主催: 一般社団法人日本周産期・新生児医学会
会議名: 周産期学シンポジウム:胎児仮死および新生児仮死
回次: 6
開催地: 大阪府
開催日: 1988/01/23
p. 52-58
はじめに
新生児仮死は重篤な中枢神経系の後遺症を残すことが多く,新生児仮死の管理は新生児医療の最重要課題の1つとなっている。新生児仮死は低酸素血症とそれに随伴する種々な病態を特徴とするが,その詳細はいまだ不明である。動物実験では脳中のブドウ糖の低下,乳酸の上昇,高エネルギーリン酸の減少など嫌気性解糖によるエネルギー産生機構の異常が指摘されている1)。しかし,新生児仮死で嫌気性解糖の冗進による乳酸の増加は知られているが,他のエネルギー産生状態を検討した報告は少なく,ATPの利用亢進によるキサンチンの増加2)が知られているにすぎない。
クエン酸回路は好気下でブドウ糖からのエネルギー産生に重要な役割を担っているが,嫌気性解糖となる新生児仮死でのクエン酸回路の動態を解析した報告はみられない。近年ガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS)の臨床応用が進み,異常代謝産物を同定することによる先天代謝異常症の診断を初め種々の疾患の診断にGC/MSが用いられている。
今回,われわれは新生児仮死例の尿中クエン酸回路中間代謝産物などを測定し,その動態を解析した。その結果,新生児仮死が乳酸・フマール酸の排泄動態から3型に細分され,しかも,その3型と予後の間に深い関係がみられ,GC/MSによる尿中有機酸分析が新生児仮死の予後の判定に有力な手段であることを示す結果を得たので報告する。