Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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短報
終末期癌患者の膀胱留置カテーテル使用について緩和ケア病棟の単施設における現状調査
豊田 紀夫金石 圭祐
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2017 年 12 巻 2 号 p. 306-309

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Abstract

【緒言】緩和ケア病棟において膀胱留置カテーテルは,様々な理由で日常的に行われている.しかし緩和ケア病棟における現状の報告は少ない.当院緩和ケア病棟での膀胱留置カテーテルの使用状況について報告する.【対象と方法】当院緩和ケア病棟に2012年1月~2013年12月に入院し死亡退院した患者を対象に後ろ向きに調査した.【結果】対象となった患者は249人のうち膀胱留置カテーテルを使用した患者は124人(49.8%),男性52人(41.9%),女性72人(58.1%)であった.使用期間の中央値は6日間で,膀胱留置カテーテルの使用理由はactivities of daily living(ADL)の低下が最多であった.【結語】当院緩和ケア病棟における膀胱留置カテーテルの使用割合は約半数であった.排尿状態は身体的な影響もさることながら精神的,生活の質に大きな影響を与える.今後適正な使用についてもさらに検討していく必要があるものと思われた.

緒言

緩和ケア病棟における排尿状態は,病状,年齢,自立度,原疾患,せん妄の有無などにより様々である.排尿状態は身体的な影響もさることながら精神的,生活の質に大きな影響を与える.排泄に関して他人に迷惑を掛けたくないという思いの患者は少なくないが,癌終末期では排泄に伴う労作に苦痛や負担を生じることもある1).苦痛の増加やactivities of daily living(ADL)低下に伴い尿器を使用することも多いが,それらは衰弱による腹圧不足,慣れない体位での排尿などの理由からかえって患者に負担をかけ,Quality of Life(以下QOL)の低下をきたすこともある.そこで症状緩和のために膀胱留置カテーテルの使用頻度が多くなる.しかし緩和ケア病棟においてカテーテルがどの時期に使用され,またその理由がどのようなものであったかを調査した報告は少ない.これらを明らかにすることは終末期癌患者の膀胱留置カテーテルの適正使用と症状緩和の観点において有用と考える.以上より本研究では当院緩和ケアにおける膀胱留置カテーテルの使用状況を調査し,若干の考察を加えて報告する.

方法

JCHO東京新宿メディカルセンター緩和ケア病棟に入院され2012年1月1日~2013年12月31日までの期間に死亡退院された患者を対象に後ろ向きにカルテを調査し,膀胱留置カテーテル使用状況についての調査を行った.調査項目は性別,年齢,原疾患,平均在院日数,膀胱留置カテーテル使用の有無,カテーテル使用期間,カテーテルの使用理由,カテーテル抜去症例数とその理由とした.

結果

249人が調査対象となった.性別は男性119人,女性130人で年齢の中央値は74歳,平均在院日数は34.2日であった.前医からの持ち越しも含め,期間中に膀胱留置カテーテルを使用していた患者は124人(49.8%)であった.カテーテル使用患者の原疾患は肺癌が21人,大腸癌14人であった(表1).カテーテル使用患者のうちで当院緩和ケア病棟にて新たに留置した患者は73人で,その留置期間の中央値は6日間であった(図1).カテーテルの使用理由としては,ADLの低下28人(38.4%),尿閉25人(34.2%)であった(表2).また尿閉症例25例の背景は男性9人(36%),女性16人(64%)で年齢の中央値は66.5歳であった.カテーテル抜去症例は12人(9.7%)でその理由は違和感4人,カテーテルの頻回な閉塞3人,せん妄による自己抜去のリスク2人であった.また再留置症例はなかった.

表1 患者背景
図1 当院でのカテーテル留置73例の使用から死亡までの期間の分布(人)
表2 カテーテル使用理由

考察

当院緩和ケア病棟に入院され2012年1月1日~2013年12月31日までに死亡退院された249名を対象に膀胱留置カテーテルの使用状況を調査した.横山らが終末期における患者の欲求と希望に関する調査を行い,排尿を含む生理的欲求に関するものがとくに多いことを明らかにしている2).しかし恒藤らによると死亡前1カ月前から各種の症状出現の頻度が増加する傾向がみられること,生存期間が2週間をきる頃より自立移動障害の頻度が高くなることが報告されている3).これらの先行研究では終末における排尿の重要性と日常動作の障害について述べられているが,具体的な膀胱留置カテーテルの使用状況やその理由については調査されていなかった.

今回われわれの調査で対象となった249人のうち膀胱カテーテルを使用していた患者は124人(49.8%)であった.他施設では緩和ケア病棟での使用割合が37.7%,末期患者の一般病床における使用割合が約50%と報告されている4,5).また終末期に限定しなければ被在宅看護高齢者の使用割合は9.4%,一般病床や入所施設では使用割合が全体で9.2%程度と報告されており,終末期に使用割合が高いことがわかる6,7).その理由としては終末期になると90%以上の患者が様々な理由からトイレ移動が困難になる1),生存期間2週間をきるあたりから自立移動障害の累積頻度が高くなると報告もあり3),ADLを含めた病態の差が原因と推察された.今回の調査でも当院緩和ケア病棟にて新規に膀胱留置カテーテルを使用した理由は,ADLの低下28人(38.4%)が最多であった(表2).また使用期間の中央値は6日間であることは先行文献の日常動作の障害出現時期と重なっておりそれを裏付ける結果となった6).次いで多い理由として尿閉が25人(34.2%)であった.患者背景は男性9人(36%),女性16人(64%)で女性が多く,年齢の中央値は66.5歳であった(表2).本間ら7)によると一般床や入所施設での使用理由としての尿閉は15.8%で,緩和ケア病棟でより尿閉が多いことがわかった.それらの理由としては,終末期独特の要因としてオピオイドなど抗コリン作用を有する薬剤の高い使用率,手術既往,病変の浸潤などが考えられた.また身体症状緩和のために留置した症例は労作時呼吸苦10人(13.7%),体動痛4人(5.5%),血尿による排尿困難3人(4.1%)で労作時呼吸苦を原因に留置する症例が多かった.Seowらは終末期癌患者の身体症状の変遷を調査し死期が近づくにつれ疼痛症状は大きく変化しないが呼吸苦症状は急激に増悪する8),また終末期癌患者のトイレ歩行に関する調査で明らかにされた,トイレ歩行が困難になる因子として呼吸苦と傾眠が挙げられていたが9),傾眠をADLの低下に含めるとカテーテル利用の原因と重複し,それらと沿う結果となった.

今回の調査の限界は,後ろ向き研究であり症例の背景の詳細が不確実な点にあり,カテーテル使用の関連因子の同定にはいたらなかった.また1週間前まで約20%の患者がトイレ歩行可能であったとの報告9)もあり,当院緩和ケア病棟で前医からの持ち越しで膀胱留置カテーテル使用していた患者の中にも抜去可能であった症例が含まれていた可能性もあると考えられた.今後は該当する症例でも膀胱留置カテーテルの適応を再度精査することが必要であると考えられた.

結論

当院の緩和ケア病棟における膀胱留置カテーテルの使用は約半数にのぼった.患者の病状,ADL,心理面を考慮し,患者の苦痛の緩和および負担の軽減をはかりながら希望に添えるよう環境を整えていくことは患者の尊厳を保ち,満足度の高い終末期を送るためには欠かせないものである.今後適正な使用についてもさらに検討していく必要があるものと思われた.

References
 
© 2017日本緩和医療学会
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