Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
緩和ケア病棟における血液培養検査の実施状況と使用抗菌薬への影響
川村 泰一 , 高澤 剛, 石川 ゆりか, 福富 晃, 大野 茂樹, 佐藤 哲観, 中屋 雄一郎, 倉井 華子, 新宮 歩
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2026 年 21 巻 1 号 p. 41-48

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Abstract

当緩和ケア病棟における,血液培養(血培)検査の実施状況を後方視的に調査した.対象は2021年4月からの3年間にがん終末期ケア目的に入院し,血培検査が実施された527人.血培検査の精度管理指標,検出微生物,および血培陽性例の抗菌薬使用状況を調査した.複数セット採取率73.4%,陽性率22.5%,コンタミネーション率2.6%で,薬剤耐性菌が4.5%に検出された.検出微生物のうち陽性菌はcoagulase-negative staphylococciが28.8%と最上位であった.血培検査で陽性と判定された106人のうち,84人(79.2%)には薬剤感受性試験に則った抗菌薬が投与され,vancomycin(31.5%)が最も使用頻度が高かった.緩和ケア領域の感染症の特徴を究明し治療・ケアにつなげることは重要で,血培は有用な検査となる可能性がある.

Translated Abstract

The aim of this study is to clarify the outcomes of blood culture tests in patients with advanced cancer receiving hospice care. A total of 527 patients who took blood culture tests between April 2021 and March 2024 at our palliative care unit were included in the study. The rate of multiple blood culture set collection, positivity rate and contamination rate were 73.4%, 22.5% and 2.6%, respectively. The most-frequently-isolated pathogen was coagulase-negative staphylococci (28.8%). The rate for antimicrobial-resistant bacteria was 4.5%. Among the positive patients, 79.2% were administered appropriate antimicrobial regimens based on the drug susceptibility tests. The most frequently used antimicrobial as targeted therapy for bacteremia was vancomycin (31.5%). Despite their short lifespans, we conclude that blood culture test can be beneficial for patients receiving palliative care. Further observational studies are required to clarify characteristics of infectious diseases in terminally-ill patients with advanced cancer.

緒言

血液培養(以下血培)は迅速に菌血症を診断し適切な抗菌薬を選択するための検査で,国内医療機関で採取率が上昇している.さらに採取セット数,複数セット採取率,陽性率,コンタミネーション率,採取血液量などの精度管理指標の評価が推奨されてきている1).近年は病院タイプ別に指標の目標値が模索されているが,特殊な患者層を対象とした病棟単位の報告は少なく2),これまで緩和ケア病棟の統計値は報告がない.

がん患者の死亡原因の約60%は感染症が関与しているとされており3),緩和ケア病棟における抗菌薬の使用率は44%~84%の報告がある4,5).がん終末期患者における抗菌薬治療の妥当性を評価することは難しく,使用方針を示すガイドラインはない.緩和領域における抗菌薬投与は必ずしも生存期間の延長は意図せず,主目的が苦痛緩和であることは一致した意見である5,6).しかし,抗菌薬による苦痛緩和効果を検証した報告は限られており7,8),前向き研究はMirhosseini9)らによるアンケート調査のみである.

感染症診療の原則に則った感染症治療とは,初期に広域抗菌薬を使用し,菌種および薬剤感受性が判明すれば適切な抗菌薬へと移行するが,細菌培養同定検査が不可欠である10).血培検査は採血時に痛みを伴い,標準的な採取血液量はボトルにより異なるが16~20 ml/セットほど必要になる11).終末期患者にとって負担となる検査ではあるが,一方で無効な薬物使用の回避によるコスト削減,ケアの効率化に寄与するとの報告もある12,13).これまでがん終末期患者に対する血培検査に着目した報告はなく,その恩恵についてはわかっていない.

当院における血培検査実施件数は,感染症内科と抗菌薬適正使用支援チーム(antimicrobial stewardship team; AST)の関与により増加傾向にある.今回の研究目的は,静岡県立静岡がんセンター緩和ケア病棟(以下当病棟)で実施した血培検査結果から精度管理指標,検出微生物を集計することでがん終末期患者の感染症の特徴を明らかにするとともに,血培検査後の抗菌薬使用状況への影響を調査することである.

方法

対象患者と情報収集

2021年4月~2024年3月の3年間に,がん終末期ケア目的に当病棟(2病棟全50床)に入院した延べ1,686人を対象とした.患者情報は電子カルテから後方視的に抽出し,背景因子として年齢,性別,がん種,中心静脈カテーテル(以下カテ)の利用率,薬物のうち強オピオイド鎮痛薬,副腎皮質ステロイド,抗菌薬の使用率,感染部位について調査した.複数回入院患者は,背景因子のうち年齢,性別,がん種の集計で重複削除処理を行った.がん種の集計で,重複がんは死因に関連した場合は複数登録した.感染部位は疑い診断も含め主担当医の記載に準じ,混合感染は複数登録し,部位が特定できない場合は不明に分類した.

検査方法

血培検査から薬剤感受性試験結果判明までの標準的なプロセスは以下の通りである.発熱時に採血された検体は,自動分析装置を用いて培養され,陽性と判定された場合にグラム染色が実施される.その後,同定検査により微生物の特定が行われ,さらに薬剤感受性試験を実施することで,適切な抗菌薬の選択が可能となる.採取は原則的に38°C以上の発熱時に2セットとしたが,実施の可否は医療スタッフ間で意見交換した.中心静脈カテが挿入されている場合は,血管穿刺による採取1セットと中心静脈カテからの採取1セットを許容し,採取困難時は1セットでも可とした.

血培自動分析装置はBD BACTEC™ FX(日本ベクトン・ディッキンソン,東京)を使用し,好気用ボトル・嫌気用ボトル(日本ベクトン・ディッキンソン)で7日間培養した.分離された菌の同定検査はMALDIバイオタイパー(ブルカー・ジャパン,神奈川),薬剤感受性検査はDxM1096マイクロスキャンWalkAway(ベックマン・コールター,東京)およびドライプレート‘栄研’(栄研化学,東京)で行い,判定基準はClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)に準拠した.

血培検査の目的分類,臨床指標の定義

血培検査は採取目的別に,菌血症診断,再検,陰性化確認,前回検査から1週間以内の重複検査に分類した.再検とは,初回検出菌が真の菌血症か否かの判定に実施した場合とした.陰性化確認は,黄色ブドウ球菌・カンジダ菌血症,および感染性心内膜炎・化膿性血栓性静脈炎の合併例で行った.

精度管理指標は,1)1,000人の入院患者で1日(以下1,000 patient-days)あたりの採取セット数(総採取セット数÷在院患者延数)×1,000,2)100床あたりの採取セット数(総採取セット数÷ベッド数×100),3)複数セット採取率(%)(総採取セット数−1セットでの提出数)÷総採取セット数×100,4)陽性率(%)(陽性セット数÷総採取セット数)×100,5)コンタミネーション率(%)(汚染菌と判定されたセット数÷総採取セット数)×10014),6)検出微生物(陽性菌,汚染菌,薬剤耐性菌),7)黄色ブドウ球菌・カンジダ菌血症例の中心静脈カテ抜去率を集計した.採取セット数は1回の採血で得られた好気・嫌気培養ボトルを1セットとした.複数セットは同一日に2回以上採血して得られたセットとした.同一患者で同一菌種が複数回検出された場合は,月単位で重複削除処理を行った.汚染菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci: 以下CNS),Propionibacterium acnes, Micrococcus属,緑色連鎖球菌,Corynebacterium属,Bacillus属陽性例において,同日2セット以上血培が提出された症例における,1セットのみ陽性とした15).薬剤耐性菌はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下MRSA),ESBL産生菌,多剤耐性緑膿菌(以下MDRP),バンコマイシン耐性腸球菌(以下VRE)を抽出した.

血培陽性例における抗菌薬の使用状況

菌血症診断目的の血培で陽性と判定された症例は,グラム染色,薬剤感受性試験判明後の抗菌薬使用状況を,新規開始,未投与,追加,変更あり,変更なし,適正化,中止に分類し集計した.また,経験的治療,グラム染色に基づいた治療,標的治療として用いられた抗菌薬内容を調査した.経験的治療は病原微生物同定前,グラム染色に基づいた治療はグラム染色確認後,標的治療は薬剤感受性判明後に使用された抗菌薬とした16,17).グラム染色,薬剤感受性試験判明前後で抗菌薬が変更なく継続された場合は,グラム染色に基づいた治療,標的治療として継続抗菌薬を集計した.

血培検査実施例の生存期間

菌血症診断目的に血培検査が実施された症例は,血培検査日を起点日とした生存曲線をKaplan–Meier法で推計し,中央生存時間(MST),95%信頼区間を求めた.また血培陽性群と陰性群の生存曲線をLog-rank検定を用いて比較した.さらに当病棟で抗菌薬が開始された564人のうち,血培検査が行われた260人と血培検査が行われなかった304人において,両群間の生存曲線をLog-rank検定を用いて比較した.統計解析ソフトウェアはEZR(Easy R)を使用した.

倫理的配慮

本研究は静岡がんセンター倫理委員会の承認を得て実施した(倫理審査番号:J2025-36-2025-1).

結果

患者背景

患者背景を表1に示す.対象患者の年齢中央値は74(範囲20–96)歳,がん種比率の高順位は肺がん27.3%,結腸・直腸がん12.2%,膵がん11.3%であった.中心静脈カテ利用率は52.0%であった.抗菌薬使用率は48.1%(811/1,686人)で,このうち前病棟からの引き継ぎは247人であった.感染部位は呼吸器が21.1%で最多であった.解析対象期間はコロナ禍であったが,当院でCOVID-19陽性患者は呼吸器専門病棟および集中治療室の一部に集められ,当病棟の入退院に影響はなかった.

表1 患者背景

年齢(歳) 中央値(範囲) 74 (20–96)
性別 男性/女性 905 (56%)/708(44%)
がん種 脳・中枢神経43 (2.7%),頭頚部116 (7.2%),乳房56 (3.5%),肺440 (27.3%),食道55 (3.4%),胃131 (8.1%),結腸・直腸197 (12.2%),肝臓31 (1.9%),膵臓182 (11.3%),胆囊胆管75 (4.6%),腎・尿路・膀胱・前立腺86 (5.3%),子宮付属器95 (5.9%),皮膚・軟部組織34 (2.1%),造血器44 (2.7%),その他63 (3.9%)
中心静脈カテ利用率(%) 876 (52.0%)
強オピオイド鎮痛薬使用率(%) 1,397 (82.9%)
副腎皮質ステロイド使用率(%) 869 (51.5%)
抗菌薬使用率(%) 811 (48.1%)
感染部位 呼吸器 356 (21.1%)
肝・胆道 100 (5.9%)
尿路 89 (5.3%)
カテーテル関連血流 50 (3.0%)
皮膚・軟部組織 21 (1.2%)
その他 90 (5.3%)
不明 170 (10.0%)

血培検査の目的分類,精度管理指標

血培検査は延べ527人から831セット採取されており,採取目的は菌血症診断467人(88.6%),再検9人(1.7%),陰性化確認39人(7.4%),前回検査から1週間以内の追加検査12人(2.3%)であった.3年間を統合した1,000 patient-daysあたりの採取セット数16.3,100床あたりの採取セット数554,複数セット採取率73.4%,陽性率22.5%,コンタミネーション率2.6%,黄色ブドウ球菌・カンジダ菌血症が疑われた症例の中心静脈カテ抜去率83.3%(35/42)であった.

検出微生物の内訳

検出微生物はCNSが28.8%で最多であった(図1).汚染菌はCNS 10セット,Bacillus sp. 1セットであった.薬剤耐性菌は4.5%に検出され,MRSA 3セット/2人,ESBL産生菌3セット/3人,MDRP 1セット/1人,VRE 2セット/1人であった.

図1 検出微生物の内訳

血培陽性例における抗菌薬の使用状況

発熱時に採取した血培は106人で陽性となった.図2にグラム染色,薬剤感受性試験判明後の抗菌薬使用状況を示す.抗菌薬未投与で血培を実施した23人中,19人でグラム染色確認後に抗菌薬が開始された.薬剤感受性判明時まで抗菌薬が投与されていた97名のうち,42人で抗菌薬の適正化がなされていた.最終的に血培陽性106人のうち84人(79.2%)に感染症診療に則った抗菌薬治療が行われた.

図2 血培陽性例におけるグラム染色,薬剤感受性試験判明前後の抗菌薬使用状況

抗菌薬内容の検討では,経験的治療としてceftriaxone(以下CTRX)(30.1%),グラム染色に基づいた治療としてvancomycin(以下VCM)(31.2%),標的治療としてVCM(31.5%)がそれぞれ最上位であった.経験的治療から標的治療に向けて抗菌薬の使用比率は,CTRX 30.1→16.3%,ampicillin/sulbactam(以下SBT/ABPC)25.3→14.1%,tazobactam/piperacillin(以下TAZ/PIPC)18.1→6.5%で低下していた.新規に使用された抗菌薬は,micafungin(以下MCFG)4.3%,ampicillin 3.3%,fluconazole(以下FLCZ)3.3%,daptomycin(以下DAP)1.1%,voriconazole(以下VRCZ)1.1%,clindamycin 1.1%の割合であった(表2).

表2 血培陽性例に使用された抗菌薬内容

経験的治療n (%) グラム染色に基づいた治療n (%) 標的治療n (%)
CTRX 25 (30.1) VCM 40 (31.2) VCM 29 (31.5)
SBT/ABPC 21 (25.3) CTRX 18 (14.1) CTRX 15 (16.3)
TAZ/PIPC 15 (18.1) TAZ/PIPC 18 (14.1) SBT/ABPC 13 (14.1)
CMZ 7 (8.4) SBT/ABPC 14 (10.9) CMZ 8 (8.7)
CFPM 4 (4.8) MCFG 10 (7.8) TAZ/PIPC 6 (6.5)
SBT/CPZ 3 (3.6) CFPM 10 (7.8) CFPM 5 (5.4)
CEZ 3 (3.6) CMZ 7 (5.5) MCFG 4 (4.3)
LVFX 3 (3.6) LVFX 3 (2.3) ABPC 3 (3.3)
MEPM 2 (2.4) CEZ 2 (1.6) FLCZ 3 (3.3)
MEPM 2 (1.6) LVFX 3 (3.3)
DAP 2 (1.6) DAP 1 (1.1)
SBT/ABPC 1 (0.8) VRCZ 1 (1.1)
ABPC 1 (0.8) CLDM 1 (1.1)
合計 83 合計 128 合計 92

CTRX: ceftriaxone, ABPC/SBT: ampicillin/sulbactam, TAZ/PIPC: tazobactam/piperacillin, CMZ: cefmetazole, CFPM: cefepime, SBT/CPZ: sulbactam/cefoperazone, CEZ: cefazolin, LVFX: levofloxacin, MEPM: meropenem, ABPC: ampicillin, VCM: vancomycin, MCFG: micafungin, FLCZ: fluconazole, DAP: daptomycin, CLDM: clindamycin, VRCZ: Voriconazole

血培検査施行例の生存期間

菌血症診断目的に血培検査が行われた467人の血培検査から死亡日までのMST(95%信頼区間)は24(20~28)日であった(図3).血培検査陽性群(n=106)は陰性群(n=361)と比較し,全生存期間が有意に短かった(P=0.047)(図3).また,血培検査が行われずに抗菌薬が開始された群は,血培検査が行われて抗菌薬が開始された群と比較し,全生存期間が有意に短かった(P=0.007).

図3 血培検査実施例の生存期間

考察

当病棟におけるがん終末期患者の血培検査の精度管理指標は,採取セット数,複数セット採取率が低く,陽性率が高かった.検出微生物の最上位菌はCNSで,薬剤耐性菌が4.5%に検出された.血培陽性例において,薬剤感受性試験で判明した感染症診療に則った抗菌薬は79.2%の症例に投与されており,標的治療の抗菌薬内容はVCMが最多であった.

血培検査の精度管理指標のうち,1,000 patient-daysあたりの採取セット数は16.3であった.CUMITECHの推奨値103~18818),本邦の特定機能病院25.219),同対象期間の当院一般病棟45.7より低値で,本邦の療養病床を有する単一病院8.020)より高値であったが,医療環境および患者の平均入院期間が異なる施設間の比較は疑問視されている.当病棟で採取セット数が少ない理由は,余命が短い,意識障害ありの症例において実施を見送ったためと考えられた.緩和ケア病棟は患者の尊厳を優先し質の高い余生の提供が理念であるため,採取セット数は一般病棟の指標を目指すべきではないと思われる.

当院一般病棟の同対象期間における複数セット採取率は96.5%で,当病棟は73.4%と低率であった.がん終末期患者が四肢浮腫を合併した場合,末梢血管からの採血は容易でない.笠井ら21)は小児領域における多施設共同研究で2セット採取と1セット採取で陽性率に有意差を認めず,1セットでも十分な検体量採取を優先する方法の可能性を示唆している.緩和領域では一回採取量を増やした1セット採取など,採血回数を減らす方策は検討できるかもしれない.

血培陽性率は,当院一般病棟は11.9%でCUMITECHの推奨値5%~15%と同等であったが,当病棟は22.5%と高率であった18).陽性率に影響を与える因子として,患者の選択バイアス,採取血液量22),複数セット採取率23)が指摘されている.当病棟では患者の全身状態が悪いほど検査の実施,採取血液量,複数セット採取に固執しなかったため,実際の陽性率はさらに高かった可能性がある.がん終末期患者は宿主の免疫不全,低栄養,骨髄抑制,腫瘍による解剖学的異常,ステロイド使用,医療デバイスなどの影響で,菌血症になりやすい全身状態であることが推察された.

米国における血培のコンタミネーション率は,標準的に2%~3%とされている18).今回,当病棟のコンタミネーション率は2.6%であったが,当院一般病棟は1.0%であった.Snyderら24)はシステマティックレビューにおいて,中心静脈カテからの採取と血管穿刺による採取のコンタミネーション率を比較したところ,オッズ比は2.69(95%信頼区間:2.03–3.57)と報告している.今回,検体採取にあたり中心静脈カテからの採取を許容してもコンタミネーション率はさほど高くなかったが,コンタミネーション率の上昇は不必要な医療資源の投入につながることは留意しなければならない.

これまでの緩和ケア病棟に限定した血培検査に関する報告で,検出微生物の最上位菌はEscherichia. Coliである6,7).今回の検討では,CNS,黄色ブドウ球菌などブドウ球菌属の比率が高かった.本邦のがん専門病院における大規模な血培検査調査で,検出微生物はCNS,黄色ブドウ球菌が上位であった報告があり,竹原ら25)は中心静脈カテの関与について考察している.当病棟の中心静脈カテ利用率は52.0%と高率で,陽性菌の内訳に影響した可能性がある.

黄色ブドウ球菌・カンジダ菌血症が疑われた場合,中心静脈カテは抜去が原則だが,がん終末期患者においてその判断は難しい.中心静脈カテを留置し続けることで感染症による苦痛を制御できない可能性はあるが,それ以外の症状緩和治療に静脈ルートは貴重である.今回,生命予後が短い症例以外は基本的に抜去していたため抜去率は83.3%と高率であったが,その後の薬物投与経路の確保,症状緩和治療に影響があった可能性は否定できず,今後も抜去の判定基準は議論の余地がある.

がん患者は治療法の進歩により治療期間が長期化することで,感染症への罹患機会,抗菌薬の投与機会が増える.今回,当病棟で薬剤耐性菌により接触感染対策がとられた割合は前病棟・前病院からの引き継ぎを含めると5.2%(88/1,686人)であった.当病棟における各種培養検査で新たに25人が判明し,このうち血培検査で7人(MRSA 2, ESBL産生菌3, MDRP 1, VRE 1)が同定された.血培実施患者の1.3%(7/527人)の比率であるが,院内感染による伝播の可能性を考慮すると低率とも言い切れない.接触感染対策が必要となる薬剤耐性菌検出のため,血培は意義のある検査かもしれない.

血培陽性例における抗菌薬の使用状況の検討で,薬剤感受性試験で判明した感染症診療に則った抗菌薬が導入された割合は79.2%で,それ以外の20.8%は死亡が理由で抗菌薬が未導入となっていた.患者苦痛を最小限としながら血培検査の恩恵を受けるためには,選定基準の確立が重要になると考えられた.また経験的治療から標的治療への抗菌薬内容の推移の検討で,広域抗菌薬であるCTRX,SBT/ABPC,TAZ/PIPCの使用比率は低下していた.一方で狭域抗菌薬の使用頻度は増えておらず,新規にVCM,DAP,MCFG,FLCZ,VRCZが使用されていた.血培検査は,広域抗菌薬の不必要な使用の回避とともにグラム陽性球菌,真菌に対する治療に寄与する可能性があると考えられた.

今回の検討で菌血症診断目的に血培検査が行われた467人の血培検査後のMSTは24日であった.感染症診療に則った治療が施されることで生存期間が延長した症例はあると思われるが,一方で血培検査後にグラム染色の確認,抗菌薬の調整,効果の発現までは数日間を要するため,検査が無益となった症例もある.生命予後を考慮した実施が望まれる.また,血培検査の陽・陰性症例の間で生存期間に差がみられた理由は,血培陽性症例は敗血症を合併していた可能性が推察される.血培検査の陽・陰性判定は予後予測因子の一つとなりうることが示唆された.

緩和ケア病棟で抗菌薬が開始された症例のうち,血培検査が行われなかった群は行われた群と比べて全生存期間が有意に短かった.血培検査が行われなかった理由について診療録への記載は限られているものの,大多数は生命予後予測が短いためと思われた.また高熱を認めずとも,喀痰が多い,尿混濁がある,蜂窩織炎・唾液腺炎・リンパ節炎の治療のために抗菌薬が投与された症例も見受け,両群間の背景因子の差が生存期間に影響した可能性がある.緩和領域における血培検査の有用性の検証は,背景因子をそろえた前向き研究が望まれる.

限界は1)単独病棟で行った後ろ向き研究であったこと,2)がん終末期に高熱をきたす原因はさまざまあるが,血培採取基準を38°C以上の発熱としたこと,3)当病棟で新規に抗菌薬が導入された症例のうち,血培検査の実施割合は46.1%(260/564人)で,選択バイアスが存在する可能性についてである.予後予測が短い,意識障害がある症例への実施は控えめだったが,悪寒戦慄症例に優先的に行ったかについては診療録からの判定は困難であった.さらに,4)採取セット数,複数セット採取率が低く,陽性率,検出微生物の結果に影響を与えた可能性があること,5)検体採取部位として中心静脈カテからの採取を許容し,コンタミネーション率の結果に影響を与えた可能性があること,6)抗菌薬治療計画はアドバンス・ケア・プランニングに組み込まれておらず,医療提供者側と患者・家族間で共有していなかったこと,も挙げられる26).今後は抗菌薬を広義の延命治療ととらえ,共有意思決定(shared decision making: SDM)項目に加える必要がある.

結論

今回の研究は,国際的な基準に準拠した精度管理指標を算出し,緩和ケア病棟における血培検査の実情を調査した初めての報告となった.血培検査により,がん終末期感染症の特徴として,菌血症を伴う感染症が多く,菌種はグラム陽性球菌属が多いことが明らかになった.予後が限定的な患者層における血培検査情報は,広域抗菌薬の不必要な使用,グラム陽性球菌・真菌血症患者への適切な治療,薬剤耐性菌の検出に寄与する可能性が示唆された.血培検査が,がん終末期患者の苦痛症状緩和の改善に有用であることの検証,抗菌薬治療の実施にあたり患者・家族との意思疎通は大切だが,一定の基準を設けて緩和ケア病棟で血培検査は実施すべきと考える.また,がん終末期の抗菌薬使用に関するベストプラクティス基準の開発に,日本感染症学会と日本緩和医療学会の協力は期待される.

謝辞

執筆にあたりご助言くださった先生方に深く感謝いたします.血培検査に尽力くださった細菌検査室,看護部スタッフに深謝いたします.

利益相反

すべての著者に申告すべき利益相反なし

著者貢献

川村はデータ収集・解析・解釈,原稿の起草に貢献した.高澤,石川,福富,大野,新宮はデータ収集・分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.佐藤,倉井,中屋は研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に貢献した.全著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

文献
 
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