【目的】悪性消化管閉塞(malignant bowel obstruction: MBO)に対する緩和手術の治療成績を後方視的に評価する.【方法】2014年4月~2023年3月に当院で施行された緩和手術症例を対象に,診療録を用いて調査を行った.【結果】症例は27例,年齢中央値は70歳,病期はStage IVが23例.原発部位は大腸15例,胃6例,膵臓2例,食道・小腸・胆囊・膀胱が各1例.腹膜播種陽性は18例.術前Palliative Prognostic Index (PPI)中央値は3.0.術後,26例で腹部症状改善,22例で経口摂取可能,14例で退院可能.術後生存期間(overall survival: OS)の中央値は118日.腹膜播種の有無と術後経口摂取の可否がOSに有意な関連因子であった.【結語】緩和手術は症状緩和,療養の場の選択,OSなどのアウトカムを改善し得る可能性が示された.
Objective: To evaluate outcomes of palliative surgery for malignant bowel obstruction (MBO) and identify factors associated with postoperative survival. Methods: We retrospectively reviewed 27 patients who underwent palliative surgery for MBO between April 2014 and March 2023. Clinical data including symptom relief, oral intake, discharge status, and overall survival (OS) were analyzed. Results: Median age was 70 years; 23 patients were Stage IV. Primary tumors included colon-rectum (15), stomach (6), pancreas (2), and others (4). Peritoneal dissemination was present in 18 cases. Median preoperative Palliative Prognostic Index (PPI) was 3.0. Postoperative symptom relief was achieved in 96.3%, oral intake in 81.5%, and discharge in 51.9%. Median OS was 118 days. Peritoneal dissemination and oral intake status were significantly associated with OS; sex, age, and PPI were not. Conclusion: Palliative surgery may improve outcomes such as symptom relief, oral intake, discharge to preferred care settings, and survival. These findings support its role in advance care planning and enhancing quality of life in patients with terminal cancer.
悪性消化管閉塞(malignant bowel obstruction: MBO)は進行がん患者において高頻度に発生し,腹痛,嘔気,腹部膨満などの症状を引き起こす.MBOに対する緩和手術は症状緩和を目的としており,がんの根治を目的とした手術とは異なる.「がん患者の消化器症状の緩和に関するガイドライン」では緩和手術の適応と禁忌が示されているが,MBOに対する手術適応に関しては明確な基準がなく,症例ごとに施設判断にて行われているのが現状である 1–6).
本研究では,当院でMBOに対して緩和手術を施行した27例を対象に,患者背景,術後の経口摂取の可否,腹部症状の改善,退院の可否,術後生存期間(overall survival: OS)について統計学的に解析し,緩和手術の治療成績と予後に影響する因子を検討した.
2014年4月1日から2023年3月31日までの9年間に,当院にてMBOに対し緩和手術を施行した27例を対象とした.術後に化学療法を施行した症例および胃瘻・腸瘻造設術のみの症例は除外した.性別,年齢,術前Palliative Prognostic Index(以下PPI),術式,腹膜播種の有無,術後経口摂取の可否,術後の腹部症状改善の有無の7項目とOSの関連を,診療録を用いて後方視的に評価した.緩和手術を複数回施行した症例については,最終手術の術式と手術日を基準にOSを算出した.術式が複数ある場合は,手術侵襲の大きいものを主たる術式とし,侵襲度は切除術>バイパス術>人工肛門造設術>self-expanding metallic stent(以下SEMS)の順とした.
術後の腹部症状改善ついては,診療録より評価した.術後の経口摂取の可否は,流動食を5割以上摂取できた場合を経口摂取「可能」と定義した.水分摂取のみ可能となった症例は経口摂取「不可」と定義した.
転機について,退院可能例は自宅または居宅型ホスピス・緩和ケア施設への退院とし,緩和ケア病棟への転院は含めなかった.
予後予測スケールPPIは,Moritaらが開発した臨床症状を指標とした短期予後予測ツールであり,Palliative Performance Scale (PPS),経口摂取状況,安静時呼吸苦,浮腫,せん妄の5項目で構成され,PPI≧6で3週間以内,PPI≧4で6週間以内の死亡リスクが高いとされる 7).統計解析はJMP Pro16® (JMP Statistical Discovery LLC, Cary, NC, USA)を使用し,COX比例ハザードモデルを用いた.有意水準はp<0.05とした.
本研究は,昭和大学の倫理委員会の承認を得ている(承認番号2023-090-A).インフォームドコンセントの取得に関しては,研究内容からオプトアウトにより代用した.
対象症例は27例であった.原発部位は,大腸15例,胃6例,膵臓2例,食道,小腸,胆囊,膀胱が各1例であった.性別は男性17例,女性10例.年齢中央値は70歳(37–90歳)であった.術前のPPI中央値は3.0(0–11.5)であった.術式は切除術12例,バイパス術9例,人工肛門造設術7例,SEMS留置2例であった.腹膜播種は18例に認めた.術後経口摂取が可能となったのは22例で,残りの5例については水分摂取のみ可能であった.腹部症状は26例で改善を認め,14例が退院可能となった.全症例のOS中央値は118日(22–411日)であった.患者背景の詳細を表1に示す.
| n | 27 | ||
|---|---|---|---|
| 性別 | 男性(n) | 17 | 63.0% |
| 女性(n) | 10 | 37.0% | |
| 年齢 | (median) | 70 | (37–90) |
| 原発部位 | 結腸・直腸 | 15 | 55.6% |
| 胃 | 6 | 22.2% | |
| 膵臓 | 2 | 7.4% | |
| 食道 | 1 | 3.7% | |
| 小腸 | 1 | 3.7% | |
| 胆囊 | 1 | 3.7% | |
| 膀胱 | 1 | 3.7% | |
| ステージ(n) | IV | 23 | 85.2% |
| IV以外 | 4 | 14.8% | |
| Sig (n) | + | 3 | 11.1% |
| 腹膜播種(n) | + | 18 | 66.7% |
| 術式(n) | 切除術 | 12 | 40.0% |
| バイパス術 | 9 | 30.0% | |
| 人工肛門造設 | 7 | 23.3% | |
| SEMS | 2 | 6.7% | |
| 術前PPI | (median) | 3 | (0–11.5) |
| 腹部症状改善 | 改善あり | 26 | 96.3% |
| 術後経口摂取(n) | 可能 | 22 | 81.5% |
| 退院(n) | 可能 | 14 | 51.9% |
| OS(日) | (median) | 118 | (22–411) |
Sig:signet ring cell carcinoma,PPI:Palliative Prognostic Index,SEMS:self-expanding metallic stent,OS:overall survival(生存期間)
単変量解析および多変量解析の結果,腹膜播種の有無と術後経口摂取の可否の2項目が術後OSと有意な関連を示した.
腹膜播種陽性群18例のOSの中央値は73.5日(IQR 54–136.25)で,腹膜播種陰性群9例のOSの中央値は188日(IQR 102.5–391.5)であった.単変量解析の結果はハザード比3.35(95%信頼区間1.29–8.69),p=0.013で,多変量解析の結果はハザード比3.06(95%信頼区間1.06–8.82),p=0.037であった.
術後経口摂取可能群22例のOSの中央値は128.5日(IQR 67–202.75)で,術後経口摂取不能群5例のOSの中央値は54日(IQR 25–77.5)であった.単変量解析の結果はハザード比0.19(95%信頼区間0.06–0.58),p=0.004で,多変量解析の結果はハザード比0.20(95%信頼区間0.05–0.73),p=0.015であった.その他の因子については表2に示す.
| 生存期間 | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 中央値OS (IQR) | 単変量解析 | 多変量解析 | ||||||
| n (%) | ハザード比(95%CI) | p値 | ハザード比(95%CI) | p値 | ||||
| 性別 | 男性 | 17 (63.0) | 87 | (58.5, 187.5) | 0.68 (0.29, 1.59) | 0.371 | 0.78 (0.28, 2.15) | 0.631 |
| 女性 | 10 (37.0) | 140 | (58.5, 243.75) | reference | reference | |||
| 年齢 | <65 | 8 (30.0) | 126 | (33, 161.5) | 1.78 (0.75, 4.22) | 0.191 | 1.22 (0.42, 3.57) | 0.707 |
| 65<= | 19 (70.0) | 74 | (68, 202) | reference | reference | |||
| PPI | <6 | 24 (88.9) | 126.5 | (60.25, 198.5) | 0.29 (0.08, 1.09) | 0.066 | 0.35 (0.09, 1.42) | 0.141 |
| 6<= | 3 (11.1) | 69 | (26, 78) | reference | reference | |||
| 腹膜播種 | 陽性 | 18 (66.7) | 73.5 | (54, 136.25) | 3.35 (1.29, 8.69) | 0.013 | 3.06 (1.06, 8.82) | 0.037 |
| 陰性 | 9 (33.3) | 188 | (102.5, 391.5) | reference | reference | |||
| 術後経口摂取 | 可能 | 22 (81.5) | 128.5 | (67, 202.75) | 0.19 (0.06, 0.58) | 0.004 | 0.20 (0.05, 0.73) | 0.015 |
| 不可能 | 5 (18.5) | 54 | (25, 77.5) | reference | reference | |||
単変量解析・多変量解析:Cox比例ハザードモデル(性別,年齢,PPI,腹膜播種,術後経口摂取),有意水準:p値<0.05,太字:有意差あり.
PPI:Palliative Prognostic Index,OS:overall survival(生存期間),IQR:interquartile range(四分位範囲),95%CI:95%信頼区間
本研究では,MBOに対する緩和手術27例を対象に検討を行い,96.3%の症例で術後の腹部症状が改善し,81.5%が経口摂取可能となった.OSの中央値は118日(22–411日)であり,14例(51.9%)が自宅または緩和ケア施設への退院が可能であった.統計解析の結果,性別・年齢・術前PPIはOSと有意な関連を示さなかったが,腹膜播種の有無と術後経口摂取の可否は独立した予後因子であった.
MBOは卵巣がんや消化器がんに高頻度で発生し,症状緩和を目的とした緩和手術が行われる 1,2,6,8–13).MBO発症後のOSは,手術療法で1~9カ月,保存的治療では28~69日と報告されている 14–16).Feuerらのメタアナリシスでは,緩和手術により症状緩和が42%~80%,術後再閉塞が10%~15%,術後60日以上の生存率が50%以上とされており 3,17),一定の臨床的有用性が示されている.また,緩和手術がOSの延長に寄与するとの報告も複数存在しており 18–24),その意義はquality of life (QOL)改善にとどまらず,予後にも影響を与える可能性がある.一方,広範な腹膜播種例では緩和手術後30日間の生存率が21%~40%と低く,腸管蠕動の低下により症状緩和が得られにくいことが報告されている 25).このような症例では,オクトレオチドなどの薬物療法が第一選択となる 17).Jeongらは,大腸がんにおいて腹膜播種陽性でも緩和的切除術を行った群の方が非切除群よりもOSが長かったと報告しており 26),腫瘍の局所進展や術後治療の可否によっては切除が有効となる可能性がある.術後化学療法未施行例でも,緩和手術後のOSは34~204日と幅広く報告されている 27–33).吉野らは,終末期消化器がん患者に対する緩和手術の目標として「術後2週間以内の退院」と「3カ月以上のQOL維持」を挙げている 18).本研究ではこの目標を達成した症例は22.2%にとどまり,MBOが腫瘍緊急症であり緊急手術が避けられない状況が多いことや,保存的治療の限界,術後の免疫系低下による腫瘍増大への影響などが背景にあると考えられる.
症状緩和や経口摂取の改善は,閉塞解除による腸管機能の回復が主因と考えられる.術後経口摂取可能群では術前PPIが低値であり,全身状態が安定している方が術後の摂取再開に寄与する可能性が示唆された.術後経口摂取不能群の多くが広範な腹膜播種と複数箇所の閉塞を呈していたことから,腸管蠕動の低下が症状緩和を妨げた可能性がある.術後経口摂取の可否がOSに影響する独立因子であるかについては,さらなる症例の集積が必要である.
本研究の強みは,緩和手術後に化学療法を施行していない症例を対象とし,純粋な緩和手術の治療成績を評価した点にある.先行研究の多くは術後に化学療法を併用しており 3,4,11–20,22,25,31,33),緩和手術単独の効果を検討した報告は少ない.一方で,本研究の限界は,症例数が27例と小規模であり,統計的な有意差の検出力が限定的である.また,比較群を持たない後方視的研究であるため,緩和手術の有用性そのものの評価は困難である.術後経口摂取は術前に予測できない中間因子であり,解析に含めることには方法論的な限界がある.これらの限界を踏まえ,今後は症例集積と前向き研究が求められる.
本研究の結果より,MBOに対する緩和手術が症状緩和,経口摂取の再開,退院可能性の向上など,患者のQOLに関連するアウトカムを改善し得る可能性が示唆された.とくに,advance care planning (ACP)の決定において,患者の希望する療養の場や生活の質を考慮するうえで,緩和手術は重要な選択肢となり得る.術後経口摂取可能群では化学療法導入の可能性もあり,予後改善に寄与する可能性がある.
術後経口摂取の可否と術後OSの間には統計学的な有意差が認められたが,腹膜播種の有無と経口摂取の可否には有意差が認められなかった.ただし,術後経口摂取不能群の多くが広範な腹膜播種と複数閉塞を呈していたことから,術後経口摂取が予後に影響する独立因子であるかについては,さらなる検討が必要である.術前PPIは有意差を示さなかったが,低スコア群で術後経口摂取が可能となる傾向が認められた.今後は,術前因子による予測モデルの構築や,患者の満足度も含めた術後QOLの定量的評価に対する前向き研究が望まれる.
本研究により,MBOに対する緩和手術は,症状緩和,療養の場の選択,OSの延長といったアウトカムに寄与する可能性が示された.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
小城原,保母は,研究の構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した;諸星,田邊は研究データの構想およびデザイン,研究データの収集,分析,解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した;石田,徳永,面髙,喜田,磯﨑,佃,松尾,有馬,鬼丸,長井,柏原,井上は研究の構想およびデザイン,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した;大塚,出口,横山は研究の構想およびデザイン,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した;すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.