周産期学シンポジウム抄録集
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最新号
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序文
  • 早川 昌弘
    p. 3
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
    会議録・要旨集 フリー

     2023年1月13日(金),14日(土)に,第41回周産期学シンポジウムを名古屋市の名古屋国際会議場において開催しました。COVID-19感染拡大をうけて,ハイブリッド開催といたしました。現地参加とWEB参加の両方で約1,400名の参加登録があり,盛会に終えることができました。皆様には心より御礼申し上げます。

     今回のテーマは「周産期感染症への対応を再考する─これからの課題と対策─」でした。周産期医療では,感染症への対応は,避けて通ることはできません。また,2020年に起こった新型コロナウイルス感染症のパンデミックのもとでの周産期医療は大きな影響をうけました。その観点からは会員の先生方にお役にたつタイムリーなテーマでした。

     初日のプレコングレスでは,島根大学医学部附属病院医療安全管理部の深見達弥教授から「周産期医療における患者安全」,日本大学医学部小児科学系小児科学分野の伊藤嘉規准教授から「周産期感染症対策:先天性CMV感染症を中心に」というテーマでご講演いただきました。また,特別企画として専門医認定委員会・専門医試験委員会が共同で周産期専門医の「症例要約作成講座」を行い,2021年の症例要約の評価概観,低評価の症例要約,新評価基準とそれに基づく症例要約作成について解説いただきました。

     2日目のシンポジウムでは,午前の「新生児領域における感染症の課題と対策」で,最初に周産期学シンポジウム運営委員会の飛彈麻里子先生から周産期感染症の全国調査報告(新生児)の結果が報告されました。その後に,小泉亜矢先生から「早産の母児間における薬剤耐性グラム陰性菌の垂直伝播に関する調査」,福田沙矢香先生から「早産,極低出生体重児における早発型感染症 周産期因子,特に出生時の胃液グラム染色からの予測」,堀田将志先生から「新生児集中治療室での早産児における遅発型感染症 監視培養の有用性についての検討」が発表されました。

     午後の「産科領域における感染症の課題と対策」では,周産期学シンポジウム運営委員会の宮下進先生から周産期感染症の全国調査報告(母体・胎児)が報告され,楠元和美先生が「出生コホートによる風疹ウイルス抗体価の違い 先天性風疹症候群を予防するために」,鳥谷部邦明先生が「三重県での妊婦サイトメガロウイルス抗体スクリーニングと先天性CMV感染児の検索」,出口雅士先生が「日本におけるCOVID-19妊婦の現状~妊婦レジストリの解析結果」,羅ことい先生が「妊婦および臍帯静脈血における百日咳菌抗体保有率の評価~妊娠前・妊娠中のDTapワクチン導入にむけて~」について発表されました。

     スポンサードセミナーは,アフタヌーンセミナーで松岡隆先生が「超音波検査の将来 AIとの共存はどうあるべきか」,モーニングセミナーで古野憲司先生が「RSウイルス感染症の重症化からどうやって子どもを守るか」,ランチョンセミナーにて細野茂春先生から「ヘルメット矯正治療から見えてきた頭蓋変形予防の重要性」,三輪田俊介先生から「乳児の頭蓋変形に対する新しい小児科診療」をご講演いただきました。

     総合討論では,それぞれの感染症に対する対応などが建設的に議論されて,よい成果を作り上げることができました。また,ハイブリッドであったため,診療業務やご家庭のご都合で現地参加が難しい先生方も参加していただけたと思います。

     今回の成果がこれからの周産期医療に寄与できることを期待しています。また,あらためて周産期学シンポジウム運営委員会委員の先生方,事務局の方々,会員の先生方に御礼を申し上げます。

プレコングレス
  • 深見 達弥
    p. 11-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    はじめに

     世界保健機関(WHO)は,「患者安全を促進すべく加盟国による世界的な連携と行動に向けた活動をすること」を目的として2019年に世界患者安全の日をWHO総会にて制定した。毎年テーマを掲げており2021年は“Safe maternal and newborn care”を掲げ,“Act now for safe and respectful childbirth!”とのスローガンの下,国際的なキャンペーンを実施した1)。これを受け,日本周産期・新生児医学会は日本の医療の質・安全学会と共同し,「WHO世界患者安全の日・妊産婦安全推進シンポジウム」を開催,周産期診療における質・安全の現状と課題について議論を行った2)。周産期における安全には,高度な専門性と,コマンド&コントロールを含めた,医療チームの迅速な意思決定や,正確な情報伝達,搬送体制の確保など,患者も含めた多職種による協力体制を発揮するチームワークが必要となる。本稿では,周産期診療を支えるチームビルディングを中心に患者安全を解説する。

  • 伊藤 嘉規
    p. 16-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    はじめに

     周産期感染症の中で,母子感染は,児の発育・発達に大きな影響を与える可能性がある重要な疾患群である。母子感染とは,母体に感染している病原微生物が妊娠・分娩・授乳の過程で胎児・新生児に感染することで成立する。母子感染を起こす病原微生物のうち,風疹ウイルスのように胎内感染することで,出生時にすでに不可逆的な影響をもたらすもの,B群溶連菌感染症のように新生児期に重篤な感染症を起こすものが特に重要である。前者のように経胎盤感染を起こし,奇形や発育・発達異常,持続感染を起こす感染症は,特にTORCH症候群(TORCH syndrome,TORCH complex)とよばれる。TORCH症候群の原因となる病原微生物に明確な定義はないが,TORCHの名称の基になった,トキソプラズマ,風疹ウイルス,サイトメガロウイルス(CMV),単純ヘルペスウイルスが代表的な病原微生物である。本稿では,周産期感染症の中で,特に,TORCH症候群に分類される母子感染症を取り上げ,その感染対策について述べる。さらに,母子感染の中で,日本における頻度が最も高いと考えられる先天性CMV(congenital CMV,cCMV)感染症については,近年の診断および治療における進展について紹介する。

シンポジウム午前の部:新生児領域における感染症の課題と対策
  • 「周産期感染症」(新生児領域)
    飛彈 麻里子
    p. 22-32
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    はじめに

     今回のシンポジウムでは,新生児感染症診療において,よりよい診療方針を探索する研究の結果を共有し討論した。本調査はシンポジウムの議論を深めるための背景知識として,周産期感染症管理の現状の調査を目的とし,日本周産期・新生児医学会の研究倫理審査の承認を得て行った。

  • 小泉 亜矢
    p. 33-38
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    背景

     新生児早発型敗血症(Early-onset sepsis:EOS)は主に母児間の垂直感染によって生後72時間以内に起こり,高い死亡率・後遺症を伴う重篤な合併症である。早産児では大腸菌が起因菌として最も多い1)。近年,薬剤耐性菌感染症の増加は世界的に問題となっているが2),周産期領域においてもampicillin(ABPC)耐性大腸菌や基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBL)産生グラム陰性菌によるEOSの報告が散見される。しかし,本邦の妊婦や新生児における薬剤耐性グラム陰性菌の保菌率やEOSの頻度についての調査はまだ十分になされていない。

  • 周産期因子,特に出生時の胃液グラム染色からの予測
    福田 沙矢香
    p. 39-43
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    背景・目的

     早産児,極低出生体重児の早発型感染症は,呼吸障害や循環不全などを呈し,致死的になることもある1)。症状が特異的ではないため,感染症発症の判断が難しく,さらに起因菌の推定が困難である。早発型感染症の発症頻度は,在胎週数34週未満で0.6%,29週未満で2%,22~24週で3.2%と報告されており2),発症頻度は低いにもかかわらず,在胎週数や母体情報などを参考に,幅広い対象に広域の抗菌薬治療を開始せざるをえない。

     Neonatal Early-Onset Sepsis Calculator3)など,満期産児ならびに後期早産児においては早発型感染症の予測手段が報告されているが,これらはより早産や低出生体重の児へは適応できない。これらの児においても,出生時に得られる情報から早発型感染症,さらには起因菌を予測することができれば,必要な児に適切な抗菌薬治療を行うことができる可能性があると考えられた。

     今回の研究では,早産児,極低出生体重児の早発型感染症に関連する周産期因子について検討し,出生時の感染症を予測するモデルを作成することを目的とした。

     また,当センターでは出生時に児の胃液のグラム染色を長年行っている。羊水のグラム染色が早発型感染症の起因菌の推定に有用であるとの報告があり4),児の胃液のグラム染色を行うことが早発型感染症の予測に有用であると予測され,胃液のグラム染色に特に着目した。

  • 監視培養の有用性についての検討
    堀田 将志
    p. 44-49
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    背景・目的

     新生児集中治療室(NICU)に入院する児は未熟性が高いことが多いため,感染症による死亡率が他の年齢層より高く1),また,神経学的予後への影響にも配慮が必要となる2,3)。しかし,新生児は感染症状に乏しく,発症の判断や感染部位,起因菌等の予測が難しい。これらより,NICUで感染症が疑われた際は広域スペクトラムの抗菌薬を使用せざるをえないことも多い。近年,感染症に対して,抗菌薬選択,使用量,期間を体系的に管理することでより効果的な治療を行い,さらには薬剤耐性に配慮することが重要になっている4)

     一方,NICUにおいて監視培養(surveillance culture:SC)は,薬剤耐性菌等の拡大防止に対する有用性が報告され,本邦のNICUにおいても約94%の施設でSCが行われている5)。しかし,採取部位や採取間隔などについては確立されたものはなく,さらに,感染症治療におけるSCの有用性に関する報告は乏しい。

     そのため,今回,早産児における遅発型感染症の発生状況を調査し,さらに,抗菌薬適正使用という観点からSCの有用性について,SCと感染症起因菌の関連,採取部位や採取間隔などを含んだ検討を行った。

  • 諫山 哲哉, 中畑 克俊
    p. 50-51
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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      2023年の周産期学シンポジウムのテーマは「周産期感染症への対応を再考する─これからの課題と対策─」であった。医学的進歩に伴う治療成績の向上が目覚ましい現代の医療において,周産期医療における,妊婦,胎児,新生児の感染症はまだまだ大きな問題の一つである。午前の部では,「新生児領域における感染症の課題と対策」と題して,新生児の感染症に関する全国アンケートの結果報告や,全国から選ばれた3つの演題の講演を通して,新生児医療におけるウイルス感染症や細菌感染症に関する現状と課題に関して議論を行った。

シンポジウム午後の部:産科領域における感染症の課題と対策
  • 「周産期感染症」(母体・胎児領域)
    宮下 進
    p. 53-64
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    調査の目的

     ・トキソプラズマ,サイトメガロウイルス感染症の,妊娠中のスクリーニング,実施時期,検査方法,管理方法,治療,情報提供などについて国内の実態を調査する。

     ・妊娠中の腟分泌物培養検査(B群溶連菌スクリーニング検査を含む)の実施時期,検査方法ならびに薬剤耐性菌の管理方法,治療,情報提供について国内の実態を調査する。

     ・上記によりシンポジウムの議論を深める。なお,今回のシンポジウムではいわゆる性感染症(梅毒,淋菌感染症,クラミジア感染症,ヘルペス感染症,HIV感染症)は対象外である。

  • 先天性風疹症候群を予防するために
    楠元 和美
    p. 65-69
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    背景・目的

     妊娠中の風疹ウイルス感染は,児に先天性風疹症候群を起こす可能性がある。日本では,風疹の排除を目指して,定期予防接種法の改正やそれに伴う暫定措置が行われてきた。予防接種により集団感染免疫閾値が上昇し,風疹の全国的な大流行はみられなくなったが,コロナ禍前には,依然として地域での流行がみられていた。風疹が排除されない限り,先天性風疹症候群の児が出生する可能性は残る。

     現在,すべての妊婦に対して,妊娠初期に風疹抗体スクリーニングが行われている。風疹HI抗体価16倍以下(低抗体価)の妊婦には,産褥早期の風疹ワクチン接種が推奨されている。

     そのような中,風疹抗体価は,ワクチン接種,自然感染に関わらず減少しており1),風疹低抗体価の妊婦の割合が増えていること2,3),若年妊婦になるほど風疹抗体価が低いことについて報告されている4)

     また,Okudaらは,産褥ワクチン接種の有効性について述べている5)が,産褥ワクチンの接種率には施設により幅があること6)などが報告されている。

     そこで,我々は,定期予防接種制度の変遷に基づく出生コホート群における風疹抗体保有状況を調べ,産褥ワクチン接種率の状況および産褥ワクチンの次子妊娠時風疹抗体価への影響を明らかにすることとした。

  • 鳥谷部 邦明
    p. 70-73
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    背景

     サイトメガロウイルス(cytomegalovirus,CMV)はヘルペスウイルス科βヘルペスウイルス亜科サイトメガロウイルス属の2本鎖DNAウイルスである。既感染者の唾液腺や尿細管,性腺,乳腺などに潜伏感染し,唾液や尿,性腺分泌液,乳汁などの体液中に間欠的に分泌される。未感染者が,既感染者からのCMVを含む飛沫や体液と接触することで新たな感染が生じる。健常人の感染では,不顕性感染が大部分であるが発熱や咽頭痛,リンパ節腫脹,稀に肝炎を呈することがある。

     CMV母子感染には経胎盤感染,経産道感染,経母乳感染のすべてが含まれるが,経胎盤感染による胎児への感染(先天性CMV感染)が最も問題となる。先天性CMV感染児の症候には小頭症,脳室拡大,脳室周囲嚢胞,脳内石灰化,胸腹水,腸管高輝度エコー,肝脾腫,胎児水腫,胎児発育不全,small for gestational age(SGA),羊水量の異常,聴覚異常,脳画像異常,網脈絡膜炎,黄疸,肝機能障害,血小板減少,等がある。また,後障害には聴覚異常,精神発達遅滞,運動障害,てんかん,等がある。

     先天性CMV感染の発生には2つの母体シナリオがある。初感染シナリオでは,母体が妊娠前は未感染だが妊娠中に感染(初感染)し,児に感染が生じる。非初感染シナリオでは,母体が妊娠前から既感染だが妊娠中に再感染/再活性化し,児に感染が生じる。初感染シナリオの詳細は明らかになってきているが,非初感染シナリオの詳細はまだ明らかでない。

     今回,三重県において先天性CMV感染児の発生の初感染シナリオについては検証を行い,非初感染シナリオについては非初感染シナリオ症例の存在を確かめた。

  • ~妊婦レジストリの解析結果
    出口 雅士
    p. 74-79
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    はじめに

     中国武漢で2019年12月に初めて報告された新興感染症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,瞬く間に世界各国に流行が拡大し,WHOはCOVID-19について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言したが,約3年経過した2023年5月5日に終了を発表,5月8日から国内でも感染症法上の位置づけが2類相当から5類へと変更になった。

     妊婦の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,2020年2月に武漢からの報告がLancetに掲載されて以降,多くの情報が発表されている。2020年9月1日,新型コロナウイルス感染妊婦67,271人のメタアナリシスにより,妊婦は非妊娠女性に比べて,集中治療室入院,人工換気,人工心肺のリスクが高く,高年齢,高BMI,基礎疾患,高血圧と糖尿病が重症化のリスク因子であることが,British Medical Journalに報告された1)。また同年11月には米国疾病予防管理センター(CDC)は,COVID-19の重症化リスクの中に妊娠を加え,早産リスクが高いことを報告した2)。海外では肺疾患,高血圧,糖尿病,肥満等が妊婦における重症化のリスク因子とされている3)

     一方,国内では実際の妊婦の感染者数も公になっておらず,国内の妊婦に特化した情報は限られている。高齢化社会である日本ではCOVID-19による死亡率が高くなると予想されていたが,実際には世界的にも超過死亡率が最も低い国のひとつとなっている4)。妊婦健診等で妊婦が頻回に医療機関を受診する国内で,COVID-19の妊婦への影響を評価するためには国内独自の情報集積が重要と考え,我々は新型コロナウイルス感染妊婦のレジストリ登録を2020年9月より実施してきた。今回は2022年9月までにレジストリ登録された情報の解析結果を報告する。

  • ~妊娠前・妊娠中のDTaPワクチン導入にむけて~
    羅 ことい
    p. 80-83
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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    要旨

     近年,重症百日咳感染症の発症率は小児期全体では減少しているが,新生児期の発症は相対的に増加しており,この年齢層での感染防御能力の強化が社会的に重要である。諸外国では妊娠中に百日咳含有ワクチンを接種することにより新生児の百日咳感染/重症化を予防している一方で,日本では行われておらず,公衆衛生学的な問題となっている。そこで,わが国においても妊娠前・妊娠中の百日咳含有ワクチン導入を検討するにあたり,妊婦および新生児における百日咳菌抗体の陽性率を調査するとともに,妊娠初期の母体血清,出産後1週間以内の母体血清,臍帯静脈血を採取して,それぞれPT-IgG(EIA)/FHA-IgG(EIA)を測定した。また,初乳百日咳IgA(ELISA)も合わせて検討した。母体における妊娠初期血清PT-IgGおよびFHA-IgGの陽性率はそれぞれ69%および75%であり,約70%と非妊婦と同様であった。初期PT-IgG/FHA-IgG抗体価は臍帯血PT-IgG/FHA-IgG抗体価と正に相関した(P<0.001)。また母乳中百日咳IgA 陽性率は10%であった。妊娠初期の百日咳抗体価が高いほど,臍帯血移行抗体価が多いことが示されたため,百日咳に対する胎児の受動免疫は,妊娠初期の母体血清抗体が十分であれば,より高い確率で獲得されることが示唆された。少なくとも妊婦の30%は,十分な百日咳抗体を保有しておらず,感染対策が急がれる結果となった。また90%程度で母乳中百日咳IgA抗体が陰性で,児の感染防御には不十分と考えられた。日本で承認されている百日咳ワクチン(DTaP)は妊娠中の安全性に関する情報が不足しているため,妊娠前の時期にDTaPを導入することで,妊娠初期の百日咳抗体価を維持し,妊婦および新生児の百日咳感染予防を行うことが現実的な解決策の一つである可能性がある。

  • 宮越 敬, 森岡 一朗
    p. 84-85
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/27
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     COVID-19によるパンデミックは産科領域における感染対策を再考する契機となった。また,これまで母子感染予防が重視されていたTORCH症候群についても,個々の疾患のスクリーニング・診断・治療は年々進歩するとともに,プレコンセプション~分娩までの間に新たな対策を検討すべき感染症も散見される。例えば,米国では児の百日咳予防のために妊娠後期における百日咳ワクチン接種が推奨されているが,わが国では未対応である。午後の部では,周産期学シンポジウム運営委員会による調査報告に続いて,風疹,サイトメガロウイルス(CMV),COVID-19そして百日咳について現状と課題が発表された。

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