Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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活動報告
単一施設における骨転移チームによる介入の後方視的検討—がん診療連携拠点病院における骨転移カンファレンスの現状—
川平 正博 中村 文彦嶋田 博文西 真理子岩坪 貴寛塩満 多華子前田 弘志大迫 絢加宮崎 晋宏久住 勇介村田 明俊大迫 浩子堀 剛
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電子付録

2023 年 18 巻 1 号 p. 61-66

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Abstract

骨転移診療では,骨関連事象(SRE)の発症予防,早期診断,治療が重要となる.骨転移に対して多職種チーム介入を行うことで,生存期間延長やADL改善が期待できるか後方視的に検討した.2020年8月~2022年7月まで当院で骨転移カンファレンス(BMB)を実施した進行がん患者75名を,SRE発症前後のBMBによるチーム介入別に2群に分け,比較検討を行った.両群ともにチーム介入後にNRSは改善したがPSの改善はなく,両群で生存期間に差は認めなかった(15.3 vs. 9.0カ月,HR: 0.74,95%CI: 0.42–1.29,p=0.29).当院BMBでは発症したSREに対しては早急にチーム介入できていた.しかし,当院BMB後のSRE発症割合は22.6%であり,今後はSRE発症予防に積極的に取り組む必要がある.

Translated Abstract

Prevention, early diagnosis, and early treatment of skeletal-related events (SREs) are important in the treatment of potential or current cases of bone metastasis. In August 2020, our hospital established the bone metastasis team and the bone metastasis board (BMB) started actively engaging in activities aimed at improving the outcome of bone metastasis. We retrospectively examined whether a combined modality therapy started in the diagnosis of bone metastases could prevent the onset of SREs and whether it could prolong survival and improve activities of daily living. The 75 advanced cancer patients who underwent BMB at our hospital from August 1, 2020 to July 31, 2022 were divided into two groups according to when BMB performed before and after SREs for comparative analysis. Numerical Rating Scale improved, however Performance Status did not improve in both groups, and there was no difference in survival between the both groups (15.3 vs. 9.0 months, HR: 0.74, 95%; CI: 0.42–1.29, p=0.29). In conclusion, patients who suffered from SREs from the time of bone metastasis diagnosis were treated early. However, the incidence of SREs after BMB in our hospital was 22.6%, and it is necessary to actively work to prevent SREs in the future.

緒言

骨転移は,がん患者の10–30%に出現し1,2,骨転移により発生する骨折,麻痺,高Ca血症や骨転移に対する整形外科手術や放射線治療を骨関連事象(skeletal related events: SRE)と呼ぶ.SRE発症割合は45%と高く3,肺がんでは診断時に20–30%がSREを合併しているとの報告もある46.SRE発症は予後不良なだけではなく7,8,予後が限られたがん患者の日常生活動作(Activities of Daily Living: ADL)や生活の質(Quality of Life: QOL)を著しく低下させ,生活に大きな影響を及ぼす.骨転移診療では,がん患者のADLやQOLを維持・向上させるために,いかにSRE発症を予防し,早期発見や治療を行うかが重要となる.骨転移カンファレンス(Bone Metastasis Board: BMB)はSREへの取り組みの一つであり,骨転移を有するがん患者のみを対象としたキャンサーボードである.キャンサーボードの設置および定期的開催は,がん診療連携拠点病院(以下,がん拠点病院)の指定要件であり9,鹿児島市立病院 緩和ケアセンター(以下,当院)でもキャンサーボードを開始した.しかし,骨転移に関しては,原発診療科を中心に診断や治療が行われており,SRE評価が不十分となりADLやQOL低下につながった症例がしばしば存在した.そこで,骨転移診断や治療の標準化,集学的診療体制の確立を目的に2020年8月よりBMBを開始した.ただ,がん拠点病院におけるBMBの現状報告は少ない10.骨転移に対してBMBによる多職種チーム介入を行うことで,生存期間の延長やADL改善を期待できるか後方視的にカルテ調査した.

方法

対象患者

2020年8月1日~2022年7月31日にBMBにて症例検討を行った進行がん患者75名を,SRE発症前後のBMBによるチーム介入別に2群に分け,カルテを後方視的に調査した.

当院骨転移チームの活動内容

当院の骨転移チームは緩和ケア医,放射線治療医,整形外科医,リハビリテーション療法士,がん専門薬剤師,がん関連認定看護師で構成されている.骨転移患者の相談は,緩和ケアセンター専従看護師が,原発診療科担当医(以下,担当医)や院内スタッフより相談を受け,緊急時は担当医がチーム医師に直接相談し緊急でBMBを実施している.緊急時以外は,月2回開催されるBMBにて症例検討を行い,担当医や多職種に参加を呼びかけている.BMBの検討結果はカルテに記載し,担当医や多職種間で情報共有を図っている.

BMBにおける診療内容

  • ①診断:疼痛や麻痺の原因の鑑別,骨転移病変の画像評価
  • ②リスク評価:病的骨折や麻痺出現のリスク評価
  • ③治療方針:手術や放射線治療適応の決定,安静度の決定,骨修飾薬投与やコルセット等の骨固定具適応の決定,リハビリ適応の決定とゴール設定,緩和ケアチーム(PCT)による疼痛管理,心理サポート,療養支援決定

調査項目

患者背景として,年齢,性別,BMB実施時のEastern Cooperative Oncology Group Performance Status(ECOG PS),原発巣,骨転移部位,臓器転移,薬物療法(全身化学療法およびホルモン療法)の有無,Numerical Rating Scale(NRS),オピオイド投与量(経口モルヒネ投与量),鎮痛薬内服を調査した.PS,NRS,オピオイド投与量は,BMB実施1カ月後も調査した.SREは,BMB実施時の高Ca血症,腫瘍の脊柱管内進展,麻痺,病的骨折,脊椎不安定性(Spinal Instability Neoplastic Score,7–12点:脊椎不安定性の可能性あり,13–18点:脊椎不安定性あり)11を調査した.脊椎転移を有する患者では,改訂徳橋スコア12(骨転移患者の手術適応と予後予測を評価したスコア,0–8点:予後6カ月以下,9–11点:予後6カ月以上,12–15点:予後1年以上)を調査した.また,BMB実施後の治療方針(PCT介入,骨修飾薬投与,リハビリ介入,骨固定具作成,放射線治療,整形外科手術)も調査した.生存期間は,骨転移診断時から観察期間終了時点の生存,あるいは死亡までの期間を調査した.

解析

カテゴリー変数はFisherの正確検定,連続変数はMann–Whitney U検定,生存解析はLog-rank検定を行い,Kaplan–Meier法による生存曲線を作成した.NRS,PS,オピオイド投与量の比較はWilcoxon符号付順位和検定を行った.いずれもp<0.05を有意差ありと定義した.

結果

患者背景

SRE発症前介入群(以下,発症前介入群)は41例,SRE発症後介入群(以下,発症後介入群)は34例であった.患者背景を表1に示す.骨転移診断時からBMB実施までの期間中央値(範囲)は,発症前介入群51(1–1201)日,発症後介入群15(0–5667)日であった.原発巣は,両群ともに肺がんが最多であり,骨転移部位は両群ともに多発が最多であった.薬物療法(全身化学療法およびホルモン療法)は両群ともに80%以上で実施されていた.BMBへの担当医の参加割合は,両群ともに30%前後であった.発症前介入群では発症後介入群に比べて有意にNRSが低く,オピオイドを含めた鎮痛薬の投与割合が少なかった(付録表1).

表1 患者背景

SREの内訳

BMBで検討した75例のうち,51例にSREを認めた.SREの内訳を表2に示す.高Ca血症,腫瘍の脊柱管内進展,病的骨折,脊椎不安定性は発症前介入群で有意に少なかったが,麻痺や改訂徳橋スコアは両群で差は認めなかった.BMB実施後のSRE発症割合は22.6%(発症前介入群41例中,BMB後にSREを発症した17例/75例)であった.

表2 骨関連有害事象の内訳 ※重複あり

BMB実施後の治療方針

発症前介入群では発症後介入群に比べて,骨固定具作成,放射線治療は有意に少なく,手術も少ない傾向であった(表3).

表3 BMB実施後の治療方針 ※重複あり

生存期間

観察期間中央値は297日,生存期間中央値は発症前介入群15.3カ月,発症後介入群9.0カ月であり,両群で生存期間に差を認めなかった(HR: 0.74,95%CI: 0.42–1.29,p=0.29)(付録図1).

PS, NRS,オピオイド投与量

PSは両群ともにBMB実施後に改善しなかったが,NRSは両群ともに改善した(付録図2, 3).オピオイド投与量は両群ともにBMB実施後に増加した(付録図4).

考察

骨転移に対するBMBによる多職種チーム介入の検討を報告した.本研究では,チーム介入の有用性を明確にするために,SRE発症前後の介入により群別し,比較検討を行った.結果は,両群ともにチーム介入後にNRSは改善したが,SRE発症前後で介入しても生存期間に差はなく,PS改善を認めなかった.PS不良は予後不良因子であり7,1315,骨転移診療ではPS低下の原因となるSRE発症予防が重要である.これまでに報告されているBMB実施後のSRE発症割合は3–3.4%であるが16,17,本研究におけるBMB実施後のSRE発症割合は22.6%と既報に比べて高く,SRE発症予防が当院BMBの課題と考えられた.

SRE発症予防における当院の今後の取り組みとして,SRE発症高リスク(切迫骨折や切迫麻痺)や骨転移巣増大がPS低下に直結するような部位に対して,予防的放射線治療や手術を検討することが挙げられる.当院では,病的骨折や麻痺を生じた症例にのみ放射線治療や手術を行っているが,SRE発症高リスクに対する予防的治療の有効性は報告されている1820.また,BMB実施後のチーム介入後効果や病勢変化を継続して担当医と情報共有し,整形外科受診や画像検査の間隔を決定していくこともSRE発症予防のためには必要である.

このようなSRE発症予防への取り組みを行ううえで,担当医との密な連携は必要不可欠である.しかし,当院BMBへの担当医の参加割合は30%前後と少なかった.当院BMBでは症例検討を行った全症例に対して骨修飾薬投与を提案したが,実際に骨修飾薬が投与された症例は70%であり,カルテ記載だけではBMBの検討結果が担当医と共有されないことがあった.検討結果を共有するために今後も担当医のBMBへの参加を促す必要がある.

また,SRE発症予防を考えるうえで,症状を有さない骨転移患者に対する早期介入も当院の取り組むべき課題である.骨転移診療では,自覚症状がなくても骨転移診断早期から持続的な介入を開始することが重要であるが,本研究では発症前介入群において,骨転移診断からチーム介入まで2カ月を要した.理由として,症状を有さない骨転移患者の骨転移診断早期からのBMBへの相談が少ないことが考えられる.実際,本研究の実施期間内に当院で全身化学療法(経口抗がん薬を除く)を実施した骨転移を有する進行がん患者のうち,症状を有さない患者のBMBへの相談割合は16%であった.症状を有さない骨転移患者に対するSRE発症予防の取り組みとして,骨転移患者の院内登録システムが有用である21,22.ただ,院内登録システムの導入だけではなく,骨転移チームと担当医が密に連携が取れるように普段から互いの顔が見える体制作りが急務である.

なお,本研究は,単施設における少数例の後方視的調査であり,ADLを十分に評価できていない.今後は,既存の評価ツールを用いてADLやQOLの質的評価を行う必要がある.

結論

当院BMBでは,生じたSREに対しては早急にチーム介入できていた.SRE発症予防が今後の課題であり,とくに症状を有さない骨転移症例に対して骨転移診断早期よりチーム介入できる体制を構築していく必要がある.

謝辞

当院のBMB立ち上げや運営にご協力いただいた,鹿児島市立病院 坪内博仁院長,鹿児島市立病院 放射線科 中山博史部長.鹿児島市立病院 リハビリテーション部 鶴川俊洋部長に謝意を表する.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

川平は研究の構想およびデザイン,原稿の起草,研究データの収集,分析,解釈を行った.中村,嶋田,岩坪,塩満,前田,大迫(絢),宮崎,久住,村田,堀は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.西,大迫(浩)は,研究データの収集,分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は出版原稿の最終承認,ならびに研究の説明責任に同意した.

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