日本義肢装具学会誌
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原著
大腿切断者の疾走動作と関節トルク:男子100 m日本記録保持者の例
山本 篤浦田 達也小堀 修身伊藤 章
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キーワード: 大腿義足, 陸上競技, 短距離
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2013 年 29 巻 4 号 p. 246-254

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抄録

本研究の目的は,陸上競技短距離走で世界トップクラスの片側大腿切断者が全力疾走時の走動作を動力学的に明らかにすることである.2011年100 m世界ランキング4位の日本人選手1名を対象に全力疾走動作を行わせた.3台のデジタルビデオカメラを用いて走動作を撮影した.撮影した映像を基に,3次元座標値をもとめ,それらから各関節にかかるトルクを計算した.その結果,股関節トルクにおいて,スイング期では,義足,健足ともに同じ変化傾向を示した.すなわち,前半に屈曲トルクが発揮され,屈曲動作が行われた.続く後半には伸展トルクが発揮され,伸展動作が行われた.この結果は,脚を前に振り出すために屈曲トルクが働き,その後,脚を振り戻すために伸展トルクが働いたことを示している.一方,キック期では義足と健足で異なった傾向を示した.すなわち,義足では常に伸展トルクが発揮されていたが,健足では前半に伸展トルクが発揮され,後半に屈曲トルクが発揮された.この結果は,義足の股関節トルクの発揮は,キック中に推進力を得ながらも膝関節に伸展トルクとして作用し,膝折れを防ぐためにも働くことを示している.以上の結果から,キック期では義足と健足が違う傾向のトルクを発揮したことがわかった.つまり,トレーニングにおいて義足と健足を同じ方向だけでなく,異なるものとして取り扱うことも考慮する必要があると示唆された.

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© 2013 日本義肢装具学会
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