主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:多胎をめぐる諸問題
回次: 11
開催地: 埼玉県
開催日: 1993/01/23
p. 8-10
多胎妊娠は,大昔から神秘的なできごととしてとらえられていたが,我々周産期管理に携わる者にとっても,末解決で不透明な部分が数多く残されている分野である。
鹿児島市立病院における双胎妊娠に関する10年間の統計的観察をみると(表1, 2),前半5年間の134組の周産期死亡率は平均9%とかなり高率である。一方1990年までの後半5年間の統計でも,双胎妊娠151組中の周産期死亡率は8.6%と前の5年間に比べてなんらの改善も得られていない。すなわち,双胎妊娠の管理にはハイリスク妊娠,ハイリスク新生児としての対応が必要であることを如実に物語っている。
もう一つ注目すべき点は,母体搬送例の収容数が増えてきていることである。地域の第一線の施設の間でハイリスクであるという認識が徐々にではあるが広まっていることがわかる。
最近の話題として,不妊症治療に伴う排卵誘発や体外受精,胚移植などによって,多胎妊娠の数が増えているのではないかということがある。徳島大学の青野教授の文献より引用させていただいたものをみると(表3), hMG, hCGで排卵の治療を受けた婦人の多胎妊娠率は,欧米の報告をまとめたものでは30.6%であり,日本人では21%にみられている。またクロミフェンを用いた排卵による治療例では,欧米で7.8%,日本人では4.5%である。
そして,体外受精や胚移植における日本人については,日産婦委員会のまとめによると15.7%に多胎妊娠が生じたと報告されている。こうしてみると,このような治療を受けた婦人のなかでは確かに多胎妊娠の発生率は高いということができよう。ところが,厚生省の人口動態統計を参考にして昭和の初めから最近までの推移をみると,多胎の出生数は1万5千から2万人の間であまり変化していない(図1)。しかし,総出生数はしだいに減少しており,特に最近ではその傾向が強い。つまり,多胎出生数の絶対数には変化がないが率としては年々上昇していることがわかる(図2)。
しかし,多胎妊娠がハイリスクケースとして広く認識され,より多く周産期センターヘ収容されるようになった最近の医療の流れのなかで,なかなか予後の改善がみられていない本疾患に対して,我々の今後の取り組みはいかにあるべきか,そして今,解決を迫られている問題点は何なのかなどが,今回の周産期学会のテーマとして多胎妊娠が取り上げられた背景である。