第43回周産期学シンポジウムを2025年1月17日(金)および18日(土)に,東京の都市センターホテルにて開催いたしました。本シンポジウムでは,「周産期の鎮痛・鎮静・ストレス軽減を再考する」をメインテーマに掲げ,母体・胎児・新生児を対象とした鎮痛・鎮静管理およびストレス軽減に関する最新の知見や臨床的課題を,多角的に検討する機会といたしました。多数の先生方にご参加いただき,活発な議論が交わされましたことに,心より御礼申し上げます。
周産期医療において鎮痛・鎮静は,侵襲に起因するストレスを軽減し,より良い転帰を導くための重要な医療行為であり,母体・胎児・新生児のいずれにおいても欠かせません。母体領域では,無痛分娩の普及に加え,産科麻酔の技術・運用体制が進展しつつあります。新生児領域では,NICUにおける人工呼吸管理や手術時の鎮静・鎮痛,ならびにそれらがもたらす神経発達への影響に対する関心が高まり,薬剤投与に限らない非薬理的介入の役割も再評価されています。
初日のプレコングレスでは,各分野の第一線でご活躍されている小澤未緒先生,遠山悟史先生,照井克生先生をお迎えし,新生児および妊産婦の鎮痛・鎮静・ストレス軽減に関する最新の知見をご講演いただきました。続いて,津田尚武先生および植田彰彦先生からは,大規模災害に備えたPEACEシステムのリニューアルに関するご紹介を頂きました。
2日目のシンポジウム午前の部では,「周産期の鎮静・鎮痛・疼痛緩和 最新動向」をテーマに,まず運営委員の東海林宏道先生より全国調査報告が行われました。続いて,4名のシンポジストによる発表があり,心拍変動に基づく疼痛指標ANIと局麻薬浸潤痛との関連,頭部MRI検査における真空固定具の使用が引き起こす体温上昇の要因,中期中絶・死産時の経静脈鎮静における至適薬剤,早産児に対する鎮静薬としてのデクスメデトミジンとフェンタニルの比較に関して,実臨床に即した活発な議論が展開されました。午後の部では,「無痛分娩の実践と課題」をテーマに,運営委員の市塚清健先生より全国調査報告が行われた後,4名のシンポジストにより,無痛分娩に関する技術習得,非侵襲的心拍出量モニタリングを用いた心疾患合併妊婦の循環動態評価,双胎妊娠の分娩転帰への影響,母体発熱が新生児予後に与える影響といった臨床的課題について検討がなされました。
また,企業共催セミナーにおいては,初日に兵藤博信先生より産科診療における母体管理,土肥 聡先生より妊婦の低亜鉛血症に対する介入の意義についてご講演いただきました。2日目には,飛彈麻里子先生および谷垣伸治先生によりRSウイルス感染症の母子免疫予防,武井黄太先生および小松玲奈先生により胎児心機能評価およびAIによる胎児心臓スクリーニングについてご講演いただきました。さらに,松岡 隆先生による次世代型シミュレーターOPUSを用いた胎児超音波ハンズオンセミナーも開催されました。
本シンポジウムは,痛み・鎮静・ストレス軽減という普遍的課題に対して,母体・胎児・新生児の各視点から深く掘り下げ,知見を共有する場として大変意義深いものとなりました。今後の周産期医療の質向上と,安全な医療提供体制の確立に寄与することを願ってやみません。
最後になりますが,本シンポジウムの企画・運営にご尽力いただきました運営委員会の先生方,事務局の皆様,そしてご多忙の中ご参加いただいた会員の皆様に,心より感謝申し上げます。
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