Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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原著
宗教的背景のある施設において患者の望ましい死の達成度が高い理由─全国のホスピス・緩和ケア病棟127施設の遺族調査の結果から─
青山 真帆斎藤 愛菅井 真理森田 達也木澤 義之恒藤 暁志真 泰夫宮下 光令
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2017 年 12 巻 2 号 p. 211-220

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Abstract

宗教的背景のある緩和ケア病棟(PCU)で亡くなった患者の望ましい死の達成度が高いことが示されている.本研究ではその理由について探索するため,全国のPCU133施設と遺族10,715名に自記式質問紙による郵送調査を行った.望ましい死の達成度はGood Death Inventory(GDI)短縮版で評価し,施設背景・ケアの実施状況,施設の宗教的背景の有無でGDI得点を比較した.有効回答数は127施設(宗教的背景ありが23施設),7,286名(68%)だった.宗教的背景のある施設でGDI得点が有意に高かった(p=0.01).宗教的背景のある施設でより実施され,GDI得点が有意に高くなる要因は「季節行事または,遺族ケアに力をいれている」,「宗教的設備がある」などだった(すべてp<0.05).宗教的ケアのほか,遺族ケアや患者の楽しみとなる時間を設ける取り組みが望ましい死の達成度を高める要因だった.

緒言

わが国でのホスピス・緩和ケアの質の評価は全体として高いものの,施設によってケアの質の評価には差がみられる.日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団研究事業「遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究(J-HOPE研究)」をはじめ,緩和ケアの質を評価するための全国遺族調査が継時的に実施されており,過去3回にわたるJ-HOPE3研究の結果から,80%以上の遺族は患者が受けたケアを高く評価していた1,2).また,緩和ケア病棟は,厚生労働省が定めた緩和ケア病棟入院料に関する施設基準により,看護師数,医師数,設備(病床面積,家族室など),診療体制(情報提供,入退院の判定など) が定められているが,この一定基準を満たしたうえで,病棟により配置数や設備,診療体制には多様性がみられ,このような違いが患者へ提供されるケアの質に影響を及ぼしている可能性についていくつかの先行研究が示唆している.

Moritaらの調査3)では,患者のケアの満足度に影響を与える施設要因として,夜間の看護師数,ソーシャルワーカーの存在,病床面積を挙げている.また,竹内らの調査4)では,ケアの質の評価を向上させる緩和ケア病棟の施設背景として,①全室個室であること,②緩和ケア医師が夜間・休日に当直をすること,③深夜勤看護師の人数が1床あたり0.1人以上であること,④独立型の病棟であること,⑤遺族会や手紙送付などの遺族ケアをすべての遺族に実施していること,⑥宗教的背景をもつ施設であることの6つが関連していることが明らかになった.その中でも単変量解析で中程度以上の効果量が認められ,とくに強い影響があると考えられた項目が「宗教的背景をもつ」ことだった.その理由として,宗教的な背景のある施設のもつ,全人的あるいは献身的なケアの理念や,チャペルなどの併設や厳かな雰囲気などの特徴があると推察されたが,具体的なケアの方針・内容など,施設背景の詳細な違いは明らかにはなっていない.

終末期の患者やその家族の宗教的ケアを含むスピリチュアルケアのニーズは高いことが明らかになっている58).Okamotoらの調査から,わが国でも患者や遺族の宗教の有無にかかわらず,「宗教的行事」,「宗教家の訪問」,「宗教的な雰囲気」は終末期ケアへの有用性が高いことが明らかにされている7).宗教的背景のある施設の設備やケアの特徴や体制のうち,どのような項目が患者の望ましい死の達成に影響を与えているのかを明らかにすることで,宗教的背景のない施設においてもさらなるケア向上のための改善点を明らかにすることが可能である.

したがって,本研究では,ホスピス・緩和ケア病棟において,施設背景,ケア体制,力を入れているケアの違いから,(1)宗教的背景のある施設で亡くなった患者の望ましい死の達成度が高く評価される理由について明らかにすること,(2)宗教的背景のない施設でも終末期ケアの質の向上が期待できるケアの導入や改善策について提言すること,の2点を目的とした.

方法

本研究は,日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の研究事業「遺族によるホスピス・緩和ケア病棟の質の評価に関する研究(以下,J-HOPE3研究)」の一部として行われた.J-HOPE3研究は,2006年のJ-HOPE研究,2010年のJ-HOPE2研究に次いで行われた全国遺族調査であり,2013年7月1日時点における日本ホスピス緩和ケア協会会員のうち,本研究への参加に同意した施設を対象とした.

1 調査方法

自記式質問紙による郵送調査・施設背景調査を行った.

2 対象施設

日本ホスピス緩和ケア協会会員施設であるホスピス・緩和ケア病棟のうち,J-HOPE3研究の参加に同意した133施設に調査を行った.

3 対象遺族

J-HOPE3研究の参加に同意した遺族の中で,2014年1月31日以前に死亡した患者から,選択基準を満たす患者を,施設ごとに80名連続で後ろ向きに同定し,対象とした.ただし,2011年10月31日以前の死亡者は含めなかった.期間内の選択基準を満たす死亡者が80名に満たない場合は全例を対象とした.適格基準は,当該施設でがんのために死亡した患者の遺族(成人患者のキーパーソン,または身元引受人)で,死亡時の患者および遺族の年齢が20歳以上,患者の入院から死亡までの期間が3日以上の者とした.除外基準は,遺族(キーパーソン,または身元引受人)の同定ができないもの,退院時および現在の状況から,精神的に著しく不安定なために研究の施行が望ましくないと担当医が判断したもの,認知機能障害や視覚障害等によって質問紙への回答が困難であるものとした.調査票は,適格・除外条件を満たす当該施設のカルテのキーパーソンあるいは緊急時連絡先の筆頭の家族または身元引受人に送付された.

4 調査項目

遺族および参加施設に対して,以下の項目について調査した.

遺族調査項目として,遺族の人口統計学的要因のほか,患者の望ましい死の達成度はMiyashitaらによって開発されたGood Death Inventory(GDI)短縮版を用いた9,10).GDIは多くの患者が共通して望む10の概念(コア10ドメイン)と,人によって大切さは異なるが重要な8の概念(オプショナル8ドメイン)から構成され,短縮版はそれぞれのドメインから1問ずつ,計18問を利用する.コア10ドメインには,「からだや心のつらさの緩和」,「望んだ場所で過ごすこと」ほか8項目,オプショナル8ドメインには,「自然なかたちで過ごせること」,「病気や死を意識しないで過ごすこと」ほか6項目が含まれる.各項目は「全くそう思わない~非常にそう思う」の7件法で回答され,本研究では,天井効果や臨床的意味を考慮し「ややそう思う~非常にそう思う」を「そう思う」,「どちらともいえない~全くそう思わない」を「そう思わない」と2値化して解析を行った.GDI短縮版の信頼性・妥当性は検証されている6,7)

施設調査項目として,2013年10月1日時点での緩和ケア病棟の入棟条件,認可病床数,個室数,医師数,夜勤の医師の体制,看護体制,コメディカルの利用可能状況,実施可能な医療,遺族ケアの実施状況,施設の宗教的背景有無について質問紙調査を行った.加えて,宗教的背景のある施設に勤務経験のある複数の医師・看護師のスーパーバイズのもと,病棟の方針(急性期型または療養型の緩和ケア病床,自宅退院への積極的性等),病棟の力を入れているケア(身体症状/精神症状の緩和,スピリチュアルケア,音楽療法,外泊外出サポート等),病棟の雰囲気・特徴(勉強会の頻度,窓からの眺め,厳かな雰囲気等),宗教・スピリチュアルケア(スピリチュアルアセスメント実施状況,宗教観・死生観の話やすさ,宗教家訪室等)について尋ねた.日本ホスピス緩和ケア協会から年次大会資料で公表されている項目(病床数,医師数等)は,年次大会資料から情報を得た.

各施設で死亡した患者の性・年齢・原発部位等の背景情報は,各参加施設から連結可能匿名化された対象者リストから情報を得た.

5 解析

対象施設を「宗教的背景のある施設」群と「宗教的背景のない施設」群に2群化した.

宗教的背景の有無で,GDIコア10項目の合計平均,GDI全18項目の合計平均を比較した.GDI各合計点は,施設を変量効果とし,患者の年齢,性別,がん原発部位,遺族の年齢性別で調整した平均値を算出し,同様に宗教的背景の有無で比較を行った.また,それぞれの群で,施設背景の単変量解析を行い,宗教的背景の有無で施設背景の違いを探索した.施設背景のうち,病棟の方針,力を入れているケア,病棟の雰囲気・特徴,宗教的ケア・スピリチュアルケアの各項目とGDI10項目の合計平均との関連を分析した.統計的な有意差の検出とは別に,臨床的な差の大きさを分析するために,Effect Size(以下,ES:効果量)を算出した.解析は,統計ソフトJMP Pro 12およびSAS 9.4日本語版を用いて解析を行い,有意水準はp<0.05とした.

6 倫理的配慮

本研究は,東北大学および研究参加施設の倫理委員会の承認のもとに実施した.

結果

J-HOPE3研究に参加したホスピス・緩和ケア病棟は133施設で,そのうち施設背景調査票および日本ホスピス緩和ケア協会のデータが利用可能だった施設は127施設だった.「宗教的背景のある施設」が23施設(うち22施設がキリスト教,1施設が仏教),「宗教的背景のない施設」が104施設だった.本研究対象127施設において解析対象となったのは,J-HOPE3研究における緩和ケア病棟の対象遺族12,231名の68%にあたる7,286人だった.対象者の背景を表1に示す.施設の宗教的背景の有無で比較した場合,患者性別(p=0.01; ES=0.03),患者年齢(p=0.01; ES=0.06),遺族年齢(p=0.01; ES=0.05),続柄(p<0.0001; ES=0.07),信仰している宗教(p<0.0001; ES=0.08)などの項目で対象者背景に有意差が認められたが,いずれもES<0.10とごく小さな効果量だった(表1).

表1 対象者背景

つづいて,宗教的背景の有無で施設背景について比較を行った(表2).病院全体の病床数は,宗教的背景のある施設群で有意に少ない(p=0.02; ES=−0.21)が,緩和ケア病棟・ホスピスの病床数は宗教的背景のある施設群で有意に多かった(p=0.007; ES=0.24).また,宗教的背景のある施設の方が緩和ケア病棟経験8年以上の看護師の割合が有意に高かった(p=0.03; ES=0.20).医師数や看護師数,医師と看護師の経験年数,夜間の医師の診療体制,看護体制,緩和ケア病棟への入棟条件,病棟の形式の違いでは,有意差は認められなかった.また,GDIコア10項目の合計平均,GDI 18項目の合計平均は,どちらも宗教的背景のある施設群が有意に高く,中程度以上の効果量が認められた(それぞれp=0.01; ES=0.63,p=0.002; ES=0.74),施設を変量効果とし,患者の年齢,性別,がん原発部位,遺族の年齢性別で調整した後も,有意差が認められた(表3).

表2 施設背景
表3 宗教的背景の有無による望ましい死の達成度の評価の違い

次に,病棟の方針,力を入れているケア,病棟の雰囲気・特徴,宗教的ケア・スピリチュアルケアに関連する各項目について,宗教的背景のある施設で有意にその傾向が認められた項目は,病棟の方針として「院外からの紹介が多い」(p=0.003; ES=0.27), 力を入れているケアとして「ガーデニング・園芸を患者が行う」(p=0.04; ES=0.18), 「遺族ケア」(p=0.01; ES=0.24), 病棟の雰囲気・特徴として「チャペル・礼拝室などの宗教的設備がある」(p<0.0001; ES=0.92), 「病院・病棟の建物が全体的におごそかな雰囲気」(p<0.0001; ES=0.30)であった.宗教的ケア・スピリチュアルケアの項目では,「礼拝や説法が定期的にある」,「宗教家の定期的な訪室がある」,「スピリチュアルアセスメントを全例に実施」などすべての項目で宗教的背景のある施設のほうが「そう思う」と回答する割合が有意に高かった(すべてp<0.05; ES=0.31-0.84)(表4).

表4 宗教的背景のある施設およびGDIコア10項目の合計得点が高くなる施設要因

さらに,GDIコア10項目の合計点に関連する施設背景(病棟の方針,力を入れているケア,病棟の雰囲気・特徴,宗教的ケア・スピリチュアルケア)の検討を行った.患者の望ましい死の達成度(GDIコア10項目合計点)と有意な関連が認められた項目は病棟の方針として「院内からの転棟が多い」(p=0.01; ES=−0.50), 力を入れているケアとして「スピリチュアルケア」(p=0.01; ES=0.75),「音楽療法」(p=0.01; ES=0.49),「季節の行事」(p=0.02; ES=0.88)」,「ガーデニング・園芸を患者が行う」(p=0.01; ES=0.54),「看護ケア(足浴・リフレクソロジー等を含む)」(p=0.02; ES=1.09),「遺族ケア」(p<0.0001; ES=0.92), 病棟の雰囲気・特徴として「アットホームな雰囲気である」(p=0.02; ES=0.89), 「チャペル・礼拝室などの宗教的設備がある」(p=0.01; ES=0.67),「病室はプライバシーが保たれた空間である」(p=0.03; ES=0.56),宗教的ケア・スピリチュアルケアとして「礼拝や説法が定期的にある」(p=0.01; ES=0.71),「宗教家の定期的な訪室がある」(p=0.005; ES=0.65),「スタッフ同士で宗教観や死後の世界などについて話しやすい雰囲気」(p=0.001; ES=0.63),「スピリチュアルケアを意識して取り組んでいる」(p=0.01; ES=0.59),「スタッフが礼拝などに参加する機会が定期的にある(p=0.04; ES=0.62)だった(表4).

上記の結果から,施設の背景(病棟の方針,力を入れているケア,病棟の雰囲気・特徴,宗教的ケア・スピリチュアルケア)について,施設の宗教的背景の有無およびGDIコア10項目の合計点に共通して有意な関連が認められる項目は,病棟の方針として「院外からの紹介が多い」, 力を入れているケアとして「ガーデニング・園芸を患者が行う」, 「遺族ケア」, 病棟の雰囲気・特徴として「チャペル・礼拝室などの宗教的設備がある」,宗教的ケア・スピリチュアルケアの項目では,「礼拝や説法が定期的にある」,「宗教家の定期的な訪室がある」,「スタッフ同士で宗教観・死生観を話やすい雰囲気である」,「スピリチュアルケアを意識して取り組んでいる」,「信仰している宗教があるスタッフが多い」,「スタッフが礼拝などに参加する機会が定期的にある」だった.

考察

本研究により次の2点が明らかになった.1つは先行研究同様,宗教的背景のある施設で患者の望ましい死の達成の評価が有意に高く,その要因として,宗教的背景のある施設の特徴として,ガーデニングを患者が行うことや遺族ケアを積極的に取り入れたり,チャペル等の宗教的設備の設置とともに,礼拝・説法を含む宗教家とのかかわりがもちやすいこと,スピリチュアルケアを意識的に取り入れたり,宗教的背景をもつスタッフが多く,死生観や宗教観を話しやすい雰囲気であることが挙げられた点である.2つめは,宗教的背景のない施設でも,ガーデニングを患者が行うことや遺族ケア,スピリチュアルケアを意識することは取り入れ可能なケアであり,それによって患者の望ましい死の達成度をより向上することができる可能性がある点である.

施設の宗教的背景で有意差がみられ,かつ,GDIとの関連でも有意差が認められた項目に関しては,遺族ケアの実施,季節の行事や,ガーデニングを患者が行うことなど患者の楽しみになるようなことを積極的に行うこと,施設の宗教的環境や患者とスタッフあるいはスタッフ間での宗教観や死生観の話しやすさが挙げられた.まず,遺族ケアの実施と宗教的背景・GDIとの関連は,先行研究4)と同様の結果ではあった.遺族ケアの重要性は,国内外で広く認められている11,12)が,わが国においても,坂口らの一連の研究1316)により,施設の遺族ケアを受けた遺族が自らの受けたケアを9割近くの割合で肯定的に評価しており,遺族からのニーズの高さが示唆されている.しかし,遺族ケアとGDIとの関連については,遺族ケアは患者が亡くなった後に行われるのが一般的で,患者の望ましい死に直接的に影響を与えているとは考えにくい.一方で,積極的に遺族ケアに取り組んでいる施設では,患者の死亡前から,家族ケアや予期悲嘆へのケアについてもより積極的に取り組んでいる可能性もあり,そのような施設の特色・方針が,本結果に影響した可能性も考えられる.しかし,遺族ケアの積極的な実施が患者の望ましい死の達成度の高さに関連する理由の詳細は本研究では明らかではなく,今後探索が必要である.

次に,宗教的背景のある施設は,ガーデニング・園芸を患者が行うことなど,患者の楽しみとなることに積極的に取り組んでいた.患者が楽しみと思えるような機会を企画することで,患者にとっての望ましい死に良い影響を与える可能性がある.本研究結果でも,宗教的背景の有無にはかかわらず,音楽療法や季節の行事により積極的に取り組んでいる施設のほうが,GDIコア10項目が有意に高かった.これは宗教的背景のない施設でも比較的導入が可能なケア・取り組みであり,患者の望ましい死の達成度の評価向上の可能性が示唆された.

最後に,施設の宗教的環境や宗教ケアについては,過去に行われたAndoら17)や,竹内らによる調査4)と同様,施設の宗教的背景と患者の望ましい死の達成度との関連が認められた.本結果から,宗教的背景のある施設は,チャペル等の宗教的設備へのアクセスのしやすさ,宗教家の介入のしやすさが大きな特徴であり,スピリチュアルアセスメントやスピリチュアルケアを宗教的背景のある施設の方がより積極的に取り入れていた.Tarakeshwarらは,進行がん患者170名への構造化面接から,宗教的コーピングを行う傾向が強い患者は,自己の存在意義などのスピリチュアルな側面に関する評価が高く,さらに全体的なQOLも高い傾向にあったと報告している18).宗教や信仰心は,患者のスピリチュアルニーズに対応するための方法の一つと考えられることが多く19),宗教的背景のある施設のほうが患者のスピリチュアルケアのニーズに対応しやすかった可能性がある.しかし,宗教的ケアだけが患者のスピリチュアルニーズに対応するケアではない.患者のスピリチュアル面のアセスメントや,スタッフが死生観や宗教観についての関心を深めることは,患者個々のスピリチュアルニーズに気付くきっかけや,より良いスピリチュアルケアの実践につながり,結果的に患者の望ましい死の達成度を高める可能性が期待できる.

今回の研究の限界は,1つめに対象が日本ホスピス緩和ケア協会会員施設であり,わが国の緩和ケア病棟のすべてを反映しているわけではないことである.2つめとして,施設ごとに遺族の応諾数・遺族背景にばらつきがあり,評価にバイアスがある可能性があることが挙げられる.3つめとして,施設背景の調査項目が,ケアの評価に影響する施設の要因をすべて網羅しているわけではないことである.今後は質的研究などにより,今回は取得していない要因も含め抽出することが望まれる.最後に,今回は施設の宗教的背景に注目したが,ケアを受けた患者の宗教の帰属については明らかではないため,宗教の有無によりバイアスが生じている可能性がある.

結論

本研究から,先行研究同様施設の宗教的背景のある施設で死亡した患者のほうが,患者の望ましい死の達成度の評価が有意に高かった.宗教的背景のある施設の特徴として,「遺族ケアに力を入れている」,「季節の行事やガーデニングなど,患者の楽しみとなる時間を作っている」,「宗教的ケアを定期的に受けられ,宗教的設備の整った環境である」などが挙げられ,それが患者の望ましい死に良い影響を与える可能性があるということが示唆された.宗教的背景のない施設でも,遺族ケアの実施や,患者の楽しみとなるような行事の実施,スピリチュアルな側面への理解を深めることで,望ましい死の達成度を高める可能性があると示唆された.

References
 
© 2017日本緩和医療学会
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