Palliative Care Research
Online ISSN : 1880-5302
ISSN-L : 1880-5302
原著
地域における外見支援のアクセス障壁と多層的課題:がん経験者および美容業従事者の視点から
久村 和穂 木村 美代松井 優子久野 真知子矢﨑 未来西部 明子元雄 良治龍澤 泰彦
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電子付録

2026 年 21 巻 3 号 p. 159-170

詳細
Abstract

【目的】本研究はがん経験者と美容業従事者の視点から地域の外見支援の実態と課題を明らかにし,支援の方向性を検討することを目的とした.多層的支援体制の構築に資する知見を得ることを意図した.【方法】患者58名,美容業従事者262名に質問紙調査を行い,量的分析に加え自由記述を内容分析し,社会生態学モデルに基づき統合的に整理した.【結果】患者調査では外見変化に伴う長期的な心理社会的負担,相談先の曖昧さ,地域資源情報の不足など課題が示された.美容業従事者は支援意欲が高い一方,知識・技術不足やプライバシー配慮と安全性判断の難しさ,医療との連携不足が支援の障壁となっていた.統合的分析の結果,外見支援へのアクセス障壁は個人のみならず,組織・地域・制度要因が相互に作用する構造的課題と示された.【結論】医療・美容・地域がそれぞれの役割を生かし協働する枠組みの必要性が示唆され,今後の支援体制構築に重要な知見を提供した.

Translated Abstract

Objective: This study aimed to clarify the current status and challenges of community-based, appearance-related support from the perspectives of cancer survivors and beauty professionals. Additionally, it sought to explore future support strategies. The study also sought to generate knowledge to inform the development of multilevel support systems. Methods: A questionnaire survey was conducted with 58 cancer survivors and 262 beauty professionals. Quantitative analyses were performed, and free-text responses were analyzed using content analysis. The findings were then integrated and organized based on the social ecological model. Results: Among cancer survivors, long-term psychosocial burdens associated with appearance changes, ambiguity in consultation resources, and limited access to information about community resources were identified. Beauty professionals demonstrated a strong willingness to provide support; however, a lack of knowledge and skills, challenges in ensuring privacy and safety, and insufficient collaboration with healthcare providers acted as barriers. The integrated analysis revealed that the barriers to accessing appearance-related support were not limited to individual factors, but rather constituted structural challenges arising from the interaction of organizational, community, and systemic factors. Conclusion: The findings suggest the need for a collaborative framework in which healthcare, beauty services, and community resources play complementary roles. These findings also provide important insights for developing future support systems.

緒言

がん治療の進歩により長期生存者が増加する一方,脱毛や皮膚・爪の変化といった外見変化は,多くのがん経験者に心理社会的困難をもたらすことが知られている 13.これらの変化は自己像の揺らぎや対人関係上の不安を生じさせ,就労や社会参加の制約につながるなど,生活の質を長期的に低下させる可能性がある 46.とくに脱毛は女性にとって大きな心理的負担となり,生活の質の低下や抑うつと関連し,時に乳房喪失以上の苦痛として受け止められることも報告されている 710

国内では,がん対策推進基本計画にアピアランスケアの重要性が明記され,がん診療連携拠点病院等を中心に外見支援の体制整備が進んでいる 11.しかし,これらの体制整備は主に医療機関内の支援を中心に進められており,治療終了後や地域生活に移行した患者が,必要な情報やケアに継続してアクセスできる環境は十分に整っていない 12

がんサバイバーシップの観点からも,外見変化への支援は医療現場だけで完結しない 13,14.初期治療終了後の通院間隔が広がる時期は心理社会的困難が顕在化しやすいが,医療者の支援が届きにくい.また,長期化する治療や非根治的治療の増加に伴い,終末期を含む多様な段階で苦痛や孤立感が持続する可能性も指摘されている 15.これらを踏まえると,外見支援を医療機関内の個別的対応にとどめず,地域の生活環境に根ざした長期的・包括的支援として再構築する必要がある 16,17

近年,海外では美容室を活用した健康増進や社会的孤立の軽減の取り組みが報告されている 1720.こうした海外の動向は,地域に根ざした外見支援の可能性を示唆しており,国内でも美容業が地域の健康支援資源として注目されつつある 2124.美容業従事者は顧客と長期的な関係を築きやすく,生活上の困りごとに気づきやすい立場にあり,医療や社会的支援につなぐ役割を担いうる点で,地域における外見支援の重要な担い手となる可能性がある.

本研究では,がん経験者と美容業従事者の双方の視点から,地域における外見支援の現状と課題を明らかにし,今後の支援の方向性を検討することを目的とした.具体的には,①がん治療に伴う外見変化が患者の心理社会的領域に及ぼす影響と支援ニーズ,②美容業従事者の外見支援に関する経験や課題を明らかにする.本研究の中心的な問いは,がん経験者が地域で外見支援にアクセスする過程において,どのような障壁が存在し,それらは患者・美容業従事者・医療機関・地域環境の関係の中でどのように形成されているのかである.

がん経験者の外見変化に対する支援は,個人の心理的適応や対処だけでなく,医療提供体制,地域における支援資源,社会的価値観など多様な要因の影響を受ける.そのため,外見支援の課題を理解するためには,個人レベルだけでなく,対人関係・組織・地域・制度など複数のレベルを含む包括的な視点が必要である.本研究では,このような多層的要因を整理する枠組みとして社会生態学モデル(social ecological model: SEM)を用いる 25.SEMは,個人から社会構造までの多層的要因の相互作用を理解する理論枠組みとして広く用いられており,サバイバーシップ研究における支援体制の分析に応用されている 14,26.本研究では,患者および美容業従事者の調査結果を統合し,地域における外見支援の課題構造を多層的に明らかにすることを目的とした.

方法

研究デザイン

2019年10月~2020年1月に,石川県金沢市および能登地域において実施した自記式質問紙による横断研究である.対象は,がん経験者と美容業従事者の2群とした.

調査の実施

1. 患者調査

(1)対象者

本研究では外見変化の中でも患者数が多く心理社会的影響が大きいとされるがん治療による脱毛を経験した女性を対象に調査した.金沢医科大学病院(集学的がん治療センター・乳腺センター)に通院する患者,または石川県がん安心生活サポートハウス利用者のうち,過去5年以内に脱毛とウィッグ使用を経験した成人女性を対象とした.日本語での回答が困難な者は除外した.

(2)調査内容

質問紙は以下の内容から構成した.外見変化の経験(9項目),生活課題(18項目),情報の重要度と充足度(16項目),情報源(1項目),美容サービス利用(2項目),自由記述(3項目:美容サービス利用に関する困難,良かった経験,外見支援への要望).なお,生活課題に関する項目は,体調不良等による影響ではなく,外見の変化に起因する影響として回答するよう説明した.

(3)実施方法

調査票は先行研究を参考に研究チーム(ソーシャルワーカー,看護師,医師で構成)が作成し,表面妥当性と内容妥当性を検証するため,21名を対象にパイロット試験を実施して修正した.本研究は探索的研究であるため,事前のサンプルサイズ計算は行わなかった.調査対象施設において包含基準を満たす患者を連続的に抽出し,説明文書と質問票を配布した.記入・返送をもって同意とし,回答は無記名で回収した.目標回収数は100名としたが,COVID-19感染症拡大により調査を途中で中止した.

2. 美容業従事者調査

(1)対象者

石川県金沢市および能登地域に勤務する美容業従事者(美容師,理容師,メイクアップアーティスト,ネイリスト)とした.

(2)調査内容

質問紙は次の内容を含んだ.支援経験(5項目),支援意識・課題(6項目),学習機会とニーズ(4項目),自由記述(1項目:外見支援に関する意見・助言).

(3)実施方法

調査票は美容業従事者19名によるパイロット調査後に修正した.本調査は,石川県美容業生活衛生同業組合に加盟する574店舗に郵送法で配布するとともに,未加盟事業者286名にも配布した.未加盟者は機縁法により抽出し,選択バイアスの軽減に努めた.調査票はパイロット調査の結果を踏まえ,測定バイアスが最小となるよう項目を調整した.

分析方法

量的データはIBM SPSS Statistics 23.0(IBM, Armonk, NY, USA)を用いて記述統計および必要な基礎分析を行い,外見変化に伴う心理社会的負担,情報ニーズ,支援資源へのアクセス状況を整理した.患者と美容業従事者の自由記述データは,それぞれ独立して分析し,地域における外見支援の課題とその背景的文脈を抽出することを目的とした.患者調査では三つの自由記述設問を統合して用い,Krippendorffの内容分析の手順に基づき 27,①意味単位の抽出,②コード化,③サブカテゴリ化,④カテゴリ化を段階的に行った.抽出したカテゴリ間の関連を俯瞰的に整理するため,SEMを理論的枠組みとして参照し 26,その階層構造に沿ってカテゴリを配置することで,帰納的に得られた知見を多層的に整理し,解釈を深化させた.

分析の信頼性を確保するため,質的研究の経験を有する研究者によるスーパービジョンを受けるとともに,研究チーム内でコードおよびカテゴリの検討を複数回行い,解釈の一貫性と妥当性を確認した.本研究では,量的分析により地域における外見支援の現状と課題の傾向を把握し,質的分析によりそれらの結果の背景にある経験や認識を明らかにすることで,両者を相補的に用いて外見支援の課題を理解することを試みた.最終的に,両者の結果をSEMの視点に基づいて並置的に整理し,両者の知見を総合的に解釈する探索的メタ推論を行うことで,地域における外見支援の課題を多層的構造として解釈した.

倫理的配慮

本研究は金沢医科大学医学倫理審査委員会(No. I401)および済生会金沢病院倫理審査委員会(令和元年度第5号)の承認を得て実施された.なお,調査協力者には回答負担への配慮として,少額の謝礼を提供した.

結果

量的分析では外見支援に関する傾向が示されたが,その背景にある経験や認識を理解するために,自由記述の質的内容分析を行った.回答者の基本属性を表1に示した.外見支援に関する主要な結果は図1図3および表2に示し,それ以外の結果は本文中に記載した.

表1 回答者の基本属性

がん経験者の基本属性 度数 % 美容業従事者の基本属性 度数 %
性別 女性 58 100 性別 男性 44 16.8
年齢 平均値±標準偏差(SD) 55.4±10.6 女性 210 80.2
範囲 30–76 欠損 8 3.1
診断からの経過期間(月):平均値±SD 46.5±58.4 年齢 平均値±SD 57.2±13.5
中央値(範囲) 22.5 (1–271) 範囲 25–91
就労状況 就労している 29 50.0 20代 5 1.9
就労していない 28 48.3 30代 24 9.2
欠損 1 1.7 40代 50 19.1
(雇用状況) 正規雇用の職員 17 58.6 50代 61 23.3
非正規雇用・パート等 9 31.0 60代 51 19.5
自営業 3 10.3 70代 58 22.1
原発部位* 乳房 42 72.4 80代以上 7 2.7
卵巣 10 17.2 欠損 6 2.3
子宮 5 8.6 美容サービス* 頭髪 250 95.4
悪性リンパ腫 3 5.2 メイク 84 32.1
大腸がん 3 5.2 ネイル 24 9.2
肝臓・胆のう・膵臓 2 3.4 その他† 71 27.1
肝臓がん 1 1.7 取得資格* 美容師 248 94.7
原発不明 1 1.7 ネイル関連資格 18 6.9
診断時の病期 I期 14 24.1 その他‡ 40 15.3
II期 17 29.3 経験年数 2年未満 0 0.0
III期 12 20.7 2年~5年未満 5 1.9
IV期 11 19.0 5年~10年未満 3 1.1
不明 2 3.4 10年~15年未満 7 2.7
欠損 2 3.4 15年~20年未満 26 9.9
治療内容* 薬物療法 58 100.0 20年~30年未満 52 19.8
ホルモン療法 23 39.7 30年以上 167 63.7
手術 44 75.9 欠損 2 0.8
放射線治療 21 36.2 スタッフ数 (範囲) 1–40
その他 5 8.6 1名 105 40.1
治療期間(月) 薬物療法(範囲) 1–84 2名 76 29.0
平均値±SD/中央値 14.1±19.9/6.0 3名 19 7.3
ホルモン療法(範囲) 1–108 4–5名 22 8.4
平均値±SD/中央値 34.8±32.0/23.5 6–9名 10 3.8
再発 あり 16 27.6 10–19名 6 2.3
なし 40 69.0 20名以上 2 0.8
欠損 2 3.4 欠損 22 8.4

*複数回答を含む

†着付(40),婚礼支度(6),エステ(6),まつ毛エクステンション(5),訪問美容(2)等を含む

‡着付関連資格(15),管理美容師(9),訪問美容・出張美容(6),理容師(4),ハートフル美容師(4),メイク関連(3),カラーコーディネーター(3)等を含む

図1 外見変化によって生じた日常生活・社会生活上の課題(n=58)

本図の各項目は,「がん治療による外見の変化によって,日常生活を送る上でどのような問題や支障がありましたか」という設問に基づき,外見の変化に起因する影響として回答を求めたものである.

図2 外見変化に関する情報の重要度と,外見変化を経験していた当時の情報の充足度の比較(重要度の高い順,n=58)

本図は,がん経験者が外見関連情報について「とても重要」と認識している項目に焦点を当て,外見の変化を経験していた当時のその情報の充足度(「十分に情報が得られた」「ある程度の情報が得られた」)を示したものである.患者にとって支援上の優先度が最も高い情報における充足状況を可視化することを目的としたため,重要度のほかの選択肢(「重要」「まあまあ重要」「あまり重要ではない」)および,充足度の選択肢(「ほとんど情報が得られなかった」)は本図では図示していない. 情報の重要度および充足度に関するすべての選択肢の分布ならびに欠損値の内訳は,付録図1に示す.

本図に示した割合は,欠損値を含めた回答者数(n=58)を分母として算出した.

図3 美容業従事者の外見支援に関する意識・課題(n=262)

表2 地域における外見支援の課題の統合的分析:社会生態学モデルによる整理

SEM層 量的データの主な分析結果 質的データの主な分析結果 メタ推論(量的×質的分析の統合的解釈)
(P: 患者対象調査,B: 美容業従事者対象調査の分析結果)
個人レベル P: 患者の66%が脱毛当時に強い苦痛を感じ,気分の落ち込み(63.8%)や孤独感が高頻度に報告され,外見変化が心理状態に大きな影響を及ぼしていた. 
B: 89.8%が,がん経験者の外見変化に対して美容業従事者が支援できることがあると考えており,外見支援への基本的な意義認識は高かった.
P: 外見変化による心理的衝撃や開示不安から,外見支援を利用する余力を失いやすい経験が語られた. 
B: 患者の心理的苦悩への理解とともに,美容を通じて安心感や尊厳を支えたいという支援への動機や価値観が示された.
量的分析で示された心理的落ち込みや孤独感,外見変化を理由とした治療選択への影響は,質的分析で明らかとなった外見変化に伴う心理的衝撃や自己像の揺らぎと整合していた.同時に,美容業従事者側においても,患者理解を基盤として,美容を通じて安心感や尊厳を支えたいという価値観や支援動機が形成されており,外見支援は患者と支援者双方の個人レベルの心理過程に関与する可能性が示唆された.
対人レベル P: 理美容院で病気を打ち明けにくいと感じる者が多く,身近な相談相手を必要とする傾向がみられ,病気を知られたくないことを理由に美容院を変更した者も多かった. 
B: がん経験者は行きつけの美容院で病気を打ち明けにくく,対話や相談が生じにくいと認識されていた.
P: 経験者同士の交流は有用だが,美容サービスでは開示不安や対応差により信頼関係を築きにくい経験が示された. 
B: 信頼関係があれば相談が生じやすい一方,治療期の中断や相互の気遣いにより支援が途切れやすいと認識されていた.
量的分析において確認された「病気を打ち明けにくい」「誰に相談すべきかわからない」といった対人場面での困難は,質的分析で示された患者と美容業従事者との間における相互の配慮や遠慮,守秘性への不安,初期対話の成立しにくさと対応しており,両者の関係における心理的安全性の不足が支援関係の形成を阻害している可能性が示唆された.
組織レベル(美容施設) P: 担当の理美容師に外見変化へ対応できる知識・技術があるか分からず不安を感じた者が多く,診断後に行きつけの美容院を変更した者は33%であった. 
B: 脱毛を経験した顧客への支援経験は限定的であった一方,パーマ液やカラー剤による悪影響に不安を感じる者が多く,外見支援に関する専門知識や研修機会の不足が示された.
P: プライバシー配慮や外見支援に関する知識・技術が十分でない美容室も多く,脱毛後は美容室利用を中断せざるを得ない状況が語られた. 
B: 外見支援への意欲は高い一方で,知識・安全性・対応にばらつきがあり,支援は個々の美容師に依存しており,さらに費用負担や限られた選択肢が外見支援利用の制約要因として認識されていた.
量的分析で示された美容室選択への不安や利用中断の多さは,質的分析で示された美容施設ごとの知識・技術・プライバシー配慮や安全性体制のばらつき,対応可否情報の不透明さと整合しており,外見支援が個々の美容業従事者の裁量や経験に依存し,組織的に安定した提供が困難となっている構造が示唆された.
(医療機関) P: 外見変化について主治医や主治医以外の医療者に相談しづらいと感じた者が一定数存在していた 
B: 美容業従事者の多くは,がん経験者の外見支援において自身にも担える役割があると考えており,方法がわかれば支援を担いたいという前向きな役割認識が示されていた.
P: 脱毛前の早期情報提供や心理的準備支援が不十分で,外見支援の選択肢や相談先が分からないまま,自己判断と情報探索を迫られる経験が語られた. 
B: 医療機関との情報共有や役割分担が明確でないため,施術可否の判断やウィッグ紹介が個別対応となり,美容室が外見支援に十分活かされていないという実感が述べられた.
量的分析で示された医療者への相談のしづらさや外見支援情報の不足は,質的分析で明らかとなった脱毛前の心理的準備支援の不十分さや医療–美容間の役割分担・情報共有の不明確さと一致しており,医療機関における外見支援の位置づけや橋渡し機能の弱さが,支援アクセスを偶然に依存させている可能性が示唆された.
地域レベル P:「地域の理美容院・美容サロン等に関する情報」は重要度が高いにもかかわらず,十分に情報が得られていると回答した者は10.3%にとどまっていた. 
B: がん経験者への外見支援に関する学習機会があった者は19%にとどまり,地域で共有された知識や支援基盤は限定的であった.
P: 地域に外見支援の相談窓口や対応可能な美容資源が少なく,信頼できる支援先に出会えるかどうかが偶然に左右されている経験が語られた. 
B: 地域によって外見支援の認知や利用状況に差があり,地方では利用者が少なく,対応可能な美容室の情報不足により支援が偶然性に左右されているという実感が述べられた.
量的分析で示された地域差のある情報不足や情報探索負担は,質的分析で指摘された外見支援拠点や対応可能な美容室の偏在,情報の可視化・啓発不足と整合しており,地域の支援基盤の違いが外見支援へのアクセス格差を生み出している構造が示唆された.
社会レベル(制度) P: 外見ケアに伴う経済的負担や助成制度の不足により,必要な支援を選択しにくい状況が語られた. 
B: 公的助成の不足や地域差により,経済的条件が外見支援の選択肢を制約している現状が語られた.
(社会文化) P: 患者の多くが,外見変化によって人間関係に悪影響が及ぶことを懸念しており,周囲の視線や噂への不安といった社会的関係性に関わる影響が量的に確認された. 
B: 行きつけの美容院に病気のことを打ち明けにくいと感じているがん経験者が多いと認識されており,病気や外見変化をめぐる社会的な開示のしづらさが量的に示された.
P: 外見変化や病気を周囲に知られることへの強い抵抗感や,噂や視線を意識して地域の美容サービス利用を避ける経験が語られた. 
B: 外見変化や病気を知られたくないという患者の配慮が日常的にみられる一方で,がんを率直に語る人も増えており,外見変化をめぐる社会的受け止め方が揺れているという認識が示された.
量的分析で確認された病気を知られたくないという意識や制度情報へのアクセス困難は,質的分析で示された外見変化に対する羞恥やスティグマ,制度的支援の脆弱さと対応しており,社会文化的規範と制度環境が相互に作用することで,外見支援の利用や継続が制限されている可能性が示唆された.
全体のメタ推論 本研究の量的および質的分析結果をSEMに沿って統合的に解釈した結果,外見支援に関わる課題は,患者個人の心理的負担や意思決定の問題にとどまらず,対人関係,組織体制,地域資源,制度・社会文化といった複数の層が相互に関連する多層的・構造的課題として整理された.これらの課題は,個人への支援のみでは十分に対応できず,医療・美容・地域が役割を分担し,相互に補完する協働的支援体制の構築が求められることが示唆された.

SEM: social ecological model

患者調査

有効回答は58名(回答率95.1%)であった(表1).

1. 外見変化の体験と対応(結果は本文中に記載)

回答者の97%が頭髪の80%以上の脱毛を経験し,眉毛・睫毛の脱毛(77.6%),爪の変化(58.6%),体重増加(53.4%),肌の乾燥(43.1%)・くすみ(39.7%)・発疹(34.5%)も高頻度でみられた.ウィッグの使用期間の中央値は11カ月(範囲:1~108カ月)で,複数のウィッグを使用した者も多かった.使用感では,68%がウィッグに概ね満足していたが,蒸れ(57.1%)や見た目の違和感(47.6%)が不満として挙がった.ウィッグ費用と満足度の間に有意な関連は認められなかった(p=0.978, r=−0.004, Spearman).

2. 外見変化に伴う生活課題

脱毛当時に「非常に」または「かなり」苦痛を感じた者は66%であった.社会生活では,気分の落ち込み(63.8%),整容の苦労(62.1%),周囲の視線への不安(57.9%)が多く報告された.また,76%は「医療者以外で身近な相談相手」を必要としていた(図1).

3. 情報の重要度と充足度

外見変化を経験していた当時,多くの項目では一定程度情報が得られていた.一方,「地域の理美容院・美容サロン等の情報」(充足10.3%),「同病者による外見ケアの実際や工夫」(充足38.0%)については,重要度が高いにもかかわらず,情報が行き届いていないことが明らかになった(図2,付録図1).

4. 美容サービスの利用状況(結果は本文中に記載)

診断後に行きつけの美容院を変更した者は33%で,その理由として「がんであることを他者に知られたくない」(64.7%)が最も多かった.

5. 自由記述

自由記述(回答率81.0%)について,内容分析により最終的に240コード,33サブカテゴリ,10カテゴリが抽出された(付録表1).内容は以下に大別された.①外見変化に伴う心理的負担,病気であることを知られたくないという開示不安,②情報探索・費用負担の大きさ,③美容室側のプライバシーや知識・技術の不足,④医療側の情報提供不足および医療–美容間の連携不備.記述には,「自分の病気が他人に知られるのではと心配だった」「治療が進むスピードに気持ちが追いつかなかった」など,心理・生活面の切実な声が含まれた.

美容業従事者調査

有効回答は262名(回答率30.8%)であった(表1).

1. がん経験者への支援経験と支援内容(結果は本文中に記載)

過去5年以内に脱毛を経験した顧客がいなかったとした者は31%,過去1年以内では54%であり,直接的な支援経験は限定的であった.これまでに提供した支援は,ウィッグに関する情報提供(60.2%),治療前の散髪(59.6%),ウィッグ販売(59.1%)が多かった.

2. 外見支援に関する意識・課題・学習ニーズ

89.8%は「がん経験者の外見の変化に対して美容業従事者が支援できることがある」と考えていた.一方で,「悪影響が出ないか心配」「対応が難しい」といった懸念が示された.がん経験者の外見支援に関する学習機会があった者は19%で,81%が研修参加に関心を示した.とくに関心の高い学習内容は,身体に負担の少ない製品(49.8%),治療の副作用と対処法(48.3%),がんの基礎知識(46.4%)であった(図3).

3. 自由記述

自由記述(回答率24.9%)について内容分析を行った結果,132コード,36サブカテゴリ,13カテゴリが抽出された(付録表2).主な内容は以下のように整理された.①患者の心理的苦痛への理解と共感,②支援したいという強い意欲と同時に,「どう助言してよいか分からない」「通常通りの施術で問題ないか不安」といった知識・技術不足による戸惑い,③医療専門職との情報共有の不足や,施術環境におけるプライバシー確保・安全性確保の難しさなど,組織的・構造的課題,④地域の外見支援資源や制度に関する情報不足により,患者が支援にアクセスできるかどうかの格差が生じていることへの問題意識.

考察

本研究では,がん治療に伴う外見変化に関する患者と美容業従事者の経験を,量的・質的データを統合して分析した.量的結果は外見支援に関する課題の分布を示したのに対し,質的分析はそれらの課題が生じる背景や文脈を明らかにする役割を果たした.これらを統合することで,外見支援へのアクセス障壁が個人の問題にとどまらず,複数の要因が相互に作用する構造的課題として理解されることが明らかとなった.結果をSEMの視点から整理すると,個人,対人関係,組織,地域,社会文化の各レベルにおいて外見支援の課題が確認された.これらの結果は,外見支援を多層的な支援体制として捉える必要性を示している.本研究の知見は,医療・美容・地域の三者協働による支援の必要性を示している(付録図2).

外見支援の課題構造:SEMによる多層的理解

1. 個人レベル

量的調査から研究対象者の多くは脱毛に加えて爪・皮膚障害や体型変化など複数の外見変化を経験していた.外見変化は心理・社会生活や医療意思決定に影響しており,開示不安,孤立感,相談先の不明確さといった多面的課題が確認され,先行研究の知見を支持した 15,10.質的データでも,周囲の視線や噂への不安,外出控え,復職の遅れが語られ,スティグマの内面化が美容サービス利用を妨げていた 1,3,810

さらに本研究では,量的調査において「同病者による外見ケアの実際や工夫」に対する情報ニーズが高い一方で充足度は低く,質的データからもピアサポートによる経験共有が経験知や安心感につながることが語られていた.

以上を踏まえると,患者が求める外見支援は,治療前から長期生存期までを視野に入れた継続的支援である.

2. 対人レベル

本研究の特徴的な知見として,患者の外見に関する回避行動が患者個人の心理特性のみでは説明できず,医療・美容双方の環境要因によって強化されていた可能性が示された.美容業従事者は高い支援意欲と学習意欲を有していたが,支援経験は限定的であり,「悪影響が出ないか不安」「どう助言すべきかわからない」といった戸惑いが認められた.質的データでは,患者との関わりの中で心理的配慮の必要性を感じながらも,対応に対する不安が語られていた.

これらの結果から,こうした意欲と実践の乖離は美容師個人の能力の問題ではなく,教育機会や医療との情報共有の不足などの環境要因が影響していると考えられた.

3. 組織レベル

医療側では,早期かつ適切な情報提供や相談体制が必ずしも十分ではなく,美容側でもプライバシー配慮や対応技術・知識の差異が患者の不安や心理的抵抗を増幅していた可能性が示唆された.質的データでは,プライバシー確保の困難,感染予防や安全性判断への不安,医学的情報へのアクセスの乏しさなど,組織的課題が繰り返し述べられた.

こうした背景により,支援は個々の美容師の経験や努力に依存しやすく,支援が断片化しやすい状況となっていた.

4. 地域レベル

とくに多くの患者が重要視していた「地域の理美容院・美容サロン等に関する情報」の充足率が10.3%にとどまっていた点は,情報の可視化不足を示しており,支援が患者自身の探索努力に依存している現状を示している.

地域レベルでは,外見支援に対応可能な美容室や相談窓口の偏在に加え,こうした医療–美容間の連携の弱さは,支援が患者個人の努力に委ねられる構造を生み,支援格差につながっていた.

5. 社会・文化レベル

外見変化に対する社会文化的価値観も支援アクセスに影響していた.質的データでは,「外見変化は隠すべき」という社会的規範や他者の視線への不安が語られており,スティグマが支援利用に影響していた.

以上の結果から,外見支援の課題は個人・対人関係・組織・地域・社会文化といった多層的要因が相互に関連して生じていた.このような多層構造は,がんサバイバーシップケアの質の多面的理解を提唱したNekhlyudovらのモデル 26や,地域のインフォーマル支援ネットワークの重要性を指摘する近年の緩和ケア研究とも整合している 2830.したがって外見支援は,医療機関に付随する補助的ケアとして位置づけるのではなく,地域社会全体で支えるサバイバーシップケアの一要素として再定義する必要がある.

実践への示唆:医療・美容・地域の協働モデル

本研究の結果から,医療・美容・地域の各主体がそれぞれの特性を生かしつつ協働する枠組みは,地域における外見支援の方向性の一つであることが示された.医療は外見変化に関する医学的評価,早期の情報提供,医療意思決定および心理社会的支援を担う中心的役割を果たす.一方,美容領域は生活に密着した整容技術を提供し,外見変化への適応を支える役割を担う.さらに,地域のピアサポートや患者支援団体などの中間支援拠点が両者をつなぐことで,切れ目のない支援が形成される.

外見変化に伴う困難は心理社会的側面を含む多面的な問題であり,美容領域のみで完結するものではない.そのため,美容業従事者は,医療職による専門的支援やピアサポートによる経験共有などの支援資源と接点を持ちながら,日常生活における整容や社会参加の場面で外見適応を支える補完的資源として位置づけられる.

このような三者協働型モデルは,「医療か美容か」という二分構造を超え,地域全体で外見支援を支える新たな視点を提供する.このアプローチはcompassionate communityの理念とも親和性が高く 28,29,医療のみでは対応しきれない外見支援を地域レベルで持続的に支える上で有用と考えられる 30,31.さらに,本アプローチは社会的ネットワークの強化や患者のエンパワメントを促し 32,患者の生活世界に根ざした支援へと拡張する社会モデルの視点を示している.

本研究の限界

本研究にはいくつかの限界がある.第一に,調査対象を石川県に限定したため,地域特性の影響を受けており,一般化には慎重な解釈が必要である.第二に,患者調査は女性・乳がん患者が多く,主に薬物療法に伴う脱毛経験に基づく.情報不足,相談先不明,開示困難,医療–美容連携不足は他の外見変化にも共通しうるが,治療前準備,ウィッグ選択・使用,再発毛期対応は主に脱毛関連の課題であり,適用には慎重な解釈を要する.第三に,美容業従事者調査では美容師が大多数を占め,高年齢層が中心であったため,結果は主として美容師の経験であり,若年層の視点は十分に反映されていない.第四に,両調査はいずれも横断デザインであり,因果関係は推定できない.また,患者調査はCOVID-19流行により予定より早期に終了し,目標症例数に達しなかったため,代表性や検出力に制約がある.さらに,自記式質問紙調査であることから,各種バイアスの影響がある.美容業従事者調査では回答率が30.8%であったことから,選択バイアスの可能性もある.質的分析については,研究者バイアスの影響は否定できない.また,調査は2019~2020年に実施されており,現在の社会状況を十分に反映していない.とくに近年はウィッグ等の購入費助成制度を導入する自治体が増えており,制度的背景の変化にも留意を要する.

以上の限界はあるものの,本研究は三者協働による外見支援体制構築に向けた基盤的知見を提供した.

結論

本研究の結果から,がん経験者が外見変化に伴う心理社会的困難や支援へのアクセス障壁に直面している一方で,美容業従事者は高い支援意欲を有しながらも,知識不足や安全性への不安から対応が難しいと感じている現状が明らかとなった.これらの結果から,外見支援へのアクセス障壁は,個人の問題にとどまらず,医療・美容・地域の支援が十分に連携されず断片的に提供されていることにより生じる多層的かつ構造的課題として捉えられた.

本研究で提示した三者協働型外見支援モデルは,医療による早期情報提供と相談支援,美容領域による生活に密着した継続支援,地域のピアサポートや中間支援拠点による橋渡し支援を組み合わせることで,患者の心理的安全性と支援アクセスを高める枠組みとなりうる.今後は,医療・美容・地域のネットワーク構築,支援環境の整備,地域資源の可視化を進めることで,がん経験者が地域で安心して生活できる持続可能な外見支援体制を構築していくことが求められる.本研究は,外見支援を地域における多職種・多主体の協働による多層的支援体制として再定義する実践的かつ理論的視点を提示した.

謝辞

本研究にご協力いただきました石川県美容業生活衛生同業組合,石川県がん安心生活サポートハウスの利用者,ボランティアグループ「はなうめBeauty部」の皆さま,ならびに調査に参加された患者の皆さまに心より感謝申し上げます.

研究資金

本研究は,公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の2018年度(後期)在宅医療研究助成を受けて実施した.

利益相反

元雄良治は株式会社ツムラより講演料等の謝金を受けている.その他の著者には,本研究に関連して開示すべき利益相反はない.

著者貢献

久村は研究の構想・デザインおよび原稿の起草を担当し,研究代表者として研究全般を統括した.木村は研究の構想・デザインに貢献し,木村・久野・矢﨑は調査データの収集を担当した.木村・松井・西部はデータ分析および解釈に貢献し,元雄・龍澤は調査実施とデータ解釈に貢献した.すべての著者は原稿の重要な知的内容に関わる批判的推敲に参加し,最終稿を承認するとともに研究内容に対する説明責任を共有した.

文献
 
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