Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
ホスピス・緩和ケア病棟から自宅退院を経験し,その後自宅または緩和ケア病棟で死亡した患者における,看取り方針と実際の看取り場所の一致率
佐藤 桃香 , 西本 武史, 升川 研人, 森田 達也, 木澤 義之, 恒藤 暁, 志真 泰夫, 宮下 光令
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2026 年 21 巻 1 号 p. 31-39

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Abstract

【目的】ホスピス・緩和ケア病棟から自宅退院を経験し,その後自宅または緩和ケア病棟で死亡した終末期がん患者の最終的な看取り場所が,看取りの方針と一致した割合は明らかでない.本研究の目的は看取り場所と看取りの方針との一致率を明らかにすることである.【方法】2018年に実施された多施設遺族調査の付帯研究として実施した.【結果】自宅で死亡した患者の遺族から202件,緩和ケア病棟で死亡した患者の遺族から157件の回答が得られた.自宅死亡例の80%,緩和ケア病棟死亡例の82%が方針と一致していた.不一致例の,緩和ケア病棟方針から自宅看取りに至った22例は「在宅看取りに対応する医師・看護師がいた」が最多であり,自宅方針から緩和ケア病棟看取りに至った11例は「自宅での痛み管理が不十分だった」が最多であった.【結論】看取り方針と看取り場所は約80%で一致しており,多くの患者が希望する場所で看取られていた.

Translated Abstract

Purpose: The proportion of terminally ill cancer patients who were discharged home from a hospice/palliative care unit and subsequently died either at home or in the palliative care unit, whose final place of death was consistent with their intended place of care, remains unclear. This study aimed to clarify the consistency between the preferred and actual place of death. Methods: This study was a supplementary study to a multi-institutional bereavement survey conducted in 2018. Results: Responses were obtained from the bereaved families of 202 patients who died at home and 157 patients who died in a palliative care unit. Among them, 80% of home deaths and 82% of palliative care unit deaths were consistent with the stated end-of-life care preference. Among the 22 cases who preferred to die in a palliative care unit but died at home, the most common reason was the availability of physicians and nurses who could provide end-of-life care at home. Among the 11 cases who preferred to die at home but the patients died in a palliative care unit, the most common reason was insufficient pain management at home. Conclusion: Approximately 80% of patients died by their end-of-life care preference, suggesting that many were able to die in their preferred location.

緒言

緩和ケアにおいて,看取り場所と看取りの方針が一致していることは,緩和ケアの質指標の一つである 1).看取り場所と看取りの方針との一致は,終末期がん患者の望ましい死の達成度と関連が認められており,医療者にとって重要な視点である 2).しかし,先行研究では,看取り場所と看取り方針が一致している割合は約37.3%にとどまることが報告されており,課題の一つであると考えられる 3).

多くのがん患者は,希望する看取り場所で長期間療養することが難しく,終末期に複数の療養場所を経験することが報告されている 4,5).とくに自宅は,がん患者において希望の多い看取り場所である 6)だけでなく,療養の一環として一時的に退院し過ごす場所となることもある.実際,Sekimotoらの報告では,緩和ケア病棟で死亡したがん患者のうち16%が一度自宅へ退院し,その後再入院して看取られていたことが示されている 7).このように,症状の悪化時には病院で一時的な緩和を受け,再び在宅療養へ移行するケースもみられる.しかし,わが国において自宅療養を経験したがん患者が,最終的に希望していた場所で看取られているかどうかは明らかではない.

そこで本研究では,ホスピス・緩和ケア病棟から自宅退院を経験し緩和ケア病棟または自宅で亡くなったがん患者において,看取りの方針と実際の看取り場所がどの程度一致しているかを明らかにすることとした.加えて,看取りの方針と一致しなかった患者の一致しなかった理由も明らかにすることとした.本研究は,がん患者の看取り方針と実際の看取り場所の一致度を明らかにすることで,現状の終末期ケアの実態を把握し,今後の改善に向けたアプローチを提供することが期待される.この成果により,終末期ケアにおける質の向上に貢献できると考えられる.また,看取り方針と一致しなかった理由を明示することにより,今後のケア方針の改善や患者の希望に基づいた支援方法の発展につながると考える.

方法

研究デザインおよび調査方法

本研究は,「遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究(J-HOPE4)」 8)の付帯研究の一つである.J-HOPE4は自記式質問紙による郵送調査であり,遺族から見た患者が受けた緩和ケアの質の評価を主目的として2018年に実施された多施設遺族調査である.J-HOPE4研究では,各参加施設の診療記録および施設管理情報に基づいて患者が最期にケアを受けていた場所(ホスピス・緩和ケア病棟または在宅ケア施設)を患者の死亡後に同定した.その後,各死亡場所における調査対象者を,適格基準を満たす遺族を各施設で連続的に抽出し,1施設あたり最大80名を上限として選定された.調査対象者それぞれに各付帯研究の調査票をランダムに送付し,本付帯研究の郵送調査が実施された.

対象者

日本ホスピス緩和ケア協会の正会員施設を対象施設として,J-HOPE4研究全体では,全国で215の施設(ホスピス・緩和ケア病棟:187施設,一般病院:14施設,在宅ケア施設:14施設)が研究に参加した.本付帯研究の調査用紙は179の施設(ホスピス・緩和ケア病棟:165施設,在宅ケア施設:14施設)で死亡したがん患者遺族に無作為に送付された.本付帯研究では,死亡場所に関する分析を目的として,ホスピス・緩和ケア病棟または在宅ケア施設の2セッティングのみを対象とした.

本付帯研究の研究対象者は対象施設で2018年1月31日以前に死亡したがん患者の遺族のうち,各施設で調査対象として適格基準を満たす遺族を連続的に抽出し,1施設あたり最大80名までを対象とした.適格基準は1)死亡した患者の年齢が20歳以上,2)死亡した患者の遺族の年齢が20歳以上,3)ホスピス・緩和ケア病棟より自宅への退院を経験した遺族とした.除外基準は,1)遺族の同定が不可能,2)治療関連死やICU病棟で死亡した患者の遺族,3)患者の入院期間が3日以内,4)遺族が認知症・精神障害・視覚障害,遺族が精神的に不安定とした.

調査項目

亡くなるまでの療養場所の経過

本研究では,ホスピス・緩和ケア病棟で亡くなったがん患者の遺族に対し,患者の療養場所の経過について「病院や一般病棟から緩和ケア病棟へ転院・転棟した」「病院から自宅へ退院し,その後自宅から緩和ケア病棟へ入院した」「緩和ケア病棟から一度自宅へ退院し,再び緩和ケア病棟へ入院した」から一つを選択するよう回答を求めた.また,自宅で亡くなったがん患者の遺族には,「ずっと自宅で療養していた」「病院から自宅へ退院し,そのまま自宅で亡くなった」「緩和ケア病棟から自宅へ退院し,そのまま自宅で亡くなった」から一つを選択するよう回答を求めた.

看取りの方針について

ホスピス・緩和ケア病棟にて死亡したがん患者の遺族および自宅にて死亡したがん患者の遺族に対して,「お看取りについてお聞きします.当てはまるもの一つに〇をつけてください」と質問した.そして,「往診医と相談して,ご自宅での看取りをする方針だった」「往診医と相談はしなかったが,ご自宅で看取りをする方針だった」「具合が悪くなったら緩和ケア病棟に入院して,緩和ケア病棟で看取る方針だった」「とりあえず困ったら緩和ケア病棟へ入院する方針だった(看取りの方針は決めなかった)」「看取りの方針について話し合っていなかった,わからない」から当てはまるものを一つ選択を求めた.

看取り方針と異なり緩和ケア病棟で看取りとなった理由

看取りの方針と異なり,ホスピス・緩和ケア病棟で死亡したがん患者遺族では,緩和ケア病棟に入院した理由について,「自宅で痛みが十分緩和できなかったから」「自宅で痛み以外の身体的苦痛が十分緩和できなかったから」「自宅で身の置き所のなさ(じっとしていられない感じ)が十分緩和できなかったから」「自宅療養中に患者様の容態が予想していたより急に変化したから」「自宅で介護するのは体力的・体調的につらかったから」「自宅で介護するのは精神的につらかったから」「自宅で介護するのは経済的な負担が大きかったから」「在宅看取りに対応している往診の医師や訪問看護師が見つからなかったから」「十分な在宅医療サービスを受けられなかったから」より最も大きかった理由を一つ選択するよう求めた.これらの項目については,既存の尺度や質問紙には該当するものがなかったため,本研究において独自に作成した.作成にあたっては,先行研究の知見を参考にするとともに,緩和ケア病棟での臨床経験を有する共著者間で議論を重ね,臨床現場で実際に生じやすい理由を網羅できるように検討した.その後,複数回の議論を経て選択肢を精選し,最終的な質問項目とした.

看取り方針と異なり自宅で看取りとなった理由

看取りの方針と異なり,自宅で死亡したがん患者遺族では,自宅での看取りとなった理由について,「自宅で痛みが十分緩和できたから」「自宅で痛み以外の身体的苦痛が十分緩和できたから」「自宅で身の置き所のなさ(じっとしていられない感じ)が十分緩和できたから」「自宅療養中に患者様の容態が急に変化しなかったから」「自宅で介護するのは体力的・体調的につらくなかったから」「自宅で介護するのは精神的につらくなかったから」「自宅で介護するのは経済的な負担がない,または少なかったから」「在宅看取りに対応している往診の医師や訪問看護師がいたから」「十分な在宅医療サービスが受けられたから」より最も大きかった理由を一つ選択するよう求めた.

患者・遺族の人口統計学的要因

患者特性に関しては,性別,年齢,がんの原発部位,在宅療養期間/ホスピス緩和ケア病棟入院期間,死別後経過期間,婚姻状況,同居の有無を調査した.また,遺族特性に関しては,性別,年齢,続柄,最終学歴を調査した.

統計解析

分析の対象を,看取りの方針の質問項目において「病院から自宅へ退院し,自宅から緩和ケア病棟へ入院した」「緩和ケア病棟から一度自宅へ退院し,再び緩和ケア病棟へ入院した」「緩和ケア病棟から自宅へ退院し,そのまま自宅で亡くなった」「ずっと自宅で療養していた」「病院から自宅へ退院し,そのまま自宅で亡くなった」と回答した遺族とした.その後,記述統計によって,患者・遺族背景の度数・割合,平均・標準偏差を算出した.患者・遺族背景と最終死亡場所による割合の差の検定と平均の差の検定(χ2検定,t検定,ウィルコクソン順位和検定)を行った.

次に,看取りの方針と,実際の看取り場所と看取りの方針との一致割合を算出した.「具合が悪くなったら緩和ケア病棟に入院して,緩和ケア病棟で看取る方針だった」「とりあえず困ったら緩和ケア病棟へ入院する方針だった(看取りの方針は決めなかったが,実際の看取り場所が緩和ケア病棟であった場合は方針と一致したものとして解析した)」と回答した遺族を,緩和ケア病棟で看取る方針だったとし,「往診医と相談して,ご自宅での看取りをする方針だった」「往診医と相談はしなかったが,ご自宅で看取りをする方針だった」と回答した遺族を,自宅で看取る方針だったとした.

有意水準は0.05未満で統計的に有意とし,解析ソフトはSAS version 9.4(SAS institute, Cary, NC, USA)を用いた.

倫理的配慮

本研究は東北大学大学院医学系研究科倫理員会の承認を得た(承認番号:2017-2-236-1).その後,各参加施設の倫理員会の承認を得た.研究参加施設に倫理委員会の設置がない場合には,委任状にて東北大学で一括して審査を行った.回答済みの質問票を返送することで研究への参加に同意したものと見なした.研究への参加を希望しない場合は,「不参加」に丸を付けて,未記入の質問票を返送するよう求めた.

結果

図1に自宅で死亡したがん患者の遺族への調査票回収状況のフローチャートを示した.自宅にて死亡したがん患者の遺族に346件の調査票が発送され,252件の調査票が返送された.そのうち回答拒否は40件あり,亡くなるまでの経過について未回答な事例は10件あり,これらを除外すると202件の回答数が得られた.また,図2に緩和ケア病棟で亡くなった患者の遺族への調査票回収状況のフローチャートを示した.緩和ケア病棟で亡くなった患者の遺族に1029件の調査票が発送され,661件の調査票が返送された.そのうち回答拒否は103件あり,亡くなるまでの経過について未回答な事例は65件,自宅退院することなく緩和ケア病棟で死亡した事例は336件あり,これらを除外すると,157件の回答が得られた.

図1 自宅で死亡したがん患者の遺族への調査票回収状況のフローチャート
図2 緩和ケア病棟で死亡したがん患者の遺族への調査票回収状況のフローチャート

患者・遺族の背景と自宅死亡・緩和ケア病棟死亡の関連

表1に患者・遺族特性を示した.緩和ケア病棟群に関して,「病院から自宅へ退院し,自宅から緩和ケア病棟へ入院した」事例は146件,「緩和ケア病棟から一度自宅へ退院し,再び緩和ケア病棟へ入院した」事例は11件だった.自宅群に関して,「緩和ケア病棟から自宅へ退院し,そのまま自宅で亡くなった」事例は20件,「ずっと自宅で療養していた」事例は53件,「病院から自宅へ退院し,そのまま自宅で亡くなった」事例は129件だった.患者の性別に関して,緩和ケア病棟群では49.0%が,自宅群では59.9%が男性で,自宅群の男性が有意に多かった(p=0.040).同居していた人の有無の項目については緩和ケア病棟群が79.9%に対し,自宅群では88.4%であり,自宅群のほうが同居人がいる割合が有意に多かった(p=0.029).

表1 患者・遺族背景

自宅死亡群(N=202) 緩和ケア病棟死亡群(N=157) p値
死亡前の療養場所(n, %)
病院から自宅へ退院し,自宅から緩和ケア病棟へ入院した — 146 (93.0) —
緩和ケア病棟から一度自宅へ退院し,再び緩和ケア病棟へ入院した — 11 (7.0)
緩和ケア病棟から自宅へ退院し,そのまま自宅で亡くなった 20 (63.9) —
ずっと自宅で療養していた 53 (26.2) —
病院から自宅へ退院し,そのまま自宅で亡くなった 129 (63.9) —
患者背景(n, %)
患者の性別
性別(男性) 121 (59.9) 77 (49.0) 0.040
性別(女性) 81 (40.1) 80 (51.0)
がん種
固形がん 188 (93.1) 143 (91.1) 0.57
血液がん 4 (2.0) 6 (3.8)
その他 10 (5.0) 8 (5.1)
婚姻状態
既婚 141 (71.9) 104 (67.1) 0.07
未婚 8 (4.1) 5 (3.2)
死別 44 (22.5) 35 (22.6)
離別 3 (1.5) 11 (7.1)
同居されていた方
いた 168 (88.4) 123 (79.9) 0.029
いない 22 (11.6) 31 (20.1)
遺族の性別
男性 44 (22.2) 54 (34.8) 0.008
女性 154 (77.8) 101 (65.2)
患者との関係
配偶者 102 (51.3) 68 (43.6) 0.37
患者の子供 73 (36.7) 71 (45.5)
婿・嫁 11 (5.5) 8 (5.1)
患者の親 3 (1.5) 0 (0.0)
兄弟姉妹 8 (4.0) 6 (3.9)
その他 2 (1.0) 3 (1.9)
介護者の最終学歴
小・中学校 15 (7.6) 11 (7.0) 0.70
高校・旧制中学 90 (45.7) 67 (42.7)
短大・専門学校 55 (27.9) 40 (25.5)
大学・大学院 36 (18.3) 37 (23.6)
その他 1 (0.5) 2 (1.3)
連続変数(平均±SD,または中央値[第1四分位–第3四分位])
患者の年齢(歳,平均±SD) 74.1±12.1 76.1±11.2 0.11
遺族の年齢(歳,平均±SD) 62.1±11.8 61.9±12.0 0.89
在宅療養期間/ホスピス緩和ケア病棟入院期間(日,中央値[第1四分位–第3四分位]) 30 (12–75) 21 (11–38) 0.001
死別後経過期間(日,中央値[第1四分位–第3四分位]) 432 (279–649) 324 (261–402) <0.001

注:データはn(%)または平均±SD, 中央値(第1四分位–第3四分位)で示した.

遺族が女性であった割合は緩和ケア病棟群が65.2%,自宅群が77.8%であった(p=0.008).遺族の年齢や,患者との関係,介護者の最終学歴の項目については統計的有意差がなかった.

退院時の看取り方針と実際の看取り場所

表2に退院時の看取り方針と実際の看取り場所について記載した.自宅で亡くなった患者の80.7%が自宅で看取る方針であった.また,緩和ケア病棟で亡くなった患者の82.8%が緩和ケア病棟または病棟で看取る方針であった.

表2 退院時の看取り方針と実際の看取り場所

自宅死亡群 緩和ケア病棟死亡群
N=202 % N=157 %
看取りの方針
自宅での看取り方針 163 80.7 11 7.0
・往診医と相談し自宅で看取る方針だった 135 66.8 9 5.7
・往診医と相談しなかったが自宅で看取る方針だった 28 13.9 2 1.3
緩和ケア病棟での看取り方針 22 10.9 130 82.8
・具合が悪くなったら緩和ケア病棟に入院し,緩和ケア病棟で看取る方針だった 15 7.4 96 61.1
・とりあえず困ったら緩和ケア病棟に入院する方針だった(看取りの方針は決めなかった) 7 3.5 34 21.7
方針を話し合っていない 4 2.0 9 5.7
その他 5 2.5 3 1.9
未回答 8 4.0 4 2.5

緩和ケア病棟で看取る方針の人が自宅看取りとなった理由

図3に緩和ケア病棟で看取る方針の人が自宅看取りとなった理由を示した.緩和ケア病棟で看取る方針だったが自宅看取りとなった事例は22件で,その理由として最も多かったのは「在宅看取りに対応している往診の医師や訪問看護師がいたから」であった.次いで多かった理由としては,「痛みが十分緩和できたから」,「患者の容体が急に変化しなかったから」,「十分な医療サービスを受けられたから」であった.

図3 緩和ケア病棟で看取る方針の人が自宅看取りとなった理由(n=22)

自宅看取り方針の人が緩和ケア病棟看取りに至った理由

図4に自宅看取り方針の人が緩和ケア病棟看取りに至った理由を示した.自宅で看取る方針だったにもかかわらず緩和ケア病棟で看取りとなった事例は11件であった.その理由として最も多かったのは,「自宅で痛みが十分緩和できなかったから」である.「自宅で痛み以外の身体的苦痛が緩和できなかったから」,「患者の容体が急変したから」,が後に続いた.

図4 自宅看取り方針の人が緩和ケア病棟看取りに至った理由(n=11)

考察

本研究は,多施設遺族調査のデータを使用し,自宅での療養を経験したがん患者における看取りの方針と実際の看取り場所の一致率を明らかにした.その結果,がん患者のうち,約80%が看取りの方針と実際の看取り場所が一致していることが明らかになった.また,看取りの方針と実際の看取り場所が不一致だった理由として,「自宅へ訪問する医療スタッフの存在」と「症状管理の困難感」が多く挙げられた.

本研究の第1の知見として,看取り方針と看取り場所は自宅で亡くなった患者の80.7%,緩和ケア病棟で亡くなった患者の82.8%が看取り方針と一致していたことが明らかになった.先行研究によると,医療専門家との希望する死亡場所の話し合いが死亡場所との一致には重要であることが明らかになっている 9).Yamaguchiらは,わが国における遺族調査を通して緩和ケア病棟では約80%のがん患者と家族が終末期に関する話し合いを医療者と行っていることを報告した 10).これらを踏まえると,緩和ケア病棟においては患者・家族と医療者の間で看取り場所に関する話し合いが多く行われていることが,看取り方針と実際の看取り場所の高い一致率につながっている可能性が示唆される.本研究の第2の知見として,緩和ケア病棟看取り方針だったが自宅看取りになった最も多い理由が「在宅看取りに対応している医師や看護師がいた」ことであることが明らかになった.また,自宅での看取り方針だったが緩和ケア病棟での看取りとなった最も多い理由は,「自宅で痛みが十分に緩和できなかったから」だった.先行研究では自宅での看取りを達成する一つの要因として看護師と家庭医の自宅訪問の充実が認められている 11).本研究結果からは,在宅医療を支える人的資源が存在する場合には,自宅での看取りの実現に寄与していることが示唆される一方で,症状緩和が困難な場合には病棟での看取りが選択されている現状も明らかになった.したがって,在宅医療の支援体制は一定程度整備されつつあるものの,症状コントロールを含めたさらなる充実が求められると考えられる.一方で,在宅において症状管理が困難となり緩和ケア病棟での看取りとなったがん患者も一定数おり,在宅における症状管理の質向上が課題であると推察された.しかし,看取りの方針を決定した時期が,全身状態が良好である早期だったため 12–14),実際の経過において症状が増悪し,当初の方針を維持することが難しくなったケースもあった可能性がある.本研究における不一致だった理由を回答したがん患者遺族の数は多いとは言えず,さらなる詳細な考察は困難である.今後,看取りの方針と不一致だった遺族に対してインタビュー調査やアンケート調査を行うなどより大きいサンプルでの検討が必要だと考える.

本研究の結果では,自宅で亡くなった患者の80.7%,緩和ケア病棟で亡くなった患者の82.8%において,看取り場所と看取り方針が一致していた.これは,先行研究 3)で報告された一致率(約37.3%)と比較して高い数値である.その背景としては,対象が緩和ケア病棟から自宅退院した患者であり,退院前に多職種による十分な話し合いや調整が行われていた可能性が考えられ,方針と実際の看取り場所の高い一致率に寄与したと考えられる.

本研究の限界として6点挙げられる.1点目として緩和ケア病棟で死亡した患者と自宅で死亡した患者のみしかサンプリングされておらず,一般病棟や一般の在宅施設,介護施設で死亡した患者については不明である.2点目として,本研究は日本ホスピス緩和ケア協会会員施設で死亡したがん患者遺族を対象とした点が挙げられる.そのため,会員施設以外の緩和ケア病棟や在宅ケア施設で死亡したがん患者に当てはまらない可能性がある.3点目として,遺族調査という研究の性質上,想起バイアスがある可能性がある.4点目として,本研究で用いた「方針と実際の看取り場所が異なった理由」に関する質問項目は,既存の尺度ではなく共著者間の議論を基に作成したオリジナルの項目である.そのため,自宅での看取りとなった理由には比較的ポジティブな内容が多く,緩和ケア病棟での看取りとなった理由にはネガティブな内容が多い傾向となった.これは,臨床現場で想定されやすい事例を中心に抽出したことによる可能性があり,項目の網羅性や妥当性には限界があると考えられる.したがって,本研究結果の解釈にあたってはこの点を考慮する必要がある.今後は,先行研究の知見や医療者・遺族への質的調査を踏まえ,より体系的かつ妥当性の高い項目を開発することが求められる.5点目として,本研究では,遺族に対して「看取りの方針」について質問したが,調査票上では方針がどの時点で決定されたかの明示はなく,遺族が回答した内容は患者の療養経過の中で最終的に認識していた方針を想起して回答したものと考えられる.実際には,患者の状態や症状の変化に応じて複数回の判断が行われることがあり,遺族の回答には,予想外の方針変更だけでなく,比較検討や吟味の過程での方針変更も含まれる可能性がある.そのため,本研究で算出する「方針と実際の看取り場所の一致」は,最終的な認識としての一致を示すものであり,方針変更の経緯そのものを厳密に反映しているわけではない.6点目として,自宅看取り群において「在宅医や訪問看護がいた」「自宅での介護がつらくない」「最初から自宅で看取る予定であった」といった理由が挙げられたが,これらは必ずしも“方針変更”を意味するものではなく,当初から自宅看取りを希望・予定していた状況を反映している可能性がある.そのため,本研究で示された「方針変更の理由」の中には,方針の修正過程というよりも当初の方針自体が回答として含まれている点に留意する必要がある.

結論

本研究では緩和ケア病棟と在宅にて死亡したがん患者遺族に対する調査データを用い,看取りの方針と実際の看取り場所と,看取りの方針と不一致だった理由を明らかにした.全体では,看取り方針と看取り場所は80%程度で一致しており多くの患者が望む場所で看取られていることが示された.一方で,看取りの方針と一致しなかったケースも一定数存在し,その理由としては,症状の急変や家族の介護負担,医療的対応の限界など,療養中に生じた状況の変化が影響していた.これらの結果から,患者の希望を尊重した看取りを実現するためには,療養過程における継続的な意思確認と,状況に応じた柔軟な対応を可能とする支援体制の整備が重要であることが示唆された.今後は,方針の変化も視野に入れた包括的な看取り支援の在り方について,さらに検討を深めていく必要がある.

謝辞

研究にご協力いただきました日本ホスピス緩和ケア協会やホスピス財団,患者様のご遺族の皆様に心より感謝申し上げます.また,東北大学未来型医療創造卓越大学院プログラムの支援にも感謝申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

佐藤は研究データの分析,解釈,原稿の起草および内容の批判的な推敲;西本,升川,森田,木澤,恒藤,志真,宮下は研究の構想およびデザイン,原稿の内容の批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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