Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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短報
自宅で療養するがん患者の状況と死亡時の医師や看護師の立ち会いについての調査研究
新城 拓也清水 政克三宅 敬二郎田村 学遠矢 純一郎白山 宏人松木 孝道石川 朗宏村岡 泰典濵野 淳
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電子付録

2020 年 15 巻 4 号 p. 259-263

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Abstract

本研究は日本国内における,自宅で死亡したがん患者の状況,医師や看護師の死亡時の立ち会いについて調査することを目的とした.国内の在宅医療と緩和ケアを提供している診療所で,2017年7月1日から2017年12月31日の間に,自宅で訪問診療を受ける終末期のがん患者を対象に,前向きの観察研究を行った.診療した医師が,初診時と死亡時に,患者背景,治療内容,死亡時の状況を評価した.調査期間中に,45の診療所で死亡場所が自宅であった患者676人の死亡状況を解析した.同居者がいた患者は91%,休日と夜間の死亡は49%(95%信頼区間[45〜52%]),死亡時の医師,看護師の立ち会い(呼吸停止,心停止の前から継続して患者の家にいること)はそれぞれ5.6%,9.9%であった.自宅で亡くなった患者のほとんどは家族と同居し,死亡時の医師や看護師の立ち会いはほとんどなかった.

緒言

近年,在宅医療と緩和ケアの提供体制は以前よりも整備され,最期まで自宅で療養するがん患者も増加している1).本人が望む場所で最期を迎えることは,質の高い終末期医療の要素の一つである2).また自宅で最期を迎えることは病院で最期を迎えるよりも患者のQOL(Quality of Life)が高いことが明らかになっている35)

しかし,自宅で最期まで過ごした患者の症状やQOLを調査した観察研究は少なく,さらに死亡時の状況や医療者の関わりを調査した研究もほとんどない6)

したがって,本研究は日本国内における,自宅で死亡したがん患者の状況,医師や看護師の死亡時の立ち会いについて調査することを目的とした.

方法

国内の在宅医療と緩和ケアを提供している診療所で,2017年7月1日から2017年12月31日の間に,自宅で訪問診療を受ける終末期のがん患者を対象に,前向きの観察研究を行った.本研究は,進行がん患者を対象とした在宅緩和ケアの実態を明らかにする多施設共同観察研究(COME HOME study; Comparison of End-of-life trajectory in advanced cancer patient between inpatient hospice and home study)の付帯研究として実施した.

研究の対象は,適格基準として,1)年齢18歳以上の患者,2)組織診断,細胞診断,臨床診断のいずれかによって,局所進行・遠隔転移のあるがん患者,3)自宅で訪問診療を受ける患者とした.除外基準として,患者・家族(介護者)から本研究への参加を拒否する旨の意思表示があった患者とした.

調査項目は,診療した医師が,調査開始時に患者背景(年齢,性別,原発臓器,転移部位),生活状況(同居者の有無)を,死亡時に死亡場所,日時(年月日,平日・土曜日・休日のいずれか,6〜18時・18〜22時・22〜6時のいずれか),自宅療養期間,死亡前の最後の診察・訪問看護日,死亡時の医師・看護師立ち会いの有無を調査した.

死亡時の立ち会いとは,心拍と呼吸が停止する前から,明らかに停止したときまで,患者の自宅で医師,看護師が患者の死亡場所から離れず診療または看護していることと定義した.死亡の日時は,医師の死亡確認時刻ではなく,患者が死亡した時刻(死亡時刻)を集計した.死亡時刻の区分は,医科診療報酬点数表(平成28年診療報酬改定)の往診時刻の区分に従った7)

死亡時の状況として,診察を担当した医師が,死亡直前3日間の,気持ちの穏やかさをIPOS(Integrated Palliative care Outcome Scale)日本語版のitem 6「患者さんは気持ちが穏やかでいられましたか?」(0:いつも1:たいてい2:ときどき 3:たまに4:全くなし; 数値が小さいほど穏やかでいられた)で調査した8)

解析は,連続変数を平均と標準偏差,記述統計量は集計し度数と頻度を求めた.集計と解析は,SPSS Statistics Version 20(IBM, Chicago, IL, USA)を使用した.

本研究は,筑波大学倫理委員会の中央一括審査で承認を得て実施した(平成29年3月3日,第1153号).

結果

調査期間に,研究に参加した45の診療所(付録表1)で,1102人が調査対象となった.観察期間中に死亡した患者は,981人(89%)であった.死亡場所は,自宅676人(死亡人数に対する割合69%),緩和ケア病棟172人(18%),一般病院113人(12%),集中治療室(ICU)3人(0.3%),施設(介護保険施設など)18人(1.8%),不明(追跡調査ができない)16人(1.6%)であった.このうち,死亡場所が自宅であった患者676人の死亡状況を解析した.

対象患者の背景を表1に示す.

死亡時の曜日,時間は表2に示す.患者の実際の死亡時刻は平日の6〜18時の時間帯が最も多かった.一方で,死亡時刻が,22〜6時の深夜の時間帯は,120人(18%),休日(日曜日,祝日)は,176人(26%)であった.死亡時の医師の立ち会いは,患者の38人(5.6%) で,看護師の立ち会いは,67人(9.9%)で実施された.

医師,看護師の最終診察,看護から死亡までの期間の日数を表3に示す.死亡の前日または当日に,378人(58%)の患者が医師の診察を受けており,501人(85%)の患者が看護師の訪問を受けていた.

死亡直前3日間の気持ちの穏やかさは,平均1.20(標準偏差0.84)で,うち昏睡などのため評価できない患者は58人(8.6%)だった.

表1 患者背景(N=676)
表2 患者の死亡時刻の曜日,時間の人数(自宅死亡患者676人)
表3 医師,看護師の最終診察,訪問から死亡までの期間(日)

考察

本研究では,対象患者のうち,多くの患者が自宅で最期まで療養し,死亡直前の3日間は,患者の気持ちは比較的穏やかであったことがわかった.また,自宅で最期まで療養していた患者のほとんどに同居者がいた.アメリカの調査では,がん患者が自宅での死亡を希望し,達成される条件として,結婚していることが決定因子の一つで9),同居している介護者の存在が,患者の死亡時の療養先に関わることが複数の研究でわかっている10).本研究でも,過去の研究と同様に,対象患者の90%以上に同居する家族がいた.自宅で最期まで療養したいという患者の意向を支持する介護者の存在が必要であった.

次に,対象患者の死亡時の医師や看護師の立ち会いは,どちらも10%にも満たないことがわかった.この結果から,介護者のみが患者の死亡の瞬間に立ち会っていることがわかった.イタリアの研究でも,自宅療養中の患者が死亡したとき,医師や看護師が立ち会っていたのは,本研究と同じく10%未満であった6).国内の緩和ケア病棟の研究では,遺族は入院患者が死亡したとき,医師や看護師が立ち会うことができなくても,死亡前に頻回の診察や看護を受けることで,十分であると考えていると報告されている11).自宅療養中の患者も同じく,死亡の瞬間に医師や看護師が立ち会うことができなくても,死亡当日や前日に,診察や訪問看護を行うことで,家族のつらさを軽減し,家族の看取りを支援できうる.

死亡確認は日本では医師法第20条で医師の業務として定められており,脳死判定を除いて,いわゆる死の三徴候(呼吸の不可逆的停止,心臓の不可逆的停止,瞳孔散大)で,慣習的に死亡を確認している11).しかし,患者の療養の場所にかかわらず,実際は医師の死亡確認時刻と実際の患者の死亡時刻は異なり,死亡診断書には死亡時刻を記入するように定められている12).また,患者の死亡の瞬間に,診療を継続している医師が立ち会うことを,療養の場に限らずあらゆる規則上求められてはいない.

本研究の結果から,勤務時間以外に過半数の患者の死亡は起こっており,常時診療を求められる医師には過大な労働時間と心身の負担がある13).医師のバーンアウトを予防するために,教育やピアサポート,トレーニングを行う介入の有用性も報告されているが14),実際の労働時間を減らす必要がある.患者の実際の死亡からある程度時間が経過していても,診療を継続していた医師にとって負担のない時間に,死亡確認を行うことで医師の心的負担と時間外労働を軽減できるかもしれない.

本研究の限界は,1)積極的に在宅療養と緩和ケアを行っている診療所を対象とした調査であったため,結果を一般化できない,2)在宅医療を受けた患者の意向は調査されなかったため,自宅で死亡した患者が自分自身が望んだ場所で過ごせたかはわからず,3)家族(遺族)の調査を行っていないため,患者の死亡時の医師や看護師の立ち会いの有無が及ぼす,家族への心的な影響を評価できない,4)死亡直前3日間の気持ちの穏やかさは,医師による代理評価であるため,患者の状態を正確に反映していない可能性がある.

結論

本研究の結果から,自宅で亡くなった患者のほとんどは家族と同居し,過半数の患者は時間外に亡くなり,死亡時の医師や看護師の立ち会いは10%未満であった.在宅療養に関わる医師や看護師が,患者の死亡の瞬間に立ち会うために長時間待機して実働することや,医師が迅速に死亡確認を行う必要はない.

研究資金

筑波大学教育基盤研究費.

利益相反

全著者に申告すべき利益相反なし

著者貢献

新城,清水,濵野は原稿の起草,研究の構想およびデザイン,研究データの収集および解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;三宅,田村,遠矢,白山,松木,石川,村岡は研究の構想およびデザイン,研究データの収集および解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2020日本緩和医療学会
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