2023 年 18 巻 1 号 p. 67-71
早期からの緩和ケアの導入を目指し,大阪労災病院(以下,当院)では緩和ケアスクリーニングに積極的に取り組んでいる.当院緩和ケア科は漫然とルーチンをこなすのではなく繰り返し評価して改善していくことを重視しており,本邦で日常診療における緩和ケアチームの評価,さらに次の施策を検討した文献に乏しいこともあり,当院入院患者のスクリーニングの結果,施策をどう設定したのか,現状評価と今後の課題について後ろ向きに分析した.緩和ケアチーム介入があった91人はスコア上,すべての症状で改善がみられた.しかし,それが緩和ケアチーム介入自体の効果かは評価できなかった.また,チーム介入できていない患者の存在も示され,対象患者がもれなくチーム介入を受けるためには工夫が必要であると考えられた.スクリーニングは緩和ケアへつながる一つのきっかけにすぎず,今後は緩和ケアチームが患者のために病院全体のセーフティネットとして機能する体制づくりが必要であると考える.
To introduce early palliative care to patients, we have proactively used a palliative care screening tool to identify needs. We have emphasized not doing work in a routine manner, rather seeking to improve by continuous reevaluations. Because of a lack of feedback regarding changes in screening scores and actionable solutions derived from it, we executed a retrospective study about the effectiveness of our palliative care team and the identification of problems. All 91 cases studied meaningfully ameliorated their focused symptoms. However, we could not verify our team’s effectiveness because the backgrounds of patients who were eligible but not involved with our team differed significantly. The current study suggested that some patients missed opportunities to receive palliative care. We need to strengthen the system used with our patients as a safety-net so as not to overlook care opportunities by utilizing more effective screening methodology.
がんは40年以上日本人の死因1位であり,かつ増加中である1).欧米のガイドラインでは,苦痛の軽減と療養生活の質の向上のために早期からの緩和ケアの介入を推奨している2,3).
大阪労災病院(以下,当院)は,がん診療連携拠点病院として早期からの緩和ケアチームの介入に取り組んできた.がん患者に対する緩和ケアスクリーニング件数は,外来・入院を合わせると年間6000件超になる.入院患者では,当院所定の緩和ケアスクリーニングで患者本人が各症状を無症状の0から最悪の10で自己評価し(以下,Numerical Rating Scale: NRS),NRS7以上をつけると緩和ケアチームに介入依頼する.外来ではがん告知,再発,がん治療中止時に緩和ケアチーム看護師が同席し,緩和ケアの説明と入院時と同じ緩和ケアスクリーニングを施行.2021年はがん患者初診1840人に対し,がん患者指導管理料算定で把握できるのが1016人(55.2%)で,さらに早期がん等で算定条件から外れる場合も外来看護師がスクリーニングを行い,NRS7以上または患者ニーズがあった場合に緩和ケアチームに依頼する.
これまで緩和ケアチームの有用性として症状緩和,医療経済,他の医療スタッフとの関係性構築等について報告があり4–6),本邦の緩和ケアチームの質向上の指針作りもなされている7).当院緩和ケア科は漫然とルーチンをこなすのではなく繰り返し評価し改善していくことを重視し8),本邦で日常診療における緩和ケアチーム介入の状況を評価し次の施策を検討した文献に乏しいこともあり,当院の入院時介入の現状評価と今後の課題について分析した.
当研究は当院の看護研究・倫理委員会の承認を得て行った.
研究対象2021年4月~2022年1月に入院し,検査入院を除いた全がん患者.入院時と入院後1週間ごとにスクリーニングを実施(付録図1).
調査内容「生活のしやすさに関する質問票」9)を元に,当院が作成した痛み,吐き気,食欲がない,不眠,倦怠感,便秘・下痢,お腹の張り,むくみ,呼吸がしづらい,気持ちのつらさを評価する質問紙(付録図2)
データ収集方法電子カルテの検索機能で上記期間の緩和ケアスクリーニング結果を抽出
データ分析集計ソフトExcel 2016,統計ソフトR version 3.5.2を使用.統計解析は,独立性の検定はχ2検定,期待度数が5以下の場合はFisherの正確確率検定を使い,2群間のパラメトリック検定は対応がなければウェルチのt検定,あれば対応のあるt検定を使用.有意性はp<0.05とした.
調査期間中の検査入院を含めたがん入院患者総数は2913名であった.1226人(がん入院患者の42.1%)に対して2422回のスクリーニングが実施され,そのうち2回以上の評価(3.4±2.1回[以下,平均値±標準偏差を表す])がある者が561人(45.8%)で,フォロー中の欠測値は存在しない.これらの初回NRS分布は痛み2.3±2.7,倦怠感2.3±2.8,吐き気0.8±2.0,食欲がない2.0±3.0,便秘・下痢1.6±2.6,呼吸がしづらい1.0±2.1,むくみ0.8±2.0,お腹の張り1.1±2.1,夜が眠れない1.9±2.7,気持ちのつらさ3.1±3.2であり,いずれかの症状にNRS7以上があるのが150人(26.7%)であった.気持ちのつらさが最も多く(52.7%),むくみが最も少なかった(11.3%)(表1).この150人中59人が緩和ケアチームに依頼がなかった(以下,チーム非介入群)が,その理由についてはカルテ記載なく不明だった.
さらに,緩和ケアチームに依頼があった91人(以下,介入群)についてチーム介入前,および最終評価時で依頼契機となった症状のNRSはすべての症状で統計的有意性をもって低下し,平均差は痛み4.7,倦怠感3.8,吐き気6.8,食欲がないが5.5,便秘・下痢5.9,呼吸がしづらいは6.0,むくみ5.1,お腹の張りが4.2,不眠が5.3,気持ちのつらさが3.4だった(表2).当院がん患者の平均在院日数約14日に対し,介入期間は中央値13.0日(20.6日±23.4日)であった.
次に,介入群91人と非介入群59人の患者背景について比較した(表3).介入群と非介入群の患者では,性別(p=0.77),年齢(p=0.92)ともに有意差はなかったが,介入群の患者はPSがより悪く(p<0.001),積極的ながん治療を行っていない割合が多く(p<0.001),初回評価から1カ月以内の死亡割合が多かった(p<0.001).
緩和ケアチーム最終評価時の症状はいずれも有意に改善しており,チーム介入は症状改善の一因である可能性があるが,時間経過のほか,主治医や病棟看護師等他の要素の影響も考えられる.またチーム介入群と非介入群では患者背景が異なるため,単純なチーム介入の有無での効果比較はできなかった.
今回,NRS7以上のチーム非介入群が39%おり,必ずしも入院時のスクリーニング結果が緩和ケアチーム介入依頼につながっていないことがわかった.各病棟で適切に対応できていれば必ずしも緩和ケアチームが介入する必要性はないと考えているが,意図せぬもれがないよう機能する体制づくりが必要であると考え,以下の4点を次の施策として挙げた.
一つ目に,緩和ケアスクリーニングの実施タイミングの検討である.早期の苦痛症状把握のため,必ず入院早々にスクリーニングをすること,そしてチーム介入後にも再評価することである.森田は「緩和ケアスクリーニングは,スクリーニングすることが重要ではなくトリアージが重要である」10)と述べており,患者が質問紙に答えさせられたのに何も対応してもらえないという状況にならないよう,対応後の評価まで含めて行う.そのため,漫然と実施するのではなく,スクリーニングと再評価の意義を病棟と共有していく必要がある.
二つ目に,緩和ケアスクリーニングで適格となった患者がもれなく適切に対応されているかチェックする体制を整えることである.これには電子カルテの検索機能を用いた週1回のスクリーニング結果の洗い出しと,NRS7以上の患者に対して適切な緩和ケアが提供されているか病棟に確認し,依頼に至っていないなら理由を明確にすることである.
三つ目に,緩和ケアスクリーニングに答えられない患者のスクリーニング方法の検討である.自己記入式のスクリーニングに答えられないほどの苦痛,認知症,意識障害がある患者は苦痛を十分に評価できない.その場合にスクリーニングする方法を検討できていなかったため,電子カルテの観察項目から拾い出す方法等を検討していく.
四つ目に,緩和ケアチームへのニーズを明確にすることである.スクリーニング高値の患者に限らず,NRSは低く非がん疾患だったが医療者希望の依頼が5例あったことなど,緩和ケアスクリーニングの数値が必ずしも緩和ケアチームの介入の指標でない事例についても今後調査の必要があると思われる.
ほとんどの依頼は患者自身が積極的に緩和ケアチームの介入を望んでいるわけではなく,病棟看護師や主治医のニーズで発信されていた.今回,介入群に状態の悪い患者が多いのも,症状が複雑化して医療者が対応困難になったため緩和ケアチームへの依頼に至ったと予想される.当院緩和ケアチームが主治医や病棟看護師への提案という間接的役割にとどまっているのは,コンサルティ自身の成長を支援し,結果,緩和ケアが拡充されることを期待しているからである.患者の症状改善の有無だけでなく,緩和ケアチームの提案を依頼者であるコンサルティがどのように対応したのかを評価していくことも,緩和ケアチームの今後の活動の方向性を決める重要な視点であると考える.
一方,この報告は当院での実臨床を反映した活動報告であり,単施設の後ろ向き調査で,規定はあるものの,実際のNRSの測定回数,間隔等が完全には遵守されていない.また対象群はなく,上記課題にある全身状態悪化に伴う回答不能例も含まれており,チーム介入自体の改善効果を評価できない.さらに妥当性の検討がされていない質問紙を用いており,今後当院の研究結果の一般化を目指すなら評価ツールの選択に検討を要すると考えている.加えて,当院では緩和ケア介入のカットオフをNRS4でなく11),当院緩和ケア科で対応できる患者数などを考慮しNRS7に設定しており,早期介入と実現可能性の兼ね合いで拡充することも検討している.広報などの患者教育のほか,再発告知などのイベントごとのチームメンバーの同席も行っているが,早期からの緩和ケアを考えるうえで,今後外来も含めた早期かつもれを少なくする戦略策定が必要と考えられる.
当院のがん入院患者は緩和ケアチーム最終評価時のNRS評価で有意に改善していたが,今回の研究ではこの結果が緩和ケアチーム介入自体の効果かは判断できない.現行システムでは必要であるのに介入していない患者の存在が判明し,これは他施設でも同様に問題として存在するはずである.これを把握する施設ごとの体制作りが重要であると考える.
本研究は大阪労災病院スタッフならびに緩和ケアチームメンバーの協力を得て実施された.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
奥田は研究の構想,データの収集,解釈,原稿の起草,河鰭はデータの分析,解釈,知的内容に関わる批判的な推敲,任はデータの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終認証,および研究の説明責任に同意した.