2023 年 18 巻 1 号 p. 49-54
日本バプテスト病院では,ホスピスを中心に,約70名のボランティアが活動している.2020年2月,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行により,多くのホスピス緩和ケア病棟でボランティア活動が休止される中,チームの一員であるボランティアの活動を継続するための方法を模索してきた.直接患者と交流する代わりに,作品や植物を通して季節や社会の風を届ける工夫や,オンラインによるスタッフ会議や遺族会の開催など,新たなボランティア活動の方法を見出すことができた.また,院内COVID-19対策会議にホスピス担当者も参加し,最善のケアのためにはボランティアの存在が重要であることを病院全体で共有した.そのうえで,「COVID-19流行状況に応じたボランティア活動指針」を感染対策チームと共同して作成し,感染対策に配慮したうえでボランティア活動を継続することが可能となった.
At the Japan Baptist Hospital, approximately 70 volunteers are working mainly in hospice. Owing to the coronavirus disease 2019 (COVID-19) outbreak in February 2020, volunteer activities were suspended or severely curtailed at most hospices/palliative care units in Japan. We have been attempting to determine how to continue the volunteer activities, that are indispensable to the hospice care team approach. For example, volunteers’ artworks and potted plants provided patients with the opportunity to participate in seasonal events and feel socially connected without meeting in person. Additionally, we skillfully used web resources, that allowed us to hold staff meetings and bereavement meetings during the pandemic. The hospice staff participated in hospital COVID-19 countermeasure meetings to share and provide the importance of presence of volunteers for the best care of patients throughout the hospital. The “Guideline for Volunteer Activities According to the COVID-19 Outbreak Levels” was initiated in conjunction with the hospital’s infection control team to allow us to continue volunteer activities without spreading the infection.
ホスピスは,主にがん終末期患者のさまざまな苦痛症状を緩和し,最期までその人らしく生き抜くためのケアを提供する場である.一人一人の患者や家族に応じた全人的なケアを提供するために,医師,看護師,薬剤師,ソーシャルワーカーなどの専門職とボランティアで構成されるチームによるケアが行われている1).病院という非日常的な緊張感のある場において,自然や季節,人との触れ合い,社会とのつながり,社会の風を持ち込むボランティアの存在は大きく,ホスピスボランティアは,ホスピスケアを提供するチームの一員として非常に重要な役割を果たしている2–4).
日本バプテスト病院(以下,当院)は,米国南部バプテスト諸教会の献金によって1955年に設立され,キリスト教の隣人愛に基づく「全人医療」の理念のもと医療活動を行ってきた.
当院のボランティア活動は1960年代に始まり,当時は教会の婦人会の方々が,洗濯物たたみ,ガーゼ折りのほか,病衣や雑巾,看護学生のユニフォームやエプロンの縫製を行っていた.その後,ボランティア活動は,教会の奉仕活動の枠を超え,一般の方々も参加する社会活動の一つとなった.1983年に院内ボランティア活動の組織化と育成を目的にボランティア委員会を結成し,現在はホスピスを中心に約70名のボランティアが,傾聴,ティーサービス,音楽演奏5),アロマセラピー6),ドッグセラピー,生け花などの活動を行っている.
しかし2020年2月,新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)流行により,これまで通りのボランティア活動の継続が困難となった.長年にわたり,当院のホスピスケアを支えてきたボランティアは,チームの一員として欠かすことができない存在である.コロナ禍であっても何らかの形でボランティアの活動を継続することは意義があると考え,新たなボランティア活動を模索したのでここに報告する.
COVID-19流行前の当院でのボランティア活動の内容を表1に示す.傾聴,ティーサービスなどの日々の患者の生活を支える活動のほか,アロマセラピー,ドッグセラピーなどの専門性を生かしたボランティア活動がある.
当院にはボランティアコーディネーターが在籍し,ボランティア活動の調整を行っている.ボランティアは,平日と土曜日午後を主な活動時間とし,活動曜日を固定した曜日グループ制であり,各曜日リーダーが各グループを取りまとめ,コーディネーターとボランティアの連絡係を担う.ホスピスボランティア推進会議を月1回開催し,ホスピス医師,病棟師長,ボランティアコーディネーター,病棟ボランティア係,ボランティア代表,遺族会代表が活動の調整やイベント企画など運営について話し合う.
COVID-19対策のため,ホスピスではこれまでのボランティア活動が制限されただけでなく,家族の面会や患者の外出泊が制限された.2020年8月,京都の伝統行事である五山の送り火をホスピスから家族とともに鑑賞するイベントが開催できないため,ボランティアが送り火の風景をイメージして作成した切り絵行灯を患者のもとに届けた(付録図1下).以後,季節毎のイベントにちなんだ作品や絵手紙を患者に届けたほか,病棟での患者の様子を撮影した写真を手作りの写真台紙とともに面会できない家族に届けた.外出泊できない患者のため,ホスピスギャラリーに展示する写真や絵画を準備した.園芸療法士は,自宅で種や苗から育て咲き頃となった花を届けた.
また,月1回のホスピスボランティア会議を同年10月からリモートで再開し,COVID-19流行下における新たなボランティア活動についてボランティアと考えていくことにした.ボランティアコーディネーターは,WEB会議に不慣れなボランティアのための講習会を開催し,曜日毎のボランティアWEB会議も可能となった.2021年5月には,毎年ボランティア全員が参加していたホスピスボランティア総会をWEBで行い,交流を再開することができた.ボランティアが運営するホスピス遺族会7)も,新規遺族の参加は難しくなったものの,リモートで継続した.
ほかにも,ボランティアとのつながりを絶やさないため,病院やボランティアの近況報告や作品募集等を掲載した「ホスピスボランティア便り」を年3回病院から発行し,毎朝の職員朝礼ではボランティアからのメッセージを届けた.
「COVID-19流行状況に応じたボランティア活動指針」の作成(表2)COVID-19流行が続く中,感染対策チーム(Infection Control Team: ICT)が,京都府内のCOVID-19流行状況を4段階(レベル0–3)に分類し,病院業務や診療の指針を作成した.この指針に基づき,2021年10月,「COVID-19流行状況に応じたボランティア活動指針」をICTと共同で作成した.院内COVID-19対策会議にホスピス担当者も参加し,最善のケアを提供するためにはボランティアの存在が重要であることを病院全体で共有したうえで,ボランティア活動を継続する方法を話し合うことができた.これにより,病院のチャペルや会議室での季節のイベントに用いる作品の製作,ホスピスのベランダでの花の手入れなど,流行状況に応じて,患者と接しない形でのボランティア活動を可能とした.また,リモートで継続した遺族会はハイブリッド形式(WEB開催+少人数集合)とした.ホスピスのラウンジでの音楽会は,感染対策を講じたうえで再開した.
さらに,COVID-19流行当初から,京都府内および近隣府県の緩和ケア病棟と連絡を取り,感染対策や面会条件設定を含めた病棟運営,ボランティア活動の在り方について話し合い,施設,地域を超えて協力した.
COVID-19の流行によって多くの施設でボランティア活動の休止が余儀なくされた8).実際に,日本病院ボランティア協会の全国調査では,協会正会員施設の68%がCOVID-19感染対策のためにボランティア活動を休止し,一部の活動のみ継続した施設が30%,活動を休止しなかった施設が2%と報告されている9).本報告のように,感染状況に応じたボランティア活動の基準を策定することは,コロナ禍であっても感染を拡大させることなくボランティア活動を継続し得る選択の一つになると考えられた.
ボランティアが作成した作品や植物を通じて,患者や家族に直接接することができなくても,ボランティアの重要な役割の一つである,社会の風を届ける関わりが可能であると考えられた.他の施設でも,手作り作品,季節の写真,絵手紙を病院に届けたり,園芸活動の再開などの報告がされている10).また,当院は機関誌の発行やオンライン会議の活用により,ボランティアとのつながりを継続し得たが,ほかにも,地域コミュニティの中でのグループLINEやZOOMなどの新しい情報通信手段を用いた新たなボランティア活動を見出したとの報告もされている11–13).病院スタッフだけでなくボランティア自身の意向を積極的に組み入れることにより,ボランティアが自発的,主体的に関わること4)ができ,ボランティアのモチベーションの維持に貢献したと考えられる.
当院では,感染流行の当初から発熱外来,COVID-19治療病棟を設置し,積極的にCOVID-19の診療に関わってきた中で,ICTが院内の感染対策の中心を担ってきた.多くの施設でCOVID-19対策会議が行われているが,そこに緩和ケア病棟担当者も参加し,ボランティアの存在の重要性を共有することにより,感染対策と並行して,ホスピスケアの質の維持に貢献し得る可能性が考えられた.
さらに,コロナ禍におけるボランティア活動の在り方を思考錯誤する中で,ホスピスケアにおけるリモートの活用が有効であると考えられた.これまで遠方在住や高齢などを理由に来院できなかった家族とのオンライン面会や医療者との面談が可能となり,より個々の患者や家族のニーズにあったケアの提供が可能となり得る.また,リモート会議の導入によって,医療従事者の負担軽減にもつながると考えられた.
COVID-19流行下における当院のボランティア活動について報告した.今後もCOVID-19流行状況に応じて,科学的知見やエビデンスに基づいた感染対策を行いつつ,適切なボランティア活動の在り方を模索し,緩和ケア,ホスピスケアの質を維持する工夫が必要である.
COVID-19パンデミックの中,施設,地域を超えてご尽力いただいた京都のがん治療病院や緩和ケア施設の有志,日本ホスピス緩和ケア協会近畿支部の皆様,京都ホスピス緩和ケア病棟連絡会の皆様,そして半世紀以上にわたり,日本バプテスト病院を支えていただいたボランティアの皆様に,心より御礼申し上げます.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
山極,松屋は研究の構想およびデザイン,研究データの分析および解釈,原稿の起草に貢献した.大西,来住,小林は研究データの収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.伊藤は研究データの分析および解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.