周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
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序文
  • 大槻 克文
    p. 3
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
    会議録・要旨集 フリー

     第43回周産期学シンポジウムを2025年1月17日(金)および18日(土)に,東京の都市センターホテルにて開催いたしました。本シンポジウムでは,「周産期の鎮痛・鎮静・ストレス軽減を再考する」をメインテーマに掲げ,母体・胎児・新生児を対象とした鎮痛・鎮静管理およびストレス軽減に関する最新の知見や臨床的課題を,多角的に検討する機会といたしました。多数の先生方にご参加いただき,活発な議論が交わされましたことに,心より御礼申し上げます。

     周産期医療において鎮痛・鎮静は,侵襲に起因するストレスを軽減し,より良い転帰を導くための重要な医療行為であり,母体・胎児・新生児のいずれにおいても欠かせません。母体領域では,無痛分娩の普及に加え,産科麻酔の技術・運用体制が進展しつつあります。新生児領域では,NICUにおける人工呼吸管理や手術時の鎮静・鎮痛,ならびにそれらがもたらす神経発達への影響に対する関心が高まり,薬剤投与に限らない非薬理的介入の役割も再評価されています。

     初日のプレコングレスでは,各分野の第一線でご活躍されている小澤未緒先生,遠山悟史先生,照井克生先生をお迎えし,新生児および妊産婦の鎮痛・鎮静・ストレス軽減に関する最新の知見をご講演いただきました。続いて,津田尚武先生および植田彰彦先生からは,大規模災害に備えたPEACEシステムのリニューアルに関するご紹介を頂きました。

     2日目のシンポジウム午前の部では,「周産期の鎮静・鎮痛・疼痛緩和 最新動向」をテーマに,まず運営委員の東海林宏道先生より全国調査報告が行われました。続いて,4名のシンポジストによる発表があり,心拍変動に基づく疼痛指標ANIと局麻薬浸潤痛との関連,頭部MRI検査における真空固定具の使用が引き起こす体温上昇の要因,中期中絶・死産時の経静脈鎮静における至適薬剤,早産児に対する鎮静薬としてのデクスメデトミジンとフェンタニルの比較に関して,実臨床に即した活発な議論が展開されました。午後の部では,「無痛分娩の実践と課題」をテーマに,運営委員の市塚清健先生より全国調査報告が行われた後,4名のシンポジストにより,無痛分娩に関する技術習得,非侵襲的心拍出量モニタリングを用いた心疾患合併妊婦の循環動態評価,双胎妊娠の分娩転帰への影響,母体発熱が新生児予後に与える影響といった臨床的課題について検討がなされました。

     また,企業共催セミナーにおいては,初日に兵藤博信先生より産科診療における母体管理,土肥 聡先生より妊婦の低亜鉛血症に対する介入の意義についてご講演いただきました。2日目には,飛彈麻里子先生および谷垣伸治先生によりRSウイルス感染症の母子免疫予防,武井黄太先生および小松玲奈先生により胎児心機能評価およびAIによる胎児心臓スクリーニングについてご講演いただきました。さらに,松岡 隆先生による次世代型シミュレーターOPUSを用いた胎児超音波ハンズオンセミナーも開催されました。

     本シンポジウムは,痛み・鎮静・ストレス軽減という普遍的課題に対して,母体・胎児・新生児の各視点から深く掘り下げ,知見を共有する場として大変意義深いものとなりました。今後の周産期医療の質向上と,安全な医療提供体制の確立に寄与することを願ってやみません。

     最後になりますが,本シンポジウムの企画・運営にご尽力いただきました運営委員会の先生方,事務局の皆様,そしてご多忙の中ご参加いただいた会員の皆様に,心より感謝申し上げます。

プレコングレス
  • 小澤 未緒
    p. 11-16
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     はじめに

     国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain)は,痛みの評価と管理の改善につながることを期待して,1979年以来初めて,2年間のプロセスを経て改訂した痛みの定義を2020年に公表した。新定義は「実際の組織損傷もしくは組織損傷が起こりうる状態に付随する,あるいはそれに似た,感覚かつ情動の不快な体験」1)であり,6つの重要な注釈(付記)があった。その付記の1つに「言葉による表出は,痛みを表すいくつかの行動の1つにすぎない。コミュニケーションが不可能であることは,ヒトあるいはヒト以外の動物が痛みを経験している可能性を否定するものではない」とある。これは旧定義の問題の1つとして指摘されていた,痛みを表現できない新生児や高齢者やヒト以外の生物などの問題が無視されているという倫理的な側面が考慮されたと考えられる。

     1980年代後半頃まで新生児は痛みを感じない・感じにくいと考えられ,手術でさえ十分な麻酔が実施されない状態だった2)。またNICUにおけるストレスや痛みが早産児の神経行動発達に及ぼす影響についても検討が十分でなく,ディベロプメンタルケアの概念も普及していなかったため,新生児の痛みのケアの重要性や必要性は認識されていなかった。しかし,早産児・新生児の痛覚伝導路の未熟性や痛覚を含めた感覚発達への影響の懸念から,2000年以降,日本も含めて多数の国でNICUに入院する新生児の痛みのガイドラインが発行されている。

     一方で,現在においても,新生児の痛みの予防と管理は十分でない。2016年に出版された18件の観察研究を対象としたシステマティックレビュー3)によると,NICUに入院している新生児は,出生後2週間で1人あたり1日平均8〜17回の医療処置を受けていたが,疾痛緩和法は一貫性がなかったことが報告されている。

     わが国では,国民皆保険制度のもとで高度な新生児医療が展開され,世界最高水準の新生児死亡率を長年維持している。同時に,新生児医療に従事する全ての医療専門職は,新生児の代弁者となり,治療や処置に伴う痛みの予防や緩和が倫理原則とガイドライン等に基づいていることを保証する必要がある。

  • ─ガイドラインより─
    遠山 悟史
    p. 17-24
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     はじめに

     たとえ新生児であっても,生後間もなくに何らかの検査や手術を受けることがある。具体的な頻度の報告は少ないが,新生児期に侵襲的な検査や処置を受ける小児は全体の1%弱であり,乳児期までにはその割合が約10%に達するとの報告もある1)。痛みに関する神経伝達回路は胎生期にはすでに形成されており2),医療従事者が関わるすべての新生児が処置や手術に際して痛みを感じていることは間違いない。しかし,新生児は痛みを言葉で訴えることができないだけではなく,身体的表現も困難である。特に,鎮静薬の投与下で人工呼吸管理されていることが多いため,バイタルサイン(血圧や心拍数)や表情,体動といった身体表現から痛みを判断するのはさらに難しい。

     一方,小児では年齢が低いほど生理的・心理的にも侵害刺激への防御反応が未熟なため,成人であれば耐えられるような軽微な痛みやストレスでも,様々な身体的・精神的障害を引き起こす可能性がある3)。したがって,新生児において処置や手術に伴う痛みへのケアが不十分であることは,予後に影響を及ぼしている可能性がある。

     海外では新生児に対する処置や手術に伴う痛みに関する疼痛緩和のガイドラインが発表されており4〜7),それに基づいた疼痛管理の重要性も十分に示されている8)。日本においても,新生児集中治療室(neonatal intensive care unit:NICU)に入院している新生児が日々のベッドサイド処置に伴う痛みから少しでも解放されるよう,日本新生児看護学会の「NICUに入院している新生児の痛みケアガイドライン作成委員会」により2014年にガイドライン初版が発表された9)。以降,5年ごとの改訂を目指して,2020年には日本周産期・新生児医学会,日本新生児成育医学会,日本麻酔科学会,日本新生児看護学会,日本小児外科学会の公認を受けた改訂版が発表され10),このガイドラインを利用する施設も徐々に増加している11)

     2020年の改訂版は「ベッドサイド処置に伴う急性痛」に焦点が当てられていたが,「術後痛」や持続・遷延する痛みも含めた幅広い疼痛への対応や,両親がケアに参加する重要性に関する推奨事項が盛り込まれた新版が2025年に発表された12)

     本稿では,日本における新生児に対する外科的手術後の疼痛管理体制が十分とはいえない現状13)を踏まえ,麻酔科の立場から「術後痛に対する薬理的緩和法」を中心に,新生児の痛みのケアについて概説する。

  • ─最新の知見をふまえて
    照井 克生
    p. 25-30
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     はじめに

     今回の周産期学シンポジウムのタイトルが「再考」となっているのは,第29回周産期学シンポジウム(2011年,聖マリア学院大学橋本武夫会長,佐賀県どんぐり村)のタイトルが「周産期における鎮静・鎮痛・麻酔」だったからである。周産期学シンポジウムのテーマに関連したアンケート調査が毎年行われてきたが,シンポジウムに合わせてアンケート調査を行ったのはこの時が最初だった。アンケート調査では,各種胎児疾患について胎児治療・娩出時・新生児治療における鎮静薬,鎮痛薬,麻酔管理等を調査して報告した。その後の胎児治療や産科麻酔の進歩,新生児の痛みのケアガイドライン改訂等を踏まえて今回のシンポジウムが企画されたのであろう。

日本産科婦人科学会 災害対策・復興委員会セミナー「災害対策の礎 PEACEを知る」
シンポジウム午前の部:周産期の鎮静・鎮痛・疼痛緩和 最新動向
  • 周産期学シンポジウム運営委員会 全国調査報告(新生児領域)
    東海林 宏道
    p. 44-48
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
    会議録・要旨集 フリー

     緒言

     周産期医療において鎮静・鎮痛は欠かすことのできない医療行為である。産科・産科麻酔領域では,ここ数年の無痛分娩の普及や帝王切開時の麻酔,胎児治療時の麻酔等がトピックスであり,分娩後や帝王切開術後の鎮痛は産褥のQOLに関わる重要な問題である。一方,新生児領域では人工呼吸管理中や,侵襲的な処置時,検査時に呼吸・循環の安定化やストレスを除く目的で鎮痛・鎮静が行われている。2011年の第29回周産期学シンポジウムで「周産期における鎮静・鎮痛・麻酔」をテーマとしたが,以降十数年の間にこの領域における新しい知見が得られ,関係するガイドライン等も発出されていることから,周産期学シンポジウム運営委員会では,各施設の鎮静・鎮痛・ストレス緩和について全国レベルで現状を把握する必要があると判断した。

  • 近藤 弘晃
    p. 49-53
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     背景

     帝王切開術後の鎮痛が不十分な場合は,産後うつや慢性痛のリスクが増加することが知られている1)。そのため適切な帝王切開術後の鎮痛の提供は重要である。しかし,術後疼痛の個人差は大きく,術後疼痛の程度を予測することは難しい。急性痛や慢性痛を強く訴える可能性のある集団を予測することができれば,より質の高い鎮痛管理が可能になる。脊髄くも膜下麻酔(以下,脊麻)のための局所麻酔薬の浸潤痛(以下,局麻薬浸潤痛)の重症度(皮膚を刺す針による疼痛を除く)は,帝王切開術後の急性痛と関連していることが報告されている2)。さらに,急性痛だけでなく慢性痛の重症度とも関連している3)。したがって,局麻薬浸潤痛を評価することは,重度の急性または慢性痛を発症する妊婦を予測する指標となる可能性がある。しかし,局麻薬浸潤痛を強く訴える産婦を判別する指標は存在しない。

     近年,心拍変動を利用して解析されるAnalgesia/Nociception Index(ANI,Mdoloris Medical Systems,フランス)が手術後の急性痛を評価する客観的指標として使用されている4)。これは全身麻酔下の手術に限定されず,分娩中の痛みの評価にも使用されている5)。日本では,ANIと同じアルゴリズムを使用するHigh Frequency Variability Index(HFVI,Mdoloris Medical Systems,フランス)が2022年に発売され,Rootモニター(ソフトウェアバージョンV2.1. 4.6 INT,Masimo Corp.,CA,米国)に他の生理学的パラメーターと共に表示可能である6)。HFVI/ANIは,呼吸による心拍変動を分析し,主に心臓の洞房結節への副交感神経系刺激の変化を媒介とした呼吸による心拍変動を解析する。痛み刺激は副交感神経の緊張を相対的に低下させるため,HFVI/ANIスコアの低下をもたらす。HFVI/ANIスコアは0から100のスケールで表され,100は副交感神経の緊張が最大で,侵害受容レベルが低いことを意味し,0は副交感神経の緊張が最小で,侵害受容レベルが高いことを意味する7)。HFVI/ANIは,周術期の疼痛管理のpoint of care toolとして利用価値が高い。

     今回我々は,術前の交感神経緊張が高い(すなわち副交感神経が抑制されている)産婦は,脊髄くも膜下麻酔時に施行する皮膚への局麻薬浸潤痛の程度が強いと仮定し,選択的帝王切開術を受ける産婦におけるHFVI/ANIと局麻薬浸潤痛の関連を調べるために本研究を立案した。

  • 青木 亮二
    p. 54-59
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     緒言

     乳児期早期のMRI検査は鎮静薬を内服することが一般的であった。「MRI検査時の鎮静に関する共同提言」でどの鎮静薬も呼吸抑制などの危険性があり,「薬に頼らない鎮静」として真空固定具が明記され徐々に普及してきている1)。一方で真空固定具を使用したMRI検査では,体温上昇を認めることが報告されている。田中らは真空固定具を用いた症例と鎮静薬を用いた症例において,MRI検査前後で0.5℃以上の体温上昇を認める割合が真空固定群で増加すると報告した2)。顕著な体温上昇は児にとってストレスとなり得る要因であり,可能な限り回避する必要がある。真空固定具を用いた頭部MRI検査での体温上昇には様々な要因が関連している。しかし,体温上昇の要因に関する詳細な評価の報告はない。今回,乳児期早期の真空固定具を用いた頭部MRI検査における体温上昇の要因を明らかにすることを目的とし検討を行った。

  • 染谷 真行
    p. 60-63
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     背景

     周産期におけるメンタルヘルスの重要性が近年注目されるようになっており,通常の出産後においても約10%で発症するともいわれている1)。一方で,中期中絶(以下,AA)や子宮内胎児死亡(以下,IUFD)は精神的にインパクトの大きな周産期イベントであり,海外のガイドラインでは『流産・死産に臨む妊婦に痛みの管理について情報提供すべきである』と記載されているものもある2)。それにもかかわらず,日本においてはそれらに対する精神的なケアは立ち上がったばかりであり,一例として筆者が勤務している札幌市においても,流産・死産を経験した家族に対するケアが始まったのは2025年4月とごく最近であり,今後の積極的な活用が期待される。

     また,通常の分娩における無痛分娩は欧米などでは従来より広く行われていたが,日本においてはその広がりが比較的緩やかであった。しかし,近年では無痛分娩を提供する施設が急速に増加している3)。その理由としては,インターネットやSNSなどによる情報の拡散の他,一部の自治体では無痛分娩に関連した費用の公的負担などが検討されていることから,患者確保の手段として無痛分娩の提供を行う施設が増えていることなどが考えられる。しかし,そういった流れの中においても,AA・IUFDに対して疼痛緩和を施行している施設は少なく,本シンポジウムの開催に先立って行われた周産期学シンポジウム運営委員会による全国調査においては,周産期新生児専門研修認定施設(基幹・指定)においても25%に留まっていた。その理由としては,麻酔科医が不足しておりAA・IUFDに対して疼痛緩和を提供できるだけの人的余裕が無いことや,疼痛緩和の際にどのような方法で行うのが良いのかといった情報が乏しいことなどが考えられる。

     一方で,運営委員会の調査において,AA・IUFDの管理の際に用いられる麻酔方法としては硬膜外麻酔が最も多いことが分かった。硬膜外麻酔は疼痛緩和としては有用であるが,技術的な困難さから産婦人科医が広く修得しているとはいえず,また穿刺に伴う侵襲・合併症のリスクも無視できない。当院では経静脈的に鎮静を行っており,これは薬剤の使用法を理解していれば産婦人科医にも扱いうる手段と考える。そして,鎮静の際に使用する薬物としては従来から使用されているジアゼパムやミダゾラム,チアミラールなどがあるが近年ではプロポフォール(以下,Prop)が良く使われている。更に最近ではデクスメデトミジン(以下,Dex)が呼吸抑制の少ない薬剤として使用される機会が広がっている。Dexには神経保護作用があることが数多く報告されており,本研究の共同研究者であるKiiらもマウスを用いた実験でDexの神経保護作用を示している4)

     そこで我々は,札幌医科大学附属病院(以下,当院)において従来から行っていた経静脈鎮静においてどの薬剤を用いるのが安全性及び精神面から適切なのかを検討すべく,臨床研究を立案した。

  • 中内 千春子
    p. 64-68
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     背景

     超早産児では急性期に脳室内出血(intraventricular hemorrhage:IVH)予防を目的に鎮静薬を使用することがあるが,鎮静薬の発達中の脳への負の影響も指摘されている。また鎮静薬の選択や投与方法,その短期・長期予後への影響についてのエビデンスも限られている。

     中枢性α2作動薬である塩酸デクスメデトミジン(以下,DEX)は,青斑核の中枢性α2A受容体に作動し鎮静作用,交感神経抑制作用,鎮痛作用を示し,末梢性α2B受容体に作動し血管収縮作用を示す(図1)。一般にオピオイドであるフェンタニル(以下,FEN)では,呼吸や消化管抑制,低血圧,尿閉などの影響が知られているが,DEXでは呼吸や消化管抑制をきたしにくいことが報告されている1)。また動物モデルでのDEXの神経保護作用が報告されている2,3)

     当院では2015年以降,早産児の急性期の鎮静薬として,第一選択薬をFENからDEXに変更した。本研究では,急性期の鎮静薬としてのFENおよびDEXの急性期・長期予後への影響を比較検討することを目的とした。

  • 宮下 進, 鷲尾 洋介
    p. 69-70
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     本シンポジウム午前の部では「周産期の鎮静・鎮痛・疼痛緩和 最新動向」をサブテーマとして,全国調査報告[B領域(新生児領域)]の結果報告も踏まえて,4名のシンポジストによる発表と総合討論が行われた(以下,敬称略)。

シンポジウム午後の部:周産期の鎮静・鎮痛・ストレス緩和 無痛分娩の実践と課題
  • 周産期学シンポジウム運営委員会 全国調査報告(産婦人科領域)
    市塚 清健
    p. 72-78
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     緒言

     周産期医療において鎮静・鎮痛は欠かすことのできない医療介入である。2011年開催の第29回周産期学シンポジウムで「周産期における鎮静・鎮痛・麻酔」をテーマとしたが,以降十数年の間にこの領域における新しい知見が得られ,ガイドライン等も発出されている。さらに,日本産婦人科医会の調査によると無痛分娩に関しては過去5年間でも5.2%から11.6%と増加しており1),第29回時に比べ実施施設,実施数などは増加している。帝王切開時の麻酔,胎児治療時の麻酔についても技術や実施体制が議論されている。さらに,分娩後,帝王切開術後の鎮痛は産褥のQOLに関わる重要な問題である。そこで本委員会ではA(産婦人科)領域においては,無痛分娩,帝王切開時の麻酔管理に関する実情について調査することとした。今回のシンポジウムにおける議論のみならず,今後の産科鎮痛・鎮静に関する基礎資料に資することを期待し本調査を行ったので,その結果を記載した。

  • 稲村 達生
    p. 79-85
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     緒言

     硬膜外麻酔は産婦人科領域では術後の疼痛管理,帝王切開を含む産婦人科手術等に長らく本邦でも使用されてきた。近年では急速に無痛分娩が普及しており,産婦人科医が硬膜外麻酔に携わる機会は増加していくと考えられる。

     当院では28年前に無痛分娩を導入し,25年前に教育体制を確立し,Kaizenを重ねてきた。原則として計画無痛分娩は実施せず,24時間体制のオンデマンドで実施してきた。無痛分娩だけでなく,産婦人科の手術・処置に必要な硬膜外麻酔は原則的に産婦人科医が実施しており,年間約200件の硬膜外麻酔を産婦人科が実施している。当院では十分な教育体制のもと,専攻医のうちから積極的に硬膜外麻酔を実施しているが,硬膜外穿刺に熟達するために必要な症例数を具体的に評価した包括的な研究は少ない。

     今回我々は産婦人科専攻医が硬膜外穿刺の手技習得にかかる必要経験症例数の算出と失敗リスクの高い症例の検討を行ったので報告する。

  • 澤田 雅美
    p. 86-92
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     背景

     分娩中は,子宮収縮によって生じるauto-transfusionによって前負荷である循環血液量が増加し,さらに痛みに対する反応で心拍数や後負荷である全身血管抵抗が増加する。その結果,分娩中の心拍出量は増加するとされている1)が,以前はSwan-Ganzカテーテルを用いた侵襲的で断続的な方法でしか心拍出量を計測できず,分娩中の循環動態の変化をとらえるのに十分ではなかった。しかし近年,非侵襲的かつ連続的に心拍出量をモニタリングできる機器が開発されており,分娩中の妊婦での使用も報告され始めた2)。当センターでも,2020年に非侵襲的心拍出量モニタリングを用いて非心疾患妊婦の非無痛分娩と無痛分娩での心拍出量を比較し報告した3)。その結果,非心疾患妊婦では分娩中の心拍出量は増加したが,その主な要因は心拍数の増加であり,一回拍出量は減少した。これは,痛みに対する交感神経の亢進で心拍数と末梢血管抵抗が増加した結果であると考えられた。一方,無痛分娩では分娩中の心拍出量の増加は軽度であった。心拍数の増加は非無痛時よりも軽度で,一回拍出量は軽度増加した。無痛分娩により交感神経の亢進が抑えられ,心拍数や末梢血管抵抗の増加が抑えられたと考えられた。このように非心疾患妊婦では,無痛分娩を行うことで余分な心拍数の上昇が抑えられ,またおそらく後負荷の上昇が抑えられることで一回拍出量は少し増加し,結果として非無痛の場合と比較すると心拍出量の上昇が抑えられるという結果であった。

     このような分娩中の循環動態の変動は,非心疾患妊婦においては心機能の許容範囲内で収まるが,心疾患合併妊婦では心不全の原因となりうる。心疾患妊婦において,無痛分娩は心負荷の軽減に有用であると考えられているが,無痛分娩下での心疾患妊婦の循環動態は未だ明らかになっていない。また,分娩中の循環動態は心疾患の種類や重症度によって異なることが予測されるが,特に心機能に問題がない先天性心疾患(Adult CongenitalHert Disease:ACHD)妊婦で,無痛分娩中の循環動態が非心疾患妊婦と同様に変化するかどうかは分かっていない。そこで今回は,非侵襲的心拍出量モニタリング機器を用いて,無痛分娩下のACHD妊婦の循環動態を明らかにすることを目的に検討を行った。

  • 山本 瑠美子
    p. 93-99
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     目的

     本邦において無痛分娩は増加傾向である。単胎経腟分娩において無痛分娩が与える影響はこれまでに多数報告されており,無痛分娩では帝王切開(CS)の頻度は上昇しないが,器械分娩の頻度が増加するとされている1)。新生児への影響に関しては,無痛分娩がApgarスコア低値や臍帯動脈血pH低下に関連する2)とする報告と関連しない3)とする報告がある。一方,双胎分娩における無痛分娩の分娩転帰への影響を検討した報告は少なく,十分に検討されていない。

     本研究の目的は,双胎経腟分娩における分娩転帰と児の予後に対する無痛分娩の影響を明らかにすることである。

  • 山崎 優
    p. 100-106
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     背景

     無痛分娩では約15〜25%の頻度で38℃台の母体発熱を生じる1)。母体発熱の原因は,感染性と非感染性に分類される。感染性の発熱は,主に絨毛膜羊膜炎(chorio-amnionitis:CAM)による。CAMは,早期発症の新生児敗血症や低酸素虚血性脳症との関連を指摘されており2),多くの先行研究で児の予後に悪影響を及ぼすことが知られている。非感染性の発熱は,主に硬膜外関連母体発熱(epidural-related maternal fever:ERMF)によるものとされる。その他に,プロスタグランジンE2等の薬剤への曝露や脱水,環境熱も非感染性発熱の原因となるが,非常にまれである3)

     ERMFの生じる原因として,2つの仮説が報告されている4)。1つ目は,陣痛を伴った状況に生じる無菌性の炎症である。硬膜外カテーテル挿入部位の局所的な炎症促進に加え,陣痛によるオキシトシンの分泌促進を契機として,IL-1,IL-6,TNF-α,INF-γなどの全身性の炎症性サイトカインが分泌されることで発熱をきたす。それゆえ,陣痛を伴わない状態で行う選択的帝王切開などの硬膜外鎮痛では,発熱をきたさないと言われている。2つ目は,体温調節機構の変化である。硬膜外鎮痛を行うことにより,発汗の抑制や換気回数の減少,体温セットポイントの上昇,体温調節性血管収縮といった様々な変化が生じて発熱するとされるが,確かな機序はいまだに不明である。

     ERMFは胎児頻脈や胎児低酸素状態を惹起し,出生児の筋緊張低下や呼吸障害につながる危険性が指摘されている4)。一方で,児の予後に影響しないとする報告5)もあり,児への影響について一定の見解はない。そこで,無痛分娩中の母体発熱が児の短期予後と長期予後に与える影響について後方視的に検討した。

  • 金川 武司, 中畑 克俊
    p. 107-108
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/09/10
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     第43回周産期学シンポジウムのテーマは「周産期における鎮静・鎮痛・ストレス緩和を再考する」であった。午後の部では「無痛分娩の実践と課題」を主題とし,全国調査に基づく現状把握と,多様な臨床研究から浮かび上がる無痛分娩の安全性,教育的側面,ならびに母児転帰への影響について議論が行われた。

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