Palliative Care Research
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原著
身近な人を亡くした看護学生が緩和ケアの講義でつらく悲しくなった講義内容とそのとき感じ考えたこと
清水 佐智子岸野 恵原 頼子
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2017 年 12 巻 2 号 p. 183-193

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Abstract

【目的】緩和ケアの講義で,身近な人の死別体験がある学生が,つらく悲しくなった講義テーマや内容,そのとき感じ考えたこと,気持ちの変化,教員に望む支援を明らかにする.【方法】半構造化面接法による質的研究である.つらく悲しくなったときに感じ考えたことはKrippendorffの方法論で内容分析をした.【結果】36名が参加した.つらく悲しくなった講義テーマや内容は,「臨死期の状態と兆候」「講義全般」などだった.そのとき感じ考えたのは「後悔した」「思い出した」「動揺した」「不安を感じた」「不満を感じた」「違和感を持った」「教材に共感した」だった.1名を除き,気持ちは前向きに変化していた.望む支援では,20名が「支障がなかった」または「よかった」ので要望はないと述べた.【結論】教員は,死別体験がある学生へ支援法を具体的に何度も説明し,常に学生を支えるという強い気持ちで講義に臨むことが求められる.

緒言

急速に進む高齢化により,2016年に新たにがんに罹患する患者は,国内で初めて100万人を超すと予測されている1).がん患者と家族は診断時の苦痛のほかに,治療や副作用,病状進行などに直面し,身体・精神・社会面などの苦悩を抱える.それらの軽減をはかる緩和ケアを,地域や施設に関係なく誰もが適切に受けられるには,看護師への教育が欠かせない.経験年数に関係なく全ての看護師が基本的緩和ケアを提供できるためには,卒後すぐ臨地で働く看護学生も緩和ケアの基盤を習得しておくことが重要である.看護師は,患者のそばで苦悩や希望に気づき解決につなげる最初の存在だからである.

緩和ケアは,死に関する場面のケアを含む.緩和ケアを学ぶ際には看護学生も,患者や自身の死など,死の話題に触れ感じ考えることが求められる.緩和ケアの講義の調査では「死にゆく患者とのコミュニケーションに関する前向きな姿勢」が講義前後を通して低い傾向にあり2),看護学生が死への恐れや不安を感じていると示唆されている.死は恐怖を抱くものという点に講義の難しさがある.

がん患者の増加は,患者の家族や遺族の増加をも示す.学生が家族や遺族に該当する場合は,それら学生にとって緩和ケアの講義はつらさや戸惑い,混乱のきっかけになる可能性がある.内容が死別者との思い出を刺激する,闘病状況を想起しうるからだ.死を扱う講義への懸念について中高校教員は,インパクトが強すぎる,感情が揺さぶられる,どのような影響が出るか不明確などをあげている35)

講義による死別体験者への影響は,高校生,福祉系大学生,高齢者対象の報告があるが68),看護学生への影響は不明確である.実際にどのようなテーマや内容で学生がつらく悲しくなるか,そのときどのようなことを感じ考えるか,教員にどのような支援を求めるかについて系統立った研究は見当たらない.これらが不明確なことが,看護学生への緩和ケア教育において,死を扱う際の内容やレベル選択の困難性を助長させる要因となっていると考える.看護師は患者に寄り添う,擁護するという役割上,対象の心情の深い理解が必要であり,影響はより深くなる可能性がある.反応や影響要因が明確になれば,講義方法や死別体験のある学生への有効な配慮の発見に役立ち,効果的な講義につながると考えた.本研究では,緩和ケアの講義において,身近な人の死別体験がある学生が,つらく悲しくなった講義テーマや内容,つらく悲しくなったときに感じ考えたこと,気持ちの変化,および教員に望む支援を明らかにすることを目的とする.

言葉の定義

1.終末期:死亡前 2〜3カ月と予測される時期

2.臨死期:死亡前数週間〜数時間以内と予測される時期

方法

本研究は,半構造化面接法による質的研究である.

1 対象

2010年〜2013年の4〜7月に鹿児島大学で緩和ケア科目(必修30時間1単位,3年前期)を受講した看護3年生311名のうち,身近な人の死別体験および講義でつらく悲しくなったことがある人で,研究協力の承諾が得られた41名である.

2 研究方法

7月の緩和ケア最終講義日に,研究の趣旨と目的などを説明後,協力可能な人には学籍番号と連絡先を記載した用紙を提出してもらった.提出のあった学生へ個別連絡し,日程調整後に学内の静かな個室で面接した.「緩和ケアの講義でつらくなったり悲しくなったりしたときのことを話してください」と伝え,話の流れで以下を話すよう促した.1)つらく悲しくなった講義テーマや内容,2)そのとき想起された人,死別者の場合は死別時期,3)つらく悲しくなったときに感じ考えたこと,4)受講後の気持ちの変化と状況,5)教員へ望む支援とした.

面接は,講義責任者で成績評価者の研究代表者が成績提出後に行った.研究代表者は,その後の実習と4年のゼミ担当学生数名の成績評価(実習評価は面接から半年後,ゼミの評価は同1年4カ月後)を担う.

3 既習科目と緩和ケア科目の概要(表1

学生は,1年でケア見学実習,2年で看護師へシャドーイングを行う基礎実習1を2日間,3年前期に看護計画を立案する基礎実習2を4日間行う.本講義の関連科目は2年の母性看護学概論,3年前期の小児ケア論で,流産のグリーフケアや難病児のケアなどを学ぶ.本講義後には,成人看護や老年看護などの実習がある.

表1 講義概要 30時間1単位

緩和ケアの特徴を考慮した工夫は以下である.死を意識して生きる患者に寄り添うには,自分も死ぬ存在と捉える必要がある.人は100%死ぬ事実を明示し,死や死に関する場面と心情理解促進のため,DVD上映や新聞・図書の記事を配布した.DVDは,看護ケアの実際と効果が対象の様子から理解できるものを選んだ.講義の配慮は,①初回講義開始前に,つらくなりそうなときは見聞き,発言しなくてよい,随時退室可,常時相談を受けることを説明した.②講義スケジュールにDVD視聴日と内容を示した.上映当日は,つらいときは退室可,場面を思い出してつらくなる可能性があるが,つらく悲しいときに泣くのは自然の反応であると伝えた.③自身も死ぬ存在であることを考える講義日後半には,自宅のような海外のホスピス写真を示し,より良く最期を迎えられる場所とケアを紹介した.④ケア習得と癒し体験としてマッサージを行った.⑤毎回,感想や要望が書けるA6サイズのミニッツペーパーを,公表を希望しない場合のチェック欄を作成したうえで配布した.⑥学生から死別体験や「つらかった」などがミニッツペーパーに記載された際はメール連絡して心情を尋ね,希望時に話を聞くなどを伝えた.2010〜2013年度の講義スケジュールの変遷は以下である.DVD上映はスピリチュアルケアのみだったが,2011年に臨死期のケア,2012年に家族のケアにも導入した.参加型授業を年々増やし,2012年以降はコミュニケーションのロールプレイを実施した.受療体験記事などは,治療の発展に即した最新版を用いた.

4 分析方法

面接は許可を得てICレコーダーに録音,逐語録を作成した.質問項目のうち,1)つらく悲しくなった講義テーマや内容,2)想起された人との関係性と親密度,死別者は死別時期,4)受講後の気持ちの変化と状況,5)教員へ望む支援,は該当箇所を抽出し集計,表にまとめた.1)の講義テーマや内容は,死別時期別に分類した.3)つらく悲しくなったときに感じ考えたことは,Krippendorffの方法論で内容分析をした.研究者(S)が,意味内容を損なわないように発言を区切りデータとした.要約ののち類似性でまとめコード化した.コードを類似性で分類しサブカテゴリーを作成,さらに関連性でカテゴリーにまとめた.次に研究者2名(緩和ケア教育を担う大学教員H,がん看護専門看護師K)が区切られた発言を個別に読み,コード(サブカテゴリー,カテゴリーも明示)に分類した.結果を研究者(S)が集約し,不一致のものはコード名や分類を再検討,再度2名が個別に分類した.不一致コードは3名で協議後,一致率Kappa係数を算出した.以下,コードは「」,カテゴリーは[ ]で示す.統計ソフトはIBM SPSS statistics 23を用いた.想起された人との親密度は,以下のようにした.親密度の影響要因には,情緒的・道具的な世話を受けた経験,近距離在住,存在受容(being)などがある9,10).発言に「面倒をみてもらった」「大好きだった」などがある場合は親密度が高い,「年に1回程度しか会っていない」などは中程度,「ほとんど覚えていない」は低いとした.

5 倫理的配慮

研究の趣旨と目的,プライバシーの保持,研究協力は自由意志で,協力の可否や発言内容は成績に関与しないこと,個人名は完全に削除し,複数の結果をまとめ学会などで発表することを文書と口頭で説明した.書面での同意を確認後,面接を実施した.本研究は,鹿児島大学医学部倫理審査委員会の承認を得て行った.

結果

1 対象

3年生311名のうち,41名から承諾を得て面接を行った.死別体験がない,講義でつらくならなかった5名を除き36名の結果を分析した.全員20代で男性2名,看取り体験者は13名だった.面接時間は14〜58分で平均33分,1名は録音の許可が得られず,手書きで記録をとった.

2 想起された人との関係性・親密度・死別時期(表2

想起されたのは全員死別者で,曾祖父母・祖父母28名(77%),親戚6名などだった.

親密度は33 名が高く,低い人はいなかった.講義期間に親密度の高い人を亡くした学生が9名いた.

表2 想起された人(死別者)との関係性と親密度,死別時期(n=36:複数回答)

3 つらく悲しくなった講義テーマや内容(表3

「臨死期の状態と兆候」9名,「講義全般」「DVDの実際に人が亡くなる場面」が各7名などであった.「講義全般」と述べたのは,全員死別後3年以内の学生だった.

表3 死別時期ごとのつらくなったり悲しくなったりした講義テーマや内容(n=36:複数回答)

4 つらく悲しくなったときに感じ考えたこと(表4

逐語録から80のコードが抽出され,類似性をもとに29のサブカテゴリー,7つのカテゴリー[後悔した],[思い出した],[動揺した],[不安を感じた],[不満を感じた],[違和感を持った],[教材に共感した]にまとめられた.Kappa係数は0.79であった.以下に,各カテゴリーに含まれる主要コードと口述例を一部記載する.文中()は筆者の加筆である.

表4 つらく悲しくなったときに感じ考えたことn=36(複数回答)

[後悔した]には,「今ならもっとできたかもしれない」など10コードが含まれた.

「今ならもっとできたかもしれない」

無理なんですけど4,5歳のときだから.今の自分がおばあちゃんと出会ってたら,もっとやれたことが違っただろうなって思いました(5a).

「もっと何かやってあげればよかった」

亡くなる前の身体の状態の講義聞いてたときに,おじいちゃんとか,おばあちゃんも,(そんなふうに)なっていたのかなあっていうのを思い出したら苦しかったのかなあとかきつかったのかなあとか,そういう姿を思い出すと,ああ,辛かったんだろうなあ,もうちょっとなんかできなかったかなあとかそういうのはあって(1a).

「もっと会いに行けばよかった」

おじさんが病気になったときにお見舞いに行くのがすごく行きづらくって.全然,会えてなかったんですよ.長いこと会わずに亡くなってしまって.ちょっと後悔があって,私のなかで.講義でいろいろその,死ぬことを考えてたら,なんか,すごい後悔って言うか,そういう思いが出てきて,自分に対してなんかすごく後悔っていう思いがあって辛かったですね(9a).

「看取り時そばにいてあげればよかった」

そのときはちょっとだったんですけど,この講義を受けて,最後,患者さんこういうふうに亡くなっていくんだよみたいな話を聞いて,たぶん,そのひいおじいちゃんとかひいおばあちゃんとかも,よくないときってすごいきつそうじゃないですか.そういうのを聞いて,そのきついとき(亡くなるとき)に一緒にいられなかったのを,なんかちょっと,心残りだなっていうのを改めて感じて(6a).

[思い出した]には,「亡くなった人の様子を思い出した」など6コードが含まれた.

「亡くなった人の様子を思い出した」

ビデオを見せてもらったときに,亡くなった人を思い出してしまって,ワアッて思ってなんか悲しくなりました(34a).

[動揺した]には,「思い出したくないのに思い出してしまった」など3コードが含まれた.

「思い出したくないのに思い出してしまった」

やっぱそういうの(死の話)を聞くと,倒れたって連絡がきたところから一部始終思い出すっていうか,全部.本当は途中で考えるのやめようと思っても,やっぱり一気にばぁって思い出してしまうので(33b).

5 気持ちの変化と状況

1名を除き,受講後に気持ちの変化があったと述べた.「亡くなった人にできなかったことをほかの人にしていけたらと思った」11名,「気持ちや体験を振り返ることができた」10名,知識を得て「考え方が変化し,成長できた」5名,「家族に話して気持ちを分かち合うことができた」4名,「自分にもできていたことがあったとわかってホッとした」3名,「自分の反応が正常とわかってホッとした」2名となった.変化がなかった人は,「あまり触れてほしくない」と述べた.

6 教員へ望む支援(表5

教員が実施していた支援や配慮への意見も含めた.「支障がなかったので要望はない」11名,「よかったので要望はない」9名だった.望む支援は,「つらいときは退室可,つらいときは相談に来てよいと説明する」「感想を書く用紙を配付する」など13個あった.「個別に話す機会を設ける」を望む学生は理由に,「迷惑ではないかと思った」「自分からは言いにくい」などと述べた.触れてほしくないので「配慮はいらない」という人もいた.

表5 教員へ望む支援,理由,支援まとめ(n=36:複数回答)

考察

この研究は,身近な人の死別体験がある学生が,緩和ケアの講義でつらく悲しくなった講義テーマや内容,つらく悲しくなったときに感じ考えたこと,気持ちの変化,教員へ望む支援を明らかにした国内初の研究である.終末期実習での学生の不安に関する研究1113)はあるが,講義による影響を明らかにしたものはほとんどなく,本研究は緩和ケアの講義方法の充実をはかるうえで意義深いと考える.

本研究で明らかになった重要な点の1つ目は,学生の多くがつらく悲しくなったときに感じ考えたことを「後悔した」と述べた点である.Zeelenberg14)は後悔を,①自分の役割に注意を向けていること,②その状況がどのように起こり,どう変えることができるか,どうしたら将来の発生を防げるか,考えることを促すものという.患者の全人的苦痛を学んだ学生は,家族や看護師の役割で過去を振り返り,苦痛緩和ができていなかったことを後悔したと考える.その後,学生は「会いに行く,話を聴く,看取り時そばにいる」などの緩和ケア15)を習得した.これらは家族の後悔も軽減しうる,自分にもできると確信し,「自分にもできることがあったし,今ならもっとできることがある」に至ったと考える.後悔の過程を経て学生の気持ちは,「亡くなった人にできなかったことを今後ほかの人にできたらと思った」「考え方が変化し,成長できた」などと変化していた.死別体験のある学生が後悔しつらくなっても,ケアと意義の理解,実践可能なケアの習得により気持ちが変化し,前向きになりうると示唆された.

2つ目は,死別からの期間が短い人ほど,死や臨死期DVDより講義全般および終末・臨死期の講義をつらく感じたことである.遺族の多くが最もつらさを感じたのは死別そのものより「患者の身体や心の苦しみ」「病状の告知に関すること」である16).死別時期が近い学生は記憶が新しいため,患者や家族の闘病過程における全人的苦痛や,臨死期の症状・兆候を見聞きした際に,自身の状況が想起されつらくなった可能性がある.これらは悲嘆反応であり,支援としては,つらく悲しくなる,泣くなどは自然な反応と保証する17),泣くなどの感情解放は精神的健康に,語ることは癒しを得るのに大切である18,19)など,悲嘆の知識を提供することが重要である20).場面が蘇り,つらくなることが自然な反応とわかれば安堵につながる.気持ちの変化の回答「自分の反応が正常とわかってホッとした」は,支援の効果を示すものと考える.

3つ目は,教員へ望む支援で半数以上が,支障がなかったので,または,よかったので「要望はない」と述べたことである.通常の悲嘆は自然に回復することが多く,必ずしもケアが必要なわけではない21)ため,「支障がなかった」人は影響がないか自身で対応したと考える.遺族が有用と感じた周囲からの支援は,気遣う電話・メールなど気遣いが伝わるかかわりだったことから22),「よかったので要望はない」人には,教員の配慮が有益だった可能性がある.「個別に話す機会を設ける」の理由に,自分からは言いにくい,迷惑ではないかと考えたなどがあり,相談を遠慮・躊躇する学生の状況が明確になった.教員は,悩んだら相談に来てほしいと説明することが多いが,大学では教員と密に接する機会が少なく,関係ができていない場合もある.信頼関係が未構築な相手に深刻な話をするのは難しい.教員は相談を促すだけでなく,連絡方法,指導ではないこと,話を聴きどうしていくか共に考えたいことなどを具体的に説明し,訪室が容易になるような配慮が必要である.初回講義時には該当者でない場合もあるため,複数回の説明が望ましい.一方,1名から触れてほしくないという意見があった.遺族の「気持ちの表出」と精神的健康の改善は関連がなかった23)ことからも,話したくない人の存在を認識し,強制しないことも重要である.人が真に慰められるのは,相手の思いが純粋に自分に向けられていると感じるとき24)で,伝えて待つ,見守ることも必要となる.

最後に,講義中に親密度が高い人を亡くした学生が4年間で9名いたことがある.毎年2名以上は身近な人を亡くす学生がいることになる.死別時期が近い大学生は,睡眠,人間関係,学業などに影響を受けていた25)ため,つらさを抱えた学生の存在を意識し,慎重に観察しつつ講義を進める必要がある.

バックマンは,患者への衝撃が避けられない状況の1つ,悪い知らせを伝える際に医師が抱く恐れに対し,正しい選択は患者を動揺「させる」か「させないか」ではなく,「反応させて,今その準備をさせる」か「今準備をさせないで,後でより大きな反応に直面させるか」と述べる26).学生の動揺を恐れて表面的な学びに止まれば,看護師になり直面した際の動揺や衝撃は拡大し,ケアに至らない危険性がある.動揺の回避に注目しすぎず,自身を振り返り心の整理ができる,将来への準備ができることを重視すべきで,それが充実したケアにつながる.学習目標の明確化,適切な教材・講義手法の選定は言うまでもない.死を扱う講義を担う教員には,身近な人の死別体験がある学生への支援を具体的に何度も説明し,常に学生を支えるという強い気持ちで講義に臨むことが求められる.

本研究は以下の限界がある.第1に対象者が同施設の学生である.第2に研究者が講義担当かつ,成績評価者を兼ねており,対象者の選択バイアスが生じた可能性がある.第3に死別後10年以上経過した対象者がおり,回答に想起バイアスが生じた可能性がある.施設を拡大すれば,地域や文化の影響が除かれ多様な見解が収集でき,結果の信頼性が高まる.その際は,講義内容をある程度一定に保つ必要がある.利害関係のない第3者が面談すれば,学生はより自由に発言できる.死別後からの期間を限定すれば,正確な情報が収集できる.学生を対象とする際は,遠慮や不安なく協力できる体制を整える必須がある.

結論

身近な人の死別体験がある学生がつらく悲しくなった講義テーマや内容は,「臨死期の状態と兆候」「講義全般」などであった.そのとき感じ考えたのは「後悔した」「思い出した」「動揺した」「不安を感じた」「不満を感じた」「違和感を持った」「教材に共感した」だった.その気持ちは「亡くなった人にできなかったことをほかの人にしていけたらと思った」「気持ちや体験を振り返ることができた」など前向きに変化していた.教員へ望む支援は,「つらいときや悲しいときは相談に来てよいと説明する」「個別に話す機会を設ける」などだったが,「要望はない」が最多であった.今後の課題は,支援体制の構築,講義内容の標準化,効果的な教授法の検討と評価である.

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