【目的】アセトアミノフェン注射剤は解熱鎮痛目的で頻用されるが,添付文書上静脈内投与に限られ,静脈路確保や経口・坐剤の使用が困難な緩和ケア患者への投与は臨床的課題である.本研究は同剤の皮下投与における安全性と有効性を検討した.【方法】当院緩和ケア病棟でアセトアミノフェン注射を必要とするが静脈路確保が困難な患者を対象とした.同剤500 mgを皮下投与し,局所所見,体温,疼痛スケール,自覚症状から安全性と有効性を評価した.【結果】臨床的に問題となる局所有害事象は認められなかった.疼痛に対しては全例でNRS等のスコア低下と症状軽快を認めた.発熱に対して投与前平均体温に対し投与1, 2, 4時間後にそれぞれ有意な体温低下を認めた.【考察】アセトアミノフェン注射剤の皮下投与は緩和ケア病棟において局所有害事象なく安全に施行可能であり,鎮痛および解熱に有効であることが示唆された.
Objective: Injectable acetaminophen is frequently used for its analgesic and antipyretic effects. However, its approved route is limited to intravenous administration by prescribing information, which presents a clinical challenge for palliative care patients with difficult intravenous access or who cannot tolerate oral or suppository formulations. This study aimed to investigate the safety and efficacy of subcutaneous administration of injectable acetaminophen. Methods: This study was conducted in the palliative care unit of our hospital. We enrolled patients who required injectable acetaminophen but had difficult intravenous access. A 500 mg dose of acetaminophen was administered subcutaneously. Safety and efficacy were evaluated based on local site reactions, body temperature, pain scores, and subjective symptoms. Results: Thirteen patients received a total of 31 subcutaneous administrations. No clinically significant local adverse events were observed. For pain management, all patients showed a reduction in pain scores and reported symptom relief. For fever, a significant decrease in body temperature was observed at 1, 2, and 4 hours after administration compared to the mean pre-administration temperature. Conclusion: Subcutaneous administration of injectable acetaminophen appears to be a safe and effective option for pain and fever management in palliative care patients, without causing notable local adverse events.
アセトアミノフェン注射剤は解熱鎮痛目的で世界中で頻用され,安全性や有効性が確立されている1).しかし,添付文書上の投与経路は静脈内投与のみとなっている.緩和ケア病棟入棟中の患者は疾患の進行や全身状態の悪化に伴い,末梢静脈路の確保が困難となる場合が多く,経口投与が不能な際にアセトアミノフェンを使用する場合,直腸内投与に限定されるという臨床的課題が存在している.直腸内投与する場合は,体位変換や挿入に伴う身体的苦痛を患者に強いるため,代替可能な投与経路が求められており,皮下投与が望ましいと考えられている2).アセトアミノフェン注射剤の皮下投与は,これらの課題を解決しうる選択肢であり,海外からはその安全性と忍容性を示唆する報告が散見される2,3).これらの背景から,当院では倫理委員会での認可を得て,適応外使用としてアセトアミノフェン皮下投与を使用していた.本研究の目的は,緩和ケア病棟に入院中のがん患者を対象として,アセトアミノフェン注射剤を皮下投与した際の安全性と有効性を後方視的に評価することである.
本研究は単施設で実施された後方視的単群前後比較研究である.
対象2022年4月から2023年9月までに名古屋徳洲会総合病院緩和ケア病棟に入院中で鎮痛・解熱目的にアセトアミノフェン注射剤を要するが,末梢静脈路確保が困難な症例を対象とした.
介入アセトアミノフェン注射剤500 mg/50 mlを15分(あるいは全開)で皮下投与した.
評価項目主要評価項目は安全性として,局所の有害事象(発赤,腫脹,硬結,疼痛,薬液漏出)の有無を前向きに調査してカルテに記載した.その情報をもとに,CTCAE v5.0 Grade(皮膚および皮下組織障害)を後ろ向きに評価した.副次評価項目は有効性として,解熱効果および鎮痛効果とした.投与後の局所症状,投与後の体温と鎮痛スケールを投与1時間後,2時間後,4時間後に前向きに記録し後ろ向きに解析した.解熱効果は投与前後の体温の変化量で評価し,投与後0.5°C以上体温が低下した場合に有効と判断した.鎮痛効果は投与前後のnumerical rating scale(NRS)スコア変化量で評価し,スコアが2/10以上低下した場合に有効と判断した.NRSを表出できない認知機能が低下した患者の場合はthe adult Pain Assessment in Advanced Dementia scale(PAINAD)4)で効果を判定した.PAINADは認知症などにより自己申告が困難な患者の疼痛を評価するための医療者の客観的評価スケールである.①呼吸②否定的な発声③表情④ボディランゲージ⑤慰められやすさの五つの項目について,それぞれ0~2の3段階で評価し,総合スコア0~10で疼痛を判定するものである.スコアが高いほど疼痛が強いことを意味する.患者背景については年齢,性別,体重,がん種,performance status,血小板数(万/µl),総ビリルビン(mg/dl),クレアチニンクリアランス,せん妄の有無,浮腫の有無,予後予測スコアであるPalliative Prognostic Index(PPI)5)を記載した.せん妄の有無,浮腫の有無,PPIについてはカルテから後ろ向きに評価した.
統計解析体温の経時的変化の評価には投与前と投与後群を比較しone-way ANOVA6)を用い,有意差を認めた場合は対応のあるt検定(paired t-test)により多重比較を行った.統計学的有意水準はp<0.05とした.
倫理的配慮本研究は,名古屋徳洲会総合病院および徳洲会グループ倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:TGE02474-016).対象患者の診療録から後方視的にデータを収集し,アセトアミノフェン注射剤の適応外使用(皮下投与)に関する安全性と有効性を検討した.
患者背景を表1に示す.疼痛に対してアセトアミノフェン注射剤を使用した患者はP1, P2…,発熱に対してアセトアミノフェン注射剤を使用した患者はF1, F2…とした.対象となった13例(疼痛7例,発熱6例)の症例に対し定期投与例を含めて計31回のアセトアミノフェン皮下投与が実施された.
| 患者番号 | 年齢 | 性別 | 体重 | PS | がん種 | 血小板数 | せん妄 | 浮腫 | PPI | 総bil | eGFR |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 〈疼痛〉 | |||||||||||
| P1 | 86 | 女 | 50 | 4 | 膵癌 | 26.9 | なし | なし | 6.5 | 0.6 | 29 |
| P2 | 73 | 女 | 28.2 | 4 | 胃癌 | 50.3 | 有り | 有り | 11.5 | 0.4 | 136 |
| P3 | 85 | 女 | 48.6 | 4 | 胃癌 | NA | 有り | 有り | 11.5 | 1 | 39 |
| P4 | 77 | 男 | 55.7 | 4 | 胃癌 | 27.6 | なし | 有り | 8 | 0.6 | 29 |
| P5 | 81 | 女 | 63 | 4 | 膵癌 | 24.9 | 有り | 有り | 11.5 | 8.8 | 42 |
| P6 | 86 | 女 | NA | 4 | 血液腫瘍 | 7.8 | 有り | なし | 14 | NA | NA |
| P7 | 85 | 女 | 28.9 | 4 | 膵癌 | 37.8 | 有り | 有り | 15 | 0.3 | 150 |
| 〈発熱〉 | |||||||||||
| F1 | 73 | 男 | 76.5 | 4 | 舌癌 | 34.4 | 有り | なし | 14 | 1.1 | 61 |
| F2 | 73 | 女 | NA | 4 | 大腸癌 | NA | なし | 有り | 7.5 | NA | NA |
| F3 | 83 | 女 | 48.6 | 4 | 卵巣癌 | NA | 有り | 有り | 15 | NA | NA |
| F4 | 84 | 男 | 60 | 4 | 甲状腺癌 | 28.1 | なし | なし | 10 | 0.5 | 63 |
| F5 | 91 | 男 | 43.6 | 4 | 悪性中皮腫 | 19.4 | 有り | なし | 14 | 0.5 | 63 |
| F6 | 86 | 女 | NA | 4 | 大腸癌 | 19.5 | 有り | なし | 8 | NA | NA |
疼痛患者をP1, P2…とし,発熱患者をF1, F2…とする.
NA: not available
全31回の投与において,CTCAE Grade 2以上の皮膚および皮下組織の障害はみられなかった.
有効性鎮痛目的の投与は7例で行われた.うちNRSで疼痛強度を評価できたのは1例で,6例は意識障害のためPAINADで評価した.NRSで評価した1例では,1時間後および2時間後にNRSが10から0に改善した.PAINADで評価した6例では,全例ですべての評価時点でスコアが2以上改善した(表2).解熱目的の投与の結果を表3,図1に示す.6例に行われ,投与4時間後に0.5°C以上の体温低下があったのは5例であり,1°C以上の体温低下があったのは4例あった.投与後の平均体温はそれぞれ投与前と比較し有意に低下していた(one-way ANOVA: p<0.05;対応のあるt検定:p<0.05).解熱効果がない症例も1例あった.
| NRS | PAINAD | オピオイド | 1日用量 | |||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 投与前 | 1時間 | 2時間 | 4時間 | 投与前 | 1時間 | 2時間 | 4時間 | |||
| P1 | NA | NA | NA | NA | 4 | 0 | 0 | 0 | なし | |
| P2 | NA | NA | NA | NA | 2 | 0 | 0 | 0 | フェンタニル貼付剤 | 1 mg |
| P3 | NA | NA | NA | NA | 3 | 1 | 0 | 0 | なし | |
| P4 | NA | NA | NA | NA | 6 | 0 | 0 | 0 | なし | |
| P5 | NA | NA | NA | NA | 2 | 0 | 0 | 0 | なし | |
| P6 | NA | NA | NA | NA | 5 | 0 | 0 | 0 | モルヒネ注射剤 | 24 mg |
| P7 | 10 | 0 | 0 | 7 | NA | NA | NA | NA | オキシコドン注射剤 | 12 mg |
| 患者番号 | 投与前体温(°C) | 1時間後 | 2時間後 | 4時間後 |
|---|---|---|---|---|
| F1 | 38.1 | 38.2 | 38.4 | 38.3 |
| F2 | 37.8 | 37.4 | 37.7 | 37.3 |
| F3 | 38.4 | 37.4 | 37.2 | 37 |
| F4 | 38.2 | 37.9 | 37 | 36.9 |
| 38.5 | 38.1 | 38.1 | 37.2 | |
| 38.1 | 36.8 | 37.6 | 36.9 | |
| F5 | 38.1 | 37.6 | 37.4 | 37.2 |
| F6 | 38.3 | 37.9 | 37.3 | 37.4 |
| 平均低下値 | −0.525 | −0.55 | −0.91 | |
| 対応のあるt検定 | 0.006 | 0.008 | 0.001 | |

本結果から,アセトアミノフェン注射剤の皮下投与は局所の重篤な有害事象なく安全に施行可能であり,鎮痛,解熱効果があると示唆された.今回,アセトアミノフェンの投与量を500 mg/回と設定した.理由については静注用アセトアミノフェン製剤の添付文書を参照し,成人における鎮痛の用量が300~1000 mg/回,発熱の用量が300~500 mg/回と明記されていること,また緩和ケア病棟での対象が高齢者や低体重患者が多いことから,安全性ならびに,臨床現場での実用性を加味して用量を500 mg/回と設定した.
解熱効果が不十分で体温が低下しない例もあったが,理由としては皮下からの吸収動態の個人差,投与量が体格に比して少なかった可能性,アセトアミノフェンで解熱が得られにくい中枢性の発熱の可能性7)などが考えられた.鎮痛効果についても同様に体格に比して投与量が不足して効果が不十分であった可能性もある.また一部鎮痛効果の評価に注意を要する事例もあった.対象のうち3例では強オピオイドが併用されており,うち2例はレスキュー薬としてのオピオイド投与と同時にアセトアミノフェンが皮下投与されていた.したがって,観測された鎮痛効果がアセトアミノフェン単独の効果か,オピオイドとの相加・相乗効果か,あるいはオピオイドによる効果かを判別することは困難である.近年,強オピオイド使用下でのアセトアミノフェン併用は,鎮痛効果への寄与が限定的であるとする研究結果も報告されている8)が,本研究の結果からはこれらの研究の真偽を判断することはできないと考える.さらに患者報告型アウトカムのNRSで評価できた患者が7例中1例であり,残りの6例は医療者評価であるPAINADであった点についても信頼性や妥当性に欠ける.
また,アセトアミノフェンを静脈内投与した際と皮下投与した際の薬物動態の違いについてランダム化比較試験も進行中9)であり解析が待たれる.
本研究は,後方視的単施設単群前後比較研究である.単施設でかつ緩和ケア病棟での条件であり,症例数も少ないためまれな有害事象を検出するには限界がある.また,介入および評価が非盲検下で行われているという点も実施バイアスや検出バイアスの要因となってしまう.
しかしながら,末梢静脈路確保が困難な緩和ケア患者に対する症状緩和の手段としてアセトアミノフェン皮下投与の臨床的有用性は大きいと考えられる.今後,多施設共同での前向き研究や,静脈内投与群を対照としたランダム化比較試験によって,安全性と有効性をさらに検証することが望まれる.
緩和ケア病棟の患者ではアセトアミノフェン注射剤の皮下投与は安全性や有効性の面から有用であることが示唆された.今後,より大規模な検証が望まれる.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
西土は研究の構想もしくはデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;橋本は研究データの収集,分析,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献;坂本は研究の構想もしくはデザイン,研究データの収集,分析,研究データの解釈,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.