Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
訪問看護ステーションにおける遺族ケアに関する全国調査
工藤 朋子古瀬 みどり
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2016 年 11 巻 2 号 p. 128-136

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Abstract

【目的】訪問看護ステーションにおける遺族ケアの実施状況と今後の課題を明らかにする.【方法】全国の訪問看護事業所1,000件を対象に質問紙郵送調査を行った.【結果】有効回答296件(29.8%),遺族ケアは,積極的に実施6.1%,必要時実施73.1%,ほとんど行っていない20.7%だった.自宅訪問は91.4%が実施,常に行っているケアは,ねぎらいの言葉が73.6%と最も多かった.関係機関へ連絡している事業所は32.4%で,認知症を抱え独居となる遺族の見守りなどを依頼していた.連絡していない理由は,どのような場合に連絡するかわからない17.5%だった.【結論】約9割が自宅訪問を実施していたが,情緒的サポートが主だった.訪問看護師には,介護保険以外に利用できる保健福祉サービスなど,生活の立て直しを図る情報を遺族に提供し,継続的な関わりを要する遺族を早期に見極め,関係機関へ引き継ぐ力が求められる.

緒言

死別者の多くは,自身の適応力や身近な人からの支えにより,その苦境を乗り越えるといわれている.しかし,核家族化が進む昨今,地域や親族の中でお互いを支え合う関係は希薄になってきている.また,かつては故人の想い出を語り合う場であった法要行事も,簡素化が進んでいる.そのような社会情勢の中,平成26年の医療介護総合確保推進法の制定,平成26年診療報酬改定では24時間対応等の機能強化型訪問看護ステーションの評価など,在宅療養推進に向けた制度が整備されている.平成25年9月中の訪問看護ステーション利用者の状況1)は,介護保険法による利用者が73.8%を占め,そのうち80歳代は42.7%と最も多い.また,同法による80歳代利用者の同居家族は,「夫婦のみ」が男41.1%,女16.0%で,老老介護の末に死別後独居となり,閉じこもりや要介護状態を予防しながら生活の立て直しを必要とする遺族の増加が見込まれる.遺族は故人の死を受け容れつつ,自身の今現在の生活や健康問題など,将来に向けての準備が課題となる場合がある.そのため,今後の遺族ケアは介護予防の視点でシステムを構築していく必要があると思われる.

訪問看護師が行うグリーフケアに関する国内の先行研究は,家族介護者に対して行うグリーフケアとアウトカムの構成概念の検討2,3),訪問看護師が捉える遺族訪問の実践と意味づけ4),遺族訪問を受けた遺族の経験5)などが報告されている.2008年に実施された全国調査6)によると,看取り後のグリーフケアを業務として位置づけている訪問看護ステーションは44.9%,そのうち98.7%が自宅訪問を実施していた.しかし,自宅訪問によるケアの提供は家族の個別性を尊重できるメリットがある反面,時間や移動を必要とし,看護師の労力が大きいことが示されている.終末期がん療養者を積極的に受け入れている訪問看護ステーションに限ってみると,グリーフケアの実施は77.3%という報告7)もあるが,その後,全国の実態は明らかにされていない.そこで本研究は,訪問看護ステーション(以下,事業所)では遺族をどのようにケアしているのか,どのような遺族を関係機関へ連絡しているのか,遺族ケアの実施状況と今後の課題を明らかにすることを目的とした.

なお,死別を経験した人や家族へのサポートは,グリーフケアや遺族ケア,死別ケアなどといわれ,ニュアンスの違いはあるものの,日本ではこれらを明確に区分せず用いることが多い8).本稿では,「死別を経験した家族介護者に対する支援」として「遺族ケア」という用語を用いる.

方法

1 調査対象

全国の訪問看護事業所1,000件を調査対象とした.抽出方法は,2014年8月にインターネットの「介護サービス情報公表システム」9),各都道府県の看護協会等のホームページを検索し,全国の訪問看護事業所数(6,715件)との比率から各都道府県の対象数を算出し,無作為抽出した.

2 調査方法

2014年9〜10月に,訪問看護管理者宛に郵送による自作の質問紙調査を行った.調査協力に同意する場合は,自宅や入院・入所先での死亡により,訪問看護が終了した利用者・家族を担当した経験のある看護師が調査票を記入し,返信するように依頼した.

3 調査内容

回答者の属性は,職位を尋ねた.事業所の背景は,開設後年数,開設主体,常勤換算看護職員数,2014年8月の訪問看護利用者実人数および延べ訪問件数,2014年1~8月の自宅死人数および病院施設死人数,加算算定状況(緊急時訪問看護・24時間連絡体制・訪問看護情報提供療養費),デスカンファレンスの実施状況を尋ねた.遺族ケアの実施状況は,先行研究2,3,6)を参考に,実施方法や実施内容20項目について「行っていない」「あまり行っていない」「時々行っている」「常に行っている」の4件法で回答を求めた.遺族ケアの実施状況に対する総合的な認識は,「ほとんど行っていない」「必要時行っている」「積極的に行っている」の三肢択一とした.遺族の関係機関への連絡状況は,「ある」事業所には,連絡先の機関名(複数選択),最も連絡頻度が多い機関名,直近で経験した印象に残っている1事例について連絡時期や理由の記載を求めた.「ない」事業所には,その理由を10項目(複数回答)から選択してもらった.10項目は,岩手県内の訪問看護管理者2名,スタッフ1名を対象に面接による予備調査を実施し,設問項目の妥当性を検討した上で選定した.

4 分析方法

遺族ケアの実施状況は,「行っていない」「あまり行っていない」を「行っていない」,「時々行っている」「常に行っている」を「行っている」の2群に集計した.先行研究6)より,自宅訪問によるケアの提供が課題となっていたため,自宅訪問の実施の有無で2群に分け,事業所の背景,自宅訪問以外の遺族ケアの実施状況,連絡状況との関連をMann-WhitneyのU検定,Pearsonのカイ2乗検定(もしくはFisherの直接検定)で分析した.結果は,人数や件数が正規分布しなかったため中央値で表記した.また,自宅死人数の中央値5人で2群に分け,遺族ケアの実施状況と連絡状況との関連を分析した.さらに,連絡状況の有無で2群に分け,遺族ケアの実施状況との関連を分析した.統計ソフトはIBM SPSS Statistics 21を用い,有意水準は5%未満とした.連絡状況について,印象に残っている事例は,連絡した理由により分類した.

5 倫理的配慮

本調査への協力は任意であり,調査票は無記名であること,調査票の返送をもって同意を得たものとし,回収後は直ちにデータ化すること,調査結果は学会等で公表することを書面で説明した.本研究は,岩手県立大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した.

結果

調査票配布1,000件中,宛先不明の返送が6件,事業所からの返送は302件であった(回収率30.4%).未記入が多い6件を除外し,296件を有効回答とした(有効回答率29.8%).

1 回答者の職位と訪問看護事業所の背景

回答者の職位は,管理者(兼所長)が83.0%と最も多かった.開設後年数は10年以上が60.3%,開設主体は医療法人が30.9%と最も多かった.常勤換算看護職員数は中央値5.3人,2014年8月の訪問看護利用者実人数および延べ訪問件数は中央値69人および414件だった.2014年1~8月の自宅死人数および病院施設死人数は中央値5人および7人だった.加算算定状況は,緊急時訪問看護94.3%,24時間連絡体制90.4%,訪問看護情報提供療養費は66.9%が届出,請求をしていた.デスカンファレンスは33.6%が実施し,看護師以外の参加職種はケアマネジャーが54.1%と最も多く,主治医36.7%,ヘルパー35.7%だった.その他は,福祉用具担当者,薬剤師,同施設内のPTなどだった(表1).

表1 回答者の職位と訪問看護事業所の背景

2 遺族ケアの実施状況

遺族ケアの実施状況に対する総合的な認識は,「必要時行っている」73.1%,「ほとんど行っていない」20.7%,「積極的に行っている」6.1%だった.実施方法は,「自宅訪問」が最も多く「常に行っている」54.1%,「時々行っている」37.3%だった.次いで「来所の相談に対応する(以下,来所相談)」だった.実施内容は,「ねぎらいの言葉をかける(以下,ねぎらい)」が最も多く「常に行っている」73.6%,「時々行っている」23.3%だった.次いで「家族の思いを傾聴する(以下,傾聴)」,「故人との想い出を語り合い共有する(以下,想い出共有)」の順だった.「常に行っている」が30%以下の項目は,「支えになる人がいるかを尋ねる(以下,支援者の確認)」,「死別により生じた生活上の問題に助言する(以下,生活問題への助言)」,「必要に応じ利用できる支援先を紹介する(以下,支援先の紹介)」などだった(図1).

図1 遺族ケアの実施状況(方法・内容)に対する認識 N=296(単位: %)

各項目は欠損値を除いた割合を示している.

3 自宅訪問の実施状況と事業所の背景・遺族ケア実施状況との関連

自宅訪問と事業所の背景は,「情報提供療養費」(p=0.020)で有意な関連が認められた。つまり,自宅訪問を行っている事業所は,医療保険利用者の同意を得て,市町村等に情報を提供し,市町村等が提供するサービスとの連携を図っていた.

自宅訪問とその他の遺族ケアは,「電話」「ねぎらい」「傾聴」「健康状態を把握する」「健康維持への言葉をかける」「複雑性悲嘆のアセスメントを行う」「死別により新たな問題点や心配事が生じていないか確認する」「支援者の確認」(いずれもp<0.001),「想い出共有」「生活問題への助言」(p=0.001),「正常な悲嘆過程を説明する」(p=0.004),「社会活動の再開状況を確認する」(p=0.002)の12項目で有意な関連が認められ,自宅訪問を行っている事業所の方が実施していた.

4 自宅死人数と遺族ケア実施状況との関連

自宅死人数と遺族ケアは,「自宅訪問」(p=0.028),「遺族会の開催」(p=0.021)で有意な関連が認められ,看取り実績がある事業所の方が実施していた.

5 遺族の関係機関への連絡状況

遺族の関係機関への連絡状況は,「ある」32.4%,「ない」67.6%だった.連絡頻度の多い機関は居宅介護支援事業所が60.0%と最も多く,次いで地域包括支援センター17.6%だった.市区町村は6.4%で,福祉課などが挙げられた(表2).

表2 遺族の関係機関への連絡状況  N=296

直近で経験した事例は,「ある」と回答した97事業所のうち87事業所から88件記載があった.未記入が多い15件を除外し,73件を分析した.連絡した理由は,「見守り依頼」「社会資源への橋渡し」「遺族の状況把握」「遺族の状況報告」の4つに分類された(表3).

表3 関係機関へ連絡したことがある遺族の事例(抜粋)

「見守り依頼」は51件で,年代は20~90代,80代が20件と最も多かった.続柄は,配偶者が40件と最も多く,子ども6件,両親3件,きょうだい2件だった.連絡時期は死別直後~2年1カ月で,1カ月以内が38件と最も多かった.見守りの理由は,身体状況として精神疾患,認知症,喘息,視覚・聴覚障害,抑うつ傾向,食欲低下,悲嘆反応の長期化などが挙げられた.また,自死や急変など予期せぬ最期だった場合,故人の死に後悔や罪悪感,無力感を抱いている場合だった.さらに,生活状況として独居,閉じこもり,生活意欲の低下がある場合は,介護保険の申請やサービス利用の提案も含めて連絡していた.遺す家族を心配する,生前からの利用者との約束という理由も2件あった.行政保健師への連絡は3件で,10年間の介護の末に母を亡くし自殺が危惧される30代娘のケースなどだった.「社会資源への橋渡し」は3件で,介護者サロンや遺族会を紹介するために,地域包括支援センターや病院へ連絡していた.また,認知症の母の介護体験を役立てたいという希望から,介護者の会へつなぐ例もあった.「遺族の状況把握」は2件で,訪問看護師が気になる遺族の情報を得るために,ケアマネジャーや入院先の病棟師長に連絡していた.「遺族の状況報告」は17件で,病院等に遺族の感謝の気持ちや死別後の状況を伝えるフィードバックだった.

連絡したことがない理由は,「関係機関につなぐ必要性がある遺族がいない」63.5%,「遺族の状況が把握しづらい」43.5%,「必要性を感じても遺族の同意が得られない」10.0% などだった.また,「病院・診療所,市区町村,地域包括支援センターとの連携が図られていない」は,いずれも10.0%以下だった.その他は,「必要な機関につながっているのが確認できた」など,判断した上での理由だった(表2).

6 関係機関への連絡状況と遺族ケア実施状況・自宅死人数との関連

連絡状況と遺族ケアは,「来所相談」(p<0.001),「複雑性悲嘆のアセスメントを行う」(p=0.001),「生活問題への助言」(p=0.001),「支援先の紹介」(p<0.001),「支援者の確認」(p<0.001)など9項目で有意な関連が認められ,連絡したことがある事業所の方が実施していた.また,遺族ケアの実施状況に対する総合的な認識(p=0.004)とも有意な関連が認められた(表4).連絡状況と自宅訪問,自宅死人数は,有意な関連は認められなかった.

表4 関係機関への連絡状況と遺族ケア実施状況との関連  N=296

考察

1 遺族ケアの実施状況

約8割の事業所が,遺族ケアを「積極的に行っている」および「必要時行っている」と回答した.小野6)の調査結果は44.9%で,「業務としての位置づけ」という設問の違いから厳密には比較できないものの,高い実施状況を示した.また,自宅訪問は「行っている」が91.4%で, 看取り実績と有意な関連が認められた.常勤換算看護職員数に着目してみると,本調査における事業所全体の中央値は5.3人で,平成25年の事業所平均4.7人1)よりも高い値を示した.また,「自宅訪問実施群」の中央値5.4人に対し,「自宅訪問未実施群」の中央値4.9人であった.全国平均4.7人は,「自宅訪問未実施群」の中央値4.9人に近い値であるため,全国の小規模事業所の大半が「自宅訪問未実施群」に属するとも考えられた.自宅訪問の実施は,国内外の遺族研究の増加10),看護職による遺族ケア関連書籍の増加1113),遺族ケアに関する研修の受講などが影響していると推察するが,本調査では遺族ケアに関する学習経験は確認していないため,さらなる検討を要する.

デスカンファレンスは約3割の事業所が実施していたが,自宅訪問との関連は認められなかった.在宅療養支援診療所と連携する事業所が行う在宅デスカンファレンスの意味づけとして「弔問の役割の再確認」が報告されている14)が,デスカンファレンスが「癒しの場」に留まり,今後どのように「家族のグリーフケア」を行うかを検討する「学びの場」に至っていない可能性もうかがえた.しかし,単独の専門職が行う遺族ケアは,遺族の多様なニーズに応じる限界が指摘されている2)ことから,利用者に関わった多職種が参加するデスカンファレンスにおいて,遺族ケアの必要性を検討することが重要と考える.

「来所相談」は本調査で新たに加えた項目である.訪問看護師は,継続的な関わりにより培われた家族との関係性から,より効果的なグリーフケアを提供できる可能性がある2).しかし,自宅訪問が難しい場合もあり,自ら事業所に出向く行動がとれる遺族には,「来所相談」の形でケアを提供している実態が明らかとなった.最期は病院や施設で亡くなる利用者も含め,遺族がこれまでの関係性から事業所を訪ねている様子がうかがえ,「来所相談」は今後も継続できる方法の一つとして期待される.

実施内容は,「ねぎらい」「傾聴」など情緒的サポートが上位を示した.一方,「生活問題への助言」「支援先の紹介」など道具的,情報的サポートは5割を下回った.遺族がどのようなサポートを必要とするか,判断した上での結果なのかは言及できず,遺族ケアは訪問看護師自身の精神的サポートの場になる可能性2),グリーフワークという観点から,納得できる結果ともいえる.しかし,自宅訪問を行っている事業所は,その他12項目の遺族ケアと有意な関連が認められた.そのため,たとえ全例ではなく必要時自宅訪問するでも,遺族ケアの充実の可能性が示唆された.死別後の遺族は経済的変化,家族内の役割や社会的役割の変化,故人を通して得ていたサポート源の減少などを経験する8,15,16)ため,周囲から孤立し通常の生活が困難になる場合がある17).さらに,日常生活の変化が健康障害につながる場合もある.とくに高齢者のグリーフ反応は,若年層と比べ身体的な反応が多く出現する傾向がある18,19).そのため,問題が深刻化しないように遺族の健康状態,生活状況やサポート源を早期にアセスメントし,継続してサポートできる社会資源へつなげることが,訪問看護師の役割として重要である.

2 遺族の関係機関への連絡状況

約3割の事業所は,高齢者に限らず幅広い年代の遺族の健康状態,生活状況を複雑性悲嘆や介護予防の視点からアセスメントし,関係機関へ連絡していることが明らかとなった.連絡したことがない事業所は,必要性がないと遺族の状況を判断している一方で,「どのような場合に連絡するかわからない」「市区町村・地域包括支援センターとの連携が図られていない」など遺族ケアや相談窓口に関する知識不足,自信のなさがうかがえた.実際に連絡した事例からは,訪問看護師はケアマネジャーを最も頼りにしつつ,複雑性悲嘆,遺族が利用できる相談窓口や保健福祉サービスについて知識を持ち合わせていることが推察された.

高齢者を自宅で看取った家族介護者は,「介護・死別経験から生じたネガティブな感情」を抱いていたが,「これからの生活に向かう力」を得て,「現実への適応」をしていたという報告20)からも,必ずしも他者の支援を必要とする遺族ばかりでない.しかし,遺族は自分に必要な支援を求める判断が低下していることがある21)ため,訪問看護師には介護保険以外に利用できる保健福祉サービスなど,生活の立て直しを図る情報を遺族に提供し,継続的な関わりを要する遺族を早期に見極め,関係機関へ引継ぐ力が求められる.また,個人情報の観点から,関係機関への連絡を躊躇している事業所もあると推察される.連絡しない理由の1割は個人情報の問題が影響していたが,必要と思われる遺族には,関係機関へ連絡するメリットをわかりやすく説明するなど積極的な姿勢も求められる.

連絡状況と看取りの実績,自宅訪問とは有意な関連が認められなかった.すなわち,たとえ看取りが少ない事業所でも,訪問看護師が何らかの形で遺族と接点をもち,アセスメントする必要性が示唆された.遺族ケアを充実していくためには,利用者が亡くなる前から遺族ケアの必要性をアセスメントし,優先的に接点をもつ遺族を見極めることが重要になると考える.

本研究は有効回答率が約3割と低く,結果を日本の訪問看護ステーションにおける遺族ケアの傾向とするには限界がある.また,「遺族ケア」という用語の解釈が,回答者によりばらつきがあった可能性がある.今後の課題は,地域で連携できる遺族ケアシステムの構築に向けて,訪問看護師は遺族を地域で支えるうえでどのような課題を認識しているのか,実態を明らかにすることである.また,関係機関へ連絡したことによるメリットやデメリット,効果などについて検討することである.

結論

約8割の事業所は,遺族ケアを積極的・必要時行っていた.実施内容はねぎらいなど情緒的サポートが主で,道具的,情報的サポートは半数以下だった.実施方法は自宅訪問が91.4%と最も多く,看取り実績,その他の遺族ケア12項目と有意な関連が認められた.そのため,全例ではなく必要時自宅訪問するでも遺族ケアの充実の可能性が示唆された.約3割の事業所は,居宅介護支援事業所など関係機関へ遺族の状況を連絡し,見守りを依頼していた.連絡したことがない事業所は,遺族の健康状態や生活状況をアセスメントしている一方で,遺族ケアや相談窓口に関する知識不足,自信のなさがうかがえた.訪問看護師には何らかの形で遺族と接点をもち,介護保険以外に利用できる保健福祉サービスなど,生活の立て直しを図る情報を遺族に提供し,継続的な関わりを要する遺族を早期に見極め,関係機関へ引継ぐ力が求められる.

付記

本研究にご協力いただいた対象者の皆様に,心より御礼を申し上げます.本研究は,第20回日本緩和医療学会学術大会で発表した内容に加筆,修正したものである.

References
 
© 2016日本緩和医療学会
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