女性心身医学
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現代女性のライフステージと『食』 : つまずきとしての摂食障害(パネルディスカッション : 21世紀の女性の心身医療)(<特集>第29回日本女性心身医学会学術集会報告)
川上 恵子
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2000 年 5 巻 2 号 p. 116-122

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抄録
摂食障害という疾患はさまざまな視点から論じられているが,今回著者は「喰う=本能=快感」という視点から検討した.人間の「喰う」行動は基本的な快感として始まり,対人関係手段となり,制限が必要なものへと展開する.「喰う」はすべての快感の基本となるが,現代女性にとってこの学習は意外に困難である.特に摂食障害患者はその傾向が顕著で,彼らの生育歴や食行動を検討すると「喰う≠快感」をうかがわせるさまざまな現象がみられる.また性差を考えると,男性は食物を一生女性から与えられることが可能であるのに対し,女性のそれは複雑で,ある時期を境に180°の変化が求められるという困難な課題が存在する.時代背景を考えると,女性の生き方に選択肢がなかった,つまり生き方を自分で選択する葛藤はなかった昔に比べて,現代は選択肢が増えた分,生き方の選択にまつわる葛藤が非常に強くなっている.食事情は昔に比べて格段によくなっており,得られるエネルギーも大きくなっているので,ほとんどの現代女性はそれを糧にして葛藤を乗り越えるであろう.しかし摂食障害患者は「喰う=快感」の学習が種々の事情のため不十分で,葛藤を乗り越えるためのエネルギーが絶対的に不足している.発症のきっかけはすべて対人間係なので,まるでその発展を阻むように関係の深い「喰う」に拘泥する.そこで筆者は摂食障害発症の仮説を以下のように考える.第1に「喰う=快感」の学習,第2に「喰う=対人関係充足」の学習,この2つはお互い影響しあいながら発展する.第3にライフステージごとの対人関係発展であるが,これには「喰う」という行動が無関係でいられることはありえない.第4に女性だけに課せられた課題である.1と2をかけ算して,その絶対値が3と4の和を下回ったときに発症する,と考える.
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© 2000 一般社団法人 日本女性心身医学会
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