「医師との対話」27%および0.6%,「医師以外の病院スタッフの対応」27%および0.3%,「痛みなどのからだの症状をやわらげる対応」35%および10%,「精神的ケア」39%および5%であった.QOCに関する項目での“ふつう”との回答者に,“どちらかといえば満足”か“どちらかといえば不満足”か,をたずねた結果を表4に示した.“どちらかというと満足”との回答は,「医師による診療・治療の内容」75%,「医師との対話」72%,「医師以外の病院スタッフの対応」80%,「痛みなどのからだの症状をやわらげる対応」83%,「精神的ケア」83%であった.

表4 QOCに関する項目の“ふつう”との回答は“どちらかといえば”満足か不満足か

 QOCに関する項目である「痛みなどのからだの症状をやわらげる対応」および「精神的ケア」について“その他”との回答理由を表5に示した.「痛みなどのからだの症状をやわらげる対応」では,“痛みなし(82%)”,“痛みによる治療を受けていない/相談していない(15%)”,「精神的ケア」では,“精神的ケアを必要としていない(61%)”,“精神的ケアを受けていない(29%)”が主な回答理由であった.

表5 QOCに関する項目の“その他”との回答理由

考察

 本研究では,受療行動調査の調査項目(QOL,QOCに関する項目,自覚的健康度)について,以下の有用な知見が得られた.1)受療行動調査の調査項目は,がん患者の療養生活において重要な事項を評価している.2)QOCに関する項目の“ふつう”との回答は,ほぼ“満足”と解釈できる.3)QOCに関する項目の“その他”はその項目の内容が回答者に“該当しない”場合に選択されるため分母から除いて計算するのが適切である.

 QOL,QOCに関する項目,自覚的健康度は,がん患者の療養生活にとって重要な事項を評価する項目である.とくに,患者背景について,原発がん部位,診断からの経過期間,治癒告知の有無,治療歴は,重要度に関するすべての項目と有意な関連はみられなかった.また,治療状況についても重要度との有意な関連は,症状緩和治療中の患者で「痛みなどのからだの苦痛をやわらげる対応に満足していること」をより重要と考えていることのみであった.さらに,再発転移有無についても,再発転移の無い患者で,「身の回りのことをするのに介助が必要でないこと」より重要と評価していたことのみであった.このことは,がん種や病期,さらに,治療中か治療後のサバイバーであるかにかかわらず,療養生活についての重要なことを評価しうることを示唆している.症状緩和治療中の患者では「痛みなどのからだの苦痛をやわらげる対応に満足していること」を,より重要と考えていたが,症状緩和治療中の患者が症状緩和への対応への満足をより重要と考えることは当然のことである.一方,再発転移のない患者のほうが,「身の回りのことをするのに介助が必要でないこと」を重要と考えていたことは,再発転移のない患者はより自立した社会生活を念頭に置いて療養生活を過ごしている可能性を示唆しているのかもしれない.また,女性は男性よりも受療行動調査で評価しているQOLやQOCをより重要と考えることが示唆された.しかし,副次的な解析として,男女別の重要度の回答割合を算出したところ,男女ともに「重要」との回答が90%以上であったことから,男女差はあるが,両性にとってすべての項目は重要な項目と言える.また,離別者は既婚者に比べて,QOCに関する項目についてより重要と考える傾向が明らかとなった.離別しているがん患者は,配偶者からのサポートがないため,医療者からのケアをより重要視するのかもしれない.

 QOCに関する項目の“ふつう”との回答者の70%以上が“どちらかというと満足”であることが示されたことにより,“ふつう”は満足に偏った選択肢であることが明らかになった.この知見によりQOCに関する項目の調査結果についてわかりやすく国民に伝えるために結果を“満足”か“不満足”かの2値で提示する際には,“ふつう”との回答は満足に含める,または,「不満足度」として,“やや不満”“不満”の割合合計を提示するのが適当と考えられる.また,QOCに関する項目の“その他”との選択肢は,その項目が,回答者にとって該当しない場合に選択されることが明らかとなった.たとえば,医療者の「痛みなどのからだの症状をやわらげる対応」や「精神的ケア」を必要としていない回答者は,満足/不満足のどちらにも当てはまらないため,“その他”を選択するのである.このことより,QOCに関する項目の調査結果について,満足または不満足との回答割合を算出する際には,分母から“その他”との回答者数を除くことが適当と考えられる.

 本研究にはいくつか限界が存在する.1つ目の限界として,本研究の対象者は,インターネット調査会社に登録しているがん患者による調査であることが挙げられる.そのため,志願者バイアスの可能性がある.医療に関して関心や意識の高い集団であることが考えられるため,とくに各項目の重要度に関して,重要性の高い方向に回答が偏っている可能性が考えられる.また,インターネット調査に参加できないような高齢患者,重篤な状態の患者に本研究の知見を一般化するには注意が必要である.しかし,受療行動調査で調査に参加する集団も,筆記回答の可能な患者であり,重篤な状態の患者は含まれないため,本研究の知見を受療行動調査の参加対象集団に当てはめることは妥当であると考えられる.2つ目の限界として,インターネット上の調査であるため外来がん患者である.よって,入院がん患者に対しても本研究の知見があてはまるとは断言はできない.しかし,項目の療養生活においての重要度に関しては,入院がん患者は外来がん患者より身体状態の低下が予想されるうえ,医療者との関わりもより密接であるため,項目の重要度が外来がん患者以上に高い可能性が考えられる.3つ目の限界として,本研究では,臨床的背景が参加者の自己申告であり,臨床的背景に関する情報が完全に信頼できるものであるとはいい難い.4つ目の限界として,本研究では,既存の質問項目についての療養生活においての重要であることを明らかにできたが,受療行動調査の調査項目が,がん患者の療養生活の質を全人的に評価する上で必要なすべての要素を包含しているとは言えない.がん患者の療養生活において重要な要素は,様々な研究がなされ,包括的ながん患者のQOL尺度として,the European Organization for Research and Treatment of Cancer Core Questionnaire (EORTC QLQ-C30)6),the Functional Assessment for Cancer Therapy-General(FACT-G)7),Good Death Inventory8,9)や,QOC尺度として,Care Evaluation Scale10)などが開発されている.しかし,これらの尺度は,項目数が多く,受療行動調査のような全国的な大規模調査の調査項目の一部としては不向きである.がん患者の療養生活についてより詳細に評価するためにはがん患者のみを対象とした調査が必要である.さらに,がん対策では,情報や相談支援などのサービスの充実などが図られており,このような対策ががん患者の療養生活の維持向上に効果的に働いているかを評価することも必要である.

結論

 本研究により,受療行動調査の調査項目であるQOL,QOCに関する項目,自覚的健康度は,あらゆる病期のがん患者の療養生活において重要なことを評価する項目であることが明らかとなった.また,QOCに関する項目の回答選択肢の“ふつう”はほぼ“満足”と解釈できること,“その他”はその項目の内容が回答者に“該当しない”場合に選択されることが明らかとなった.これらの知見により,今後,受療行動調査の結果をわかりやすく公表していく際には,QOCに関する項目の“ふつう”は“満足”に含めて回答割合合計を提示すること,“その他”は回答の分母から除外して回答割合を算出することが適当であることが示唆された.

謝辞

 本研究は,厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業「がん対策に資するがん患者の療養生活の質の評価方法の確立に関する研究」の一環として実施した.

 本調査に参加いただいた多くのがん患者の皆様に心より感謝申し上げます.

References
 
© 2015 日本緩和医療学会
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