女性心身医学
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原著
急性期と慢性期の性暴力被害者の臨床における実態と今後の治療における課題
今野 理恵子淺野 敬子正木 智子山本 このみ小西 聖子
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2016 年 21 巻 3 号 p. 295-305

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抄録

【目的】性暴力被害後3カ月以内に精神科初診となった患者(急性期)とそれ以降に初診となった患者(慢性期)の転帰や症状評価の比較検討を行い,臨床の実態を明らかにする.

【方法】2012年6月~2015年11月末の3年半に性暴力被害後に初診となった患者のカルテから,転帰や症状評価,認知行動療法の実施実態等の情報を収集し分析する.

【結果/考察】①調査対象者数は初診時に被害から3カ月以内の急性期群21名,それ以降の慢性期群12名の計33名であり,急性期群と慢性期群で有意差が見られたのは精神科既往歴(p=.024)であった.②急性期群21名の転帰は,寛解者が6名,治療中断者が9名,治療中の者が6名であった.慢性期群においては,寛解者はなく,治療中断者が3名でいずれも,1回か2回の診察で中断となっていた.寛解者の被害から診察に至るまでの平均日数は1カ月程度であり,治療中の者や治療中断者の50日余りと比べて少なく,被害後早い段階で診察に至ることがより良い予後につながる可能性が考えられる.中断者は,平均診察期間が短く治療の方針を立てる前に中断となってしまったことがうかがえる.③急性期群,慢性期群の初診後直近と2015年11月30日以前の直近の前後比較を行った結果,急性期群ではIES-R(p=.0108),DES(p=.0208),BDI-II(p=.0277),JPTCI(p=.0469)の心理検査において有意差が認められた.④認知行動療法を行うまで,初診から急性期群で6カ月,慢性期群で10カ月ほどかかっていた.急性期群で認知行動療法を実施した7名すべてのIES-R(p=.0180),CAPS(p=.0464)得点が下がっており,転帰も寛解か軽快になっていた.慢性期群の場合も,実施した5名は,有意差は認められなかったがIES-R,CAPS得点は下がっていた.

【結論】性暴力被害者に対して認知行動療法を行うことが,PTSD症状を減らすためには,有効であると考える.ただし,認知行動療法実施には一定の準備期間が必要であり,その期間の中断をいかに防ぐかが今後の課題である.

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© 2016 一般社団法人 日本女性心身医学会
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