主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:周産期における鎮痛・鎮静・ストレス緩和を再考する
回次: 43
開催地: 東京都
開催日: 2025/01/17 - 2025/01/18
p. 17-24
はじめに
たとえ新生児であっても,生後間もなくに何らかの検査や手術を受けることがある。具体的な頻度の報告は少ないが,新生児期に侵襲的な検査や処置を受ける小児は全体の1%弱であり,乳児期までにはその割合が約10%に達するとの報告もある1)。痛みに関する神経伝達回路は胎生期にはすでに形成されており2),医療従事者が関わるすべての新生児が処置や手術に際して痛みを感じていることは間違いない。しかし,新生児は痛みを言葉で訴えることができないだけではなく,身体的表現も困難である。特に,鎮静薬の投与下で人工呼吸管理されていることが多いため,バイタルサイン(血圧や心拍数)や表情,体動といった身体表現から痛みを判断するのはさらに難しい。
一方,小児では年齢が低いほど生理的・心理的にも侵害刺激への防御反応が未熟なため,成人であれば耐えられるような軽微な痛みやストレスでも,様々な身体的・精神的障害を引き起こす可能性がある3)。したがって,新生児において処置や手術に伴う痛みへのケアが不十分であることは,予後に影響を及ぼしている可能性がある。
海外では新生児に対する処置や手術に伴う痛みに関する疼痛緩和のガイドラインが発表されており4〜7),それに基づいた疼痛管理の重要性も十分に示されている8)。日本においても,新生児集中治療室(neonatal intensive care unit:NICU)に入院している新生児が日々のベッドサイド処置に伴う痛みから少しでも解放されるよう,日本新生児看護学会の「NICUに入院している新生児の痛みケアガイドライン作成委員会」により2014年にガイドライン初版が発表された9)。以降,5年ごとの改訂を目指して,2020年には日本周産期・新生児医学会,日本新生児成育医学会,日本麻酔科学会,日本新生児看護学会,日本小児外科学会の公認を受けた改訂版が発表され10),このガイドラインを利用する施設も徐々に増加している11)。
2020年の改訂版は「ベッドサイド処置に伴う急性痛」に焦点が当てられていたが,「術後痛」や持続・遷延する痛みも含めた幅広い疼痛への対応や,両親がケアに参加する重要性に関する推奨事項が盛り込まれた新版が2025年に発表された12)。
本稿では,日本における新生児に対する外科的手術後の疼痛管理体制が十分とはいえない現状13)を踏まえ,麻酔科の立場から「術後痛に対する薬理的緩和法」を中心に,新生児の痛みのケアについて概説する。