Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
「多職種連携におけるコーディネート力尺度(MCAS)」の開発—がん医療に携わる医療専門職を対象とした信頼性と妥当性の検討—
飯岡 由紀子 大場 良子廣田 千穂森住 美幸小菅 由美真鍋 育子清崎 浩一馬場 知子関谷 大輝小倉 泰憲儀賀 理暁黒澤 永
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2023 年 18 巻 1 号 p. 1-10

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Abstract

【目的】「多職種連携におけるコーディネート力尺度(MCAS)」を開発し,がん医療に携わる医療専門職を対象に信頼性と妥当性を検討することである.【方法】MCAS原案を作成し,医療専門職などを対象に内容妥当性・表面妥当性を検討した.さらに,医療機関に勤務しがん医療に携わる医療専門職者を対象に横断的質問紙調査を行った.探索的因子分析,既知グループ法,α係数算出,併存妥当性を検討した.研究倫理審査の承認を得て行った.【結果】MCASは探索的因子分析により4因子([討議を促進する力][基盤となる関係構築][セルフコントロール][課題解決に向けた取り組み])33項目となった.多職種連携研修会参加有,経験年数が長いほうがMCAS得点は有意に高かった.尺度全体および各因子のα係数は.80以上だった.併存妥当性検討は中程度の相関だった.【結論】MCASは尺度開発段階として信頼性と妥当性が概ね確保された.

Translated Abstract

Purpose: The purpose of this study is to develop a “Multidisciplinary Collaboration Ability Scale (MCAS)” and examine the reliability and validity for medical professionals engaged in cancer care. Method: The first MCAS draft was created, and the content validity and surface validity of the scale were examined for medical professionals. Next, a cross-sectional questionnaire survey was conducted on medical professionals engaged in cancer care who worked in medical institutions. Exploratory factor analysis and known-groups technique were carried out, coefficient α calculated, and concurrent validity examined. This study was conducted with the approval of the research ethics review. Result: Exploratory factor analysis resulted in 33 items of 4 factors (ability to promote discussion, foundational relationship building, self-control, and problem-solving activities). The MCAS score was significantly higher for those who had participated in a multidisciplinary workshop and those who had more years of experience. Coefficient α for the entire scale and for each factor was .80 and above. Examination of concurrent validity showed a moderate correlation. Conclusion: The reliability and validity of MCAS in its development stage were generally verified.

緒言

日本は高齢社会により複数の基礎疾患を有した高齢者が増加し,医療の複雑さが増している.また,医療の発展により治療法は多岐にわたり,高度な医療技術が求められている.だが,病院は専門分化・機能分化による縦割り・横割りの壁が厚く,標準化や情報の共有がしにくいなどの課題が言及されている1.このような課題への対応には,医師・看護師・薬剤師など多様な医療専門職が協働すること,つまり多職種連携が重要である.医療専門職者が連携の認識を高めて協働するinterprofessional work(IPW)やinterprofessional education(IPE)の概念が普及した.IPWは専門職の協働,専門職種間の協働実践であり,「二つ以上の異なる専門職が患者・クライエントとその家族とともにチームとして,彼らのニーズやゴールに向かって協働すること」と定義され2,文部科学省医学教育モデル・コア・カリキュラムや,看護実践能力の到達目標などに導入され3,多職種連携を基盤としたチーム医療の実現が期待されている.

しかしIPWのあり方は,構成メンバー,環境,緊急度などによって容易に変化しやすく,協働する各職種の倫理観や価値観も影響し,多くの不確実性が伴う4.また,職種間の意見対立や葛藤が生じやすく,コミュニケーション,チーム機能,タイミングのズレなどの多様な困難が報告されている5.そのため,IPWの発展に向け,そのための教育(IPE)が徐々に発展してきた.IPEは学部教育への導入6や,在宅医療推進プログラム7,医療の成果と患者の安全を高めるためのTeam-STEPPS®などが開発されている.Team-STEPPS®は,患者の安全性の向上を目指したコミュニケーショントレーニング中心のプログラムである.コミュニケーションの著しい改善,臨床エラー率の低下,患者の満足度の改善が確認され8,医療機関で実施されている.

IPWでは患者の安全性の向上だけでなく,患者・家族のQuality of Life(QOL)改善や医療従事者の職務満足度を高めるためには,医療専門職をつなぎ合わせ,活動が円滑になるような働きかけを行う能力も含めることが重要と考える.IPWやチーム医療は,タックマンモデルをはじめ多様な概念やモデルが開発され2,医療従事者に求められる能力も多岐にわたり,さまざまなモデルが示されている.野中は,構成員相互の関係性の密度に着目し,第一段階(Linkage),第二段階(Coordinate),第三段階(Cooperation),第四段階(Collaboration)を提唱した9.本研究では医療専門職をつなぎ合わせ,活動の活性化に向けた段階の能力に着目し,多職種連携におけるコーディネート力に焦点を当てた.コーディネート力は,とくに地域包括ケアで重視される10が,医療機関における多職種連携に特化して捉える研究は少ない.

多職種連携の発展には,その状況を把握する尺度が重要となる.既存の多職種連携に関する尺度では,コーディネーションに特化した尺度はあるが,主治医など職種を特化した設問が設定され,汎用性の課題がある11.そのほか,介護施設や在宅ケアに特化した尺度1214,退院支援や地域連携の状況に特化した尺度1517,コミュニケーションに焦点があたる尺度18,19,IPWの能力すべてを自己評価する尺度20,21などであり,医療機関の多職種連携におけるコーディネート力に特化した尺度はない.この尺度が開発されると,医療専門職者のコーディネート力把握だけでなく,コーディネート力向上のための教育への示唆が得られ,その教育効果を可視化できると考える.多職種連携は多様な医療分野で必要とされ広範囲にわたるが,領域をある程度特化して研究を遂行する必要がある.そこで,日本の死因の首位であり,国民の半数が生涯で罹患するがんに焦点をあて,がん医療に携わる医療専門職を対象として尺度を開発することとした.

本研究の目的は,「多職種連携におけるコーディネート力尺度(Multidisciplinary Collaboration Ability Scale: MCAS)」を開発し,がん医療に携わる医療専門職を対象として信頼性と妥当性を検討することである.多職種連携におけるコーディネート力は,がん患者とその家族の課題解決に向けて,専門職間を結びつけ,多職種の協働を円滑にする能力と捉える.

方法

予備調査

1. アイテムプールの開発

多職種連携に関する既存研究の文献検討と,病院勤務中のがん医療に携わる医療専門職者6名(医師2名,看護師3名,医療ソーシャルワーカー1名),研究者5名(看護学3名,心理学2名)によるブレインストーミングによりアイテムプールを作成した.文献検討では,チーム医療や多職種連携が文化の影響があることより日本語尺度を検討することとし22,検索語「チーム医療」「多職種連携」「尺度開発」を用いた検索とハンドサーチによる検討により,14の多職種連携に関する尺度開発論文を抽出し,検討した1121,2325.ブレインストーミング前には,多職種連携に関する勉強会(チーム医療,IPW,組織論,ファシリテーションなど)と理解を深めるための討議を4回行い,基盤として考えられる知識の統一化をはかった.その後,医療機関においてコーディネート力を示す行動をポストイットに箇条書きにした.類似性が高いポストイットをまとめ,共通する内容を記載し,類似性と相違性を踏まえて整理した.これらの作業を数回繰り返し,項目を洗練させた.

2. 内容妥当性・表面妥当性

内容妥当性は,医療機関の医療専門職者4名(医師2名,看護師3名)と看護学研究者1名と心理学研究者2名を対象に,尺度要素とその説明を提示し,各項目にあてはまる要素を選択する設問を設けて検討した.また,わかりにくい・修正した方がよい表現を記載する欄を設けた.表面妥当性は医療専門職者10名(看護師10名)に,質問紙への回答,回答時間,わかりにくい・修正した方がよい表現の自由記載欄への回答を依頼した.

本調査

1. 研究デザイン

無記名横断的質問紙調査

2. 研究対象者

A県内のがん診療連携拠点病院のうち研究協力同意が得られた3施設のがん医療に携わる医療専門職者(医師・看護師・薬剤師・理学療法士・作業療法士・MSW・管理栄養士・臨床心理士)を対象とした.

3. データ収集方法

研究協力病院の施設長に研究概要の説明を行い,同意書への署名にて同意を得た後,各部署(看護部,医局等)の代表者に質問紙を郵送し,医療専門職者への配布を依頼した.協力施設の各部署に回収箱を設置して,医療専門職者が自由意思で投函し,質問紙を回収した.データ収集期間は2019年6~8月であった.

4. データ収集内容

  • ①多職種連携におけるコーディネート力尺度(MCAS):内容妥当性と表面妥当性検討後の40項目を用いた.
  • ②チームアプローチ評価尺度(TAAS):併存妥当性は多職種連携に関する確立した評価法が必要となるが,適した尺度を確定できなかった.そのため,極力同様の現象を測定する尺度としてTAASを採用した.TAASはチームメンバーの協働を目指し個人の認識からチーム医療の状況を捉える尺度であり,多職種連携に対する認識を内包すると考えた.TAASは,信頼性と妥当性が検証され,下位尺度は「チームの機能」「チームのコミュニケーション」「メンバーシップ」「チームへの貢献」の27項目から成り,「全くそう思わない」から「とてもそう思う」の4段階で回答する24
  • ③対象者の属性:性別,年代,職種,職位,がん医療経験年数,多職種連携に関する研修会の参加経験の有無の8項目で構成した.

5. 分析方法

統計パッケージSPSS ver26にて分析した.構成概念妥当性は,探索的因子分析と既知グループ法で検討した.既知グループ法は,正規性の検定を踏まえ,Mann–WhitneyのU検定を行った.信頼性は内的整合性の検討としてクロンバックα係数を算出した.基準関連妥当性は併存妥当性の検討としてピアソンの積率相関係数を算出した.有意水準は5%とした.

6. 倫理的配慮

質問紙は無記名とし,回収した質問紙はID番号を付与して管理した.研究者所属施設の研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号30094).

結果

予備調査

アイテムプールは,最終的に6つの要素の40項目となった(〈他者の尊重〉〈セルフコントロール〉〈コミュニケーション〉〈課題を明確にする力〉〈課題へ対応する力〉〈討議を促進する力〉).回答の選択肢は「とてもあてはまる:5」から「あてはまらない:1」の5段階のリッカート尺度とした.

内容妥当性の検討では,要素と項目の一致率が低い項目を再度検討し,要素をより明確に表す表現に修正した.自由記載には対象や場面設定の不明瞭さに関する指摘が多かったため,より限定的で,簡潔明瞭な表現に修正した.表面妥当性の検討では,平均回答時間12分(6~20分)であり,教示文の不明瞭さや他職種と同職種がわかりにくいなどの意見に従い,表現を修正した.

本調査

質問紙は2943部配布し,1297部回収した(回収率44.1%).そのうち,がん医療に携わっていない医療者の498部と,無効回答が多い10部の回答を除外し,789部を分析対象とした.

1. 対象者の属性(表1)

対象者の年代は,20代262名(33.2%),30代227名(28.8%),40代179名(22.7%)の順に多かった.職種は,看護師605名(76.7%),医師92名(11.7%),薬剤師41名(5.2%)の順に多かった.職位は,スタッフ669名(84.8%),管理職99名(12.5%)だった.多職種連携の研修に参加経験があるのは340名(43.1%)だった.がん医療平均経験年数は12.2年(standard deviation: SD9.8)だった.

表1 対象者の特性 (n=789)

2. 構成概念妥当性(探索的因子分析,既知グループ法)の検討

MCASの記述統計量を表2に示した.平均値が高い項目は「相手とよい関係が築けるようにコミュニケーションをとる」「同職種から患者の必要な情報を収集する」「相手の状況を考えて臨機応変に行動する」などであり,関係構築のためのコミュニケーションや状況に応じた対応などの項目だった.平均値が低い項目は「つい感情的な態度をとる*」「カンファレンスで発言の少ない人に発言する機会を設ける」「カンファレンスで医療に関してアイディアを引き出すように問いかける」などであり,カンファレンスの討議を促進する内容などの項目だった(*逆転項目).

表2 多職種連携におけるコーディネート力尺度の項目別記述統計量

探索的因子分析では,天井効果とフロア効果を検討し,Item-Total相関は0.45~0.76の範囲にあり,削除対象となる項目はなかった.固有値,スクリープロットなどを検討して因子数を検討し,4因子構造が適切と判断した.因子間相関が想定されプロマックス回転を採用した.共通性0.3以下となった「つい上下関係を意識してしまう*」「自分の都合を常に優先する*」は逆転項目であり,表現が極端なため共通性が低いと想定され削除した.また,因子負荷量0.4以下の5項目「自分の感情をコントロールする」「患者の医療に関する課題を明らかにする」「患者の課題解決のために担う役割をはっきりと決める」「患者の医療に関する課題の解決策を考える」「同職種に自分の意見を明確に伝える」を削除した.最終的に重み付き最小2乗法プロマックス回転にて4因子33項目となり,累積寄与率は54.16%だった(表3).

表3 多職種連携におけるコーディネート力尺度の探索的因子分析 (n=789)

第1因子は「カンファレンスで話が横道に逸れたときは,軌道修正する」「カンファレンスで発言の少ない人に発言する機会を設ける」などの11項目で,カンファレンスで討議が活発になるような工夫と,役割分担の話し合い,他職種への意見発信の内容だった.第1因子は,因子分析前の要素〈討議を促進する力〉の10項目が含まれ,討議を促進するスキルに関する内容と考えられ,[討議を促進する力]と命名した.

第2因子は「同職種間で役割をフォローしあう」「相手とよい関係が築けるようにコミュニケーションをとる」などの9項目で,相手や自分の立場や役割の尊重,相手の状況を考慮した臨機応変な対応,関係構築のためのコミュニケーションなどの内容だった.因子分析前の要素が複数含まれ,項目内容も多岐にわたった.第2因子に共通する内容は,多職種連携・協働するうえで,基盤として備えておく態度や取り組みに関することと解釈されたため,[基盤となる関係構築]と命名した.

第3因子は「受容的な態度で相手の意見を聴く」「自分の考えや意見が常に正しいと決めつけない」などの6項目で,自分を客観的に捉えながら,相手の意見を受けとめ,冷静に対応することに関する内容だった.第3因子は,因子分析前の要素〈セルフコントロール〉が4項目含まれ,[セルフコントロール]と命名した.

第4因子は「患者の医療に関するアセスメントを他職種・同職種と話し合う」「他職種と課題解決のために患者の医療について相談する」などの7項目で,患者の医療に関する話し合い,患者の課題に焦点をあてた情報収集,話し合う機会の設定,計画立案などの内容だった.第4因子は,因子分析前の要素〈課題を明確にする力〉4項目,〈課題に対応する力〉2項目が含まれ,[課題解決に向けた取り組み]と命名した.

探索的因子分析後のMCAS全体と下位尺度の合計得点を項目数で調整すると,[基盤となる関係構築]の平均値が4.1(SD0.5)と最も高く,[討議を促進する力]の平均値が3.3(SD0.8)と最も低かった(表3).

既知グループ法では,多職種連携研修参加経験の有無と,平均値で2群に分けた経験年数でMCAS得点を比較した.多職種連携研修参加経験がある方が,経験年数が長い方が,MCAS合計得点は有意に高かった(z=−5.12,p<0.001:z=−2.87,p=0.004)(表4).

表4 多職種連携におけるコーディネート力尺度の既知グループ法結果

3. 信頼性(内的整合性)の検討

尺度全体のα係数は0.95,各因子は0.80~0.94だった(表3).

4. 基準関連妥当性(併存妥当性)の検討

MCASとTAASとの相関係数は0.54であり,下位尺度の相関係数は0.29~0.50の範囲だった(表5).

表5 多職種連携におけるコーディネート力尺度とチームアプローチ評価尺度との相関係数 (n=789)

考察

MCASの信頼性と妥当性の検討

探索的因子分析では[討議を促進する力][セルフコントロール]は因子分析前の要素の項目が多く同じ因子名となったが,[課題解決に向けた取り組み]は〈課題を明確にする力〉と〈課題に対応する力〉の項目が混在した.[基盤となる関係構築]には,〈課題に対応する力〉〈課題を明確にする力〉〈コミュニケーション〉〈他者の尊重〉と多様な要素の項目で構成された.〈他者の尊重〉は思いやりと敬意を表すことであり,バーバル・ノンバーバル〈コミュニケーション〉に反映されると考えられ,これらの明確な区別は困難である.アイテムプール開発段階では概念的理解を重視して区別したが,実臨床ではこれらの区別は難しく,同一現象として捉えられるためと考える.また,〈課題を明確にする力〉と〈課題に対応する力〉には,課題に向けた直接的な取り組みではなく,情報共有やフォローや相談などの項目が含まれた.つまり,因子分析結果は,課題を意識した取り組みの項目は[課題解決に向けた取り組み]に,課題への認識は強くないが課題解決に向けた基本的な取り組みの項目は[基盤となる関係構築]に含まれた.臨床において患者の課題解決に向けた行動は意図的な取り組みとして意識化されるが,多職種連携はこのような意図的な行動だけでなく,通常の業務として関係を深める取り組みが必要であり,この後者の内容が[基盤となる関係構築]に含まれたと考える.

また既知グループ法は,多職種連携研修会の参加経験の有無と経験年数により,MCAS得点の有意な差が示され,構成概念妥当性は支持されたと考える.

併存妥当性における相関係数の明確な基準は示されていないが,本研究では中程度の有意な正の相関が認められ,尺度開発段階の基準関連妥当性は概ね確保されたと考える.MCASの[セルフコントロール][討議を促進する力]と,TAASの下位尺度との相関係数は比較的低かった.これは,TAASがチーム医療の状況を把握する尺度であり,自分の考えや態度を捉え直す項目やカンファレンスに特化した項目は含まれないためと考える.これらの項目は,コーディネート力をより反映した項目と考える.

一般的にα係数の基準値は0.7~0.8以上とされ26,MCAS全体と各因子は0.8以上であり,内的整合性は確保できたと考える.

従って,MCASは尺度開発段階として信頼性と妥当性が概ね確保された.

MCASの活用

本研究は,医療機関内の多職種連携に焦点をあて,コーディネート力を測定する尺度を開発した.多職種連携に関連する尺度は多様に開発されるが,地域包括ケアを主軸に置き,介護職などを含めた多職種連携を想定することが多い14,16.また,専門職の役割を理解する,話しやすい雰囲気づくりなどの項目が含まれ,ネットワークの構築が重要視されている16.地域包括ケアでは同一組織内での連携にとどまらず,新たな人間関係を構築しつつケアを検討する必要があり,いわゆる「顔の見える関係」構築を重視する必要性が高い27.だが,医療機関内の多職種連携を捉える場合,互いが顔見知りだったり,所属部署への親近感を抱いている場合があり,組織の理念を共有し日常業務で多職種連携を意識し,関係構築に向けた活動を行いやすいため,[基盤となる関係構築]を実施できるという認識が高かったと考える.Reevesらは,coordinationをnetworkingの次の段階と位置付けている28.また,Shawらは統合の程度を3段階で示し,coordinationはlinkageの次の段階と位置付けている29.コーディネート力は,networkingやlinkageのような,顔の見える関係構築というより,信頼関係の構築や課題解決に向けた取り組みを意味していると考える.本尺度では,[課題解決に向けた取り組み]や[討議を促進する力]などを備えており,それらを反映した項目で構成されたと考える.

加えて,[討議を促進する力]の平均値は他と比較して低かった.[討議を促進する力]は,カンファレンスの討議の展開に焦点を当てた項目が多い.多職種連携に関する尺度には,カンファレンスに関する項目を含めた尺度はあるが15,16,23,項目数は少なく,カンファレンスの有無や情報共有に関する内容に限られ,討議の展開に関する項目を含めた尺度はない.がん診療連携拠点病院の指定要件には,キャンサーボードを設置し,定期的に開催することが言及され30,医療機関内では多職種カンファレンスが増加している.多職種カンファレンスは,多角的な検討が行えるが,価値観の相違などによる困難感も報告されている31.本尺度では討議の展開状況を捉えることができ,改善に向けた検討につなげることができ,新規性があると考える.また,[討議を促進する力]は一見するとカンファレンスの司会を担う必要があるように思える.だが,カンファレンスは参加者全員の積極的なコミットメントが重要であり,本尺度の項目内容を意識して参加することで討議が活性化すると考える.カンファレンス後の決定事項や結論がたとえ同じでも,十分な討議が展開されることで参加者の納得が得られ,不全感が緩和する可能性がある32.以上から,[討議を促進する力]は,多職種連携におけるコーディネート力の定義で示した多職種の協働を円滑にすることを目指した内容と考える.

本研究はがん医療の状況を踏まえてアイテムプールを開発し,がん医療に携わる医療従事者を対象として信頼性と妥当性を検討した.しかし,項目の洗練により本尺度の項目にはがん医療に特化した項目が含まれなかった.多職種連携のコーディネート力は領域に特化されるものではないかもしれない.だが,本研究だけで断定できないため,他の領域の医療専門職を対象として信頼性と妥当性を検討する必要がある.一方,既存尺度11,20にて設定されたコーディネーションの項目内容は,本尺度に反映されていると考えた.

研究の限界と今後の課題

本研究で開発したMCASは,尺度開発初期段階における信頼性と妥当性は概ね確保されたと考える.だが,アイテムプールは和文の尺度開発論文から作成したため不足している概念がある可能性がある.再テスト法による安定性などの信頼性や確実な基準関連妥当性が検討されていないこと,対象者バイアスの可能性があるなどの限界がある.今後は,研究などの多様な活用による実用性や利便性の検討と,MCASの経時的変化の検証,カットオフ値の検討による得点分類の検討,そして信頼性と妥当性の更なる検討が必要である.

結論

がん医療に携わる医療専門職を対象としてMCASの信頼性と妥当性を検証した.探索的因子分析により33項目の4因子構造([討議を促進する力][基盤となる関係構築][セルフコントロール][課題解決に向けた取り組み])となった.多職種連携研修会の参加経験の有無と経験年数によりMCAS得点の有意な差が示された.クロンバックα係数はMCAS全体で.95,各因子は0.80~0.94だった.TAASとは中程度の正の相関が認められた.以上から,MCASは尺度開発初期段階として信頼性と妥当性は概ね確保された.

謝辞

本研究にご協力くださいました医療専門職者の皆様に深謝申し上げます.

研究資金

本研究は,埼玉県立大学プロジェクト研究の一環として実施した.

利益相反関係の有無

すべての著者の申請すべき利益相反なし

各著者の貢献内容

飯岡は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の起草に貢献した.大場は研究の構想およびデザイン,研究データの収集・分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.廣田,森住,小菅,真鍋,清崎,馬場は,研究データの収集・分析,研究データの解釈に貢献した.関谷,小倉,儀賀,黒澤は,研究データの解釈に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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