Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
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症例報告
在宅医療においてソルビトール添加Mohsペーストを導入し止血し得た甲状腺腫瘍の1例
大内 健弘 大野 朋子
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電子付録

2026 年 21 巻 1 号 p. 19-23

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Abstract

Mohsペースト(以下MP)は,悪性腫瘍皮膚自壊創による諸症状を緩和する方法として有効性が報告されている.その一方で,調製,コスト,操作性などの多くの障壁が報告されており,とくに在宅医療では使用経験は多くない.今回,ソルビトール含有MP(以下SMP)を使用することで限られた医療資源の中で甲状腺腫瘍による出血に対してコントロールできた症例を報告する.週1回の処置を11回行い,止血を得ると同時に腫瘍の縮小を認めた.SMPはMPの調製の際のグリセリンをソルビトールに変更するのみでありMPと同様に調製でき,物性変化,操作性においても,在宅での導入が可能であった.SMPはMPと同様の効果を有し,在宅での使用の障壁を下げる可能性がある.

Translated Abstract

Mohs paste (MP) has been reported as an effective treatment for alleviating symptoms caused by malignant skin tumors, such as bleeding, malodor, and exudate. However, various challenges have been encountered in its use, such as the complexity of preparation, high costs, and difficulties with application, which are particularly troublesome in home care settings. Consequently, MP has seen limited use in home-based care. We report a case of a bleeding malignant skin tumor, originating from the thyroid, successfully managed in home care setting using sorbitol-containing Mohs paste (SMP). SMP was prepared by substituting glycerin with sorbitol in the standard MP formulation. The patient underwent eleven weekly applications of SMP, which resulted in effective bleeding control and a noticeable reduction in tumor size. SMP demonstrated similar clinical effectiveness to conventional MP while offering improved handling and material properties. These advantages lowered the obstacles to its use, enabling safe and practical administration within the limited resources of home care. SMP’s simplified preparation process also makes it a more accessible option for non-hospital environments. This case suggests that SMP could be a viable and efficient alternative to MP for managing symptoms of malignant skin tumors, particularly in patients receiving palliative care at home. By enhancing usability, SMP may help expand the role of MP in home-based palliative care for advanced malignant skin tumor.

緒言

悪性腫瘍による皮膚自壊創は,出血,滲出液や悪臭などの症状コントロールに難渋することも多く,皮膚自壊創への対処法としては亜鉛華デンプン,アルギン酸,メトロニダゾールゲルなどが挙げられる.また,Mohsペースト(以下MP)の皮膚自壊創の出血,滲出液減少効果および悪臭改善効果は多く報告されており病院を中心に施行されている 1,2が,在宅医療で施行された報告は少ない 3.MPは,病院においても調製や投与に時間がかかる,物性変化により取り扱いが困難 4,倫理委員会での承認が必要等,障壁があるといわれており 1,とくに在宅医療ではその障壁が顕著である.グリセリンの代わりにソルビトールを添加したソルビトール添加MP(以下SMP)は,物性の変化を抑え操作性を高め,効果もMPと同等と報告されている 5,6.今回,SMPを在宅で導入した経験を報告する.

症例

90歳代女性,右甲状腺腫瘍,左乳腺腫瘍を指摘されたが加療希望なく通院困難となり訪問診療が介入となった.既往歴に認知症あり,とくに短期記憶障害を認めた.右甲状腺腫瘍は確定診断ではないが画像所見,肉眼所見や増大傾向からも悪性腫瘍が疑われた.本人・家族へは今後腫瘍が増大した際には創部自壊し,出血,浸出液,悪臭の出現を認める可能性があること,その際には自宅での生活を継続させるためには緩和照射が必要になる可能性を説明した.そのうえで本人,家族の希望はデイサービスを利用しながら,自宅で生活を続けること,可能な限り通院・入院加療はしないことであった.そのため腫瘍の増大速度,腫瘍部位の皮膚の色調,自壊の有無を多職種で確認し,適宜家族へ説明をした.当初は軽度の頸部痛に対して疼痛コントロールを行うのみだったが,介入より約8カ月後,頸部腫瘍が自壊し静脈性出血を認めた.用手圧迫止血を行った後,亜鉛華デンプンを塗布しガーゼ保護とした.翌日,止血目的の単回緩和照射(8 Gy/1 Fr)を近医放射線科で施行した.画像上,増大し自壊した部位は甲状腺腫瘍自体と考えられた(付録図1).緩和照射後13日間,亜鉛華デンプン,アルギニン酸ドレッシング材を使用し止血試みるも滲出液が多く1日2回のガーゼ交換が必要であった(図1).また,ガーゼ交換の回数と出血・滲出液量が多いことを理由にデイサービスが利用できなくなった.止血に対する代替手段を行ったが出血,滲出液コントロールが不良であること,緩和照射の際のCT画像で頸部大血管と出血部位に十分な距離があることを確認しSMP適応と判断した.

図1 SMP施行前,頸部に突出する自壊創を認める.

倫理的配慮

法人内医師,当院看護師,訪問看護師,調剤薬局薬剤師でSMPの効果と意義を検討した.その結果をもって本人,夫,長男へ文書を用いて,起こりうる有害事象としての疼痛とその対処法(鎮静薬の使用),正常皮膚にSMPが付着しないよう,皮膚を十分に保護すること,万が一付着した際には速やかに除去し,適宜軟膏処置を行うことも説明し署名による同意を取得した.SMP使用においては医療法人社団平郁会医療倫理委員会の承認を得た.(承認番号:2025-4)

SMPの作成方法

原料

MPの調製には,塩化亜鉛(小宗化学薬品株式会社),日局亜鉛華デンプン(小堺製薬株式会社),日局D-ソルビトール経口液75%(興和株式会社),精製水を用いた.

調製方法

MPの組成を付録図2に示す.塩化亜鉛(試薬特級)25 gを精製水12.5 mlにビーカー内で溶解させ,塩化亜鉛水溶液とした.溶解熱が発生するため,一晩,室温で放冷し,翌日,塩化亜鉛水溶液を攪拌しながらD-ソルビトール経口液75% 2.65 mlを加え溶解した.この溶液を乳鉢に移し,亜鉛華デンプン12.5 gを少しずつ加え,乳棒で混和,均一化し,ペーストを得た.調製したペーストは粘度が低く(付録図3),冷蔵庫に保管することで塗布しやすい物性となった(付録図4).

SMP処置と経過

訪問診療は週1回,訪問看護は連日訪問とした.薬局薬剤師はSMP使用時に診察に同席した.SMPによる疼痛対策として処置15分前にモルヒネ塩酸塩水和物液5 mg,ロキソプロフェンナトリウム水和物錠60 mgのいずれかをまたは同時に予防的に内服とした.自壊創周囲の健常皮膚に白色ワセリンを厚く塗布,その上から食品用ラップで保護しビニールテープで補強した.木製へらを用いて創部凹凸にあわせて塗布した.止血,滲出液減少を目的とし,塗布時間は30分を目安とし,疼痛が出現した時点で終了とした.施行時間は最短で13分,最長で34分であり,いずれも疼痛出現により塗布終了となった.塗布中,体温によるSMPの硬度変化はみられず周囲の皮膚にSMPが付着することはなかった.終了時もシート状のまま一塊に除去が可能であった(図2).1回目処置直後より出血点は減少し,出血,滲出液の減少を認めガーゼ交換も1日1回に減少した.また,SMP処置前はガーゼ保護のためのフィルムを貼付しても血液・滲出液が健常皮膚や衣服を汚染していたが,ガーゼ内におさまり,古い血液が凝固した臭いも感じなくなった.デイサービスでのガーゼ交換の必要性がなくなり,5回目施行後よりデイサービス利用再開可能となり,6回目施行後より出血はごく少量となった(付録図5).1回目施行から8日目に2回目施行,その後1週間に1回のペースで施行し計11回施行し,完全に止血され滲出液も減少し1日1回の包交を継続するのみとなった.また頸部に突出していた腫瘍は完全に消失し平坦化した(付録図6).最終SMP施行から11週経過したが,出血は認めず滲出液の増加もなく経過している.また皮膚欠損部の縮小も認めた(図3).

図2 SMPは一塊に除去可能であった.
図3 最終SMP施行より11週経過後,滲出液はごく少量となった.

考察

最初に,MPは,調製直後から硬さが急激に変化するため,操作性改善のためにさまざまなMPの組成が検討されている 3,58.物性の変化は,亜鉛華デンプンに含まれるバレイショデンプンの糊化に由来すると考えられている 9.今回は組成の検討を行い,田口ら 5,6が報告しているMPの組成のうち,グリセリンをソルビトールに変更することで,MPの粘着性の増加が緩やかになり,物性の変化が抑えられると報告のあるSMPを調製することとした.散剤の日局ソルビトールの製造中止に伴い,日局D-ソルビトール経口液75%を代用し,ソルビトール含量を同量とした.SMPを利用する利点は,塗布直前での硬度調整が不要となること,塗布しやすく除去も容易であること,塗布後も流れ出ることなく皮膚障害を起こす可能性が低いことである.また,塩化亜鉛は劇物に指定されており,毒物劇物一般販売業の届け出が必要である.本症例は,薬局薬剤師が処置の際に同席したが,患者宅での硬度調製は不要であった.SMP作成においては薬剤師の協力は不可欠と考えるが,塗布の際の同席は必ずしも必要でなくなることは人員資源が限られる在宅医療分野ではとくに利点と考えられた.SMPは木製へらを用いて塗布することもでき,除去の際もプラスチック製攝子でシート状に一塊に除去可能であった.MPよりも硬度,粘度の変化が抑えられSMPの操作性が高いとの報告 5と同様の結果でありSMPの利点と考えられた.在宅分野においては気温に室温が左右されることが多いため,SMP持ち運びの際には温度管理が必要になる.今回は持ち運びには保冷バッグと保冷剤を使用することで温度管理を行った.MPに使用しているグリセリン(塩化亜鉛25 gに対して0~2 ml)は,8.70~13.10円/10 mlであり,SMP中のD-ソルビトール経口液75%(塩化亜鉛25 gに対し2.65 ml)は,10.50円/10 mlであり,コストの面で大差はなかった.試薬が含まれる製剤であり,費用はすべて診療所で負担している.

本症例では短時間で施行したため,塗布中に硬度変化を起こすことなく経過した.塗布時間を24時間とした報告では多量の滲出液を吸収し,硬度が低下し,皮膚に流れ出ることで皮膚障害を起こした報告がある 6.皮膚保護は白色ワセリンと食品ラップで保護可能であり皮膚障害を認めず医療資源の限られる在宅でも施行可能であった.SMP施行は前後の診察や処置を含めても1時間以内に訪問を終了しており,定期訪問の時間と比較し長時間ではなかった.次に頭頸部腫瘍に対してMP施行の注意点として頸動静脈からの出血がある 10.本症例でもCT画像を確認し,大血管との距離が十分にあることを確認し,在宅で行うことも考慮しSMPの塗布を長時間にしない方針とした.最後にSMPの効果に関して本症例では放射線治療後であり放射線治療効果もあったと考えるが,放射線治療後13日経過後も出血,滲出液の減少は認めず1日2回の包交が必要な状態が持続していた.SMP開始1回目より包交回数は1日1回に減少しており,SMPが出血,滲出液減少に寄与したと考える.また腫瘍縮小に関してもSMP使用開始後であり効果があったと考えている.在宅医療の中でSMPを使用した経験は新規性があると考える一方,在宅での治療であり,家族・訪問看護の協力のもと加療を行っており包交処置時間帯がさまざまであり出血や滲出液量についての定量的な評価が困難なこと,患者自身が重度の認知症でありフェイススケールを使用しても回答が一致せずSMPによる疼痛の評価が困難であったことは本研究の限界であると考える.

結語

SMPを使用し,滲出液減少,止血しえた甲状腺腫瘍を経験した.SMPは在宅医療の分野でも使用可能と考えられる.

謝辞

ソルビトール含有Mohsペースト作成にあたり助言いただいた,横浜薬科大学の田口真穂准教授,国家公務員共済組合連合会横浜南共済病院の橋口宏司薬剤師,菊池絵里看護師,医療法人社団いぶきの森のぞみの花クリニックの餅原弘樹薬剤師に感謝申し上げます.

利益相反

すべての著者の申告すべき利益相反なし

著者貢献

大内は研究の構想およびデザイン,原稿の起草に貢献,研究データの収集,分析,解釈;大野は研究データの解釈,原稿の起草,原稿の重要な知的内容に関わる批判的な推敲に貢献した.すべての著者は投稿論文ならびに出版原稿の最終承認,および研究の説明責任に同意した.

References
 
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