Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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症例報告
在宅療養中の腎機能低下を伴う卵巣がん終末期のがん疼痛に対してブプレノルフィン持続皮下注射による症状緩和を行った一例
金沢 哲広 渡邊 紘章山本 泰大坪井 理恵相場 美穂
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2026 年 21 巻 1 号 p. 1-5

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Abstract

【目的】在宅療養中の腎機能低下を伴う進行がん患者のがん疼痛に対するフェンタニル(fentanyl: Fen)貼付剤からブプレノルフィン(buprenorphine: BUP)持続皮下注射へのオピオイド変更の有効性,安全性について報告する.【症例】48歳,女性.卵巣がん術後再発,肝転移,腹膜播種.腹膜播種によるがん疼痛に対してFen貼付剤37.5 μg/時間とオキシコドン速放性製剤5 mgを使用していたが,がん性腸閉塞悪化かつ高度腎機能障害のため,BUP持続皮下注射へ薬剤変更した.BUP持続皮下注射0.96 mg/日で開始,症状に合わせて漸増し1.2 mg/日に増量後は疼痛軽減が得られた.さらに疼痛悪化時にBUP持続皮下注射1.44 mg/日に増量し,疼痛は軽減した.BUP開始後の重篤な副作用は認めなかった.【結論】法律上麻薬指定ではないBUPは,迅速な薬剤準備が課題となる在宅医療の現場において高度腎機能障害患者のがん疼痛治療の選択肢となる可能性がある.

Translated Abstract

Objective: This case report describes the efficacy and safety of switching opioids from transdermal fentanyl to continuous subcutaneous infusion (CSI) of buprenorphine in a home-based patient with advanced ovarian cancer and renal impairment. Case: A 48-years-old woman with recurrent ovarian cancer and metastases to the liver and peritoneum was receiving home-based palliative care. For peritoneal dissemination-related cancer pain, she had been treated with a transdermal fentanyl patch (37.5 μg/h) and immediate-release oxycodone tablets (5 mg). Due to worsening cancer-related ileus and severe renal impairment, opioids were changed to buprenorphine CSI. Treatment started with buprenorphine at 0.96 mg/day and was titrated to 1.2 mg/day, resulting in sufficient pain relief. With worsening pain, the dose was increased to 1.44 mg/day, leading to enhanced symptom management. No significant side effects were noted following the initiation of buprenorphine CSI. Conclusion: This case may contribute that switching from transdermal fentanyl to buprenorphine CSI is an effective and safe method for managing cancer pain in patients with advanced disease and renal dysfunction.

緒言

ブプレノルフィン(buprenorphine: BUP)はμオピオイド受容体の部分作動薬で,本邦では医療用麻薬に指定されていないオピオイド鎮痛薬の一つである.がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインでは高度の腎障害があり,他の強オピオイドがすぐに投与できないという条件で投与が推奨されている(推奨度2B) 1.European Society for Medical OncologyのガイドラインでもBUPの経皮的,経静脈的投与が推算糸球体濾過量(estimated Glomerular Filtration Rate: eGFR)30 ml/分未満の慢性腎臓病患者において安全なオピオイドとされている(推奨度IIIB) 2.米国のNational Comprehensive Cancer Networkのガイドラインでは他の強オピオイドで副作用が起こりやすい患者でBUP貼付剤または舌下錠が選択肢に挙げられている 3

近年BUPは強オピオイドと比較してがん疼痛に対する鎮痛効果では劣らず,副作用も少ないことが報告されており 46,BUPはがん疼痛に対する第一選択となり得るという意見もある 7.しかしそれらの報告は貼付剤,舌下錠,口腔粘膜吸収剤が多数を占めている.がん疼痛に対するBUP持続注射に関する報告は,Nodaらの筋肉注射と持続皮下注射の併用を有効としたものに限られる 8.日本のレセプト情報を基にしたがん疼痛に対するオピオイドの種別使用量報告ではBUPはそもそも調査対象薬剤に含まれておらず 9,がん疼痛に対する使用頻度は不明である.

BUPは日本では法律上麻薬指定されていない.そのため麻薬指定の強オピオイド製剤と比べて小規模医療機関で常時保管・管理がしやすく,患者の症状悪化時に迅速に投与しやすいという利点がある.

今回われわれは在宅療養中の高度腎障害を伴う末期がん患者のがん疼痛に対してフェンタニル(fentanyl: Fen)貼付剤からBUP持続皮下注射に変更し疼痛緩和を行った症例を経験したため報告する.

症例提示

【症 例】48歳女性,身長153 cm,体重40 kg,BMI17.1

【主 訴】腹痛,悪心嘔吐

【診 断】卵巣がん

【現病歴】2021年9月卵巣がんに対して両側付属器,子宮全摘出術実施.2022年11月に腹膜播種再発し抗がん剤治療を継続したが,2024年12月腹膜播種の悪化を認め,抗がん治療終了となった.2025年1月腹膜播種に伴う嘔吐にて入院,2月退院時に中心静脈栄養併用で在宅診療開始した.

【経 過】退院時腹膜播種による腹痛と背部痛に対してFen貼付剤12.5 μg/時間とレスキューオキシコドン速放性製剤1回5 mgを使用.退院9日目に腹痛と嘔吐悪化し,不完全腸閉塞と診断した.Fen貼付剤25 μg/時間に増量,Fen舌下錠1回100 μgを導入.ベタメタゾン2 mg/日注射とオクトレオチド240 μg/日の持続皮下注射を開始した.

26日目に背部痛悪化し,Fen貼付剤37.5 μg/時間に増量.30日目に疼痛NRS 6(numerical rating scale: 0–10),疼痛STAS-J 2(Japanese version Support Team Assessment Schedule: 0-4) 10と腹痛増悪,また腹部膨満感悪化にて内服困難となった(Fen舌下錠は嘔吐誘発にて使用できず)(図1).血液検査では血中クレアチニン(Cre)1.42 mg/dlと腎機能悪化を認めた(表1).腎機能障害については,水腎は認めず腎後性腎不全は否定的で,全身状態悪化に伴う腎血流低下や抗がん剤など複数要因による腎機能障害と判断した.腹膜播種に伴う腹痛が悪化し早急な疼痛管理が必要と判断したが,Fen注射剤は本事例時点で流通不安定でありBUP注射剤へのスイッチングとした.オピオイド総量の増量となるが,先行研究からBUP注とモルヒネ注を1 : 33の用量比で換算し,Fen貼付剤剥離と同時にBUP持続皮下注射0.96 mg/日(テルフュージョン小型シリンジポンプTE-361[テルモ,東京]を用いてBUP原液0.2 mg/mlを0.2 ml/時間で投与.レスキューは1時間量,不応期は15分.)で開始した.BUP開始後24時間での重篤な呼吸抑制や眠気などの有害事象は認めなかった.31日目に疼痛NRS 7と腹痛増悪し,Fen貼付剤剥離後のオピオイド総量減少の影響と考えBUP持続皮下注射1.2 mg/日に増量.33日目には疼痛NRS 4,疼痛STAS-J 1まで低下し腹痛軽減した.一方で上腹部の膨満と嘔吐回数の増加から,腸閉塞の悪化と判断し一時的に胃管挿入し胃液400 ml排液した.34日目疼痛NRS 7と腹痛悪化したが34日目以降は腸閉塞に伴う腹部張り感の苦痛と併せて自己評価されており,張り感の苦痛はあるが痛みにはオピオイドは増量しなくていいとの訴えから痛みの軽減は得られていると判断した(STAS-J 1).35日目にさらに腹部膨満感悪化し,胃管による持続減圧を開始(少量排ガスあり完全閉塞ではないと判断),BUP持続皮下注射1.44 mg/日に増量.36日目には疼痛NRS 5まで腹痛軽減.37日目に終末期せん妄悪化し主観的な症状評価が困難となり,40日目に自宅死亡となった.

図1 スイッチング後の1日あたりのブプレノルフィン持続皮下投与量と疼痛評価の推移

退院後の症状安定時はNRS 3, STAS-J 1であった.退院後30日以前は疼痛STAS-J 2で薬剤増量を希望された際にFen貼付剤を増量した(退院時Fen貼付剤12.5 μg/時間,9日目25 μg/時間,26日目37.5 μg/時間).退院30日目に腹痛増悪し,内服も困難となった.高度腎機能障害を認め,Fen注射剤確保が困難だったことから,Fen貼付剤(37.5 μg/時間)からBUP持続皮下注射(0.96 mg/日)にスイッチングした.退院37日目以降は終末期せん妄悪化したため主観的評価困難となった.

表1 血液検査結果

末梢血液検査 生化学検査
WBC 16200/μl Na 139 mEq/L
Hb 9.1 g/dl K 5.3 mEq/L
Ht 27.3% Cl 101 mEq/L
Plt 39.7×104/μl Ca 8.5 mg/dl
T-bil 1.4 mg/dl
TP 5.9 g/dl
Alb 1.8 g/dl
CK 19 IU/L
AST 32 IU/L
ALT 35 IU/L
ALP 439 IU/L
LD 2345 IU/L
γ-GTP 318 IU/L
Cre 1.42 mg/dl
BUN 48.5 mg/dl
eGFR 32 ml/min/1.73 m2
血糖値 93 mg/dl

考察

今回われわれは高度腎機能障害をもつ進行がん患者のがん疼痛に対してFen貼付剤からBUP持続皮下注射への変更による管理が有効であり,安全に移行できた一例を経験した.本症例では血液検査でCre 1.42 mg/dl,eGFR 32 ml/分/1.73 m2と高度腎障害を認め,経口内服困難が予想され,Fen注射剤供給不安定もあり,Fen貼付剤からBUP持続皮下注射へ変更した.

BUPは肝臓にてCYP3A4によりノルブプレノルフィンに代謝され,ほとんどが胆汁を介した便排出であることから,腎障害患者や透析患者では安全とされる 11.本症例ではBUPの副作用と考えられる急激な呼吸抑制や意識障害は認めなかった.悪心や便秘はがん進行に伴う腸管通過障害があり十分な評価は困難であるが,BUPへの変更後に急激な悪化は認めなかった.BUPはモルヒネと比較して便秘の発現頻度が低いとされる.BUP貼付剤の報告ではモルヒネ経口剤とのオッズ比が0.51(95% CI 0.29~0.90; p=0.020)であり 12,これは腸管のμオピオイド受容体への影響が少ないことやβアレスチンシグナルが抑制されることが要因とされる 13

本症例ではFen貼付剤からBUP持続皮下注射へオピオイドスイッチングを行ったが,現時点ではBUPと他の強オピオイド製剤との換算比は確立していない.Whiteらの系統的レビューでは,BUP注射剤とモルヒネ注射剤の比較研究の多くが薬理学的効力比を1 : 33としていると報告しており 14,われわれもこの換算比を参考にFen貼付剤37.5 μg/時間は静注モルヒネ45 mgに換算,それはBUP持続注射1.36 mg/日と同等とした.オピオイド切り替えの方法についても報告は乏しく,今回腹膜播種に伴う腹痛悪化からFen貼付剤剥離と同時に上記等価量の70%程度であるBUP持続皮下注射0.96 mg/日で開始した.開始24時間後に疼痛悪化したが,これはFen貼付剤剥離後の血中濃度低下に対してBUP投与量が不足した可能性が考えられる.既存の文献からBUPは強オピオイドとの併用により著明な鎮痛効果の減弱が生じるかは明確ではない 15,16

BUPはμ受容体の部分作動薬であり,薬理作用に天井効果があるとされる.Dahanらの研究では24人の若年健常者へ0.1 mg~0.4 mg/70 kgのBUP単回注射を行い,呼吸抑制には天井効果を認め,鎮痛効果には天井効果を認めなかったとしているが 17,被験者は健常者で,少数例のため結果を一般化できない 14.一方でBUP貼付剤210 μg/h(5.04 mg/日)以上の投与でも鎮痛効果に天井効果は認めないという報告もある 18.現時点ではBUPはどの程度まで用量依存的に鎮痛効果を示すか明らかでなく,また持続皮下注射が貼付剤と同等の効果を持つかはさらなる研究が必要である.本症例ではFen貼付剤剥離と同時にBUP持続注射へ切り替え,翌日のFen血中濃度低下に合わせた1.2 mg/日への薬剤増量後とその3日後の疼痛悪化に合わせた1.44 mg/日への薬剤増量後ともに疼痛軽減効果が得られており用量依存的な効果はあったと考えるが,腸閉塞への対応など併用治療の影響もあり天井効果がないと判断することは難しい.

本症例からBUP持続皮下注射は他の強オピオイドと同様にがん疼痛に有用な可能性がある.とくに緊急的にオピオイド注射への薬剤変更が困難な事がある在宅医療の現場では,BUP持続皮下注射は選択肢の一つとなる可能性がある.一方でBUPは適切な換算比の設定やオピオイドスイッチング方法など課題もあり,適応の判断には慎重になるべきである.今後前向き観察研究により症例を蓄積し,さまざまな病態や患者背景でのBUPの有効性と安全性を検証する必要がある.

本検討の限界として,先行研究から換算比を設定したが,高度腎機能障害の合併やFen貼付剤剥離と同時に切り替えたことなど換算に影響を与える要因が多く,設定が妥当でない可能性があること,腸閉塞に伴う消化器症状を合併したため,鎮痛効果が十分に評価できていない可能性が挙げられる.

結論

高度腎障害を合併する進行卵巣がん患者のがん疼痛に対して,Fen貼付剤からBUP持続皮下注射へ安全に移行した一例を経験した.BUP持続皮下注射は他の強オピオイド製剤との適切な換算比やオピオイドスイッチング方法の課題は残るが,他の強オピオイド注射剤が速やかに使用できない在宅医療の現場では,高度腎機能障害合併時の選択肢となる可能性がある.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

金沢,渡邊は研究の構想およびデザイン,研究データの収集および分析と解釈,原稿の起草および原稿の知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.山本は研究データの分析と解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.坪井,相場は研究データの収集,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

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