Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
一般病棟に勤務する看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向と終末期ケアへの態度との関連
鈴木 慈子 古瀬 みどり
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2023 年 18 巻 1 号 p. 79-87

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Abstract

【目的】看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向と終末期ケアへの態度との関連を明らかにする.【方法】一般病棟勤務の実務経験3年以上の看護師を対象にWEBによる自記式アンケート調査を行った.【結果】239名を分析対象とした.看護師の曖昧さへの態度得点は〈曖昧さへの統制〉〈曖昧さへの享受〉が高く,感情対処傾向は〈両感情調整対処〉が最も高かった.〈死にゆく患者へのケアの前向きさ〉と最も関連がみとめられたのは〈曖昧さへの享受〉であり,〈患者・家族を中心とするケアの認識〉と最も関連がみとめられたのは〈両感情調整対処〉だった.【結論】一般病棟に勤務する看護師の終末期ケアへの態度を高めるには,患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さを肯定的にとらえ関与する態度を育み,また患者と自己の両方の感情にバランスよく対処する力を育むことの必要性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: We clarified the relationship between attitudes towards ambiguity in nurses’ communication with patients and families, emotional coping strategies and attitudes towards end-of-life care among nurses in general wards. Methods: Requests for participation in a survey were sent to nurses working in general wards with 3 or more years of work experience. The survey was in the form of an online self-administered questionnaire. Results: The responses of the 239 nurses who answered the survey were subject to analysis. Among nurses’ attitudes towards ambiguity, the highest scores were for “control of ambiguity” followed by “enjoyment of ambiguity.” Among emotional coping strategies, the highest scores were for “regulating both patients’ and one’s own emotions.” “Positive attitudes toward caring for dying persons” was most significantly associated with “enjoyment of ambiguity.” “Recognition of caring for the pivot dying persons and his families” was most significantly associated with “regulating both patients’ and one’s own emotions.” Conclusion: The results suggest that nurses working in general wards may need to foster attitudes towards “enjoyment of ambiguity” in communication with patients and families, and also coping abilities “regulating both patients’ and one’s own emotions”, so that they can enhance the attitude toward end-of-life care.

緒言

わが国は高齢多死社会を迎えており,終末期医療における意思決定や,救急医療現場での終末期医療,在宅や高齢者施設での看取りのあり方が議論されている1.死亡の場所が病院である割合は1990年代より70%以上で推移しており,2020年には68.3%とやや減少したものの病院で最期を迎える割合は依然多い2.また,緩和ケア病棟数,病床数は増加傾向にあるが,そこで死亡したがん患者の割合は13.3%との報告があり3,がん以外の疾患も含めると一般病棟での終末期ケアのニーズは高い状態が続いているといえる.

一般病棟における終末期ケアは,治療期とは性質の異なる看護が求められ,看護師はストレスやジレンマを抱えている4.とくに患者・家族とのコミュニケーションについては経験年数問わず困難感が高く58,学習ニーズも高い9ことが報告されている.

終末期の患者・家族とのコミュニケーションにおいて,看護師は,死に関する問題に対処するのが最も困難でスキルが足りないと感じている10.「あとどのくらい生きられるか」などとスピリチュアルな問いを投げかける患者に「どのように答えるか」,看取りの場面で悲しんでいる家族に対し「どのように声をかければよいかわからない」というような苦悩が心身の負担を強くし,多くの看護師がストレスを感じている11,12.このような終末期の患者・家族から発せられる必ずしも解決できない,あるいは明確な答えがない疑問に対応しようとする際に,看護師は何をすべきかわからない心地悪さや確信のなさを認め曖昧さに直面する13.曖昧さに非寛容な者は,価値判断の局面においてしばしば現実を無視し白か黒かをはっきりさせようと早急な結論に達する傾向があるとされており14,曖昧さに対する心地悪さが患者と看護師の間の有意義な対話の機会を減少させると指摘されている15.また,看護師は患者・家族の感情への対処のみならず自分自身の感情への対処に困難を認識しており,無力感,絶望感,悲しみなどのネガティブな感情は患者とのコミュニケーションをより困難にするとされている16.とくに終末期は非終末期に比べて看護師の感情労働量は有意に多く17,看護師は相手の気持ちを思いやり共感的に対応しながら自身の感情と葛藤していることや18,否定感情が看護行動に強く影響することが報告されている19.これらのことから,看護師が患者・家族とのコミュニケーションで直面する曖昧さや,患者・家族および自己の感情をどのようにとらえ対処するかにより,終末期の患者・家族との向き合い方やケアへの考え方に影響を及ぼす可能性があると考える.

海外では,医師や医学生を対象に曖昧さや不確実性への耐性と,燃えつきや患者への対応などとの関連について報告が散見されるが2024,看護師を対象とした定量的な調査は見当たらない.国内では,大学生25,26や心理セラピスト27を対象とした曖昧さへの態度の研究が重ねられているが,看護師を対象とした研究は精神科看護師28の報告1件のみである.また,看護師の感情対処について一般病棟看護師を対象とした報告はある29が,終末期ケアに焦点をあてた検討はされていない.一般病棟看護師の終末期ケアへの態度については年齢や経験年数30,死生観や困難感30,31,看取り経験31,看護師のグリーフワーク32などとの関連が明らかにされているが,看護師の曖昧さへの態度や感情対処との関連を検討した報告はない.

本研究では,一般病棟に勤務する看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける看護師の曖昧さへの態度および感情対処傾向を明らかにし,終末期ケアへの態度との関連を検討することを目的とした.これにより,終末期ケアにおいて必ずしも解決できない曖昧な状況と直面し感情の葛藤がありながらも,患者・家族と向き合おうとする看護師への支援の示唆を得られると考える.

方法

用語の操作的定義

看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度:西村の曖昧さへの態度の定義25をもとに,「看護師が患者・家族とのコミュニケーションにおいて曖昧さに直面したときの認知的,情緒的パターン」とした.

看護師の感情対処傾向:金子らの看護師版感情対処傾向尺度の定義29をもとに,「対患者・家族関係における感情体験への状況的対処の方法」とした.

終末期ケアへの態度:ターミナルケア尺度 日本語版(FATCOD-Form B-J)で使用されたFrommeltの定義33をもとに,「個人が終末期ケアに対して持つ考えや感情」とした.

研究対象

全国の病床数200床以上の病院から便宜的に抽出した16施設のうち,研究協力に承諾の得られた12施設(特定機能病院3施設,地域医療支援病院4施設,一般病院5施設)の一般病棟に勤務する実務経験3年以上の看護師747名を対象とした.看護師長以上の管理者は対象から除いた.

調査方法

看護管理者に研究の趣旨を説明し,研究協力に承諾した施設に対し調査依頼が可能な対象者数を確認のうえ,対象者用のWEBアンケート説明書を送付した.対象者へは看護部の担当者を通じて説明書を配布してもらい,記載されたURLまたはQRコードからWEBアンケートに無記名で回答してもらった.調査期間は2021年6月18日から9月25日であった.

調査項目

1. 対象者の属性

性別,年齢,看護実務経験年数,最終学歴,所属病棟,終末期ケア経験,緩和ケア病棟および病床の勤務経験,認定および専門看護師資格の有無,終末期のコミュニケーションに関する院内・院外研修受講の有無,身近な人の看取り経験の有無を尋ねた.

2. 看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度

看護場面において看護師は,看護の対象である患者・家族の理解と支援に焦点を当てたコミュニケーションを取るため,自身の日常場面とは異なる曖昧さへの態度を取ることが予測される.そのため本研究では,西村が開発した尺度のうち日常場面を想定した曖昧さへの態度尺度25ではなく,看護場面同様に曖昧さへの態度が日常場面とは異なる働きを持つ可能性がある27ことに注目して開発された,「心理面接におけるセラピストの曖昧さへの態度尺度」34を用いた.開発者の許可のもと,教示文を「以下の質問は,あなたが日ごろ患者・家族とコミュニケーションをとっているときにどのように感じたり,考えたりしやすいかについて,たずねるものです」と変更して使用した.〈曖昧さへの不安〉〈曖昧さへの享受〉〈曖昧さへの排除〉〈曖昧さへの統制〉〈曖昧さへの受容〉の5因子29項目からなり,得点が高いほど各因子の傾向が強いことを示す.「まったくあてはまらない」~「非常にあてはまる」の6件法(1~6点)である.一定の信頼性と妥当性が確認されている.

3. 看護師の感情対処傾向

「看護師版感情対処傾向尺度」は対患者関係における看護師の感情体験の対処傾向を測定することを目的に開発され,信頼性と妥当性が確認されている29.〈患者感情優先対処〉〈自己感情優先対処〉〈両感情調整対処〉〈両感情回避対処〉の4因子17項目からなる.「まったくあてはまらない」~「よくあてはまる」の5件法(1~5点)で,下位尺度ごとの特徴から感情対処の傾向を分析するものである.

4. 終末期ケアへの態度

ケア提供者のターミナルケア態度を測定する「ターミナルケア態度尺度 日本語版(FATCOD-B-J)短縮版」を使用した33.日本語版は中井らによって翻訳され,短縮版においても原版の因子を十分反映する信頼性の確認がなされている.〈死にゆく患者へのケアの前向きさ〉〈患者・家族を中心とするケアの認識〉の2因子6項目からなる.「全くそうは思わない」~「非常にそう思う」の5件法(1~5点)で,得点が高いほど終末期ケアに対する態度がより積極的,前向きであることを示す.

分析方法

対象者の属性,看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向,終末期ケアへの態度について記述統計を算出した.次に,終末期ケアへの態度について対象者の属性,看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向との関連を t検定,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した.さらに,終末期ケアへの態度に影響を与える看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度と感情対処傾向を明らかにするため,終末期ケアへの態度を従属変数,看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向を独立変数,対象者の属性を調整変数として重回帰分析を行った.独立変数と調整変数は,単変量解析で p<0.1だった変数を選択して投入した.統計学分析にはIBM SPSS Statistics 25を使用し,有意水準は5%未満とした.

倫理的配慮

調査は無記名とし,対象者ヘ研究目的,方法,研究参加への自由意志,参加の可否により不利益は生じないこと,データ管理と保護について文書にて説明した.さらに,回答後は回答者が特定できないため同意撤回はできないことを説明のうえ,WEBアンケート上の同意確認欄へのチェックをもって研究への参加同意とした.なお,本研究は山形大学医学部倫理審査委員会の承認を得て実施した.

結果

333名(回答率44.6%)から回答があった.そのうち,看護実務経験年数および所属が対象外だったものを除いた239名を分析対象とした.

対象者の属性(表1

女性が87.4%を占め,平均年齢は34.3±8.1(平均±標準偏差)歳,看護実務経験年数の平均は12.0±7.7年だった.

表1 対象者の属性と終末期ケアへの態度との関連(n=239)

看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向,終末期ケアへの態度の下位尺度得点(表2

看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度下位尺度得点の平均値を項目数で割った平均得点を算出した結果,最も高かったのは〈曖昧さへの統制〉と〈曖昧さへの享受〉,次いで〈曖昧さへの不安〉,〈曖昧さへの排除〉,〈曖昧さへの受容〉の順だった.看護師の感情対処傾向は〈両感情調整対処〉が最も高く,次いで〈患者感情優先対処〉,〈自己感情優先対処〉,〈両感情回避対処〉の順だった.終末期ケアへの態度の下位尺度得点の平均値は,〈死にゆく患者へのケアの前向きさ〉10.15±1.90,〈患者・家族を中心とするケアの認識〉11.77±1.90だった.

表2 看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向、終末期ケアへの態度の下位尺度得点(n=239)

対象者の属性と終末期ケアへの態度との関連(表1

終末期ケアへの態度と有意な関連がみられたのは年齢と看護実務経験年数であり,年齢が高く実務経験年数が長いほど〈死にゆく患者へのケアへの前向きさ〉得点が高く,〈患者・家族を中心とするケアの認識〉得点が低かった.また,終末期ケア経験が長いほど〈死にゆく患者へのケアの前向きさ〉得点が有意に高かった.〈患者・家族を中心とするケアの認識〉では女性より男性で有意に得点が高かった.

看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向と終末期ケアへの態度との関連

1. 単変量解析の結果(表3

〈死にゆく患者へのケアへの前向きさ〉は〈曖昧さへの享受〉,〈両感情調整対処〉と有意な正の相関がみられ,〈自己感情優先対処〉と負の相関がみられた.すなわち,曖昧さを享受する態度があり,患者と自己の両感情を調整する傾向があるほど,また自己の感情を優先しない傾向があるほど〈死にゆく患者へのケアの前向きさ〉得点が高いという結果であった.〈患者・家族を中心とするケアの認識〉は〈曖昧さへの不安〉,〈曖昧さへの統制〉と有意な正の相関がみられ,曖昧さに不安を認め統制しようとする態度があるほど得点が高いという結果であった.

表3 看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向と終末期ケアへの態度との関連(単変量解析)(n=239)

2. 多変量解析の結果(表4

単変量解析で p<0.1だった看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向の下位尺度を独立変数,対象者の属性の変数を調整変数として強制投入し重回帰分析を行った.なお,多重共線性を考慮し,独立変数間で強い相関を示した年齢と看護実務経験のうち年齢を除外した.また,VIF(Variance Inflation Factor)値は全変数2.17以下であることを確認した.その結果,〈死にゆく患者へのケアの前向きさ〉と有意な関連がみとめられたのは〈曖昧さへの享受〉,〈曖昧さへの統制〉,〈自己感情優先対処〉,〈両感情調整対処〉であった.曖昧さを統制しようとせず享受し,患者と自己の両感情を調整し自己の感情を優先しない傾向があるほど〈死にゆく患者へのケアの前向きさ〉得点が高いという結果であった.〈患者・家族を中心とするケアの認識〉と有意な関連がみとめられたのは〈曖昧さへの統制〉,〈両感情調整対処〉,〈両感情回避対処〉であった.曖昧さを統制し,患者と自己の両感情を回避せず調整する傾向があるほど〈患者・家族を中心とするケアの認識〉得点が高いという結果であった.

表4 看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向と終末期ケアへの態度との関連(多変量解析)(n=239)

考察

看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向の特徴

看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度で平均得点の高かった〈曖昧さへの享受〉と〈曖昧さへの統制〉は,一般病棟の看護師が患者・家族とのコミュニケーションにおいて取りやすい態度であると考えられる.〈曖昧さへの享受〉は曖昧さを魅力的なものと評価し関与していくことの楽しみを見出す傾向であり25,心理面接においては探索や考えをめぐらせるといった能動的な働きをもつとされている27.〈曖昧さへの統制〉は曖昧な状況を否定的に評価し知的に把握・対処しようとする傾向であるが25,心理面接では判断や対処に役立つとされている27.この二つの態度は,曖昧さへの評価は異なるが,曖昧さをそのままにしておくのではなく何らかの形で関与していこうとする側面は共通であり,状況を把握し問題の原因を見つけようと再検討する積極的対処につながることが示唆されている35.患者・家族とのコミュニケーションにおいて,看護師は,曖昧さに対するとらえ方はさまざまであっても,患者・家族にとって有益なケアにつながるよう,さらなる情報収集や検討を繰り返すなど積極的に対処しようとしている可能性が考えられた.

看護師の感情対処傾向で最も平均得点が高かった〈両感情調整対処〉は,先行研究でもほぼ同様の結果が示されている29.この感情対処は患者への共感性が高くバーンアウトに予防的であるとされており29,多くの看護師は感情労働に示されるように患者と自己の両方の感情に折り合いをつけながら看護を行っていると考えられる.

看護師の患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さへの態度および感情対処傾向と終末期ケアへの態度との関連

〈死にゆく患者へのケアの前向きさ〉について,最も関連が認められた〈曖昧さへの享受〉の態度は,再検討や状況を変える努力をするという積極的対処を促すことが示唆されている35.患者・家族とのコミュニケーションにおいて明確な答えが得られない中でも,色々な角度や可能性から関心を寄せて関わる姿勢がケアの前向きさにつながると考える.一方,負の関連がみられた〈曖昧さへの統制〉は,対策を立て問題の原因を見つけようとする積極的な対処行動を促すことが示唆されている35が,曖昧さに対する評価は否定的な態度である.そのため,曖昧さに直面する場面でのケアへの前向きさにはつながりにくいと考える.また,感情対処傾向の〈自己感情優先対処〉は,自己感情への自覚的な認識による対処行動を取っていない可能性があるとされ,共感性が低いことからも感情面での防衛や患者からの逃避を引き起こすことが懸念されている29.〈自己感情優先対処〉と負の関連,〈両感情調整対処〉と正の関連がみられた結果からも,自己の感情優先の対処ではなく,患者と自己の両感情にバランスよく対処できることで,患者から逃げずにその場に居続けることにつながると考える.これらのことから,死が迫った時期や死に関する話題などで戸惑いや困難を感じる場面においてケアへの前向きさを保つには,その曖昧な状況を肯定的にとらえるかあるいは否定的にとらえたとしても,その自己の感情を客観的にとらえるとともに患者の感情にも意識を向けバランスよく対処する必要性が示唆された.

〈患者・家族を中心とするケアの認識〉については,〈曖昧さへの統制〉との間に〈死にゆく患者へのケアの前向きさ〉とは逆の関連がみられた.この結果から,曖昧さへの評価が否定的であることでケアの前向きさにはつながりにくいが,積極的な対処が行える態度として患者・家族中心のケアにつながる可能性があるため,今後検討を要す.また,感情対処傾向で最も関連がみられたのは〈両感情調整対処〉であり,逆の感情対処傾向である〈両感情回避対処〉は負の関連を示した.先行研究より,終末期ケアで医師や看護師は自分の感情を守るために心理的苦痛を表す患者と気づかないうちに距離を取る36ことや,否定的な感情を抱いた際に看護行動として感情を伴う関わりを避けるが,自分の感情を管理し患者を知ろうとする姿勢はうかがえることが明らかになっている19.これらのことから,曖昧さを否定的にとらえていてもその感情を管理しながら状況把握や問題解決にあたる態度があり,患者と自己の両感情に対し避けることなくバランスよく対処できることで,患者・家族を中心としたケアの認識が高まることが示唆された.

以上の結果から,終末期ケアへの態度を高めるには,患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さに対して肯定的に評価し関与する〈曖昧さへの享受〉の態度を育むこと,また〈自己感情優先対処〉〈両感情回避対処〉ではなく患者と自己の〈両感情調整対処〉を行う力を育むことの必要性が示唆された.Stilosらは,決定が困難なときやどうしてよいかわからない状況で曖昧さとともにあることは看護師にとって必要な能力であり,曖昧な状況でどのように反応するかを認識するのを助けるためには内省を看護実践に統合すべきであると述べている13.また中嶋らは,曖昧さに対して適応していくためには曖昧さに対する寛容の程度に注目するよりも自分自身が曖昧さに対してどのような態度を取っているかを意識し,それらに対する対処行動を主体的に選択していくことが望ましいとしている35.国内外の先行研究により,内省の実践により曖昧さを認識すること22や,認知再構成法のプログラムにより効果的な感情対処方法を身につける37ことは,否定的な感情への対処につながり,ストレスの軽減や燃えつきを予防する可能性が示唆されている38.患者・家族とのコミュニケーションにおいて解決不能で答えのない曖昧さに直面したときの自身の反応や感情に気づくこと,またそれに対する効果的な対処方法を習得することは,終末期ケアへの態度を高めることにつながり,メンタルヘルスにも寄与する可能性があると考える.

本研究の限界と課題

本研究は,心理面接におけるセラピストの曖昧さへの態度尺度を用いており,看護場面における曖昧さへの態度が十分に反映されていない可能性がある.また,先行研究で曖昧さへの態度や感情対処傾向と関連のあったバーンアウトなどの精神的健康による影響について検討できていない.しかし,終末期ケアへの態度に影響する曖昧さへの態度と感情対処に関する新たな知見が得られた.今後は質的な側面から看護場面における曖昧さの様相を明らかにし,看護ケアの質向上につながる曖昧さへの態度と教育的介入について検討していくことが課題である.

結論

一般病棟に勤務する看護師の終末期ケアへの態度を高めるには,患者・家族とのコミュニケーションにおける曖昧さに対して肯定的に評価し関与する〈曖昧さへの享受〉の態度を育むこと,また患者と自己の〈両感情調整対処〉をバランスよく行う力を育むことの必要性が示唆された.

謝辞

本研究にご協力いただきました看護師および看護管理者,看護部ご担当者の皆様に心より御礼申し上げます.なお,本研究は一般社団法人日本看護系大学協会2021年度研究助成事業「若手研究者研究助成」の助成を受けて実施しました.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

鈴木は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献した.古瀬は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な遂行に貢献した.すべての著者は,投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
© 2023 日本緩和医療学会
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