Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
活動報告
緩和ケアカンファレンスへの放射線治療科医参加の役割
牧田 憲二 濱本 泰長﨑 慧神﨑 博充三浦 耕資成本 勝広
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2023 年 18 巻 1 号 p. 43-48

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Abstract

当院では,2021年9月より緩和ケアカンファレンスに放射線治療科医が参加するようになった.放射線治療科医参加の有用性を検討した.2022年8月までに,同カンファレンスで検討した341例中26例(7.6%)に緩和照射を提案した.そのうち11例(3.2%)(乳がん潰瘍形成/出血:2,転移性脊髄圧迫予防:1,再照射:6,播種:1,全肝照射:1)で緩和照射実施に至った.放射線治療科医の参加は再照射の可否や全身薬物療法中の症例における適切な放射線治療の介入時期の判断などに役立ったと思われた.

Translated Abstract

Sometimes palliative radiotherapy (pRT) is not always used appropriately. In our institution, radiation oncologists started to participate the palliative care conferences from September 2021. Between September 2021 and August 2022, 26 (7.6%) of 341 patients presented at this conference were considered candidates for pRT. Finally, 11 patients (3.2%) underwent pRT (ulcerative breast cancer, 2; metastatic spinal cord compression, 1; re-irradiation, 6; peritoneal dissemination, 1; multiple liver metastases, 1). The participation of radiation oncologists at the palliative care conference is thought to facilitate the treatment option of palliative radiotherapy.

緒言

がん医療における緩和ケアは,がん患者の心身の苦痛を緩和し,生活の質の向上に寄与する1.本邦では,がん対策推進基本計画にて,がんの進行状況にかかわらず早期からの緩和ケアが目指されている2,3.一方,がん患者の約半数は緩和ケアを終末期の医療と認識しており,施設によっては緩和ケアの提供・緩和ケアカンファレンスでの検討時期が終末期患者に限定されることもある4,5

緩和ケアにおいては,患者・家族の全人的ニーズに対応するため,専門性を活かした多職種によるチーム医療が重要である6.そのため,緩和ケアカンファレンスには,医師,歯科医師,薬剤師,看護師,医療ソーシャルワーカーなどの多職種が参加する必要がある.多職種カンファレンスは,系統だったアプローチを可能とし,問題点の網羅に役立つとされ7,標準的治療の指針やエビデンスが不十分である緩和ケアにおいてとくに重要である.

四国がんセンター(以下,当院)では各患者の全人的苦痛に対処すべく,がん治療における比較的早い段階から多職種が連携して患者とその家族を支援している.そのため,終末期患者だけでなく,全身薬物療法による積極的加療を受けている患者についても,最善と思われる支援を提供するために多職種による緩和ケアカンファレンスを開催している.

緩和照射は,がんが引き起こすさまざまな症状を軽減し,患者の生活の質を維持・改善するため,緩和ケアにはなくてはならないものである.緩和照射の効果として,①疼痛緩和,②止血,③腫瘍制御,④オンコロジーエマーエンシーなどが挙げられ,その適応は非常に広い.しかしながら,実臨床においては緩和照射が適切に用いられていない場合もある.そのため,当院では,緩和ケアを受けている患者において,緩和照射について助言を行うため2021年9月より放射線治療科医も緩和ケアカンファレンスに参加するようになった.今回,早期からの緩和ケアという視点で行われる緩和ケアカンファレンスへの放射線治療科医の参加がどのように役に立ったかについて検討した.

方法

当院の本活動の取り組み

当院の緩和ケアカンファレンスは,原則として毎週1回,金曜日の午後に行われる.参加者は,緩和ケア内科医,精神腫瘍科医,放射線治療科医,歯科医,薬剤師,看護師,公認心理師,管理栄養士,理学療法士,医療社会事業専門員,臨床仏教師の合計20名である.緩和ケアカンファレンスにおいて放射線治療科医が関与する検討症例は,原則としてオピオイド導入後の外来患者と入院患者であり,緩和照射が有用と思われる症例に対してカンファレンス内で緩和照射を提案している.放射線治療科医により提案された症例は,緩和ケアカンファレンス内で多職種での検討を経て,必要と判断された場合に治療選択肢として診療録上に提示される.

本活動の評価方法

2021年9月~2022年8月に当院の緩和ケアカンファレンスで検討した症例を対象とした.緩和照射提案後に緩和照射を施行した症例は,引き続き緩和ケアカンファレンスで検討された場合,2例として算出した.調査項目は,年齢・性別・パフォーマンスステータス(PS)・介入形態・原発部位・全身療法有無・緩和ケア科への依頼理由・緩和照射既往・根治照射既往・緩和照射提案理由・緩和照射依頼有無・緩和照射非依頼理由・緩和照射内容/効果とし,後方視的に診療録から収集し,緩和ケアカンファレンスへの放射線治療科医の参加により新たに発生した緩和照射提案・依頼数の割合と内訳を検討した.

統計解析

全生存期間は,緩和ケアカンファレンスにて初めて検討された日を起算日として,全生存率はKaplan–Meier法を用いて算出した.

結果

2021年9月~2022年8月に当院の緩和ケアカンファレンスで検討した症例は341例(緩和ケアカンファレンスまでに死亡確認:19例)であった.主たる緩和ケアカンファレンスへの提示理由としては,疼痛が202例(59.2%),呼吸症状が31例(9.1%),精神症状が31例(9.1%),消化器症状が16例(4.7%),その他が61例(17.9%)であった.症例の内訳を表1に示す.

表1 症例の内訳

緩和ケアカンファレンスにて検討後の経過観察期間は1~357日(中央値32日),年齢は30~96歳(中央値70歳)であった.最終観察時点で225例(66%)が死亡,116例(34%)が生存していた.14日・30日・90日の全生存率は,それぞれ81%・63%・37%であった.また,死亡例の生存期間は1~243日(中央値29日),生存例の経過観察期間は3~357日(中央値84日)であった.

緩和照射適応例の抽出

緩和ケアカンファレンスで検討された341例のうち,26例(7.6%)を放射線治療科医が緩和照射候補と考え,緩和照射提案を行った.緩和照射提案理由は,乳がん潰瘍形成/出血の制御が3例,転移性脊髄圧迫による麻痺予防が2例,疼痛緩和が21例(膵がん神経叢浸潤:2,再照射:8,播種:3,多発肝転移:3,原発/遠隔転移/リンパ節転移増大・浸潤:5)であった.緩和照射提案を行った症例は,全例が緩和ケアカンファレンス時点では,緩和照射を予定されていなかった.症例の内訳を表2に示す.

表2 緩和照射提案例と依頼例の内訳

緩和照射提案により実施に至った症例

緩和照射候補の26例のうち,11例(42.3%,乳がん潰瘍形成/出血,2;転移性脊髄圧迫による麻痺予防,1;再照射,6;腹腔内播種,1;全肝臓照射,1)で緩和照射を実施した(表3).緩和照射を実施した11例中9例(81.8%)で症状緩和効果を得た.また,全例で有害事象は認めなかった.

表3 緩和照射依頼例の内訳

1. 乳がん潰瘍形成/出血症例

乳がん潰瘍形成/出血を来していた5例のうち,3例(60.0%)で緩和照射提案が行われ,2例(40.0%)で緩和照射を実施した(いずれも患側全乳房照射,45 Gy/9回と39 Gy/13回).緩和照射を行った2例の病悩期間(乳房潰瘍病変増大/出血発生時から緩和ケアカンファレンスにて検討されるまでの期間)はそれぞれ73日,394日であった.緩和照射を行った2例は,いずれも潰瘍縮小/止血・疼痛軽減効果を示した.緩和照射提案を行わなかった残りの2例(40.0%)は,いずれも化学療法中であり,化学療法継続が優先された.

2. 照射既往部の腫瘍

照射既往部ではあるが緩和照射は可能と考えて再照射提案を行った8例のうち,6例(75.0%)に緩和照射を実施した.内訳は子宮頸がんの根治照射後の2次発がんと考えられた2例(同一症例2回,病変部へ限局した照射,いずれも8 Gy/1回),顎下腺がんの根治照射後の局所再発に伴う疼痛・出血2例(同一症例2回,病変部へ限局した照射,いずれも1日2回で14.8 Gy/4回),子宮頸がんの根治照射後の骨盤内再発1例(病変部へ限局した照射,30 Gy/10回),子宮体がんのリンパ節転移骨浸潤への照射後再発1例(病変部へ限局した照射,37.5 Gy/15回)であった.最終観察時点で顎下腺がんに対する再々照射後の効果は得られていなかったが,残りの5例(83.3%)では疼痛軽減が得られた.また,顎下腺がんに対する再照射例では止血効果も得られた.

3. その他

転移性脊髄圧迫による麻痺予防1例(病変部の上下1椎体を含む照射,20 Gy/5回),腹膜播種に伴う直腸狭窄・水腎症・出血・疼痛などを来した腹膜播種の1例(病変部に限局した照射,20 Gy/5回),胃がんの多発肝転移に伴う疼痛・倦怠感を認めた1例(全肝臓へ照射,21 Gy/7回)に対して緩和照射を実施した.転移性脊髄圧迫の麻痺予防1例では,最終観察時点では麻痺症状の出現は認めておらず,腹膜播種への緩和照射例では,止血・疼痛軽減・下肢浮腫軽減効果が得られた.一方,多発肝転移による疼痛・倦怠感の軽減目的に全肝臓照射を施行した1例は,緩和照射のよい適応とは言い難かったが,本人の治療継続に対する強い希望により緩和照射を行うこととなった.緩和ケアカンファンレンスでは,期待予後から8 Gy/1回の照射を提案したが,本人の強い希望で21 Gy/7回の照射線量が選択された.照射終了後2日で死亡した.

緩和照射施行に至らなかった症例

緩和照射候補の26例のうち,15例(57.7%)(乳がん潰瘍形成/出血:1,転移性脊髄圧迫による麻痺予防:1,膵がん神経叢浸潤:2,再照射:2,播種:2,肝臓転移:2,腋窩リンパ節転移:1,腹部リンパ節転移:1,副腎転移:1,頭頸部がん原発巣:1,骨転移:1)で主治医の判断で緩和照射は行われなかった(表3).

1. 化学療法を優先:5例

5例(33.3%)で主治医の治療方針や患者の希望により化学療法の実施が優先され,緩和照射が施行されなかった.転移性脊髄圧迫による麻痺予防の1例(6.7%)は,緩和照射を提案した時点で化学療法開始後であったため,骨修飾薬にて対応した.

2. その他:10例

既に転院の予定であった頭頸部がんの1例(6.7%),理由の記載が診療録になかった9例(60.0%)で緩和照射の実施に至らなかった.このうち,5例は30日以内に死亡した.

考察

今回,早期からの緩和ケアという視点で行われる緩和ケアカンファレンスに放射線治療科医が参加し,緩和照射提案を行った症例について,診療録を基に後方視的に検討を行った.がん専門病院では,各診療科の医師やその他スタッフが緩和照射についても知識を有している.そのため,緩和ケアカンファレンスに提示された患者のうち,緩和照射の候補と考えられた症例は7.6%と少なく,さらに放射線治療科医の提案により実際に緩和照射が行われた症例は3.2%とわずかであった.しかしながら,薬物療法中に乳房の潰瘍形成/出血が増悪した症例,照射既往部位の再発や2次発がんの症例など,放射線治療科医のカンファレンスでの提案により緩和照射が行われることになった事例もみられ,放射線治療科医の緩和ケアカンファレンスへの参加が役に立った可能性がある.

乳房の潰瘍形成/出血を来した乳がん症例の多くは,他臓器にも転移を有していたため薬物療法が続けられていた.一般的に,進行期(病期IV)乳がんの治療方法は薬物療法が主体であり,放射線治療より優先されることが多いが,乳房の原発巣に対しては薬物療法の効果が乏しく,薬物療法中に増大し,出血を来すようになることがある.このような症例の乳房腫瘤への緩和照射には,出血,悪臭などを軽減し,Quality of Life(QOL)を改善する効果が期待できる8.しかしながら,一方で緩和照射期間中,化学療法を休止することにより他臓器の転移が増悪するリスクもある.症状緩和を目的とした場合,放射線治療の同時併用を許容することもあるが,化学療法の中断による影響を最小限に抑えるように緩和照射の分割回数や総線量を検討し,化学療法の休薬期間に緩和照射を行うなどの工夫が必要となることも多い.放射線治療科医の緩和ケアカンファレンスへの参加により,速やかに緩和照射と薬物療法のスケジュール調整などが可能となり,その結果,患者に対して有用な医療が提供できると考えられる.

再照射に対する緩和照射の提案も,比較的多くの症例で緩和照射依頼につながった.一般的に,再照射の可否判断は他科医師には困難なことが多い.とくに,根治照射後の再照射は,放射線治療科医の積極的な提案がない場合には,治療選択肢となり難いようである.そのため,緩和ケアカンファレンスを通じて積極的に緩和照射の提案を行うことは,再照射の適応症例を抽出するうえで有用である.さらにいうと,最近では,再照射の可否に関する相談も増えてきている.緩和ケアカンファレンス参加を通じて緩和照射の適応に関して啓蒙していくことは非常に重要である.

転移性脊髄圧迫による麻痺予防に対する緩和照射の提案は,非常に重要である.当院では,放射線診断科と整形外科による骨転移サーベイランスが行われている.これにより,当院にて転移性脊髄圧迫を来す症例は非常に少なくなっている9.今回,転移性脊髄圧迫予防目的の緩和照射提案・依頼があった1例は,数年前より多発骨転移を指摘されており,薬物療法にて疼痛制御が出来ていたため,直近の骨転移サーベイランスの対象症例から外れていた.しかしながら,長期経過で画像を検討すると骨転移病巣の増悪と脊柱管内進展を認めたため,緩和照射提案に至った.このように,骨転移サーベイランスから漏れる症例もあるため,緩和ケアカンファレンスでも再検討することは重要である.

播種は通常,放射線治療の対象と考えられないことが多いが,緩和照射に限れば,有用なこともあり,緩和照射による患者のQOL改善の可能性がないか緩和ケアカンファレンスで検討する意義はある.

多発肝転移に対する全肝照射は,疼痛緩和や全身倦怠感の軽減効果が期待される10,11.一方で,実臨床において,放射線治療科医が適切な照射時期の症例を経験することは非常に少ない.早期からの緩和ケアという視点で行われる緩和ケアカンファレンスへの放射線治療科医の積極的参加と提案が役立つ可能性はある.

緩和照射による症状緩和効果は,照射後2週間程度で徐々に出現する12.そのため,緩和ケアカンファレンスにおいても,原則として推定予後は1カ月以上が見込まれる症例に対して緩和照射の提案を行っている.今回,緩和照射の提案を行ったにもかかわらず,緩和照射施行に至らなかった理由は,9例(60.0%)で理由不明であった.しかしながら,このうちの約半数で30日以内に死亡していた.後方視的な診療録の検討であるため断定的なことはいえないが,主治医により患者状態が治療に適さないと考えられた症例が多かったと推測される.今後の前方視的検討が必要であろう.

結論

早期からの緩和ケアという視点で行われる緩和ケアカンファレンスへ放射線治療科医が参加することは,緩和治療の選択肢を増やし,早期の緩和照射依頼につながる可能性が示唆された.とくに,乳がん潰瘍形成/出血と再照射の症例に対する緩和照射提案は,緩和照射依頼につながることが多かった.薬物療法のみで治療継続されている症例への緩和照射の提案・スケジュール調整,再照射の可否の判断などには放射線治療科医が必要であり,緩和ケアカンファレンスへの積極的参加が望まれる.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

牧田は研究の構想およびデザイン,研究データ収集,分析,解釈,原稿の起草に貢献した.濱本は研究の構想およびデザイン,分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.長﨑,神﨑は研究の構想およびデザイン,研究データの収集,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.三浦,成本は研究の構想およびデザイン,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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