抄録
FeldmannのT-DNAタグラインから単離したシロイヌナズナ変異体#2755は、光独立栄養的に生育できず、ショ糖を含む培地上でも野性株に比べて成長が極端に遅い。また葉色がPale greenで、Homo体では不稔である。その原因遺伝子をTAIL-PCRを用いて解析した結果、ラン藻のDHNA-prenyltransferaseと高い相同性をもつ遺伝子領域にT-DNAが挿入され、その発現が抑制されていることが示された。ゲノム中へのT-DNAの挿入は1コピーであり、分離比からT-DNA挿入と表現型は完全にリンクしていた。DHNA-prenyltransferaseは、光化学系IのA1電子受容体であるphylloquinone合成酵素のひとつである。よってこの変異体では、光化学系Iの電子伝達が阻害されたことによる葉緑体形成異常、全体的な生理活性の低下が起こっていると考えられる。PAMによるChl蛍光測定の結果から、この変異体は主に光化学系Iの電子伝達が阻害されていることが分かった。一方、変異体ではpsaAのmRNAが野性株よりも高発現していたが、psaAとpsaBのタンパク質量は変化が見られなかった。現在、変異体における葉緑体の構造変化を電子顕微鏡で調べており、同時に報告する予定である。