2026 年 21 巻 3 号 p. 195-202
【目的】地域緩和ケアネットワーク構築の実態,促進・阻害要因,課題および必要な支援を明らかにする.【方法】2016~2023年の「地域緩和ケア連携調整員研修会」修了者を対象に,アンケートを行い,「顔の見える関係づくり」「体制づくり」「地域づくり」「その他」の側面と,導入期,実施期,維持期で内容分析した.【結果】46名(32施設)から回答を得た.促進要因として,「顔の見える関係づくり」では,退院支援看護師の配置や地域医療者の積極的関与,「体制作り」では病院機能変化,企画部門への相談,「地域づくり」では,WEB会議,既存勉強会の活用が認識された.一方,人的資源不足や地域内の制度・体制の違いが課題として認識され,研修会の継続や医師会等との協働事業等が必要な支援として挙げられた.【結論】地域緩和ケアネットワーク構築には各段階に固有の課題が存在し,それに応じた工夫と支援の必要性が示唆された.
Objective: To clarify the status of the development of the regional palliative care networks, including its facilitators and barriers, challenges, and necessary support. Methods: We conducted a survey targeting those who completed the “Regional Palliative Care Coordination Training Workshops”, which was held between 2016 and 2023. Free-text responses were qualitatively analyzed based on the conceptual framework of community intervention research in palliative care programs. The responses were categorized into the aspects of “building open relationship among relevant professionals”, “forming a network”, and “cultivating collaborative community” and “others”, and three phases of introduction, implementation and maintenance. Results: Responses were obtained from 46 individuals (32 facilities). Facilitating factors included, for “building open relationship among relevant professionals,” assignment of discharge support nurses and active involvement of local healthcare providers; for “forming a network”; changes in functions due to hospital integration and consultation with the planning department; for “cultivating collaborative community”, familiarity with web meetings and utilization of existing study sessions. On the other hand, insufficient human resources and differences in systems and structures within the community were indicated as challenges, and the continued implementation of training sessions and collaborative model projects with medical associations were sought as necessary support. Conclusion: The building of regional palliative care networks involves challenges unique to each stage, suggesting the need for corresponding measures and support.
多くのがん患者が可能な限り,住み慣れた地域や自宅で療養することを望んでいることが報告されている 1).その実現には,病院と地域の医療・介護・福祉資源が連携し,切れ目のない緩和ケア体制が不可欠である 2).日本では,第3次対がん10か年総合戦略(2004年)において,「がん患者等の生活の質(QOL)の向上」を重要な柱の一つとして位置づけ,緩和医療技術の開発を進め,がん患者の苦痛の軽減を目指す治療法等の普及を図るとともに,全国的に緩和医療を提供できる体制の整備が明記された 3).
しかし,退院後の移行期において医療と地域資源の連携不足への不安やケアの断絶を引き起こすことも指摘されている 4,5).日本では,地域レベルでの継続可能な支援体制が十分に整備されておらず,その構築が急務である 6).この状況下で,地域緩和ケアネットワークの構築は,がん患者のQOLを維持し,医療の持続可能性を確保するための重要課題である 7).
腫瘍領域における在宅緩和ケア移行の阻害要因として,「在宅緩和ケアサービスの紹介基準の欠如」「財務的制約」など提供側の要因 8),さらに「患者の病状理解不足」「社会的背景」「在宅療養への不安」「死や緩和ケアへの文化的抵抗感」など患者側の要因も報告されている 8,9).さらに,ネットワーク構築に関して,ドイツにおける地域ホスピス・緩和ケアのネットワークの持続可能性には「強力なガバナンス」「コーディネーターの専門性」「十分な資源」が不可欠とされる 10).
一方,日本におけるがん患者の病院から地域への移行に関する研究では,阻害要因を中心とした選択式項目による調査が行われており,研修修了者が地域で調整員として活躍する際の障壁も指摘されている 9).しかし,こうした調査では,ネットワークの構築や連携に関する,具体的な取り組み内容や,その進展過程,阻害要因を克服するための工夫などを十分に把握することは困難であった.
以上を踏まえ,本研究では,地域緩和ケア連携調整員研修修了者へのアンケートを通じて,ネットワーク構築に向けた取り組み内容,促進・阻害要因,課題および必要な支援を明らかにすることを目的とした.
「地域緩和ケア連携調整員研修」は,地域緩和ケア連携に取り組むがん診療連携拠点病院等のチーム研修で,地域との「顔の見える関係づくり」や院内外連携のポイントを学び,地域連携体制構築を自施設で実施するための計画づくりを目指す研修となっている.2016年から2023年に実施した「地域緩和ケア連携調整員研修」のいずれかに参加した研修受講者1,413名(286施設)に,国立がん研究センター教育管理システム,および,郵送によるアンケートを依頼した.依頼した期間は,2025年1月28日~2月28日であった.本調査は,先行研究と同様に2016年以降の研修受講者を母集団とした.ただし,先行研究では各施設代表者1名を対象としたのに対し,本研究では受講チーム(施設)の代表者1名(部門責任者を想定)と実務者1名(業務の従事者を想定)の計2名を対象とする設計とし,研修受講者1,413名にアンケートを送付した.
質問項目本調査では,地域緩和ケア連携におけるネットワーク構築の実際の取り組みやその進展過程を把握することを目的として質問項目を設定した(付録).質問項目の設定にあたっては,実装に資する先行研究を参考にした 11).研修終了後,地域緩和ケア連携において実施した取り組みについて,以下の項目に関して回答を求めた.
各項目について,回答者が主観的に判断し,選択肢および「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように」に基づく自由記載で回答を求めた.
分析方法自由記載データについて,まず心理学および福祉学を専門とし質的研究経験を有する2名の研究者が独立して全文を精読し,内容の把握を行った.「取り組み」に関しては,「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように」という視点を踏まえて記述されている点に着目し,そのうち「何を」を中心に1名の研究者が初期的な抽出作業を行った.阻害要因・促進要因,工夫に関しても同様に,記述から,「何を」にあたる単語を抽出した.その後,もう1名の研究者が抽出内容を精査し,両者の間で不一致が認められた場合には協議のうえ内容の調整を行った.次の段階として,抽出された内容を1名の研究者が「緩和ケアプログラムによる地域介入研究(Outreach Palliative Care Trial of Integrated Regional Model: OPTIM-study)」 12)で得られた知見をもとに,「顔の見える関係づくり」「体制づくり」「地域づくり」の3カテゴリーに再分類し,いずれにも当てはまらない内容を「その他」とした.別の研究者がその分類の妥当性を確認した.各カテゴリーの内容は次のとおりである.まず「顔の見える関係づくり」は,地域内の既存のネットワーク等を活用しつつ,関係者が実際に顔を合わせて意見交換を行う場を設けることで,基盤となる関係性の構築を進めることを指す.次に「体制づくり」は,拠点病院の院長や郡市医師会など地域のキーパーソンの支援のもと,緩和ケア関係者が集まり,地域の緩和ケア連携に関する課題を共有・検討する場を設定することを意味する.さらに「地域づくり」は,地域の緩和ケア連携上の課題解決に向けて,各地域の実情に応じた取り組みを推進するとともに,事務局的役割を担いながら,がん患者が地域で適切な緩和ケアを受けられる体制の実現を目指すものである.分類において不一致が生じた際には,研究者間で議論を重ね,最終的に合意形成を図った.その後,回答者が選択した時期区分である①導入期,②実施期,③維持期に沿って分類結果を表として整理した.
課題および必要な支援に関しては,まず1名の研究者が記述内容を大まかなカテゴリーに整理し,その後,内容の意味的関連性に基づきグループ化を行った.続いて,もう1名の研究者が記述内容の全体を把握したうえで,分類結果を確認し,分類に相違が認められた場合は研究者間で議論を行い,最終的な分類を統一した.
倫理的事項研究の実施にあたっては,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」対象外ではあるが,指針に準拠し,個人情報の保護および研究対象者の権利に十分配慮し,本調査は,国立研究開発法人国立がん研究センター倫理審査委員会の承認を得て実施した(研究課題番号:2021-343/承認日:2021年12月22日).申請に関して,「がん診療連携拠点病院等の医療従事者等を対象とした研修の受講生のニーズと研修の効果等に関する研究」とし,がん医療支援部が実施する研修会に関して研究許可日から12年の研究期間でとなっている.本研究で実施したアンケート調査についても,研修の一環として実施されたものであり,事前に研究利用の可能性および匿名化された形での解析・公表について情報提供を行ったうえで実施された.加えて,回答は任意であり,回答しないことによる不利益は生じない旨を明示している.
したがって,当該アンケート調査は研究対象者の自由意思を尊重した適切な説明および同意(オプトアウトを含む)のプロセスのもとで実施されており,倫理的に問題のない方法で収集された.
研修受講者1,413名(286施設)のうち,送信エラーを除いた1,174名にアンケートを依頼した.20県,32施設,計46名から回答を得た.個人回収率は3.9%(対象1,174名中46名)であった.施設の内訳は,都道府県がん診療連携拠点病院9施設,その他のがん診療連携拠点病院19施設,非拠点病院4施設であった.施設回答率は11.2%(対象286施設中32施設)であった.回答者の職種の内訳は,看護師25名,社会福祉士7名,医師10名,事務・その他4名であった.
取り組み取り組み内容は,「顔の見える関係づくり」「体制づくり」「地域づくり」「その他」および,導入期・実施期・維持期の時期区分から整理した(表1).導入期は,関係構築・準備段階であり,「顔の見える関係づくり」「課題の共有」「基盤づくり」に取り組んでいた.実施期は,体制整備・活動強化の段階で,「組織化」「役割明確化」「実務の定着につながる取り組み」が行われていた.維持期は,継続・発展段階であり,「継続的な運営」「評価」「地域全体へ広がる取り組み」が実施されていた.
| 顔の見える関係づくり | ||
|---|---|---|
| 目的 | 時期 | 具体的内容 |
| 現場レベルでのネットワークづくり | 導入期 | 〇緩和ケア部会での課題の共有,〇病院相互訪問,〇セミナー開催,〇困難例のアイディア出し |
| 実施期 | 〇各連携施設からの活動報告,〇地域医療連携支援部スタッフが開業医訪問 | |
| 維持期 | (記載なし) | |
| 多職種連携の促進 | 導入期 | 〇(緩和ケアチーム)研修会実施,〇緩和ケアチーム研修会後アンケートで要望を聞く,〇院内緩和ケアセンターでニュースレター発行 |
| 実施期 | 〇スタッフ間の連携が取れるように組織編成,〇リンクナース新設,〇看護教育プログラムに訪問看護ステーションでの経験必須化 | |
| 維持期 | 〇地域で実施している研修(多職種グループワーク)を自施設職員に実施 | |
| 体制づくり | ||
| 目的 | 時期 | 具体的内容 |
| 地域の連携体制を担う組織づくり | 導入期 | (記載なし) |
| 実施期 | 〇地域緩和ケア連携調整委員会設置,〇病院長,管理職,相談支援を担う者が病院間で連携体制協議 | |
| 維持期 | 〇地域からの問い合わせに積極的に受ける体制作り,〇急性期から緩和ケア連携後の患者状態共有,〇多施設間でのカンファの運営と運営の仕方の振り返り | |
| 組織の継続的な運営 | 導入期 | 〇医師会共催研修,〇地域医師・看護師とカンファ企画 |
| 実施期 | 〇地域包括ケア会議,〇講話会,〇研修会,〇勉強会継続 | |
| 維持期 | (記載なし) | |
| 地域づくり | ||
| 目的 | 時期 | 具体的内容 |
| 課題,目的および目標の明確化 | 導入期 | 〇他院の地域連携室などの実務見学,〇地域包括ケア会議参加 |
| 実施期 | 〇ガイドブック更新,〇退院困難スクリーニング,〇患者教育,〇カンファレンス,〇転院した患者の情報共有等の相談窓口設置,〇医師が薬局訪問 | |
| 維持期 | 〇研修・セミナー継続,〇地域の医療・介護スタッフへのセミナー,〇在宅医療者と緩和ケア病棟医療者が定期的にカンファ,〇退院時カンファ活用,〇リソースマップの更新,〇市民対象フォーラム開催 | |
| その他 | ||
| 導入期 | 〇ACP(Advance Care Planning)支援 | |
| 維持期 | 〇地域の医療者やコメディカルに対するACPへの取り組み(研修会),〇長期療養患者に対する就職支援の準備 | |
促進要因・阻害要因,工夫を「顔の見える関係づくり」「体制づくり」「地域づくり」「その他」で整理し(表2)に示した.
| 顔の見える関係づくり | |||
|---|---|---|---|
| 時期 | 促進要因 | 阻害要因 | 工夫 |
| 導入期 | 〇退院支援看護師の配置,〇地域医療者の前向きな意見,〇現場で課題(ニーズ)があり | 〇地域内の制度・体制の違い〇取組の優先順位の低さ,〇時間外労務,〇研修会の準備不足,〇発表内容が常に同じ | 〇教育によるばらつきを理解して対応,〇話し合い,〇テーマ変更 |
| 実施期 | 〇企画経営室の協力 | 〇在宅医療の未整備 | 〇自施設で在宅医療参入検討,〇病院として地域イベント参加 |
| 維持期 | (記載なし) | (記載なし) | (記載なし) |
| 体制づくり | |||
| 時期 | 促進要因 | 阻害要因 | 工夫 |
| 導入期 | 〇病院の統合等による機能の変化,〇毎年企画部門への相談 | 〇広範囲での連携困難,〇委員会不在,〇関心不足,〇診療報酬の評価なし,〇拠点病院との課題共有不足 | 〇限定地域で連携,〇部署限定実施,〇がん診療協議会など大きな組織での活動にする,〇実績づくり |
| 実施期 | 〇地域緩和ケア連携調整委員会設置,〇他施設からのフィードバック,〇業務として位置づけ,〇病院全体の協力,〇連携施設・併設施設がある,〇包括ケア開始,〇行政への事務局移管 | 〇委員会への参加施設が限定的である,〇適切な広さの会場不足,〇ツールの使いにくさ,〇行政予算つかない | 〇好事例共有,〇参加理由の確認,〇院外会場検討,〇研修受講者との話し合い,〇粘り強い議論 |
| 維持期 | 〇副院長や事務部長等管理職・地域連携室が病院訪問 | (記載なし) | (記載なし) |
| 地域づくり | |||
| 時期 | 促進要因 | 阻害要因 | 工夫 |
| 導入期 | 〇体制見直し,〇委員会活動継続,〇WEB会議慣れ,〇病院統合 | 〇組織の足並み違い,〇目的共有不足,〇実施した活動が委員会での検討内容に反映されない,〇ツール浸透不足,〇時間確保困難 | 〇目的明文化,〇ツール説明,〇好事例共有,〇ルール改善 |
| 実施期 | 〇既存の勉強会の存在,〇MSWの関与,〇看護部の推進,〇早期紹介,〇取組内容の工夫,〇訪問診療との連携,〇患者からの好評価,〇委員会設置,〇研修終了施設の参加,〇既存の委員会で既に顔見知り,〇患者の情報を事前に情報共有 | 〇会議体でない,〇大学病院の敷居,〇異動,〇連携推進活動に対する温度差,〇情報集約困難,〇業務との兼ね合い,〇医師の患者への説明不足 | 〇ハイブリッド会議,〇開業医との連携,〇興味ある医師への声掛け,〇業務にする,〇院内関係改善,〇仕事分配,〇好事例参考,〇主治医IC同席 |
| 維持期 | 〇目標をたてて賛同を得る,〇(部会長を引き受け)関係者とのパイプができる,〇WG設置,〇行政の施策の情報共有,〇管理者・事務局協力,〇スタッフ関心,〇スキルアップ,〇関係深化,〇相談しやすさ,〇日々の実践につながるネットワーク構築,〇医師会・薬剤師会協力,〇スタッフの気づき,〇定期カンファレンス | 〇自施設内に限定した視点,〇連携不足,〇介護職との協働不足,〇人材確保,〇日程調整,〇業務圧迫,〇委員会での取り上げ不足,〇役割分担困難,〇患者選定の手間,〇勤務調整の手間,〇住民の医療・緩和に関する考え方 | 〇定期的な情報共有,〇研修会の改善,〇開催形式見直し,〇上層部への説明,〇感染対策対応,〇院内動向注視,〇実務者参加,〇患者選定を早める,〇繰り返し説明 |
| その他 | |||
| 時期 | 促進要因 | 阻害要因 | 工夫 |
| 導入期 | 〇ACPが重要だという機運の高まり,〇ACP学習会 | 〇ACPシート認知度低 | 〇ACP説明・依頼 |
| 実施期 | 〇コロナであったことの影響 | ||
| 維持期 | 〇コロナであったための体制の影響,〇コロナであったため安全対策 | 〇感染対策対応 | |
導入期においては,「退院支援看護師の配置」および「地域医療者の前向きな意見」が促進要因として認識された.一方で,「地域内の制度・体制の違い」や,「取り組み自体が業務上の優先度として低く位置づけられていたこと」が阻害要因として認識された.これらに対して,地域内の差異が存在することを前提とし,「教育によるばらつきを理解して対応する」姿勢を持つこと,さらに「話し合い」を繰り返すことで相互理解を深める工夫が行われた.
実施期では,「企画経営室など病院幹部の協力」が促進要因として認識された.一方,「在宅医療の未整備」が阻害要因として認識された.工夫として,「自施設における在宅医療参入の検討」や「地域イベントへの参加」が行われ,地域内での関係性強化が図られた.
2. 体制づくり導入期においては,「病院統合に伴う機能変化」が体制構築の契機となり,また「企画部門への相談」も組織としての取り組みの促進要因として認識された.一方,「広域での連携の困難さ」や,「委員会として正式に認められていないことに」よる「委員会の不在」が阻害要因として認識された.工夫として,まず「限定地域での連携」から開始し,段階的に体制を拡大する方略が採用されたり,「実績づくり」を通して組織的基盤の整備が進められることもあった.
実施期には,「委員会の設置」や「業務としての位置づけ」が促進要因として認識され,取り組みが組織的に制度化された.しかし,「参加施設の限定」や「予算不足」が阻害要因として認識される施設もあった.工夫としては,「好事例の共有」が実施された.
維持期においては,「副院長や事務部長,および地域連携室による病院訪問」が促進要因として認識された.
3. 地域づくり導入期では,「WEB会議への慣れ」が促進要因として認識され,対面・オンライン双方を活用した連携が可能となった.一方,「組織の足並みの不一致」が阻害要因として認識された.これに対し,「目的の明文化」によって理解促進が図られる工夫がされた.
実施期においては,「既存の勉強会の活用」や「訪問診療との連携」が地域づくりの促進要因として認識された.一方で,「会議体でない」「情報集約の困難さ」が阻害要因として認識された.工夫として,「ハイブリッド会議の導入」や「取り組みの業務化」が挙げられた.
維持期では,「目標設定を行い賛同を得ること」が促進要因として認識された.一方で,「自施設に限定した視点」や「連携不足」が阻害要因として認識された.工夫として,「定期的な情報共有」や「研修会の改善」が挙げられた.
4. その他三つの分類に当てはまらない内容として,「ACP(advance care planning)」「コロナであったことの影響」等を「その他」に分類した.
課題および必要な支援課題および必要な支援を(表3)に示す.課題としては,「人的資源不足」「地域内の制度・体制の違い・インフラ不足」「患者背景の複雑化」「連携・情報共有の不十分さ」「制度・報酬上の課題」「教育・啓発不足」などが挙げられた.
| 課題 | 具体的な内容 | 必要な支援(例) |
|---|---|---|
| 1. 人的資源の不足 | ・医師・看護師・訪問診療医の慢性的不足 ・緩和ケア専門医の偏在 ・退職や施設閉鎖による体制維持困難 ・小児緩和ケアを担える人材が地域に少なく,実践経験の共有や支援を得にくい |
・地域緩和ケア研修(病院+地域医療者合同) ・実践型教育(交換留学,現場研修) ・小児緩和ケアを含む専門教育の充実 ・介護施設スタッフへの緩和ケア教育 ・医療用麻薬,医療用処置に関する研修 |
| 2. 地域内の制度・体制の違い・インフラ不足 | ・在宅医療・訪問看護体制が乏しい地域 ・ICT(Information and Communication Technology)インフラ未整備による情報共有困難 ・麻薬処方・デバイス対応が困難な地域 |
・医師会・行政・介護施設との協働モデル事業 ・在宅医療・訪問看護体制強化 ・ICTツール導入支援(電子連携,オンラインカンファ) ・IT(Information Technology)企業参画による効率化 |
| 3. 患者背景の複雑化 | ・身寄りなし・経済的困窮・高齢独居患者の増加 ・保証人不在による入院・施設受け入れ困難 ・家事支援・生活支援の担い手不足 |
・ACP(人生会議)の普及と質保証 ・身寄りなし患者への包括的支援体制 ・家事・生活支援サービスの支援 ・身寄りなし患者への法的・制度的対応の標準化 |
| 4. 連携・情報共有の不十分さ | ・病院と地域医療者間の情報連携不足 ・紹介時期の遅れ,外来終末期患者の情報不足 ・フィードバックシステムの欠如 |
・地域緩和ケアメーリングリストの整備 ・意見交換会の定期開催 ・全国的な事例共有プラットフォーム構築 ・好事例共有,緩和ケアチームどうしの意見交換 ・気軽に話し合える場 |
| 5. 制度・報酬上の課題 | ・診療報酬算定困難(訪問診療導入時など) ・地域連携に対するインセンティブ不足 ・行政対応のばらつき,法解釈の不統一 |
・補助金・加算による地域活動の促進 ・トップダウン型の事業開始と参加基準の明確化 ・都道府県がん対策課による統括・マネジメント ・診療報酬加算・施設基準整備(症例検討会等の評価) |
| 6. 教育・啓発不足 | ・医療者間で緩和ケア知識・スキル,価値観・意思決定の考え方の差が大きい ・研修参加率低下,実践に結びつきにくい学び ・リソースの変化に関係者の理解が追いついていない ・市民への緩和ケア啓発不足 |
・研修制度・専門職へのインセンティブの付与 ・組織としての支援体制作り ・緩和ケアに関する市民啓発 |
これらに対応する支援例として,「地域緩和ケア研修会(病院と地域医療者の合同開催)」「医師会・行政・介護施設との協働モデル事業」「ACP(人生会議)の普及と質保証」「地域緩和ケアメーリングリストの整備」「補助金・加算による地域活動の促進」「研修制度の充実および専門職へのインセンティブ付与」などが示された.
これまでの研究では,阻害要因が中心であったが,本研究ではネットワーク構築の具体的な取り組みやその過程に加え,阻害要因を克服するための工夫にも着目した.地域緩和ケアネットワーク構築に向けて,関係・体制・地域の側面と導入・実施・維持の3段階でとらえ,地域緩和ケア連携調整員研修修了者が行った取り組み内容,その過程における促進要因と阻害要因,課題と必要な支援についての認識を明らかにした.その結果,地域緩和ケアネットワーク構築は,「顔の見える関係づくり」「体制づくり」「地域づくり」の三つのカテゴリーにおいて各段階(導入期・実施期・維持期)に固有の課題と,それに対応する工夫が存在することが示唆された.
導入期においては,関係者間での意見交換が行える場作りである「顔の見える関係づくり」が中心的な取り組みとして位置づけられ,例えば,退院支援看護師が配置されたことで,患者の意思決定をより丁寧にサポートできるようになったこと,さらに,地域医療者の前向きな姿勢が,拠点病院側も前向きに取り組む要因として挙げられた.一方で,地域内の制度・体制の違いや業務上の優先度の低さといった構造的課題が阻害要因として認識されており,ばらつきを前提として理解して対応することを心掛ける教育や,継続的な対話を通じた合意形成といった工夫が行われていた.これらは,ネットワーク形成の初期段階において共通のビジョンを醸成する重要性を示唆している.
次に実施期では,体制整備と活動の定着が進み,「体制づくり」および「地域づくり」に関する取り組みが具体化していた.委員会の設置や業務としての位置づけが促進要因として認識される一方で,予算不足,参加施設の限定といった資源制約が阻害要因として認識された.この段階では,好事例の共有や既存の勉強会の活用,ハイブリッド会議の導入など,既存資源を活かした工夫がされていた.
維持期においては,ネットワークの持続的運営と発展が課題となり,管理職や地域連携部門による病院訪問や明確な目標設定を通じた賛同の獲得が促進要因として認識された.一方で,自施設視点に偏った認識や連携不足が阻害要因として依然認識されており,定期的な情報共有や研修会の改善,取り組みの継続と見直しといったプロセスの重要性が示唆された.先行研究とも一致していた 2).
これらの結果から,地域緩和ケアネットワーク構築には,段階に応じた柔軟な戦略と,継続的な支援体制が不可欠であることが示唆された.とくに,研修修了者が地域において調整機能を発揮するためには,人的・制度的支援を含む環境整備が重要であり,先行研究と一致する 10).地域特性を踏まえた支援のあり方を検討する必要があると考えられる.本研究で得られた知見は,地域緩和ケアネットワーク構築に関する実践の現状を理解するための資料として位置づけられる.また,本事業の研修プログラムの検討に活用していく予定である.
本研究の限界として以下があげられる.第一に,研修修了者に限定されており,また,回答率が低いため,代表性の問題があり,地域緩和ケアへの関心が高い集団に偏っている可能性がある.第二に,回答者の自己申告に基づくため,社会的望ましさや記憶バイアスの影響を受ける可能性がある.第三に,質的分析は,研究者の解釈に依存し主観性を完全に排除できない.第四に,患者アウトカム(在宅死亡率,QOL,資源利用など)との関連は検討しておらず,知見の妥当性は実証されていない.第五に日本の制度文脈に基づくため,他国・他制度への一般化には制約がある.
本研究により,地域緩和ケアネットワーク構築は「顔の見える関係づくり」「体制づくり」「地域づくり」の3カテゴリーにおいて,導入期・実施期・維持期という各段階には固有の課題が存在し,それに応じた工夫や支援がネットワークの進展に重要であることが示唆された.
本研究は,国立がん研究センター研究開発費「都道府県における診療の質向上のための拠点病院間ネットワーク構築に関する研究」(研究課題番号:2023-A-24)による助成を受けて実施したものである.
すべての著者の申告すべき利益相反なし
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