2017 年 12 巻 4 号 p. 739-746
【目的】がん患者および家族のセクシュアリティに対する医療者の認識と支援の実態を明らかにする.【方法】2014年5月に四国がんセンターの医療者538名を対象に無記名自記式質問紙調査を行った.【結果】457名(84.9%)より有効回答を得た.セクシュアリティに関する支援経験があるのは29.8%で,67.0%が支援必要性を認識していた.支援経験や勉強会参加経験がある群では,支援必要性「認識群」の割合が有意に多かった.「認識群」が支援にためらいや困難を感じる理由では,患者から相談される機会がない93.5%,患者が介入を必要としているかどうかわからない89.2%,知識不足89.2%,スキル不足88.9%が多かった.「認識群」で知識や情報を得る方法として最も希望が多かったのは,患者や家族に紹介できる本やパンフレット96.4%だった.【結論】今後は医療者全体で支援必要性を認識し,取り組んでいく必要がある.
現在わが国は2人に1人はがんに罹患する時代を迎え,近年のがん対策ではがん罹患後の生活における質(Quality of Life: QOL)の向上が重要視されている1).
セクシュアリティはQOLの重要要素で,セックス,ジェンダー,セクシュアルならびにジェンダー・アイデンティティ,セクシュアル・オリエンテーション,エロティシズム,情緒的愛着/愛情,およびリプロダクションを含み2),妊娠や性生活および家族(パートナー,以下家族)との関係性などに広く関連している.
これまでのがん患者のセクシュアリティに関するいくつかの研究では,患者が性交痛,性的欲求減少,性機能低下,生殖能力喪失,ボディイメージ変化,パートナーとの関係悪化などを苦痛に感じていることや,パートナーもセクシュアリティの悩みを抱えていることが報告されている3〜7).
世界保健機関(WHO)は「緩和ケアとは,生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,痛みやその他の身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題を早期に発見し,的確なアセスメントと対処を行うことによって,苦しみを予防し,和らげることで,QOLを改善するアプローチである」と定義しており8),セクシュアリティに関する医療者の支援は,緩和ケアの一環であるともいえる.
わが国のがん患者のセクシュアリティに関する支援に関わる医療者の調査としては,これまで調査対象を主に特定のがん種・疾患に接する特定の職種に限定した調査がいくつかあるが6,9,10),医療者がセクシュアリティの問題の重要性に気づいていても関われておらず,また患者側からも相談しにくい現状などから,支援がいまだ不十分であることが指摘されている11).
そこで,がん診療連携拠点病院12)である国立病院機構四国がんセンターにおいて,家族のセクシュアリティに対する医療者の認識と支援の実態を明らかにすることを目的に調査を行った.
通常セクシュアリティのことのみについて唐突に医療者や患者から声かけをする場面は少なく,主として他のより話しやすい事柄とともにセクシュアリティについても話し合われることが想定された.よって調査対象を「普段患者から直接相談を受けている医療職員」とし,各部署長に各部署内の該当者を確認のうえ,医師,看護師,薬剤師,治験コーディネーター,医療ソーシャルワーカー,臨床心理士,リハビリスタッフ,栄養士で普段患者から直接相談を受けている538名とした.
調査手順2014年5月13日〜30日に各部署内で調査対象者に無記名自記式質問紙(調査用紙)の配布と回収を行った.調査用紙は無記名で,第三者から個人が特定されないよう配慮すること,調査結果は学会や論文で発表する可能性があること,調査への参加は個人の自由であり参加しない場合であっても職場における不利益は生じないことを調査用紙に明記し,調査用紙の提出をもって調査協力の同意を得たと判断した.
調査項目「家族のセクシュアリティ」に関する医療者の認識と支援の実態が明らかになり今後の支援につながるよう,調査項目は研究者間(医師2名,看護師3名)で協議して選定した.調査項目として①回答者の背景(性別,年齢,職種,現在の職種としての経験年数,セクシュアリティに関する支援の経験の有無,セクシュアリティに関する支援についての講演会や勉強会への参加経験の有無,自分ががんになった場合セクシュアリティについて医療者への相談希望の有無,家族ががんになった場合セクシュアリティについて医療者への相談希望の有無,患者および家族のセクシュアリティに関心があるか),②がん患者および家族のセクシュアリティに関する支援の必要性の認識(セクシュアリティに関する支援が必要だと思うか),③支援の実施状況(患者にセクシュアリティについて尋ねるか,家族にセクシュアリティについて尋ねるか,患者と家族とのセクシュアリティに関することについて話し合うか,家族と患者とのセクシュアリティに関することについて話し合うか,患者にセクシュアリティについて意識的に声をかけるか,患者および家族に対して病気・治療とセクシュアリティに関することについて説明するか,患者および家族のセクシュアリティに関する支援を他職種に依頼するか),④支援をしようと思う時にためらいや困難を感じる理由(知識不足か,スキル不足か,自信のなさか,時間がないか,患者が介入を必要としているかどうかわからないか,患者からセクシュアリティについて相談される機会がないか,セクシュアリティの問題にまで介入する必要はないか,患者の家族に会う機会がないか,自分の職種上介入する立場にないか,自施設にセクシュアリティに関する支援体制がないか),⑤支援をするにあたり希望する知識や情報を得る方法(患者および家族に紹介できる本やパンフレットか,医療者が勉強するための本や資料か,知識やスキルに関する講義か,実践的な演習か,事例検討会か)について尋ねた.広く医療者全体での支援につなげるため,主に接することの多いがん種や支援場面などを限定しなかった.
解析方法1.回答者が調査対象である「職種」の回答がある,2.本調査趣旨のセクシュアリティに関する「支援の必要性の認識」および「支援の実施状況」の全質問への回答がある,の1, 2両方をもって有効回答と判断し,集計,解析を行った.そのうえで,がん患者および家族のセクシュアリティに関する支援の必要性について「必要」「とても必要」の回答を「認識群」,「あまり必要ない」「全く必要ない」の回答を「非認識群」とし,「認識群」と「非認識群」で回答者の背景,支援の実施状況に差があるかFisherの正確検定を行い,有意水準5%,両側検定とした.統計解析にはJMP11.0を用いた.
調査対象者538名,回収488名,有効回答457名(有効回答率84.9%)だった.回答者の背景のうち性別,年齢,職種,現在の職種としての経験年数については表1にまとめた.性別は女性が85.8%(n=392)と大部分を占め,年齢は20代が35.7%(n=163),30代が32.8%(n=150)と若年者が多く,職種は看護師が79.2%(n=362)と最も多かった.現在の職種としての経験年数は10年以上が46.2%(n=211)と半数弱だった.
セクシュアリティに関する支援の経験が「ある」のは29.8%(n=135)で,セクシュアリティに関する支援についての講演会や勉強会への参加経験が「ある」のは12.5%(n=57)だった.医療者への相談希望は,自分/家族ががんになった場合「とてもそう思う」2.0%(n=9)/2.0%(n=9),「そう思う」25.2%(n=114)/25.0%(n=113),「あまりそう思わない」55.0%(n=249)/56.4%(n=255),「全くそう思わない」17.9%(n=81)/16.6%(n=75)と,自分ががんになった場合と家族ががんになった場合で同様の結果だった.患者および家族のセクシュアリティに関心があるかについては,「とてもある」2.6%(n=12),「ある」34.2%(n=155),「あまりない」55.2%(n=250),「全くない」7.9%(n=36)だった(表2).
がん患者および家族のセクシュアリティに関する支援の必要性の認識「セクシュアリティに関する支援が必要だと思うか」については,「とても必要」5.5%(n=25),「必要」61.5%(n=281),「あまり必要ない」30.2%(n=138),「全く必要ない」2.8%(n=13)だった.
「認識群」と「非認識群」の回答者の背景について,「とてもそう思う」「そう思う」の回答を「ある群」,「あまりそう思わない」「全くそう思わない」の回答を「ない群」として比較したところ,セクシュアリティに関する支援経験が「ある」(p<.0001),セクシュアリティの支援に関する講演会や勉強会への参加経験が「ある」(p<.0001),自分ががんになった場合セクシュアリティについて医療者への相談希望が「ある群」(p<.0001),家族ががんになった場合セクシュアリティについて医療者への相談希望が「ある群」(<p.0001),がん患者および家族のセクシュアリティに対する関心が「ある群」(p<.0001)で「認識群」の割合が有意に多かった(表2).
がん患者および家族のセクシュアリティに関する支援の実施状況支援の実施状況として,「時々している」「いつもしている」の回答を「実施群」としてまとめた場合,「実施群」の多い順に,「患者および家族に対して病気・治療とセクシュアリティに関することについて説明する」10.7%(n=49),「患者にセクシュアリティについて尋ねる」10.3%(n=47),「患者および家族への支援を他職種に依頼する」9.4%(n=43),「患者と,家族とのセクシュアリティに関することについて話し合う」5.9%(n=27),「患者にセクシュアリティについて意識的に声をかける」5.7%(n=26),「家族と,患者とのセクシュアリティに関することについて話し合う」3.3%(n=15),「家族にセクシュアリティについて尋ねる」2.4%(n=11)だった(表3).
「認識群」と「非認識群」で各支援内容の実施状況を比較したところ,「認識群」では「患者にセクシュアリティについて尋ねる」,「患者と,家族とのセクシュアリティに関することについて話し合う」,「患者および家族に対して病気・治療とセクシュアリティに関することについて説明する」,「患者および家族への支援を他職種に依頼する」で「実施群」の割合が有意に多かった.(p=0.0337,0.0110,0.0034,0.0403)
がん患者および家族のセクシュアリティの支援をしようと思う時にためらいや困難を感じる理由「認識群」がセクシュアリティの支援をしようと思う時にためらいや困難を感じる理由として「そう思う」「とてもそう思う」の回答を「そう思う群」として多い順にまとめた場合,「そう思う群」が80%を超えたのは,「患者からセクシュアリティについて相談される機会がない」93.5%(n=286),「患者が介入を必要としているかどうかわからない」89.2%(n=273),「知識不足」89.2%(n=273),スキル不足88.9%(n=272),「自信のなさ」84.0%(n=257)だった(表4).
がん患者および家族(パートナー)のセクシュアリティに関する支援をするにあたり希望する知識や情報を得る方法「認識群」がセクシュアリティの支援をするにあたり希望する知識や情報を得る方法として「希望する」「とても希望する」の回答を「希望する群」として多い順にまとめた場合,「希望する群」が80%を超えたのは,「患者および家族に紹介できる本やパンフレット」96.4%(n=295),「医療者が勉強するための本や資料」90.2%(n=276),「知識やスキルに関する講義」88.9%(n=272)だった(表5).
29.8%にセクシュアリティの支援経験があり(表2),67.0%が支援必要性を認識していた.酒井ら9)は泌尿器科病棟の看護師のうち「前立腺がん患者の性に関する看護援助」経験があるのは24.5%,その必要性を認識しているのは58.9%だったと報告しており,本研究ではほぼ同様の結果だった.一方で,木谷ら13)は婦人科病棟の看護師のうち「女性生殖器のがん患者に対して性に関する看護援助」経験があるのは58%,その必要性を認識しているのは97%だったと報告しており,高橋ら6)は皮膚・排泄ケア認定看護師の59.3%が性に関する相談を受けた経験があると報告している.本結果ではそれらほど多くなかったのは,女性生殖器のがんのように妊娠や出産に直接的に関係しやすい患者と接する医療者や専門性が高い医療者ばかりではなかったことなどが影響していることが推察された.
また,本研究では,支援経験が「ある群」,支援に関する講演会や勉強会への参加経験が「ある群」や,がんになった場合にセクシュアリティについて医療者への相談希望が「ある群」では「認識群」の割合が有意に多かった.Takahashiら10)は,乳腺外科医師のうち性に関する相談を受けた経験があるのは32.4%で,性の相談を受けるのも外科医の仕事であると考えている医師ほど性の相談を受けやすいことを報告しており,朝倉14)は,性に関する看護援助は看護師自身の性に対する価値観が影響することを報告している.本結果と合わせて,医療者が支援必要性を認識することは,その医療者ががん患者および家族にセクシュアリティに関する支援を提供すること,および医療者自身やその家族ががんになった場合に他の医療者からセクシュリティに関する支援を享受すること,の両方に対して肯定的な姿勢につながると考えられた.
がん患者および家族のセクシュアリティに関する支援の実施状況全体として実施されていた支援内容は多い項目でも1割程度で,とくに患者と話し合ったり,家族にアプローチするような内容は実施されにくいことがわかった.
しかし,「認識群」では「患者と,家族とのセクシュアリティに関することについて話し合う」および「患者および家族に対して病気・治療とセクシュアリティに関することについて説明する」の「実施群」の割合が有意に多く,支援必要性を認識することは家族を含めた患者のセクシュアリティへの積極的な支援につながると考えられた.
黒沢ら3)は,パートナー自身もセクシュアリティに関する悩みを抱えたり性交渉に関する具体的な情報ニーズをもっており,パートナーもケア対象者としていく必要性があると報告しており,Scottら15)も,支援の対象にパートナーを含むことでより性の変化への適応が促進されることを明らかにしている.
よって,今後は,患者と家族(パートナー)の双方に対するセクシュアリティに関する支援の必要性を啓蒙していくことが必要であると考えられた.
がん患者および家族のセクシュアリティに関する支援をしようと思う時にためらいや困難を感じる理由「認識群」の多くは,セクシュアリティに関して患者からのアプローチがなく希望がわからないことや,自分の未熟さから,支援をすることにためらいや困難を感じていることがわかった.
北野ら16)は,「セクシュアリティおよびパートナーシップの問題は,患者,医療者ともに短い診察時間の間になかなか切り出せない話題であり,実際に患者が悩んでいても表面化しないことの方が多い」と述べている.また,大石17)も「セクシュアリティの問題の難しさは多くの場合それが表面化していないことにある.その原因は患者と家族がそれを表出することが少ないことと,医療者があえてその問題を引き出そうとしていないことにある」と述べている.Gleesonら18)は,英国でのがん医療および緩和ケアの専門スタッフおよび一次医療者に対する調査では,患者のセクシュアリティの健康についての評価を常に行っていたのは専門スタッフの13.8%,一般医の4%,保健師の7.9%のみで,評価を行わなかった理由として診察時に問題を呈していないからという回答が最多だったことを報告している.
よって,今後は,患者や家族がセクシュアリティに関する問題を直接表出していなくてもその可能性に十分留意しながら医療者側から声かけをしていく必要があると考えられた.
がん患者および家族のセクシュアリティに関する支援をするにあたり希望する知識や情報を得る方法「認識群」がセクシュアリティに関する支援をするにあたり希望する知識や情報を得る方法については,患者および家族のための本・パンフレット,医療者のための本や資料,講義の希望が多かった.
Gleesonら18)は,医療者による患者のセクシュアリティの評価を促進するためには,患者に提示できる専門的なサービスについての知識,患者に渡せるセクシュアリティの健康とがんについて書かれた資源やその評価法の入手方法を含めた医療者への支援や研修の開催が有益であるとの回答が多かったと述べている.また,性に関する知識や態度,実践を多く有する看護師の方が,がん患者からの性相談に対して有効な援助を行うことができていた19)という報告もある.
また,本研究から,全体の3割程度を占める「非認識群」では,セクシュアリティの支援に関する講演会や勉強会への参加経験が「ない」,セクシュアリティに関する支援経験が「ない」,がん患者および家族のセクシュアリティに対する関心が「ない群」,の割合が非常に多いことがわかった.よって,「非認識群」がパンフレットや勉強会等を通して支援必要性を認識し,セクシュアリティに関する支援に関わっていけるような取り組みが必要であると考えられる.
それらをふまえ,今後は医療者がセクシュアリティに関する知識や態度,実践について学べる資料の作成や勉強会の継続的な開催,患者や家族への説明時に提示できるパンフレットの作成などを行い,それらを利用しながら医療者全体として支援を実践できるような体制を作っていく必要があると考えられる.
本研究にはいくつかの限界がある.1つ目は,単施設の調査でかつがん専門病院での調査であることや,有効回答者の8割程度が女性,看護師であることから,回答者の属性に偏りがある.2つ目は,本調査用紙にセクシュアリティが定義されておらず,回答者によってセクシュアリティの定義が異なる可能性がある.3つ目は,支援必要性認識の設問で,現在は必要性を感じることが少ないが過去には必要性を強く感じた経験がある場合や,普段は必要性を感じることが少ないが現在の担当患者には支援の必要性を強く感じる場合などに,回答者によって回答が異なる可能性がある.4つ目は,支援必要性認識と実施状況は,支援対象者を一般的ながん患者と家族と捉えるか,普段回答者が接している患者と家族と捉えるかによってその回答が異なる可能性があり,両者の差異がそれによって生じるのか,支援に対するためらいや困難によるのかが不明瞭である.5つ目は,診療科(専門)を回答者に尋ねておらず,支援必要性認識,実施状況に対する診療科(専門)の影響が分析できなかった.
がん患者および家族のセクシュアリティに関する医療者の認識と支援の実態について調査を行った.セクシュアリティに関する支援経験があるのは3割程度だったが,6割以上は支援必要性を認識した「認識群」で,「認識群」の多くは患者からのアプローチがなく患者の希望がわからないため,支援にためらいや困難を感じていた.また,「認識群」の多くは支援をするにあたり患者および家族に紹介できる本やパンフレット,医療者が勉強するための本や資料,知識やスキルに関する講義を希望していた.今後は「非認識群」にも支援必要性認識が広がるよう医療者が知識を得る機会を継続的に設け,医療者全体として支援を実践できるような体制を作っていく必要がある.