周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
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最新号
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序文
  • 増本 幸二
    p. 3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     第42回周産期学シンポジウムを2024年1月26日(金)と27日(日)に,茨城県つくば市のつくば国際会議場で開催させていただきました。まだ少しCOVID-19感染症の懸念があり,会場開催にオンデマンド配信を加え,ハイブリッド開催としましたが,約950名の参加登録があり,地方都市で行う形でも盛会になったのではないかと思われました。参加いただいた先生方に,心より御礼申し上げます。

     今回の全体のテーマは,「周産期の栄養と代謝を考える」でした。この領域は周産期を扱う医師にとって,基本的知識もたくさんありますが,まだ十分に理解されていない課題も多いと感じるところでもあります。妊娠時の栄養や代謝の問題として,妊娠時の栄養をどう指導していくのか,胎児への影響や糖代謝異常合併妊娠などの問題があります。一方,新生児への栄養や代謝に関連しては,超・極低出生体重児や早産児の栄養管理,それがもたらす成長や発達への影響なども重要な課題だと思われ,活発な議論が期待されました。

プレコングレス
  • :2021年新たな妊婦の体重増加指導の目安策定までの変遷
    伊東 宏晃
    p. 11-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     はじめに

     1980年代後半,著者が産婦人科医師として駆け出しの頃,妊娠中毒症(現在の妊娠高血圧症候群におおよそ相当するが,診断基準が異なる)の妊婦が入院すると,私ども研修医の最初の業務は摂取する1日あたりのカロリー数と摂取塩分量の指示伝票を手書きで記載することであった。このような記憶が残っている産婦人科医師は,昨今すでに少数派であろう。わが国における妊婦の栄養管理の歴史は,妊娠中毒症に対する栄養管理に端を発するが,その源流は第二次世界大戦中における妊婦の疫学研究に遡る。わが国における妊婦の栄養管理の黎明期から2021年新たな妊婦の体重増加指導の目安策定までの歴史を紹介し,今後の課題を考察したい。

  • 板橋 家頭夫
    p. 18-23
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     はじめに

     受胎から満2歳までの1, 000日(The first 1000 days)は,環境変化に対する感受性が極めて高く,本来有する成長のポテンシャルや中枢神経系の発達過程,内分泌・代謝機能の成熟の軌道が変化し,短期的にも長期的にも健康への影響を受けやすい1)。未熟な児がさらされる環境のうち,低栄養は成長や神経学的予後に影響する重要な要因の一つであるが,また調整可能でもある2)。本稿では,早産低出生体重児の栄養管理の現状や課題を成長や発達との関連性を中心に議論するとともに,今後の展望についても述べる。

  • 加治 建
    p. 24-28
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     はじめに

     短腸症候群(short bowel syndrome:SBS)は大量小腸切除により残存小腸が短くなった結果,栄養・水分の吸収が不十分となり,長期にわたる静脈栄養(parenteral nutrition:PN)管理を必要とする病態である。SBSの残存小腸長について,欧米では出生時在胎週数の予測小腸長の25%以下としている報告がある1)。この報告からすると,在胎週数40週の予測小腸長は160cm程度であり,約40cm以下がSBSということになる。本邦では歴史的に残存小腸長75cm以下を短腸症候群とした報告が多い。最近の小児慢性特定疾患では乳幼児期症例では残存小腸30cm未満として定義している。

     小児におけるSBSの原因疾患として,北米の施設を中心としたSquiresらの272例の報告では,壊死性腸炎が26%と最も多く,ついで,腹壁破裂16%,腸閉鎖症10%,腸回転異常に伴う中腸軸捻転が9%と報告されている2)。一方,本邦においては2013年の福澤らの小児・乳児280例の全国調査では,腸回転異常に伴う中腸軸捻転18%,腸閉鎖症14%,壊死性腸炎3%,腹壁破裂2%と報告されている。このように,欧米と本邦ではSBSにいたる原因疾患が異なっている。

シンポジウム午前の部:新生児の栄養と代謝を考える
  • 「周産期の栄養と代謝を考える」(新生児領域)
    鷲尾 洋介
    p. 30-41
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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      栄養・代謝およびそれらに関与する生体機能は妊産婦と胎児・新生児にとって生命の根幹を支えるものであり,これらを多様な視点から探究することは周産期医療の本質を考えることにほかならない。胎児・新生児に関しては,胎児期の母体栄養状態や出生後の栄養管理の影響は短期的な予後だけでなく,長期的な影響も及ぼすことが明らかになりつつある。早産児においては出生後の栄養に関する様々な提言がなされており,また,消化器外科術後や腸管不全を起こしうる消化管疾患では,特殊な栄養法や長期の静脈栄養が試行されている。しかし,これらの栄養管理について一定のコンセンサスがなく,各施設の方針に従って実施されているのが実情である。これまで,栄養管理に関する調査は少なく,特に全国レベルでの診療実態に関する情報は十分ではない。今回のアンケート調査は,第42回シンポジウムでの発表を理解し議論を深めるため,本邦の分娩施設・周産期施設における栄養管理方針を把握する目的で実施された。

  • 長野 伸彦
    p. 42-48
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     背景

     酸化ストレスと生活習慣病

     酸化ストレスとは,活性酸素種産生と抗酸化システムの生体内の両者のバランスにおいて「活性酸素種産生」側に傾き,バランスが崩れた状態をいう。生体分子の酸化,とくに生体膜の脂質過酸化反応による損傷,タンパク質および核酸の変性の原因となる活性酸素種・フリーラジカルによる酸化ストレスは,糖尿病,動脈硬化,高血圧症などの生活習慣病の原因として知られている1)。その機序の一つとしてフェロトーシスが注目されている。フェロトーシスとは,グルタチオン依存的な抗酸化防御の破綻によって始まり,脂質の過酸化が抑制されず,最終的にはプログラム細胞死の1つとしてアポトーシスとは異なる細胞死を引き起こす2)

  • 満期産児の臍帯血との比較
    金井 雄
    p. 49-54
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     背景

     1985年にアメリカ小児科学会より早産児に対する栄養学的目標として「胎児に類似した成長と体組成を維持できるように栄養を与える」というEarly aggressive nutritionの概念が提唱され1),国内でも早産児に対して生後早期より積極的な栄養管理が行われている。2019年にヨーロッパの小児の栄養関連の学会より出された小児における静脈栄養のガイドラインにおいても極低出生体重児は胎内と同様の体重増加を得るためのエネルギー摂取が推奨されている2)。一方で早産児に対する脂質の投与法についてはいくつかのリコメンデーションはあるものの胎内環境と比較してどのように摂取するかということについては言及されていなかった3)

     胎児の脳は発生の過程でアラキドン酸(arachidonic acid:AA),ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)を特に必要とするとされており,3rd trimesterにその多くが蓄積される4)。また,マウス実験において胎児期からのAA,DHAの摂取制限によって,行動異常が出現することが証明された5)。このことからも胎児期の中枢神経の発達に脂肪酸は重要であり,摂取される種類についても考慮すべきである。

     脂肪酸は炭素の二重結合の数や部位により分類され,多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acid:PUFA)はヒトの体内ではゼロから合成できず,体外から摂取しなければならない。胎児は経胎盤的に母体の血中から脂肪酸が移行する6)。AAやDHAはPUFAに該当し,体外からの摂取を必要とするが,早産児に投与できる栄養(母乳,人工乳,経静脈的な脂肪製剤)に含まれる脂肪酸は成人の血液,すなわち経胎盤的に供給される脂肪酸と比較するとAAやDHAの割合が低い(表1)。このことから本来脂肪酸を十分に蓄えるべき時期よりも早期に出生する超低出生体重児は,胎内環境とは大きく異なる脂肪酸が供給されていると推測される。

  • 菅沼 広樹
    p. 55-60
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     背景

     多価不飽和脂肪酸(PUFA)は,新生児にとって重要な栄養素の一つである。早産児や正期産児では,PUFAを脂肪乳剤,母乳または人工乳から摂取する。早産児に投与されるこの脂肪乳剤として日本国内では大豆油由来の脂肪乳剤が使用されている。そのため主なPUFAはリノール酸となっている。一方,海外ではSMOFlipidやClinOleicなどの魚油やオリーブ油を含んだ脂肪乳剤が使用されている(表1)。このため早産児が生後早期に摂取するPUFAの組成は国による違いがある。

     近年,PUFAから産生される脂肪酸代謝産物(オキシリピン)の生理活性作用が注目され,網羅的な解析が可能となった。これらのPUFAにはアラキドン酸に代表されるようなn-6PUFAやエイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA)のようなn-3PUFAを含んでいる。n-6PUFAから産生されるオキシリピンは主に急性炎症や慢性炎症を惹起するような作用を有しており,特にリノール酸から産生されるOXLAMs(Oxidized Linoleic Acid metabolites)は強力な炎症惹起作用を有すると報告されている1)。一方,n-3PUFAから産生されるオキシリピンは炎症を収束させるような作用を有している(図1)。

     成人では,摂取するPUFAが体内のオキシリピンに影響を与えると報告されているが2),早産児における変化は不明である。我々は,脂肪乳剤による経静脈的なPUFA摂取と経腸栄養の種類が早産児の血中オキシリピンに与える影響の2項目について検討した。

  • 小林 玲
    p. 61-65
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     背景

     新生児における腸内細菌叢の乱れは敗血症,壊死性腸炎,アレルギーなどとの関連が指摘されており,短期予後だけでなく長期予後への影響も懸念される。特に早産児は帝王切開,抗菌薬投与,長期間のNICU入院などの要素が加わることが多く,腸内細菌叢の乱れが起きやすい1)

     腸内細菌叢を整えるために,新生児領域でもプロバイオティクスが提唱されている。プロバイオティクスとしてビフィズス菌や乳酸菌が推奨されており,その有効性と安全性が報告されている2)。長岡赤十字病院(以下,当院)NICUでは2011年から極低出生体重児に対してビフィズス菌の投与を開始した。2020年のシステマティックレビューにおいて,早産児へのビフィズス菌と乳酸菌の併用投与は死亡率や壊死性腸炎を有意に減少させたとの報告がみられた3)。そこで当院NICUでは,2021年からビフィズス菌と乳酸菌の併用投与を開始した。

     プロバイオティクスはその有効性が報告されているが,早産児の腸内環境にどのような変化を引き起こしているのかはよく分かっていない。今回我々は,プロバイオティクスが極低出生体重児の腸内細菌叢,腸管内炎症に与える影響について調査を行った。

  • 前田 剛志
    p. 66-71
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     緒言

     周産期医療の進歩により,超早産児における死亡率は減少したが,現在も多くの超早産児は,認知,運動,行動,教育,感情,社会的な問題を含む多彩な神経障害を示している1)。これらの障害の病因を明らかにするには,神経発達に関連する多面的なアプローチが必要である2)。様々な因子が発達に関与するが,特に子宮内外の栄養の違いは正期産児と早産児の脳発達の違いに大きく関与する3)。出生後の栄養状態は,体長,体重,頭囲などの成長指標に反映され,これまでにも体格と神経発達のリスクに関してはいくつかの報告がされている4,5)

     超早産児にとって,今後よりよい神経発達アウトカムを達成するためには,相対的に軽度とされる神経学的障害にも着目していく必要がある。いくつかの研究では,早産児の脳機能と学齢期または思春期の特定の神経発達障害(自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症,学習障害)との関連が調査されているが6,7),超早産児はこれらの特定の障害だけではない広範な神経障害に直面している8)。超早産児にとって相対的に軽度な神経障害を評価するための包括的な評価ツールが必要である。

     発達指数(DQ)は,幼児の発達評価に広く用いられており9),幼児期の発達スケールと学齢期または思春期の神経発達障害との関連はいくつかの報告があるが10,11),近年では,幼児期に高い発達スケールを維持することの予測精度が高いことが強調されている6)。我々の以前の研究では,3歳時の全領域DQ(全DQ)の閾値を設定し,閾値を超える幼児は学齢期に教育支援を受ける割合が有意に低くなることを示した(図1)。

     本研究は,NICUにおける各身体計測値の縦断的な軌跡と3歳時の神経発達との関連を調査し,良好な神経発達をもたらす栄養管理戦略とその指標を明らかにすることを目的としている。

  • 東海林 宏道, 上原 秀一郎
    p. 72-73
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     第42回周産期学シンポジウムのテーマは「周産期の栄養と代謝を考える」とした。第26回の本シンポジウムにおいて「周産期の栄養」を討議してから15年近くが経過しているが,その間も検体解析方法の進歩や知見の集積により,この分野の研究は発展を続けている。午前の部では「新生児の栄養と代謝を考える」と題して,栄養管理に関する全国アンケートの結果報告や,多数の応募演題から審査を経て選出された5つの講演を通じて,NICU入院中だけではなく,胎児期から幼児期にかけての幅広い視点で栄養と代謝に関する議論を行った。

シンポジウム午後の部:妊娠中の栄養と代謝を考える
  • 「周産期の栄養と代謝を考える」(母体・胎児領域)
    金川 武司
    p. 75-83
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     緒言

     栄養・代謝および双方に関与する生体機能は妊産婦と胎児・新生児にとって生の根幹を支えるものであり,それらを様々な視点から探究することは周産期医療の本質を考えることにほかならない。妊婦に関しては,妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病などの産科的異常のみならず児の長期的な健康を視野に入れた妊娠中の至適体重増加に関する提言がなされている。また,胎児・新生児に関しては,胎児期の母体栄養状態や出生後の栄養管理の影響は短期的予後のみならず長期的な影響もあることが明らかになりつつある。しかし,これらの栄養管理について一定のコンセンサスがなく,施設の方針に従って実施されているのが実情である。これまで,栄養管理に関する調査は少なく,特に全国レベルでの診療実態に関する情報は十分ではない。

  • 〜「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」の活用に向けて
    瀧本 秀美
    p. 84-89
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     はじめに

     出生体重は,母子保健における重要な健康指標の一つである。児が2,500g未満で出生した場合(低出生体重),乳幼児期の死亡率や有病率のリスクが高まることが知られており,低出生体重児割合の減少は世界的にも大きな公衆衛生課題である1)。わが国の人口動態統計2)によれば,乳児死亡率は出生千対1.8であり,世界でも有数の低値である。一方で,低出生体重児割合はOECD諸国の平均値6.5%よりも高い9.4%であり,2000年から2017年にかけて9%増加している3)。また,早産や低出生体重などのリスクを高めることが報告されている若年女性のやせは,20歳代で約5人に一人と高い割合であること,また受胎前後に重要な葉酸の主な供給源である野菜の摂取量も,20歳代では中高年に比べ少ない。国が健康の維持増進のために推奨している一日350g以上の野菜を摂っている者の割合は,最新の国民健康・栄養調査結果(2019年)では14.8%と,最も高い60歳代の35.7%に比べると大幅に少ない4)

     現在,胎児期や出生早期の成育環境が児の将来の健康状態や特定の疾患のかかりやすさに影響するというDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)の概念が注目されている5)。わが国では2005年2月に,「健やか親子21」推進検討会において,「食を通じた妊産婦の健康支援方策研究会」が設置され,2006年2月に「妊産婦のための食生活指針」が策定された6)。この指針策定から現在までの間には,2005年に食育基本法が制定され,さらには2015年度からは「健やか親子21(第2次)」7)が開始されるなどの政策が実施された。こうした国内の動きや国際的な動向を踏まえて2021年3月に厚生労働省から「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」(以下,指針)が公表された8)。2024年4月にこども家庭庁が発足し,指針の所管は厚生労働省から移管された。本稿ではこの指針の背景について概説するとともに活用にあたっての要点を示す。

  • 寺田 周平
    p. 90-94
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     背景

     世界中で約10〜20%の子どもたちが精神的あるいは行動上の問題を経験しており,子どもたちのwell-beingに大きな影響を及ぼしている1)。特に子どもではメンタルヘルスの悪化は行動上の問題として現れることがあるため,行動上の問題のリスク因子の特定とその予防が重要だ。

     妊娠中の体重増加量は,不十分な場合も過剰な場合も,子供の神経発達やその後のメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性がある。具体的には,妊娠中体重増加量が不足している場合,胎児の海馬形成やセロトニン系機能に悪影響を及ぼしうる一方2),過剰な体重増加の場合,母親・胎児の炎症性サイトカインの増加等を通じて,子どもの神経発達に関連しうる2)

     この問題に関する疫学研究はいくつか報告があるが,いずれも白人を対象としており,結果は一貫していない3,4)。また日本人を含むアジア人は白人と体格や体組成が異なるため,これらの知見をそのまま本邦の妊婦に当てはめることはできない5)。さらに,既存のエビデンスは主に子どもの自閉スペクトラム症や注意欠陥多動性障害といった疾病に焦点を当てており,向社会的行動のような発達上のポジティブな側面は十分に研究されていない。向社会的行動は,子どものQOL向上や長寿との関連が知られており,特に重要である6,7)

     そこで本研究は,6〜7歳の日本人小児における妊娠中体重増加量と行動上の問題・向社会的行動との関連を検討することを目的とした。

  • 田野 翔
    p. 95-100
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     妊娠高血圧症候群とは

     妊娠高血圧症候群(HDP, hypertensive disorders of pregnancy)の発症頻度は約5-10%で,妊娠20週以降に高血圧症を発症する疾患とされ,主要なリスクとして肥満が知られる。現在でも有効な治療法がないため,発症予防の重要性が認識されている。HDPの病態はまだ完全には解明されていないが,産婦人科領域で広く支持されている概念としてTwo stage theoryというものがある(図1)1)。これは,妊娠に伴う変化あるいは胎盤形成不全を背景に,血管内皮障害が生じた場合にこの疾患が発症するという考え方で,すなわち,HDPの発症には血管内皮障害が重要な役割を果たしているということが示されている。

     一般的に,胎盤形成不全が主体であれば発症するのが早く,より重症で,胎児への影響も大きくなることが知られる。一方で,母体の体質が主体であれば発症するのが遅く,胎児への影響はあまり大きくない,ということが知られている。臨床現場では,それらを発症時期に基づいて,妊娠34週未満で発症する早発型HDP(EoHDP, early-onset HDP),妊娠34週以降に発症する遅発型HDP(LoHDP, late-onset HDP)とそれぞれを分類している。

  • 池ノ上 学
    p. 101-103
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     背景

     出生体重は児の周産期予後だけでなく,長期予後とも関連する(Developmental Origins of Health and Disease)1,2)。近年,母体の低栄養が胎児に影響を与える「Thrifty hypothesis」に加え,母体過栄養による胎児プログラミング,つまり過剰な栄養素の供給による児の脂肪酸酸化や糖新生の抑制,脂肪の蓄積が,小児肥満や早期発症メタボリックシンドロームにつながるとする「Fuel overload hypothesis」が提唱されている3)

     脂肪は身体組成の重要な構成要素の一つである。特に,ヒト新生児は他の哺乳類と比較して体脂肪率が高く,出生体重の個人差の46%は脂肪量の差によるとされる4)。これはヒトの進化の過程において,脂肪が,出生後の体温保持や飢餓環境に備えたエネルギー源確保のため,また他の哺乳類と比較し大きな脳実質のエネルギー源として利用するために重要であったことと関連している5)。胎児期における脂肪蓄積は妊娠16週頃から始まるが,妊娠30週前後を境に急速に増加し,その8割以上が妊娠後期に蓄積する6)。そして新生児体脂肪率は,小児期の体脂肪率と有意に相関するため,新生児体脂肪率は小児肥満の有用な予測因子となりうる7)。新生児期における体脂肪率の測定には,Dual Energy X-ray Absorptiometry(DXA)や空気置換プレシスモグラフィーなどがゴールデンスタンダードとして用いられ,すでにその計測法は確立されているが8),これまでヒト胎児期における脂肪量を計測した報告は少ない。

  • 衛藤 英理子
    p. 104-108
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     背景

     糖代謝正常妊婦の推定エネルギー必要量は,日本人の食事摂取基準1)において,基礎代謝量を用いた計算式から定められている。妊娠期のエネルギー付加量も,妊娠初期から後期,そして産後の授乳期にかけて,母体の理想的な体重増加量を維持するのに必要なカロリーが示されている。妊娠期間における酸素消費量の研究2)などを根拠に,妊娠全期間の基本エネルギー増加量や脂肪や蛋白質の蓄積などを含めて,合計約70,000kcalのエネルギー付加が必要と考えられている。一方で,糖代謝異常妊婦の推定エネルギー必要量は明確には定まっていない。非妊時の肥満の有無により,標準体重に前述の日本人の食事摂取基準にならった段階的に付加量を増やす方法や,産婦人科診療ガイドライン3)に則って一律200kcalの付加を行っている施設が多いが,そのエビデンスはまだ乏しい状況で,耐糖能の状態がそれぞれ異なる個々のエネルギー必要量はどのように評価すればよいのか不明である。

     ヒトの一日の総エネルギー必要量は,覚醒状態の生命活動である心拍数や体温を維持するために必要な最低限のエネルギー(基礎代謝量)が約60%を占め,食事で体内に吸収された栄養素が分解される際に発生するエネルギー(食事誘発性産熱量)が10%を占める。これらの合計が安静時代謝量で,快適な室温の部屋で座って安静にしている状態で消費されるエネルギー量とされる。そして残りの30%は体動関連必要熱量である。今回着目した安静時代謝量は厳格な測定条件を必要とせず,簡便に測定可能な医療機器が臨床現場にも導入されている。栄養療法の目的は母児の健康を守ることにあり,周産期合併症の軽減,耐糖能の改善を目指した個別化医療が求められている。個々の妊婦における代謝動態を把握することは重要である。

  • 難波 文彦, 市塚 清健
    p. 109-110
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/06
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     2024年の周産期学シンポジウムのテーマは「周産期の栄養と代謝を考える」であった。妊娠時の栄養や代謝の問題として,妊娠時の栄養指導の方法,胎児への影響,糖代謝異常を伴う妊娠などの課題が挙げられた。午後の部では,「妊娠中の栄養と代謝を考える」をテーマに,妊娠中の栄養と代謝に関する全国アンケートの結果報告,「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」に関する基調講演,そして全国から選ばれた4つの演題の講演を通して,妊娠中の栄養と代謝に関する現状と課題について議論を行った。

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